政治時評
 政治時評
  新時代の構築に向けて


2015年3月4(水)     


野党は政権交代できる体力を
対立軸を明確にせよ


                        上毛野 哲也



 英国の歴史学者で政治家、ジョン・アクトンは「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対に腐敗する」と、名言を吐いている。議会制民主主義ではメディアの批判力とともに野党のチェック機能の重要さを説いたものである。

 今の政治状況のように「1強多弱の政治」が続くと、独断専行型の政治が大手をふるうことになりがちだ。後藤田正晴元副総理の著者「政と官」にもあるが、本来の内閣制度の在り方からみても、これは危険であるいつでも政権交代できる体力を

おかしいと思ったら警鐘を

 野党は日ごろ、政治や行政に目を凝らしていて、おかしいと思ったら警鐘を鳴らして正させ、いつでも政権をかわれる統治能力を養っておくことが、政党政治 の原点である。民主党は格差問題にとどまらず、中東外交や安保政策、憲法問題、アベノミクス批判などで、論戦力を鍛えて欲しい。
 民主党議員に聞くと、当初、なぜ有権者の支持を失ったのか、選挙の敗因が理解できない議員が少なくなかった。やっと消費税増税問題で、突然「増税は大儀だ」と180度の変節したことが原因だったことが理解されだした。
 実は長い間、政府が知らぬ存ぜぬを通してきた沖縄の核密約などが明らかになったのは政権交代がきっかけである。

英米は交互に政権交代

 議会政治を誕生させた英国では、戦後、労働党は約30年、保守党は約42年間、交互に政権を担当。米国もオバマ政権まで民主党は34年間、共和党は36年間政権を担当している。
 日本で野党が政権を担ったのは、片山哲政権、非自民7党1会派による細川護熙、羽田孜政権、民主党の鳩山由紀夫、菅直人、野田佳彦政権で、合わせても 10年に満たない。戦後政治の大半は自民党が担ってきたが、議会政治の本来の在り方からいえば、時々政権交代があることが望ましい。
 片山、細川、民主党政権が短かかったのはなぜか。政権担当に不慣れで党内に対立が起き、そこを自民党などに付け込まれて、分裂騒ぎになるケースが大半だった。
 ブレア政権についての評価は分かれるが、苦節18年、労働党(ブレア元首相、1997年)がゼロから出直し政権奪還に至る経緯は、民主党に参考になるのではないか。
 政権奪還の腹を固めたブレア氏は、これまでの対立軸を乗り越え、新たな政策論議を切り開くことを決意する。野に下るとマスコミに登場する機会が激減するので、マスコミの注目度を高めておく作戦をまず立てる。

国民の目線から検証を

 山口二郎法大教授の「政権交代」(岩波新書)などに詳しい記述があるが、党の理念をめぐる論争を、中央でも地方でも離党騒動が起きるほど激しく繰り広げ、メディアの関心を引き付けた。この論争で有権者には労働党は変わりそうだという印象が浸透した。
 もう一点はサッチャー政権の大企業中心の市場開放策を、国民の目線から徹底的に検証して、対立軸を明確にさせたことである。テレビのニュースを見ている と、安倍晋三首相は何度も大写しになるが、野党党首が登場することはまれだ。政治でも経済、外交でも物事の両面を知るにはやはり野党の政策批判は欠かせな い。この点は今のメディアは一工夫あっていいと思われる。

野党の中堅に専門家が

 ポピュリズム政治は歓迎しないが、民主党は存在をアピールするファイティング・ポーズが不足している。国会の傍聴席から本会議場をみていると、中堅クラ スの議員には自民党よりも専門家がいる感じがする。ただし人間味とか包容力、燃えるような情熱、岩盤に穴をうがつような忍耐力は自民党の方に分がありそう だ。
 民主党が政権交代を実現したのは、小沢一郎氏(元代表)の手腕による、という見方が一般的にある。自民党でもいまだに小沢氏の剛腕は話題になる。どの組 織も創業者は大事にするものだ。小沢氏が除名の理由となった政治とカネの問題は、裁判の段階では一応決着したのだから、除名の理由はひとまずのぞかれたは ずである。

 再生・民主党はそうした経緯を忖度して「力を貸してほしい」と、協力を求めるぐらいのお芝居ぐらい演じてもいいのではないか。人間味とか包容力ばかりで なく、政権奪還に立ち向かう本気度とか熱っぽさをより印象付けると思われる。

(政治ジャーナ リスト)

 


2015年1月22(木)     


安倍政権の強引さが生んだ「佐賀の乱」
沖縄、滋賀も敗れ米政府も懸念



                        上毛野 哲也



 昨年7月の滋賀、同11月の沖縄、そしてことし1月11日開票の佐賀と与野党相乗りにならなかったいずれも知事選で、安倍晋三政権は3連敗した。

 候補者選びやその後の対応に強引さが目立ち、おひざ元の自民党からも「地方創生を掲げるのだから、地元の事情を丁寧に聞くべきだ」と、批判の声が出ている。

 佐賀知事選は前知事が衆院選に立候補したことに伴うもので、自民・公明両党推薦の樋渡啓祐(前佐賀県武雄市長)と、元総務官僚の山口祥義氏の争いとなった。

中央主導で進める

 樋渡氏は、市 長時代に市民病院の民間移譲など改革の急先鋒でしばしば上京し、規制改革に取り組む安倍政権もその改革志向を評価。農業県の知事選を制すれば、政権が掲げ る農協改革に弾みがつくという思惑もあって、菅義偉官房長官と自民党の茂木敏允選挙対策委員長の中央主導型で進められた。

 この中央の動きに対して、自民党県連や支持団体からは、地方無視だ、との反発が広がっていた。九州電力玄海原発の再稼働や自衛隊のオスプレイ佐賀空港配 備など争点はあったが、選挙戦は安倍政権が進める農協改革や環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐる、「政権対農協」という構図になり、安倍政権の独断専 行への批判票や農協や民主党に支持を広げた山口氏が樋渡氏に4万票近く差をつけた、結果となった。

 一方、沖縄知事選は、安倍政権が推進する米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設に反対する翁長雄志氏が、推進派の仲井真弘多氏を10万票も上回った。

沖縄の苦痛に配慮せず

 同知事選で は、安倍政権の露骨な「アメとムチ」が目立つ。翁長知事は就任後、上京して安倍首相や菅官房長官に面談を申し入れたが、拒否された。さらに、追い打ちをか けるように、沖縄振興予算(3460億円)が14年度比1割カットされる。沖縄では12月の総選挙でも全4小選挙区で、辺野古反対派の候補が自民党候補に 勝っている。

 一連の経緯について米外交筋によると、米政府はアジア情勢は変化しており、日本も意見があれば遠慮しないで言ってきてほしいと、伝えてきているといわれる。米政府も事態を懸念しているのではないか。

 菅官房長官は前知事の仲井真氏とは何度となく官邸で面談しており、一連の政府の対応に対して地元の沖縄タイムズは、「政府一転、沖縄を冷遇」(27日朝 刊)と報じ、琉球新報は、「翁長知事との会談を拒否 県民との対話閉ざすのか」(28日社説)と反発した。ただし全国紙の扱いが小さく、この記事が見当た らない全国紙もあり気になった。「一強多弱」の横網らしくない仕打ちだ。

沖縄振興予算の意味に配慮なし

 沖縄振興予算 には深い意味がある。先の戦争では沖縄が唯一戦場になり、軍人より住民に多くの犠牲者が出るなど、悲惨な目に遭っていること、戦後は長く米施政権下に置か れ、今も日本にある米軍基地の、65%は沖縄に集中しているなど、沖縄の歴史的な事情を勘案したものだ。一政権の意思で簡単に変えられない経緯や重みがあ る。

 地方創生を政権の課題に掲げる以上、中央のしきたりを押し付けるのではなく、できる限り地方の知恵やパワーに任せる姿勢が欠かせないだろう。相次ぐ知事選の敗北は、図らずも安倍政権の強引な体質に「NO」を突き付けた格好だ。

(政治ジャーナ リスト)

 


2014年9月3(水)     


日中、日朝ともにズレで始める
安倍外交に厳しい秋


                        上毛野 哲也



 安倍首相はこの夏は中南米5か国を回り、9月にはバングラディッシュ、スリランカを回る。安倍周辺は、こんなに世界中をめぐっている首相はいなかった と、成果を囃し立てているが、自民党の外交関係議員によると、「ところ肝心な外交はどれも行き詰っている」というのである。

就 任後1年半たっても首脳会談なし

 安倍首相就任後、1年半以上たつのに中国、韓国との首脳会談がない。没交渉だ。経済分野では米国を抜いて トップになった中国や韓国首 脳との会談がないのは異常ですらある。意地悪い見方をすると、中韓両国との首脳外交がストップしているので目をそらすために、猛烈な勢いで世界をめぐって いるのではないかと思えてくる。

 中国とはこの夏に福田康夫元首相が密かに北京を訪問し、習近平主席との会談したことが報じられた。訪朝の真相は不明だが、新聞各紙は11月に北京で開か れるAPEC首脳会議の機会に、日中首脳会談実現に向けて事態は動き出した。会議のホスト国である中国首脳は、外交儀礼的にも安倍首相に会わざるを得ない だろうという論評である。

 安倍外交は、歴史認識で「日中」「日韓」が行き詰まっているので、「日露」「日朝」に突破口を求めた。当初すこぶる順調に見えたが、ウクライナ問題の思 わぬ展開でこの目論見は吹き飛んでしまう。ロシア軍が北方領土で軍事演習をしたことはプーチン大統領の何らかの意思とみてよいだろう。

拉 致問題、日朝にズレ

 最後の切り札、「日朝」は、拉致被害者一定数の帰国が見込めれば、「安倍電撃訪朝」というシナリオだとい う。その時期は沖縄知事選や来年の統一地方選の前などとされる。支持率至上主義の安倍政権にとって、「拉致問題」と「株高」はいわば車の両輪である。

 ところが、米側はこの7月にケリー米国務長官が岸田外相に首相の訪朝に自制を求めてきたといわれる。国務省の報道官も、7月末にすぐに訪朝になるとは思 わないと、念を押している。

 拉致問題は人道問題であり、何よりも優先されなければならないが、6か国協議の行方や北のミサイルや核開発など懸案を残したまま、日本だけが先行するこ とに強い懸念を示したのである。この点について在日米外交筋は、歴史問題に対する米側の何らかの思いがないとは言えないでしょうという。

 しかも拉致問題は、日朝政府に思惑の違いが出始めている。安倍外交は、拉致問題だけに絞って考えているのに対し、北は「特別調査委員会」の調査を、拉致 問題に限らずすべての日本人に対する調査をして、日朝国交正常化に直結させるという長期戦略の中で描いているとみられることである。

 したがって北側から9月の段階で、日本側が要求する認定拉致被害者12人と、拉致の可能性を否定できない「行方不明者」(「特定失踪者」約470人のう ち77人と見られる」に関する北の回答が示される可能性もあるとされる。

 日本側のシナリオ通りに展開するのか、予断は許されないが、問題は思惑通りに進んだ場合、拉致問題はどこで幕引きとするのか、国交正常化まで進めるの か、安倍政権の歴史問題に懸念を持つ米の対応など、安倍外交は極めて厳しい秋を迎えたといえる。

(政治ジャーナ リスト)

 


2014 年6月18(水)     


野党の神髄はチャレンジ
理解不能の野党の行動


                        上毛野 哲也



 民主党をはじめ、野党の存在感が希薄だ。集団的自衛権の行使をめぐる議論をはじめ特定秘密保護法、武器輸出3原則の廃止など、安倍政権の牽強付会と強引 さがまかり通っている。貧富の格差拡大、残業代ゼロ導入など日本のありようが大きく問われているのに、安倍政権にチャレンジしない野党は理解不能である。

政 府与党の監視

 政治学の教科書風に言えば、野党の役割は、政府与党を監視、チェックして疑念を発見したら警鐘を鳴らして改 めさせることにある。また政権担当能力を磨く大事な充電の期間でもある。
戦後日本の平和国家路線や全方位外交は、アジア大陸への侵略や日米戦争の反省を踏まえて展開されてきた。それが大きく転換されようとしている。首相は衆院 選や参院選の街頭演説などで申し上げてきたと繰り返すが、それで済まされることではないだろう。ある外交関係者によると、オバマ政権が集団的自衛権の検討 を急ぐように求めてきたことはないと言った。

民 主党は分裂を恐れるな

 野党の迫力のある言動が期待されるが、党数が8つもあり、ばらばらだからパワーになりにくい。迷走も続く。 みんなの党は、集団的自衛権の行使は容認だから、自民党は補完勢力と見る。
結いの党は、集団的自衛権の行使に慎重だが、日本維新の会と、統一会派を模索中だ。両党の統一会派づくりを見ていると、政党の理念は何なのか、数合わせに 過ぎないのではないかと思えてくる。
集団的自衛権に反対は共産党、生活の党、社民党だが、少数勢力のために質問時間など出番は少ない。

反 対増える集団的自衛権

 朝日新聞や共同通信の世論調査を見ると、集団的自衛権の行使や武器輸出3原則の廃止に対して反対意見が増え る傾向だ。憲法記念日5日の日刊紙53紙(うち6社は社説欄なし、1社は憲法でないテーマ)の社説では、9割近くが憲法改正、解釈改憲、集団的自衛権に反 対だった。
ただしこの世論調査でも内閣支持率は50%台を前後しており、国民の多くが現政権を支持していることも確かである。株価が好調で経済界が歓迎しているこ と、また野党が安倍政権に交代を迫るビジョンを出せないでいることが大きいのではないか。

党内融和最優先

 そこで民主党の役割が大事になるが、中堅議員に海江田万里代表―大島章宏幹事長に対する評価を聞くと、「分 裂を恐れて意見調整ばかりに神経を使っている」というものだった。例えば枝野幸男・党憲法総合調査会長が「集団的自衛権は徴兵制に向かう」と言えば、長島 昭久元防衛副大臣は「飛躍した議論だ」と反論する。結党以来の左右の路線対立がいまだに克服されていない。
民主党は昨年、自らを「生活者」「働くもの」などの立場に立った「改革政党」と位置づけ、自民党の「競争重視」「市場重視」に対して「不公正な格差是正」 を正すと、対抗軸をはっきりさせた。

知恵を総動員すべき

 年収250万円以下の世帯が増え、中流層が激減している。非正社員も全雇用者の4割に近づいた。解雇解禁、 貧富の格差も拡大傾向にある。民主党が「生活者」、「働くもの」に立ち位置を据え、政権崩壊の反省を踏まえて真摯に訴えるしか党勢浮上の妙案ははない。少 しでも世論の支持が得られたら、党を出たくても出て行けなくなるだろう。自民党は飽和状態だから離党者を受け入れる余地はない。
堅固に見える安倍政権もどこかに必ず弱点はあるものだ。また日本人はおごれる強者よりも弱い立場の挑戦者に喝采を送るものである。

 来年は統一地 方選挙次期衆院選がある。政権を稚拙な政治運営で崩壊させた罪滅ぼしのためにも、分裂を覚悟で解党的な出直しを期待したい。アベノミクスが幕を閉じたら、 山のような財政赤字と貧富の格差だけが残ったということにならないよう、挑戦者は知恵を総動員してほしい。

(政治ジャーナ リスト)

 


2014 年5月7(水)     


大きく違う日米間の歴史認識


                        上毛野 哲也



 オバマ米大統領が日韓両国を歴訪するなど、米主導で関係改善の試みがなされている。日米、日韓の間で正反対となってこじれている歴史認識の問題である。 ドイツでも歴史を生かす努力を続けているが、日本がアジア諸国と未来志向の関係を築けるかは、政治家の勇気ある言動にかかっている。

「だ まし討ち」に米国民の怨念

 まず日米間での歴史認識の大きな違いは、日本軍の真珠湾攻撃(1941年12月8日)である。真珠湾攻撃に ついて日本では今でも、「奇跡的な大戦果」「見事な奇襲」という評価だが、米国では「国際法違反のだまし討ち」である。東京大空襲や広島、長崎の原爆投下 はこの怒りの延長線にあったといわれる。

真珠湾攻撃は米 側の暗号解読で事前に察知されていたが、日本軍の攻撃で市民3千人以上が死傷した。この時、日本側は取り返しのつかない失態をする。日本大使2人(当時、 外務省と海軍が派遣)がハル国務長官を訪れ、「外交関係断絶」の文書を手渡したが、その1時間前に日本軍は真珠湾を爆撃していた。ハル長官は2人の大使に 「これほど不愉快な恥ずべき目に遭ったことはない」と、大声を上げたという。

東京裁判の否定に映る

 遅れたのは翻訳作業に手間取ったからだが、この「だまし討ち」は、その後、日本に大きな重荷となる。執拗に 米国の攻撃が続けられたのは、「だまし討ち」に対する米政府や国民の怒りだったとされる。この怨念について日本ではあまり知られていない。歴史教科書も触 れていないが、日米を考える上で記憶しておくべき重大事である。

日本は1945 年8月15日に無条件降伏。東京裁判、憲法制定を経て、51年9月のサンフランシスコ講和会議で、国際社会に復帰する。この講和会議で日本は49か国と調 印する。首席全権として署名した吉田茂首相は「日本はこんなに多くの国と戦争をしていたのか」と驚いた。

ア ジアで2千万人が犠牲

 この戦争でアジアでは2千万人が犠牲になった。靖国神社には、戦争責任を裁かれ絞首刑になった7人が合祀さ れている。米国民から見ると、安倍晋三首相の靖国参拝は、真珠湾攻撃、無条件降伏、東京裁判に至る経緯を否定したかに映る。中国や韓国をはじめアジア諸国 も同じであろう。

(政治ジャーナ リスト)

 


2014 年3月23(日)     



「数によるクーデターではないか」

集団的自衛権の行使は戦闘行動

                        上毛野 哲也



  安倍晋三首相は、自ら信じると思い込んでいるものに向けて、しゃにむに突き進んでいる感じだ。それはNHK会長人事など要職の人事に表れている。公共 放送のトップにはそれなりにふさわしい品格、見識が求められるが、安倍政権にはそんなことはお構いなしといわないばかりである。このような政治で日本の進 路は大丈夫なのだろうか、と思わざるを得ない。

憲 法9条をめぐる独走

 極めつけは憲法9条をめぐる独走である。自民党の安全保障に対する考え方は、憲法9条によって「専守防衛」 にとどめ、国土とその周辺でのみ防衛措置を行うと、自衛権の行使は個別的自衛権だけとしてきた。これは「自衛の戦力なら何でも持てるという議論と、航空母 艦や戦略爆撃機などは持てないという議論の折り合いをつけたぎりぎりの判断」とされる。

 米国に対して も、集団的自衛権の行使は戦争行為そのものであり、米国の要請があってもできない。その見返りに米国に基地を提供することで「双務性」を図ってきた。こう したことには、戦前、軍部が台頭して中国大陸での戦争や日米戦争を阻止できなかったことに対する反省もめられている。

 例えば、 1987年、日本政府は米国からペルシャ湾に掃海艇派遣を求められた。中曽根康弘首相は応じようとしたが、後藤田正晴官房長官は、「憲法上、自衛隊は外国 からの不法な侵略を防ぐための存在」として辞表を懐に、思いとどまらせている。現地は戦闘中であり、機雷を除去する作業といっても、相手側からは日本も戦 闘行動にかかわっていると見られたであろう。


議会制民主主義を無視

 もう一つは、91年に宮沢首相は、PKO法案の成立を受けて国連の平和維持活動に自衛隊を参加させた。停戦 合意があったからで、これがぎりぎりの自衛隊派遣だった。それでも民間人と警察官2人に犠牲者を出し、宮沢氏は亡くなるまで「心に刺さった責任だ」と悔や んでいた。

 第2次世界大 戦後、米国が行った戦争は、朝鮮戦争、ベトナム戦争、パナマ侵攻、イラン・イラク戦争、湾岸戦争、イラク戦争など数多い。「地球の裏側にはいかない」と いってもずるずると米国の外交・安全保障政策に引きずり込まれ、戦に駆り出される危険がある。国民や自衛隊員が亡くなるようなことが起こった場合、政治は どのような責任が取れるのだろうか。
自民党の先輩たちが、積み上げてきた安全保障の在り方を安倍政権は、勢いよく突き崩してしまおうという考えにさえ見える。それにアジアで紛争が起きた場 合、どう平和的に解決しようとするのか、哲学やビジョンがうかうかがえない。憲法の重要な変更なのに主権者である国民の意思を問うという姿勢も見られな い。

 自民党のある 長老は「憲法解釈を変更すればいいだけと、数の勢いを頼りに先を急ごうとするのは一種のクーデターではないか。議会制民主主義を無視している」と、懸念す る。

TPP は農業、医療など全面敗北

 日本を取り戻すと安倍首相はいうが、例えば、TPP(環太平洋連携協定)では、農業や医療など広い範囲で全 面敗北になるのではないかという懸念が出ている。また靖国参拝の負い目もあって、堂々と米国と渡り合えるのか危ぶむ向きもある。

第 2次大戦で日本人310万人が犠牲に

 安倍首相の歴史観は、東京裁判以降という感じを受けるが、日本は1931年の満州事変からアジア侵略を始め た。第2次大戦でアジアでは2000万人、ヨーロッパでは3000万人が亡くなったといわれる。日本人は310万人(軍人230万人、一般人80万人)が 犠牲者だ。被害意識だけでなく加害者の立場に立ってみることも大事ではないか。

 安倍氏が尊敬 する幕末の思想家、吉田松陰は、「国家には道義が大事だ。道義のある国は軍事力で圧倒されても必ず蘇る」と言っている。安倍政権にはアジアの情勢を見極め つつバランスのあるかじ取りを期待したい。(政治ジャーナリスト)



2014 年2月17(火)     



強い野党づくりが不可欠

問題山積の安倍政権

                        上毛野 哲也



 細川護熙、小泉純一郎両元首相が切り込んだ都知事選は、舛添要一氏の圧勝で幕を閉じた。

 東京で消費す る電力供給のために、新潟や福島に原子力発電所が建設されてきた経緯を熟考すると、原発は都知事選の立派な争点の1つである。
 結果は大敗だが、メディアの政策課題に関する意識調査を見ると、脱原発を求める人の声は相変わらず上位を占める。ただ、原発だけでなく、雇用・失業、物 価、増税、社会保障、ぎくしゃくする日中、日韓、そして米政府への対応など課題は多い。
 折りしも国会論戦たけなわなだが、質疑を見て感じることは、野党陣営はいかにも劣勢だ、という点である。質問時間が短いのに質問の風呂敷を広げるので、 時間切れで突っ込み不足に終わっている。野党陣営でテーマごとに質問の分担を調整して、もっと深く追求すればいいのに、と思うのだがそれがない。だから安 倍晋三首相から「責任野党だ」などと、軽くあしらわれたりする。

 議会制民主主 義での「責任野党」とは、政府与党の政治や行政の在り方を、チェックし監視することに、あるはずである。問題点を指摘して、批判すべきところはしっかりと 批判することが、健全な議会政治の在り方である。

 いずれにして も、野党陣営の大同団結による強い野党の実現が急がれる。少子高齢化対策、雇用、社会保障、財政再建から憲法改正、集団的自衛権まで問題は存在する。
 しかし「好事魔多し」と言うべきか、安倍政権は靖国神社参拝、歴史問題に対する不見識発言、NHK会長の不適切な人事などほころびを見せ始めている。欧 米各国のメディアもそろって懸念を示している。在日の米外交筋は、安倍首相が日中、日韓問題にぎくしゃくした関係を起こしていることについて、米政府はこ れまでになく危惧しているという。

 安倍政権には 政策的な難題も待ち構えている。先ずは4月の消費税8%増税後の経済情勢、集団的自衛権、武器輸出3原則問題など「国家主義的」ともみられる政治路線、原 発再稼働もある。
 安倍首相のおひざ元、山口県の知事選が23日に行われる。中国電力が計画中の上関(かみのせき)原発の是非が争点になる可能性がある。3月には滋賀原発 (北陸電力)が立地の石川県知事選、7月には滋賀県知事選、11月の福島県知事選と続く。

 都知事選では 細川氏と小泉純一郎元首相が並んでマイクを握ると、どこの街頭も人垣ができたが、こうした地方選挙に、ますます意気軒昂といわれる小泉氏が駆けつけないと も限らない。小泉氏が投じた「脱原発」ののろしは、政治の節目や地方選で焦点になり、国政に跳ね返る可能性がある。

 一枚岩のよう に発言を封じてきた自民党内からも、官邸主導に対する不満の声が上がり始めた。おかしいと思ったことにはちゃんとものをいうという空気が出始めた意味は大 きい。一敗地にまみれたとはいえ細川、小泉両元首相の挑戦は,議会制民主主義本来の在り方を考える上でも、野党の存在を再認識する意味からも突破口を開い たように思われる。



2014 年1月14(火)     



国の資産629兆円は有効活用を

−依然として財政赤字を積み上げる特殊法人


                        栗原 猛



  2013年夏に国の債務残高(負債合計)は、1000兆円を超えた。メディアも危機意識を煽りに煽って、今年4月から消費税増税アップに導いたのは、この 膨大な債務残高にあった。

 ただし財政赤 字ばかりクローズアップされるのはおかしいと思っていたが、国際通貨基金(IMF)など国際機関は、その国の負債を見る場合には、債務から資産を引いた 「ネット債務」で見るのが「国際基準」だという。日本で報じられているように、国の資産を議論しないで、負債の大きさだけを議論すると、財政の実態を無視 したことになるそうだ。

 そこで国の資 産を見ると、なんと628・9兆円である。これは2位のアメリカが180兆円、欧州各国も国民総生産(GDP)の10パーセントくらいだから、日本は飛び 抜けた大金持ちということになる。

 財務官僚で 「埋蔵金発掘」で知られる嘉悦大教授の高橋洋一氏は、講演などで「メディアも1000兆円の危機を煽るだけでなく、国の財政事情は「債務と資産のバランス シートで見るべきだ。膨大な資産を少し処分すれば、国民生活に悪影響を及ぼしそうな増税はしないで済む」と指摘して、628・9兆円を分かりやすく説明し ている。

 その資産だ が、土地や道路など有形固形資産180・9兆円、金融資産は428兆円だ。この金融資産の内訳は、貸付金と出資金が202・2兆円、有価証券(外国為替) と運用預託金(年金の積立金)は208・1兆円、現金や預金17・7兆円などである。

 このうち貸付 金と出資金202・2兆円は、天下りの特殊法人に流れ、また出資金は日本郵政株式会社や日本たばこ産業株式会社など株の取得だ。従ってここを少しでも減ら せば、国の借金の返済になるし、特殊法人を縮小することにもつながるわけである。

 本当に国の借 金が危機的状況ならば、まず政府の「子会社」である特殊法人を整理するのが道理ではないか。民間企業や家庭でやっていることが、霞が関にできないはずはな いと思われる。それをしないのは、財政赤字はそれほど深刻でないか、あるいは何か重大な理由がありそうだ。

 少し前の国会 論戦で、特別会計で運営されている特殊法人、独立行政法人の数は、ざっと4500。毎年、税金が12兆円投入され、2万5000人が天下りしている。「そ の特殊法人が『財政赤字1000兆円超』のうち70%以上を作っている」との調査が報告され、驚いたことがある。さらに補助金などが出ている法人は相当数 に上る。

 なぜ、霞が関 が欧米各国に比べて破格に多い資産や埋蔵金などのスリム化を拒み、増税にこだわるのか。高橋教授は「株や資産、毎年生まれる埋蔵金などを処分すると、役所 の影響力が弱くなって天下りが難しくなる。それに増税で使う金ができれば影響力も増すことになる」と分析する。
 税は民主主義の母といわれる。英国に世界で初めて議会ができたのは、国王の苛斂誅求な税の取り立てを改めさせ、話し合いで決めるためだった。アメリカの 英国からの独立戦争もきっかけは税にある。月末に始まる通常国会では、税の在り方とともに使い方にもっと論議のメスを入れてほしいところである。




栗原 猛(くりはら・たけし)
新聞社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」「評伝 奥野誠亮」など。


2013 年12月10(火)     



EUは「知る権利」を拡大

− オバマ大統領は機密削減法を制定

                        栗原 猛



 安倍政権の特定秘密保護法案について、国内ばかりか国際的にも懸念が広がっている。欧米各国はそれぞれ機密に関する保護法はあるが、各国とも機密の範囲 を狭め、情報公開までの時間短縮、情報源の秘匿を認めるなど、透明性と「知る権利」の拡大に努めている。

 同法案につい ては、国連の人権理事会が 「秘密の範囲が非常に広く、あいまい」、「報道する人たちに深刻な脅威になる」と、日本政府に情報提供を求めている。経済の先進国が民主主義の基本である 「知る権利」で、指摘を受けるのは極めて異例である。

 ニューヨー ク・タイムズは、「知る権利」や「秘密」の定義が曖昧で、日本政府は都合の悪い情報をすべて隠すことができる」と報じる。AP通信も「安全保障会議(日本 版NSC)など最近の日本の動きなどと絡めて、北朝鮮と中国を同列に置く中国・北朝鮮部局を設けたが、アジアに紛争の火種をまくだけでなく、日本政府に不 信感を強める」と危惧の念を示した。

 安倍晋三首相 は国会答弁などで、「運用当事者の首相が担当大臣をチェックする」と答えているが、例えは悪いがドロボーに金庫を預けるようなもので底意が見え見えという 感じである。

 オバマ政権は 09年に発足するや機密指定制度の改革に取り組み、10年秋に「過剰機密削減法」を作っている。機密は10年間、非公開だが独立の情報保全監察局が、独自 の判断でさらに短縮や格下げを決める。米ではこれまでも機密の公開が早い。沖縄核密約や米中央情報局(CIA)から自民党の最高幹部が資金援助を受けてい た資料など、米側で先に公表され、日本政府は知らぬ存ぜぬを決め込み、国会が大混乱になったこともしばしばあった。こうした事態はさらに増えるのではない か。

 英独仏でも相 次いで「報道の自由強化法」などを定め、情報源の秘匿、機密漏えい罪での逮捕は不可能になったといわれる。

こう見てくる と、日本は世界の流れから大きく外れている感じだ。国民の「知る権利」の拡大し透明化を図ることが、世界の潮流になっている感じだ。安倍政権には、この流 れに向けてかじ取りを間違わないようにしてほしい。



2013 年11月27(水)     



「あいまいで透明性を脅かす恐れ」

国連の人権高等弁務官事務所が懸念示す

特定秘密保護法案に


                        栗原 猛



  安倍政権が意欲を燃やしている特定秘密保護法案について、国連の人権高等弁務官事務所が 「法案は、秘密の範囲が非常に広くてあいまいで 透明性を脅かす恐れがある秘密を内部告発したり、報道したりする人たちにとっても、深刻な脅威となる要素を含んでいる
」と懸念を示し、日本政府に情報の 提供を求めている。

 さらに例外的 に秘密にするケースであっても、「独立の機関による再検討が不可欠である」とし、秘密の指定が適切に行われているかチェックする機関の 設置が法案に盛り込まれていないーなどと警告している。


第3者の監査機関の設置が必要

 与野党間の議論は、秘密指定の解除期間について、60年は長すぎるとか、30年にしろとか、ドイツは60年 だという議論ばかりが目立つ感じだ。しかし肝心要なことは秘密指定の是非をチェックするする監査機関の設置と、運用を第3者にゆだねることではないか。

 米国では独立 行政機関として強い権限を持つ組織が設置され、内容の指定や解除勧告を出している。また大統領経験者は辞めた後、任期中に知り得た機密情報などを駆使し て、詳細な自叙伝を書くことが行われる。


情報は国民に公開するのが筋

 米中のトップ会談の内容を公表した「キッシンジャー最高機密会話録」や、ベトナム戦争の反省に言及した「マ クナマラ回想録」などが有名だ。政治や行政は国民の税金で行っているのだから、知り得た情報はできるだけ国民に還元するという精神が徹底されているのであ る。

 安倍政権は 「第3者的機関」とか、秘密保護体制の運用当事者である「首相が担当大臣をチェックする」というが、例えは悪いがドロボーに貯金通帳を預けるようなもの で、やりたい放題にしたいという底意がありありである。

 そこで思い出 されるのが秘密情報に対する故後藤田正晴副総理の考えだ。後藤田氏は警察庁長官を経て、内閣官房副長官、中曽根内閣の官房長官、宮沢内閣の副総理を務め、 情報の収集や管理、情報の重要さについては一家言があった。

 その後藤田氏 は、一概に秘密情報といっても、明日の朝まで秘密を守られなければならないもの、1週間、1か月、1年、10年などとある。30年も秘密というものはわず かだ。情報はできるだけ国民に公開するのが筋ではないか、と言っていた。



2013 年11月8日(金)     



「村山談話」に込めた歴史観

日本人に薄い「加害者意識」

「過去を忘れると現在に盲目になる」

                        栗原 猛



 国会論戦が大詰めを迎えたが、集団的自衛権など、安倍晋三首相周辺の動きはやや沈静化した感じだ。米国のケリー国務、ヘーゲル国防両長官が今月はじめ東 京・千代田区三番町にある千鳥ヶ淵戦没者墓苑を訪れ、参拝したのも米政府のメッセージが込められているようだ。

 安倍首相が変 えたいという「村山談話」には、自民党と社会党による村山連立政権成立の複雑な経緯があった。1994年に村山氏は自民党から連立政権の首班に担がれる。 自民党が社会党の現職の委員長を首班に担いだのは、政権奪還に並々ならない意欲があったからだ。

 国会で首相に 選ばれた村山氏は、執務室の椅子に座わり、社会党委員長の首班にふさわしい歴史的な役割は、何かと考えた。「平和を掲げてきた以上、戦後50年にけじめを 付けて日本は新しく出発する。そのために身を捨てることしかない」と、腹を固めたという。

 ただ政権を担 当するには、「違憲の自衛隊から合憲の自衛隊」、「日米安保条約反対から日米安保維持」、「日の丸・君が代の容認」は、超えなければならないハードルだっ た。首相になって日米安保や自衛隊反対では済まされないのである。

 本来なら首相 になる前にこれまでの党内論争を決着して、それを踏まえて政権を争うのが常道だが、現実政治の方がどんどん先行していった。ただしこの転換は社会党内や国 民の間に大きな衝撃を広げた。 

 自民党に譲歩 を続けてきた村山氏に「戦争へのけじめ」は譲れない一線だった。村山談話は、「植民地支配」と「侵略」によって多大の損害と苦痛を与えたこと、「国策の誤 り」だったこと、「痛切な反省と、心からのおわび」の気持ちーの4つの柱からなっている。

 談話はどの政 権が国策を誤り、責任者は誰かなどには言及していないことから、具体的に示すべきだと指摘された。ただし、国の意思であることをはっきりさせるため閣議決 定し、世界に向けて発信された。

 村山氏がアジ アを回って気掛かりなことがある。日本人は戦争の被害者意識は強いが、加害者意識が薄いことである。ドイツは戦争責任をナチスのせいにしたといわれるが、 連合軍による東京裁判に当たるニュールンベルグ裁判の他に、ドイツ独自で戦争裁判所をつくり死刑を含む7千人余り有罪を出している。  歴史教科書の記述 も周辺諸国と調整済し、70年はブラント首相(当時西ドイツ首相)がポーランドを訪れ「ドイツの謝罪」をする。85年はヴァイツゼッガー大統領が「過去を 忘れると現在に盲目になる」という有名な演説がある。

 村山政権発足 時の94年にはヘルツォーク大統領が「ナチスとドイツ国民の責任」と題するメッセージを発した。村山氏が感心するのは、ドイツでも「反省や謝罪」に反発が 出るが、政府はその都度、冷静に乗り切っていることである。

 国連の調べで は、第2次世界大戦でヨーロッパでは3000万人、アジアでは2000万人が犠牲になった。うち日本人の死者は310万人だ。「戦争責任を認めない以上、 日本はアジアで建設的な役割はできないのではないか」。89歳の今もアジアを回るが、思わぬ国の人から「談話」が感謝されるという。



2013 年9月10日(火)     



宮沢喜一元首相の歴史認識と憲法観 
世界地図の中で護憲説くも



                        栗原 猛



  日本国憲法の96条改正、法制局長官人事など、安倍晋三首相の最近の動きは急だが、アジア諸国や米国は警戒気味だ。憲法をめぐる問題については、国連 平和維持活動法(PKO)を成立させ、カンボジアに自衛隊を派遣した宮沢喜一元首相の歴史認識や憲法観には、時代を超えた聞くべき重みがあるように思わ れ、もう一度宮沢首相の考え方をみてみたい。

終 生負っていく罪

 宮沢氏で忘れ られないのは、国連平和維持活動(PKO)法を成立させ、同法を根拠にカンボジャに自衛隊や文民警察官の派遣したことだ。警察官と民間人2人の犠牲者を出 し、自民党内に撤退論が強まったが、日本が引き上げると国連カンボジア暫定機構(UNTAC)の存在が危うくなると判断、派遣を継続した。このときの決断 は日本の安全保障の新時代を切り開いたといわれる。

 「護憲派宰 相」の宮沢氏が、戦後初の自衛隊の海外派遣に踏み切り、犠牲者発生という事態に遭遇し対応に腐心したことは、奇妙な巡り合わせである。亡くなる直前まで、 「終生負っていくべき罪だ」と責任を感じていたという。宮沢氏らしい誠実さだ。

厳 しい監視が必要

 宮沢氏は生 前、「自由はある日、突然なくなるものではない。『蟻の穴から堤も切れる』といわれるが、目立たない形で徐々に蝕まれる。一切の自由と批判を抑圧されて活 力を失った日本の社会が、軍部の強権に抵抗力を失って屈していった。自由の制限につながる兆候は厳しく監視する必要がある」ーと、語っていた。

 宮沢氏はサン フランシスコ講和会議の出席など、戦後政治の重要局面に立ち会った国際派だが、真髄は世界地図を視野に入れた護憲論にある。

 宮沢氏は著書 で、「憲法の文言だけでなく最高裁の判例の積み重ねもある。うまく運用されてきた」「憲法を9条を中心に改正することは入り用のないこと。ただ新しく出て きた問題意識、環境とか人権などを見直そうというのなら反対はしません」という趣旨を述べている。

軍 事大国にならないこと

 21世紀は軍 事大国にならないこと、経済援助を大事にすることだ、とも。宮沢氏には、憲法改正を拒んできたのは、現実問題に柔軟な判断で対応してきた自民党の保守本流 (宮沢氏が所属した宏池会。保守リベラル派と呼ばれた)にあり、という気概さえうかがえるのである。




栗原 猛(くりはら・たけし)
朝鮮生まれ。新聞社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


2013 年6月11日(火)     



「リベラル」の再生はなしえるか  
格差なき社会の推進が重要課題
連合の一部からは自民党を推す声も



                        栗原 猛



 民主党の綱領から、「左派」とか「リベラル」「中道」という言葉が消え、それらは「生活者」「納税者」「消費者」「働く者」に代わった。
連合の一部からは、参院選では、自民党のリベラル派を推したらどうか、という声も出ている。議会政治には野党のチェック機能が大事だが、リベラルの衰退は 民主政治の危機でもある。

リ ベラル派は少数
 野中広務、古賀誠両元自民党幹事長、仙谷由人元官房長官(民主党)が民放のテレビ番組で、「96条改正とは とんでもない。戦争の悲惨さを知っている世代が声を出さないといけない」と述べた。野中氏は尖閣問題で自ら訪中して棚上げ論を中国側に訴え、日中関係の打 開を模索するが、こうしたリベラル派は政界では少数派だ。

 そうした中で 安倍政権は、支持率も高く経済政策を中心に一応順調である。その波に乗って、欧米諸国が「右傾化」と懸念する歴史認識や自衛隊の在り方の見直しなど、衣の 下の鎧を見せ始めた。7月の参院選挙で、国会の「ねじれ」が解消されれば、集団的自衛権の行使から、自衛隊を国連軍の指揮下に入れる集団安全保障への参加 まで一気に前進させそうだ。

参 院選の結果次第では自民は一気に右傾化
 リベラルというと保守の対立概念と思われがちだが、野党の専売特許ではない。政界には「リベラル、ハト派、 中道派」が混在することだ。見落とされがちだが自民党には、「保守ハト派」と「タカ派」2つの潮流があり、権力抗争と重なることである。

 これまで存在 感があったのが吉田茂(元首相)の流れを汲む池田勇人元首相の宏池会(現在は岸田派、文雄外相)である。政策面では「軽装備、経済重視」で大平正芳、鈴木 善幸、宮沢喜一各元首相らは、武器輸出3原則の堅持、集団的自衛権の行使、憲法9条改正には慎重だった。

 同じ流れの田 中角栄元首相の流れは経世会(現在は額賀派、福志郎元財務相)で、日中国交正常化を実現したことから、日米関係とともに対中関係を重視する。竹下登、橋本 龍太郎、小渕恵三各首相、同じ流れの小沢一郎・生活の党代表も親中派だ。

 さらに三木武 夫元首相に連なる番町研究会は、自民党の良識派と呼ばれた。加藤紘一元幹事長、河野洋平・元衆院議長らが政界を去り、今やタカ派に渡り合うには力量不足が 否めない。

注 目されるタカ派の動き
 これに対して岸信介、福田赳夫両元首相にはじまり、森喜朗、小泉純一郎、安倍晋三、福田康夫、麻生太郎元首 相、安倍現首相の系譜にはタカ派議員が多い。赳夫元首相は緊縮財政論者で、財政のバラマキを厳しく戒めた。外交では親台派議員が多い。

 ただし安倍政 権は財政再建より公共事業への財政出動に力を入れる「大きな政府」路線で、ハト派とタカ派は必ずしも線引きできないところもある。

 欧米のリベラ ルは、社会主義政党が育たなかった米国では、オバマ政権を支える民主党がリベラルで、弱者救済など「大きな政府」だ。ヨーロッパでは身分制度が続いたた め、労働組合を基盤にした社民政権がリベラルである。それに比べて日本では保守リベラル、ハト派、中道リベラル、左派リベラルなど曖昧なのが特徴である。

リ ベラル衰退は民主党政権の失政が要因
 リベラルの衰退の背景は、民主党政権(鳩山由紀夫、菅直人、野田佳彦各首相)の失政と自滅が、リベラルへの 失望、嫌悪に直結したのではないか。また中国や韓国の経済成長に対して経済の閉塞感、尖閣問題や北朝鮮の核開発、拉致問題などが、ナショナリズムや右傾化 を刺激したといえるだろう。労組が組織防衛を大事にしていることも見逃せない。

 従ってリベラ ルの再生は容易なことではないが、高齢化社会に入り政治や行政への期待が一段と増えるだろう。グローバルな資本主義に対して、格差をなくすという主張もリ ベラルだ。自民党は強調する自助だけでは十分でない。安全とか高齢化とか環境、利他主義なども待ったなしだ。

 東日本大震災 の岩手や福島の被災地では若者の民間非営利団体(NPO)の活動がめざましかったが、これを都市と農村をネットワーク化する発想も必要だ。保守とリベラル の側が歩み寄って、発想を立て直す議論が出てくるかもしれない。リベラルは今や社会の変化に対応して意味や使命を再吟味することが急がれる。



2013 年5月10日(金)     



アジアで日本の立ち位置を考える

― 被害者意識と加害者意識


                        栗原 猛



  このところアジアからの特派員や留学生らと懇談する機会があった。日本はアジアで果たすべき役割があるのではないか。領土問題を契機に憲法9条を改正 し、軍事面で積極的な国家を目指すのではないかーと聞かれる。

 日本の政治や 外交力の拙劣さを、厳しく分析した文書として最近、改めて注目されているのが、2003年4月に外務省が公表した「日本外交の過誤」である。

 これは吉田茂 元首相が首相を辞めた後、再び過ちを繰り返さないようにと、同省の若手課長たちに、1931年の満州事変から終戦にいたる日本外交を検証させた文書で、こ れを元外交官の小倉和夫氏が03年9月に「吉田茂の自問」として、出版(藤原書店)した。

 詳しく紹介す る余裕はないが、「過誤」は国際連盟からの脱退、軍縮条約の廃棄、三国同盟の締結などは重大な誤りだった。ドイツの戦果に惑わされて勝敗の見通しを誤り、 中国大陸のナショナリズムの高揚の歴史的意味を忘れて反日、攻日ばかりを問題にした。大日本帝国の指導者たちは、同じアジアの民族の独立と領土保全、経済 発展への願望を、支持するどころかこれを抑圧しようと焦ったと、厳しく検証している。

 また外交の トップに対しても「軍部の圧力が強かろうと外交当局が『否』といえば阻止できた」と指摘する。若手課長たちが官界の殻を破って先輩たちの言動を、冷静かつ 厳正に分析しているところはなかなか興味深い。

 「過誤」は戦 後の外交についても、単独講和の選択、日米安保の改定など長い間、外交当局は国民感情に逆らって、戦略外交を展開してきた。米国の戦略に日本の外交を合致 させようと、外交当局は「そうはいっても国際社会では…」とか「日米関係のためには…」といって国民感情を抑え、押し切ってきたー。

 安倍政権は 1951年にサンフランシスコ講和条約締結した4月28日の主権回復式典にこだわったが、この講和条約には48もの国が調印した。これには首席全権大使 だった吉田茂が「日本はこんなに多くの国を相手に戦争をしていたのか」と驚いたというエピソードがある。   

 当時のソ連、 中国、韓国は講和条約締結に参加していないから、日本政府はこれらの国と個別に戦争状態の終結を確定しなければならなかったが、米ソ冷戦の進展で不徹底 だった。紛争が起きている北方4島、竹島、尖閣諸島の3つの領土問題は、第2次世界大戦後に解決できずに、先送りされてきた課題である。

 同じ敗戦国、 ドイツは、第2次世界大戦の責任をナチスにかぶせたといわれるが、連合国によるニュールンベルグ裁判のほかに、ドイツは自国で戦争裁判所を設け、死刑をは じめ1万人近く戦争犯罪者として起訴した。刑法の時効をなくしたのも、永久に戦争犯罪を追及する姿勢を示すためといわれる。領土問題は1960年代末に ポーランドとの間で、伝統的なドイツ領土の4分の1を放棄するオーデル・ナイセ線を確定する。

 日独のこうし た違いは被害者と加害者の双方の意識を共有しているかという問題に行き当たる。日本が講和条約締結して国際社会に復帰できたのは、改悛の情を示したことに ある。したがって戦後の歩みを屈辱とだけ考えると、日本は戦後どのような原理原則で歩んできたのかという根底が崩れることになりかねない。

 沖縄はこの講 和条約を機に日本から切り離され米国の施政下に入る。だから沖縄ではこの日は「屈辱の日」と呼ぶのだ。

 第2次世界大 戦で亡くなった人は、国連の調査によるとアジアでは約2000万人。日本は310万人(軍人、軍属230万人、民間人80万人)が亡くなった。軍人の戦死 者の70%以上が餓死といわれる。特攻隊で出撃した若者の中には台湾や朝鮮半島出身者もいる。

 かつて理由は ともあれ日本は中国、韓国をはじめ多くの国の主権を踏みにじった当事者である、憲法記念日を機に、吉田茂が「過誤」に込めた歴史の教訓を生かすよう、アジ アで新たな日本の立ち位置を考えることが今、大事ではないか。



2013 年4月3日(水)     



民主党の起死回生策はあるのか

マニフェストの逆を実行した民主党   
「無責任の体系」の克服を!



                        栗原 猛



 民主党は総括とか責任追及はそろそろ切り上げて、政治のチェック役を果たして欲しいが、支持率はいまだに7%台だ。民意が離れてなぜ戻らないのかを理解 しようとしないトップや閣僚経験者がいる限り、参院選までに党を立て直すのは難しいのではないか。   

トップの失敗の連鎖

 同党は、総括の中で「分裂騒ぎで党内も治められない集団との評価が定着した。普天間、政治とカネ、消費増税発言、解散時期の見定めなど党トップの失敗の 連鎖が続いた」と、検証した。「トップの失敗の連鎖」とはなかなか厳しい表現である。

 2009年の 政権交代は自民党の失政もあったが、民主党が「官主導から政治主導へ」「消費税増税の前に徹底した無駄を省く」という理念が共感を得たからである。鳩山由 起夫、菅直人政権は稚拙だったとはいえ理想を感じさせたが、野田佳彦政権になると限りなく官僚に接近して言動も自民党化する。

 不思議なのは いまだに、民意が離れた原因を理解できないでいる党幹部や閣僚経験者がいることである。

無 責任の体系の繰り返し

 総括の経過を見ていると、かつて政治学者、丸山真男がいった「無責任の体系」に行き当たる。「無責任の体系」とは、丸山が1931年にはじまった満州事 変からアジア太平洋戦争に突入し、敗戦に到る当時の政府、軍部の意思決定の過程を分析して導き出した概念である。

 各組織は縦割 りになっていて、保身のためにその場限りの判断を繰り返す。異論があっても言わずに大勢に順応する。結果は、非合理な行動に走り主観的な願望だけで行動し て、責任の所在が曖昧なのでトップは誰も責任をとらないー。民主党の掲げた改革は官と敵対するのではなく、官のもつ「無責任の体系」を打ち破ることにあっ たはずだが、民主党政権はこの「無責任の体系」をそっくり繰り返している感じである。

 2009年に 民主党が政権交代を実現したのは、人間の尊重、社会保障のための負担はやむを得ない、外交紛争は武力で解決しないーというものだった。またマニフェストと いう政党と国民との約束の大事さを政党政治の中に据えた意味も大きい。


責任を取らない原発事故

 政権交代で登場人物が交代し既得権益の排除も進んだ。情報公開も前進している。貧困問題や市民活動の支援などが予算措置の対象になったことも大きい。自 殺が3万人を切ったのは防止対策が数字に表れたといえるかもしれない。しかし期待が膨らんだのはつかの間で、政治主導は次々につまずく。原発事故の対応は 拙劣だった。東京駐在の欧米特派員は、あれだけの事故を起こしていまだに誰も責任をとらないのは不思議だという。

 消費税増税に ついて、2009年の総選挙では徹底したムダ排除と改革をすることを約束したが、野田前首相はいつの間にか増税派に変わり、「消費税増税は大儀だ」とまで 言い放った。マニフェストとは正反対なのに、お詫びも説明もない。傲慢そのものではないか。

財 政再建にまじめに取り組んだ英国

 英国の財政再建では、防衛予算を約4分の1カットして、英陸軍トップがアフガニスタンを視察した際、ヘリが用意できず米軍ヘリで移動したという。300 あった在外公館19を閉鎖、外務省職員も6000人から4000人に減らしている。

 復興のため補 正予算が震災発生から9カ月後に成立する。暢気なものである。財務省に復興増税が決まらない限り補正予算は組まないと約束したためというが、1000年に 一度の大災害にこそ政治主導を必要とした。増税した復興予算は震災と関係ないところで使われているのである。

「万 死に当たる」民主党の指導者
 
 新聞の投書欄に「改革に期待した有権者に対して万死に当たるのではないか」とあった。その菅、野田両氏に党の費用で警備のために高級車がついているとい う。

 議会政治では 政府や与党をチェックするために、野党の存在は重要だといわれる。早く立ち直って欲しいが、この有権者の不信感や愛想づかしは時間がたてば回復するという ものではなさそうだ。「失敗の連鎖」を断ち切るには、トップ自らが「出処進退」を真剣に考えて欲しい場面だ。    



栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


2013 年2月7日(水)     



まず既得権の排除から始めよ
知識人の日本再生のための助言 
 



                        栗原 猛


 知日派といわ れる欧米、アジアの識者は、日本の国の先行きをどう見てういるのか。「衰退していく」という識者がいれば、その一方で「いや再生を果たせる」という人もい る。中には的はずれの議論もなくはないが、当の日本人が見落としていたり、分かっていても見ぬふりをしてきたいわば「だらしない部分」をズバリ指摘してい るものもあるのではないだろうか。

政 治システムが悪い
 1979年に「ジャパン・アズ・ナンバーワン」で、経済の発展を続ける日本についてバラ色の将来を描いてみ せた米国の社会学者、エズラ・ボーゲル氏は、最近、ワシントン・ポスト紙のインタビューで「日本経済は高度に洗練された先端性を持っていた。だが政治シス テムがかくも行く手を阻み、日本を下方スパイラルに巻き込んでいくとは予想していなかった」と見通しがはずれた理由を述べている。

欧 米に迎合した日本
 「日本を見習え」と、ルックイースト(東方)政策を唱えたマレーシアのマハティール元首相は、日本のメディ アとのインタビューなどで「今や日本の過ちから教訓を得るときだ。韓国により多く学ぶ点がある」「日本が苦況にあるのは、経済大国への道を切り開いた自ら の価値を捨て、欧米に迎合したからだ。例えば、終身雇用制などに重きを置かなくなった」と語った。

チェ ンジを求めるべき
 永田町政治にも詳しいコロンビア大学のジェラルド・カーチス教授は、「戦後日本のすばらしい経済発展を促し た諸構造が適切でなくなった。改革を怖がることなくチェンジを求めるべきだ」と指摘する。

「反 骨の人」が排除された
 日本の統治システムについて研究書もあるオランダのジャーナリスト、カレル・ヴォン・ウォルフレン氏は、政 権交代が激しいために政治家や官僚に熟議がなく、対米追従という安易な道を選んできた。改革などを唱える「反骨の人」は排除されたーと語る。


高い日本の公共料金
 英エコノミスト誌の東京支局長も務めたビル・エモット編集長は近著で、公共事業などへの財政支出は古い自民 党政治に戻る感じだ。企業、各種団体は国の保護と補助金に慣れきっていて、既得権を死守しようとする。だから日本の公共料金は高い。企業も政治もメディア も小手先の政策ではなく構造改革や近代化を進めないといけない、という見立てだ。

民 主主義制度の根幹を整備せよ
 モルガン・スタンレー・MUFG証券のチーフエコノミスト、ロバート・フェルドマン氏は、日本記者クラブの 講演で、「民主主義制度の根幹を整備しないといけない」と分析。フェルドマン氏が指摘するのは選挙制度の改正である。今の選挙制度では頻繁に政権が変わ り、腰を据えて取り組む必要のある政治システムの改革などはできるものではない。選挙制度を改正して長期政権を作りじっくり、諸制度の改革を進めるべきだ という見立てだ。
 どの知日派の諸氏も政治システムの近代化、改革、もっとガラス張りにして透明度を上げないといけないという指摘である。「原子力村」や「農業団体」など 補助金絡みの既得権の組織が、あらゆる分野に張り巡らされていて予算―財政を蝕んでいる。日本で政権が頻繁に変わるのは既得権益者が改革を阻止したいから だ。改革の方途はメディアも政権の弱みをすぐにあげつらわないで、「長期政権」に改革をさせるべきだというのである。

 日本は古来 「外圧」をうまく活用するのが得意だった。アベノミクスは財政と金融による景気浮揚に主眼がある。景気のよい株高に目を奪われることなく、知日派の「日本 衰退論」には聞くべきものがあるように思われる。


2013 年2月11日(月)     



「アベノミクス」は「日本衰退論」を
克服できるか 
 



                        栗原 猛


   安倍政権 になって経済界は活況だ。東京・平河町にある自民党本部も経済人や官僚の出入りでごった返している。週刊誌も株価はまだまだ上がると煽っている。アベノミ クスは、欧米、アジア各国に広がっていた「日本衰退論」を吹き飛ばせるのか。

 日本衰退論を 数字で見ると、1968年から42年続いてきた国内総生産(GDP)世界第2位を2010年に中国に明け渡した。1人当たりのGDPも80年代は世界の上 位にいたが、現在は25位、アジアではシンガポール、香港、台湾に抜かれて第4位に後退、第5位の韓国が近づいている。

 多くの識者が 掲げる衰退論の理由は、天文学的な財政赤字、少子高齢化と人口減、「失われた20年」と呼ばれる経済の無策とGDP(国内総生産)の縮小、所得水準の低下 と格差拡大、雇用の質量両面の劣化―などである。したがってアベノミクスが取り組むべき課題も以上の5つに集約できるのではないか。

 順にみていこ う。まず借金大国からの脱却、財政再建である。1000兆円といわれる国の借金―債務残高はサラリーマンが見ても尋常ではない。

 新年度の一般 会計は92兆6000億円。新規国債は43兆円で、民主党政権より1兆円減らしたというが、それでも税収を上回っている。小泉純一郎政権が掲げていた国債 発行の「30兆円枠」の1・4倍もある。またこれまでの借金を乗り換える「借り換え債」を合わせると、過去最高の170兆円だ。税収見込みの根拠になる名 目成長率も2・7%と民間建機吸気管如即よりも高い想定だ。

 小泉政権以 降、抑制してきた公共事業費の総額は再び10兆円を超えた。農業関連の公共事業は補正予算の方に計上してあるから、一般会計では少ないように装っているだ けだ。小泉政権をバックアップした経済学者は、インフラが行き渡ったいまは、公共事業をしても経済効果は小さいと指摘するが、その辺の説明は聞かれない。

 公共事業を増 やす話はあるが、財政再建の議論が聞かれないは心配だ。多額の国債発行を続け、日銀に金融緩和の強化を求め、その日銀が国債を購入していくという構図はい つまでも続けられないのではないか。歳出削減やムダ排除、各省間の似たような事業の重複などもあり、議論だけでなく数字で結果を出すことが大事だ。国会の 役割は大きい。


2012 年12月19日(水)     



もう一度改革や行政の無駄を省く手順を
「自民大勝、民主大敗」をどう生かすか
 



                        栗原 猛


  報道各社の 世論調査は、早くから自民党圧勝と報じていたが、自民党の選挙担当の幹部でも自公が325議席まで伸ばし、民主が57議席に転落することまでは想定できな かったらしい。
 この幹部は「いちばん喜んでいるのは、財務省ではないですか」と言う。自民党政権ではとても消費税増税に踏み切れなかったが、野田政権はマニフェストを いとも簡単に反故にして、しかも野党が要求していた解散、総選挙を早め、政権を自民党に献上してくれたからである。

自 民党本部に足を向けられない

 自民党と財務省はかって知った仲だから、自民党が政権に復帰すれば2014年10月からの消費税アップはな んとしても実施する気だろう。ある財務省高官OB氏は「自民党本部の方に頭を向けて寝られないでしょう」、と言った。
 実は選挙中にいくつか異変が感じられた。民主党の候補者が演説すると「どの面を下げて演説するのか」「早く帰れ」というヤジが出る。ビラを渡そうとして も受け取らなかったり、手を振って拒む光景も見られたからだ。

問 題は景気、雇用

 「衣食足りて礼節を知る」というが、今、市民の関心事は、景気とか雇用はどうなるかということである。いく ら多数を取らせても党内抗争ばかりしていて、政治はいっこうに前に進まない。そこで多くの人はもう一度自民党にと、思ったのではないか。
 総選挙直後の証券市場は、日経平均が先週末比140円台高に跳ね上がり、月末の納会までに10、000円台に回復しそうだとの予想もある。証券業界のア ナリストは、2005年9月の小泉政権当時の郵政総選挙時の株価と、同じような兆候だと囃している。

 郵政選挙では 自民党が296議席と躍進。この時は8月の解散時から選挙直後の9月9日までに株価は8%上昇。今回は野田首相が解散断行の決断をした11月14日から見 ると、先週末の14日までで12.9%上がり、自民党は294議席獲得。郵政選挙の際は1万7000円から1万8000円台だった株価が、今回は9000 台後半と水準の違いはあるものの、自民政権の躍進、再来で、上昇傾向は似ている。

も う一度初心に帰れ

 野田首相の解散に至る発言の文脈から見る限り、今回は、原発問題やエネルギー対策、消費税増税の是非が問わ れた選挙である。その民主党が敗退したということは、原発や消費税増税にはノーを突きつけられたことにならないか。自民党政権は、自公民3党合意の消費税 増税をどう扱うのか。

 もう一度初心 に返って、徹底改革をやり無駄を省くなどの手順を踏むのかどうか、自民大勝、民主大敗を選択した民意は、その点も問うていると思われる。

 


2012 年12月11日(火)     



財政政再建の道筋や責任論を語ろう 



                        栗原 猛


 メディアの前 半の世論調査も出て、選挙ムードが一気に盛り上がった感じだ。自民党復調の予想だが、選挙のことだから予断は禁物である。

 各党党首の街 頭演説にも、多くの市民が集まり、選挙の関心の高さがうかがえるが、ワーンという盛り上がりに欠けるようだ。有権者は半身の構えで候補者を観察しているか らではないか。

 党首の遊説で 聞きたかったのは、喫緊の課題である財政再建の道筋である。自民党の安倍総裁は「民主党は、国債発行を急増させ、財政規律をめちゃくちゃにした」と批判。 一方、野田首相は「安倍氏の金融、財政政策は、財政赤字を日銀に穴埋めさせる邪道、禁じ手だ」とやり返しているが、議論はそこまでだ。

 1000兆円 の財政赤字の80%は、自民党政権時代につくられたという。小泉政権がスタートした2001年の財政赤字は650兆円だったから、350兆円も増えたこと になる。その辺の責任論や原因の究明、改革論議がすっぽり落ちている。

 来年度の予算 は、一般会計は90兆円だが、税収は40兆円しかなく、残りの50兆円は国債発行である。ところが国の予算にはもう1つ特別会計があり、一般会計の約3倍 の270兆円もある。

 民主党は野党 時代に、この特別会計は一般会計の赤字の穴埋めや、5000カ所もある特殊法人に使われ、天下りや無駄使いの温床になっていると、追及して改革を約束し た。だが民主党流の「政治主導」は、霞が関の官僚から総反撃を受けて、前進した分野もあるにはあるが、全体として見れば後退と換骨奪胎である。

 しかしどの家 庭でも費用がかさむ4月などは、他を切り詰めてそちらに回すものである。増税をして国民に迷惑を掛けるのならば、なぜ1000兆円にも膨らんだのか、不始 末をわびて、削るものは削り、不要不急のものは後回しにするなどは、欧米先進国では常識中の常識である。 

 党首遊説では この点が抜け落ちているので、聞いている市民の胸に響かなかったのではないか。

 日本では大き く紹介されないが、欧州各国は、公務員削減や国会議員の給与カットなど大胆な改革を進めている。英国では4年間で、10兆円の歳出と公務員49万人を削減 する。ギリシャ、スペインなども国会議員や、公務員の大胆なカットを進めている。

 初めて消費税 を導入した直後の竹下登首相は、「10年がかりだった。もうぼろぼろだよ」と言っている。大平正芳内閣の蔵相(現財務相)、中曽根内閣では蔵相、幹事長で も消費税の旗振り役をしたが、一方で公共事業費の削減や減税、不公平税制の是正にも取り組むなど、税の重みや市民の痛みも熟知していたのである。

 野田民主党政 権は結論を急ぐあまり、大事な無駄の退治や官のシステムの改革などすっかり置き去りにしている。財政赤字をつくった責任も感じていないようだ。残る選挙期 間中に、欧米先進国のような財政再建論を戦わせて、日本の起死回生策を描いて欲しい。

 


2012 年11月20日(火)     



「民主党」への「決別解散」 



                        栗原 猛


 乾坤一擲と か、一矢を報いたなどと、野田首相の解散を評する向きがある。果たしてそうだろうか。大きな期待を背負って政権を担った党が、マニフェストにないことを やって国民を裏切り、訳が分からなくなった挙句に表現はよくないが、増税実現のために民主党をたたき売りに出したという話にすぎないのではないか。

 まず解散には 不可解な点が少なくない。民主党政権下で初めての解散、総選挙なのだから気力充実、3年間の民主党政権の実績や新たな政策課題をアピールして、堂々と選挙 戦に臨んでしかるべきだった。どうも気力も体力ともにいまひとつである。

 自民党政権時 代の執行部は、派閥抗争をしていてもこと解散になると、幹事長を中心に結束したものだ。今回は「16日解散」を知っていたのは、執行部のごく一部の幹部だ けで、選挙戦の最高責任者である幹事長が知ったのはどうも直前だったらしい。

 ところが自 民、公明の幹部は事前に知っていた節があることだ。自民党のある有力な新人候補は、12日に党幹部から「16日解散」の連絡があり、ポスターなどを貼り替 えたという。
 
 解散の交換条件に衆院定数是正を迫ったことも分かりにくい。国民に増税を強いるから、政治家も痛みを分け合うという発想は分かるとして、民主党が総選挙 で敗れた場合に、この約束はどうなるのか。反故にならないよう手順、段取りを事前にきちっと詰める必要があったのではないか。「近く解散」に追いつめら れ、口実に使っただけではないのか。

 衆院の定数を 民主党案通り40人削減すると、年間40億円の削減になる。ところが、財政削減という点からみると、年間320億円支給されている政党交付金を削減する方 が、効果があるのではないか。

 日本の国会議 員の数は国民1人当たり先進国の中でも少ない方だが、歳費は世界一高額である。巨大な行政組織や政策をウオッチするには、議員の数を減らすのではなく、む しろ増やして、歳費や政党交付金、諸手当などをカットする方がより効果的である。
 
 離党者が続く中で野田氏は「出て行きたいものは出ていっていい」と言っているようだ。説得して翻意させることはしないという。どうやら純化路線を選び、 民主党を大きく再建することはあきらめたかのような物言いである。

 原発対策や消 費税増税の是非が大きく問われる選挙で、選挙の結果によっては、野田路線にノーが突きつけられる。消費税増税の見直し機運も出てくるだろう。そうした事態 を財務省も懸念しているといわれる。

 見せ場をつ くったような解散劇だったが、実相は野に下るようなことがあっても、消費税増税を決めた3党合意の枠組みだけは維持したいところではないか。「民主党」へ の決別宣言を意味する解散だったように思われる。


2012 年11月13日(火)     



いま政治に期待されていることは何か 

―政治の原点を忘れた民主党


                        栗原 猛


 解散、総選挙 をめぐって、民主、自民両党の激しい駆け引きが続いている。
 米国の大統領選は、オバマ再選となったが、大統領選を通じて、オバマ、ロムニー両氏が最も強調していたのは、雇用、失業問題だった。日本も、最近の景気 指標は総じて暗く、今年の春ごろから後退は続いていると観るべきであろう。
 「信を問う」ことはもとより重要だが、いま政治は国民生活の現状を直視することが大事ではないか。

 国民の暮らし 向きに目を向けると、貧困率は15,7%で日本は先進国で最下位である。昨年、サラリーマンの平均給与(含む賞与)は409万円。前年を3万円下回った。 ピークは97年の467万円である。最底辺層(年間給与100万円以下)は、前年より32万人増え393万人となり、給与格差も広がる。消費増税に耐えら れる状況ではない、といっても過言ではないのではないか。

消 費増税に耐えられない

 一方、国民の負担も増大傾向にある。健康保険(協会けんぽ)、介護保険第2号保険料率の引き上げ、厚生年金保険料率の引き上げなど負担増が続く。勤労者 の可処分所得は38万836円で前年より2,3%も減少した。ここ20年ゼロ金利が続くが、ゼロ金利でなかった場合、国民が得たであろう利子の合計は 350兆円とも400兆円ともいわれる。国民は負担増の中で銀行を支えているのである。

 完全失業者は 273万人だが、生活保護世帯、企業の海外進出に伴い職を失った人、企業内失業などを含めると失業者は1000万人を超えるという。大学生の就職内定者4 人に1人は、不安定な非正社員である。

社 会保障などの国家支出は先進国中最下位

 政府は医療や社会保障の財政支出が増えていると警鐘乱打するが、国際比較をするために経済協力開発機構(OECD)の調査で、EU各国の社会保障、公的 教育、医療費などへの国の支出をみると、日本は先進国中で最下位である。

 東日本震災の 被災地復興に使われるはずの19兆円の予算が、被災地復興とは直接関係のない中央官庁の庁舎耐震工事や沖縄など被災地から遠く離れた地域の土木工事費、南 氷洋のクジラの調査捕鯨関係費に流用されるなど、どう見ても悪質な予算の便乗使用としかいいようがない。

 国民の期待を 担って誕生したはずの民主党は原点を忘れている感じがする。野田首相はよく「中庸の精神」というが、陽明学者、安岡正篤(故人)氏は、「『中庸』とは、両 岸を離れて自らの判断で行動するという積極的な意味を持つ」と言っていた。政界に慧眼の士出でよと叫びたくなる昨今である。


2012 年4月10日(火)     



安い韓国の電気、バス、高速鉄道 

―就職難だが若者どこも元気だ


                        栗原 猛


 日韓学生交流 で日中でも零下10度という寒さの中を、ソウルから儒教の町・安東、釜山へとマスコミ志望の学生たちと駆け足で回った。
韓国の大学生の就職戦線も厳しいらしい。ただ広いキャンパスで、訪問先が分からなくなって尋ねると、カバンからIパッドを出して検索してくれた。地下鉄を 大いに利用したが、年配の人が乗ってくると立って席を譲っている。


安価な公共料金

 学生たちが驚いたのは韓国では電気、鉄道、バス、タクシーなどの公共料金が日本と比べとても安いことだっ た。例えば、日本の新幹線に匹敵する「高速鉄道」はソウルと釜山間は400`(三時間ほど)で約5000円である。

 航空機はウ イークデーが6600円、土日はもう少し高くなる。高速バスは2900円(約10時間)といった具合だ。実は円高だからもう少し安くなる。
 
電気は日本より3割も安い

 電気料金も日本より3割ぐらい安いそうだ。石油を日本と同じく99%輸入しているのにである。
  安い公共料金のカラクリは分かりにくいが、韓国では原子力発電のコスト計算に、原発立地のために自治体に出している補助金や補給金、それに 何十年も続く使用済み核燃料の処理費用などは跳ね返らしていないことが、明らかになった。補助金などは税金だから国民が負担していることになる。

 内外価格差の 計算は複雑だが、国会の調査や事業仕分けなどで、補助金や補給金、助成金などが支出されている特殊法人や独立行政法人は5000近くあり、そこに官僚OB が役員だけでも3万人天下っていることが明らかになっている。こうした天下りのシステムが高い公共料金の要因の一つとなっているのではないかーというの が、メディア志望の学生たちが、今回の韓国での交流で感じたことだそうである。


2012 年3月26日(月)     



海外メディア、「原発その後」にも厳しい視線 

―消費税論議をもっと深めよう


                        栗原 猛


  東日本大震 災から1年がたった。海外メディアも原発事故には相変わらず関心が高く、参考になる批判や指摘も少なくない。被災地を取材し、韓国や中国情勢を見てきた憂 国会の面々5人がそろったところで、新橋の中華料理店で放談会をやった。(敬称略)

◆  やはり政治主導が大事だ
― 外国特派員も随分現地で取材していたようだが。

A 現地入りした記者のリポートに「人煙がなく鬼城(幽霊都市)」「1000頭を超す家畜が野生化して、民家にはくもの巣が張っている」というのがあっ た。
E まだがれきの山で生活基盤が築けていない。学校も雇用も日常生活がそうだ。市営霊園にはまだ白い布に包まれた遺骨がたくさん並べてある。職場が見つか れば福島を出たいという人が何人もいた。人口は減っていくのではないか。
D メディアは「被災地は頑張って」などとキャンペーンを組んだりするが、それも大事だが、やはり政治が動かないことには進まないところがある。
A 政治主導というか政治家主導だね。政治家が「おれがすべての責任をとるから、やってくれ」とでも言わない限り、中央も地方の官僚も自分から動くもので はないよ。

◆  「東電は同盟国にも伝えなかった」
 ― 民間の事故調査委員会の報告が海外メディアには評判がいいね。

A 「日本人は当局発表を鵜呑みにしがちだ』というくらいだからな。
C 民間有識者でつくる「福島原発事故独立検証委員会」(民間事故調)の報告のことだろう。菅首相ばかりか当局者たちの混乱と対立を詳しく検証していて、 なかなかの出来栄えだ。「国民ばかりか米国など同盟国にも注意すべき情報を伝えていなかった」と指摘している。どのチェク機関にも第3者の民間人を入れな いと、信用できる報告はできないね。
E 米紙ウオール・ストリート・ジャーナル(アジア版)には、「日本の安全管理の遂行はずさんだった。東電の原発施設に誰が入ったかを確認する責任者が避 難していた」と、あきれている。日本は潜在的にテロ攻撃に弱いともいっている。
C 「東電は3カ月たって敷地内にいたはずの69人の行方が分からないことに気がついて、追跡しても10人が所在不明だ」と、人命軽視を批判している。
E あれだけの国際的な事故を起こしておいて、責任をとったのは東電の社長と副社長の2人だけというのはどう考えてもおかしいよ。
A 社会全体の規律というか、行政への信頼がなくなってしまう。

◆ プーチンの涙

B ロシアの大統領選挙でプーチン氏が予想に反して善戦したね。
D 欧米の新聞には投票所に隠しカメラがあって、公務員が対立候補に投票すると、給料や年金が減らされたりするとあった。相当な締め付けをしていたよう だ。
C 日本のメディアには感極まって涙が出たと、大きな写真を載せていたが男の涙にもだまされてはいけないわけだ。
E 湾岸戦争の時に油にまみれた鳥の写真や、イラク戦争でフセイン大統領の銅像を倒す写真もやらせだったというからね。

◆  小沢外しで話し合い解散―政界再編論―増税 
― ここに来て民主、自由党の間に話し合い解散論が浮上している。

C 自民党の谷垣総裁ばかりでなく、森元首相など長老も言い出している。
B 野田首相の発言なんか聞いていると、4月ごろ解散があるようにも受け取れる。
D 国と地方の1000兆円の財政赤字のうち80%は自民党政権時代にできた。だから税の議論は避けたい。議論を深めると自民党の責任問題も出てくるから ね。
E 自民党の政権も政権運営が苦しくなると、解散権をちらつかせて対抗勢力をけん制して求心力を付けようとした。政権基盤がしっかりしていれば、解散なん て言わずに粛々と政策課題に取り組んでいられるところだ。
A 野田、菅政権もそうだが、党内が結束すれば求心力が出てくるのに、小沢グループを外したいわゆる片肺政権だ。パワーがないから官僚や自民党頼みになっ てしまうのだね。
E 解散するとしても違憲状態だから、選挙制度を手直ししないといけない。このままだと違憲状態の選挙区から訴訟が4つも5つも出てくる可能性がある。
D だから自民や公明党に歩み寄って両党が納得するような改正をして、話し合い解散ということになる。その後で小沢グループを外した民主、自民で再編をし て新党を作る。参院でも多数が確保できれば、それこそ何でもやりたいことができるようになる。
C 消費税だって所得税だって上げられる。
B 選挙を先送りすると、「石原新党」や「橋下新党」の準備が整ってしまうから、早いほうがいいというのだ。
E いやそうではなく、石原も橋下新党もぼろを出すから遅い方がいいといっていたよ。

◆  政局にして国民から話題をそらす
― 消費税の国会論議はどうなっているの。

B 財務省のOBだが野田が選挙や政局に熱心なのは、国民の話題をそっちに向けて、消費税の議論や責任問題を吹っ飛ばしてしまおうというのではないかと いっていたよ。
D 原発事故もだが1000兆円も国家財政に穴を空けて、誰も責任をとらない。しかも国民から話題をそらそうとすれば、それこそ「無責任の体系」そのもの だね。
A かの丸山真男の政治学のキーワードの1つだった「無責任の体系」とは、第一次世界大戦以後、日本が戦争へ突入することを押し進めた当時の政府や軍部の 意思決定の過程を分析して、各組織は保身のためにその場限りの判断を下して、異論があっても組織の体制にしたがってしまったということを指したものだ。政 治や官僚の「無責任の体系」は今も変わっていないということになる。
B 後藤正晴元副総理は、「日本人にはちょっと待てという勇気が欠けている」といっていたな。マスコミもそうだが、世の中がいっせいに1つの方向に走り出 そうとしている時こそ「ちょっと待てよ」の精神を発揮して欲しいね。 



栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


2012 年3月10日(月)     



海外メディア、「原発その後」にも厳しい視線 

―消費税論議をもっと深めよう


                        栗原 猛


  東日本大震 災から1年がたった。海外メディアも原発事故には相変わらず関心が高く、参考になる批判や指摘も少なくない。被災地を取材し、韓国や中国情勢を見てきた憂 国会の面々5人がそろったところで、新橋の中華料理店で放談会をやった。(敬称略)

◆  やはり政治主導が大事だ
― 外国特派員も随分現地で取材していたようだが。

A 現地入りした記者のリポートに「人煙がなく鬼城(幽霊都市)」「1000頭を超す家畜が野生化して、民家にはくもの巣が張っている」というのがあっ た。
E まだがれきの山で生活基盤が築けていない。学校も雇用も日常生活がそうだ。市営霊園にはまだ白い布に包まれた遺骨がたくさん並べてある。職場が見つか れば福島を出たいという人が何人もいた。人口は減っていくのではないか。
D メディアは「被災地は頑張って」などとキャンペーンを組んだりするが、それも大事だが、やはり政治が動かないことには進まないところがある。
A 政治主導というか政治家主導だね。政治家が「おれがすべての責任をとるから、やってくれ」とでも言わない限り、中央も地方の官僚も自分から動くもので はないよ。

◆  「東電は同盟国にも伝えなかった」
 ― 民間の事故調査委員会の報告が海外メディアには評判がいいね。

A 「日本人は当局発表を鵜呑みにしがちだ』というくらいだからな。
C 民間有識者でつくる「福島原発事故独立検証委員会」(民間事故調)の報告のことだろう。菅首相ばかりか当局者たちの混乱と対立を詳しく検証していて、 なかなかの出来栄えだ。「国民ばかりか米国など同盟国にも注意すべき情報を伝えていなかった」と指摘している。どのチェク機関にも第3者の民間人を入れな いと、信用できる報告はできないね。
E 米紙ウオール・ストリート・ジャーナル(アジア版)には、「日本の安全管理の遂行はずさんだった。東電の原発施設に誰が入ったかを確認する責任者が避 難していた」と、あきれている。日本は潜在的にテロ攻撃に弱いともいっている。
C 「東電は3カ月たって敷地内にいたはずの69人の行方が分からないことに気がついて、追跡しても10人が所在不明だ」と、人命軽視を批判している。
E あれだけの国際的な事故を起こしておいて、責任をとったのは東電の社長と副社長の2人だけというのはどう考えてもおかしいよ。
A 社会全体の規律というか、行政への信頼がなくなってしまう。

◆ プーチンの涙

B ロシアの大統領選挙でプーチン氏が予想に反して善戦したね。
D 欧米の新聞には投票所に隠しカメラがあって、公務員が対立候補に投票すると、給料や年金が減らされたりするとあった。相当な締め付けをしていたよう だ。
C 日本のメディアには感極まって涙が出たと、大きな写真を載せていたが男の涙にもだまされてはいけないわけだ。
E 湾岸戦争の時に油にまみれた鳥の写真や、イラク戦争でフセイン大統領の銅像を倒す写真もやらせだったというからね。

◆  小沢外しで話し合い解散―政界再編論―増税 
― ここに来て民主、自由党の間に話し合い解散論が浮上している。

C 自民党の谷垣総裁ばかりでなく、森元首相など長老も言い出している。
B 野田首相の発言なんか聞いていると、4月ごろ解散があるようにも受け取れる。
D 国と地方の1000兆円の財政赤字のうち80%は自民党政権時代にできた。だから税の議論は避けたい。議論を深めると自民党の責任問題も出てくるから ね。
E 自民党の政権も政権運営が苦しくなると、解散権をちらつかせて対抗勢力をけん制して求心力を付けようとした。政権基盤がしっかりしていれば、解散なん て言わずに粛々と政策課題に取り組んでいられるところだ。
A 野田、菅政権もそうだが、党内が結束すれば求心力が出てくるのに、小沢グループを外したいわゆる片肺政権だ。パワーがないから官僚や自民党頼みになっ てしまうのだね。
E 解散するとしても違憲状態だから、選挙制度を手直ししないといけない。このままだと違憲状態の選挙区から訴訟が4つも5つも出てくる可能性がある。
D だから自民や公明党に歩み寄って両党が納得するような改正をして、話し合い解散ということになる。その後で小沢グループを外した民主、自民で再編をし て新党を作る。参院でも多数が確保できれば、それこそ何でもやりたいことができるようになる。
C 消費税だって所得税だって上げられる。
B 選挙を先送りすると、「石原新党」や「橋下新党」の準備が整ってしまうから、早いほうがいいというのだ。
E いやそうではなく、石原も橋下新党もぼろを出すから遅い方がいいといっていたよ。

◆  政局にして国民から話題をそらす
― 消費税の国会論議はどうなっているの。

B 財務省のOBだが野田が選挙や政局に熱心なのは、国民の話題をそっちに向けて、消費税の議論や責任問題を吹っ飛ばしてしまおうというのではないかと いっていたよ。
D 原発事故もだが1000兆円も国家財政に穴を空けて、誰も責任をとらない。しかも国民から話題をそらそうとすれば、それこそ「無責任の体系」そのもの だね。
A かの丸山真男の政治学のキーワードの1つだった「無責任の体系」とは、第一次世界大戦以後、日本が戦争へ突入することを押し進めた当時の政府や軍部の 意思決定の過程を分析して、各組織は保身のためにその場限りの判断を下して、異論があっても組織の体制にしたがってしまったということを指したものだ。政 治や官僚の「無責任の体系」は今も変わっていないということになる。
B 後藤正晴元副総理は、「日本人にはちょっと待てという勇気が欠けている」といっていたな。マスコミもそうだが、世の中がいっせいに1つの方向に走り出 そうとしている時こそ「ちょっと待てよ」の精神を発揮して欲しいね。 



2012 年2月6日(月)     



彗眼のリーダー出でよ 

―政党政治の崩壊はらむ与野党対決


                        栗原 猛


  経済界を初 め、教育、スポーツ界などもそうだが、政治の世界でもリーダー論が盛んだ。
 政界は、野田政権の崩壊、衆院解散総選挙、政界再編などが予想されるが、この低調さのままで国会での議論が続くと、リーダーの不在感が強く、議会制民主 主義そのものが機能しなくなるのではないか、という危惧が強く国民の間に残るであろう。

政 治とは堅い岩盤に穴をうがつこと

 リーダー論と いえば、にらみ合いの最前線にいる国会議員に読んで欲しいのが、マキャベリやマックス・ウエーバーの「職業としての政治」である。ウエーバーは政治家の条 件に、「情熱、責任感、判断力」の3つを挙げ、「政治というのは堅い岩盤に力を込めて穴をうがつような作業だ」と言っている。

 政治家だから 誰でも権力に情熱を燃やすのは当然としても、政権についたからといって、命令一下、物事が右から左に動くわけではない。政治主導はあってしかるべきだが、 相手を粘り強く説得しながら、複雑に絡み合っている利害を解きほぐしていく、「青の洞門」のような信念や忍耐力が求められるのだ。

「総 選挙―政界再編―巨大与党」で増税狙う

 ところがもは や深刻な対立は、野田政権の崩壊とか解散総選挙をすれば、事態が打開できるといったレベルではない感じだ。政治が本来、取り組むべき課題を放置して、財務 省と二人三脚で事態が混乱する消費税増税へと突き進んでいる。民主党の分裂、解散総選挙を望んでいる節さえうかがえる。

 側聞するとこ ろ野田氏や周辺はその時期は国会閉幕の6月ごろ、民主党の分裂、選挙制度の改革、解散総選挙さらに、政界再編、巨大与党誕生、消費税増税―という展開を描 いているといわれる。しかし総選挙の結果、政界再編が起きずに、衆参のよじれ現象だけが残れば、現状と同じ状況がまた続くことになる。

理 念なき再編は政党政治の自殺である

 しかし、もっ と深刻なのは政党政治、議会制民主主義が機能しなくなるという恐怖である。戦前、政党政治が崩壊した最大の原因は、政党同士が互いに譲らず、政党内でも権 力闘争が起きて、政治が機能しなくなり結局、軍部の台頭を許した。それから先はご承知の通りの結果である。当時と社会状況などすべて異なるが、雰囲気は酷 似しているといわれる。

 政党にはそれ ぞれ立党の理念や精神、積み重ねた歴史がある。組織、日常活動、支持層も異なる。こうした政党の経緯を放棄して、選挙制度改革で野党の歓心を買い消費税増 税のために政界再編をというのは、政党政治の自殺行為である。慧眼のリーダー出でよといわれるゆえんはここにある。


                      



2012 年1月20日(金)     



政治、行政はなぜ機能しないのか 

― 「政権交代」のシンボルを1つでも貫こう


                        栗原 猛


 野田首相は内 閣改造をして、消費税の増税に向けて不退転の決意を示したが一転、支持率が急落し政権基盤さえ心許なくなった。一方、政治や行政が機能していない、メディ アも世論を反映していないのではないかーという声が聞かれる。憂国の5人組が集まった。(敬称略)

◆ 「議員定数 と公務員給与削減」が80%
― 内閣改造をして支持率が下がるなんて前代未聞だ。聞いたことがない。
A 菅直人首相でさえ内閣改造したら支持率は上がっている。
B 「最善で最強の布陣」とか「ネバーギブアップ」などと、借り物の英語で高揚するものだから、本気らしいということで世論も態度を硬化させたのではない か。
D 世論調査で、「国会議員定数と国家公務員給与の削減をしない場合は『増税すべきではない』」が80%近くもあった。「政権が取り組むべき課題」では 「税金のむだ遣い一掃など行政改革」が、最多の43%だ。これをみれば野田政権はまず何を最優先にすべきかがはっきりしたと思う。
C 今までの質問は、「賛成か反対か」「どちらかといえば賛成、反対」といった単純な回答を求める調査だったが、今回初めて工夫があり、進歩した質問だっ た。
E 消費税に慎重な元代表の小沢一郎の勉強会には109人も集まり、熱気があったよ。

◆ 野田がダメ なら次は岡田
C それにしても頑固な元幹事長の岡田克也がよく引き受けたね。
B 副総理といえば野田がこけたら次の一番手だ。人生意気に感じたというよりも、「次は総理」が目の前にぶら下げられると、頑固一徹ばかりも言っていられ ないのだろう。
D 副総理では動きがとれないので、岡田周辺には副総理より副総裁などの方が動き安かったという声もあったがね。
E 財務省とすれば野田でダメなら次は岡田に期待をつなぎたいところだ。岡田の周辺も早々と財務省で固め、洗脳がはじまったそうだ。
C 民主党の中堅議員だが、「財務省は『あの議員は増税反対派だ』とか、戦略室の人事を入れ替えて強化を提言しようとしたら、ガードするとか官邸内をわが 物顔で闊歩している」と憤慨していたな。
C 政調会長、前原誠司は心中、穏やかでないのではないか。世論調査の「次の首相候補」では、ポスト野田の一番手に付けていたからね。

◆ 政策に連続 性を保て
B 前原はサービス精神が旺盛なのかもしれないが、発言がぶれすぎる。八ツ場ダム中止にしても、公共事業費削減、ムダ排除を掲げたいわば政権交代のシンボ ルだったはずだ。それをいとも簡単に建設再開に踏み切った。いろいろいい訳をしているが、政権交代は何だったのかという根本に触れた説明がない。政策に一 貫性がないから、民主党そのものの信頼も損なっている。

◆ 官任せは危 険
― 財源論の自縄自縛から脱出せよ
C だから民主党は何のために、政権を担当しているのかさっぱり分からない。TPP(環太平洋経済連携協定)もそうだが、消費税増税も野田の外遊先での発 言だ。演説はうまいかもしれないが、ぶら下がりもしないし、重要なことはことごとく発信を避けている。
E 霞が関との関係でいえば、政治主導でマスコミや霞が関の反発を受けて、自信をなくしたのか、自民党もあそこまで官僚に頼らなかったといわれるほどだ。 「羮に懲りて膾を吹く」状態を早く脱して自信を取り戻して欲しいね。議会政治の危機だよ。
D 震災復興がいまだに進まない最大の原因は、「野田財務相にあり」といわれるね。がれきの処理や仮設住宅の建設、高台への移設、賠償金にしても野田に陳 情に行くと予算の裏付けのないものにカネはだせないと、主計官みたいなことをいっていたそうだ。
B 今も続いているのではないか。国家の一大事の時には不要不急のところから回すとか、政府が持っている株などを売れば、100兆円はすぐつくれるという のに、政治家が責任を持って、大局的な判断をすべきだね。官僚は責任をとれないからできないのだもの。
E 総理になる前の野田は「天下り法人に12兆6000億円の税金が投入されている。シロアリを退治しないで消費税を引き上げる話はおかしい」「(マニ フェストは)命がけでやる」―などと演説していたがね。ギリシャの財政危機をよく引き合いに出すが、ギリシャは人口の25%が公務員だよ。
A 野田が尊敬する大平正芳(元首相)さんの家には、よく夜討ち朝駆けをしたが、早く帰ってくると必ず本を読み調べごとをしていて、教えられることがあっ た。分からなければ、それこそ小沢一郎に聞けばいいと思うのだがね。「聞くは一時の恥」で済むが、聞かないで失敗されたら迷惑するのは国民だ。
B 官僚は天下り先の既得権や利権を頑として離さない。財政赤字の大半は天下り先がつくったものだ。最近の政治や行政は世論と離れていると言われるが、 今、政治の最大の要諦はその改革にありだと思う。

◆ 政治主導は 適切な指示と責任
― 政治のやることは山ほどあるね。 
A 震災復興や、原子力発電に代わる新エネルギー政策も民主党らしいものを出すチャンスだ。少子高齢化に向けて何をどういう手順でやっていくのかもまるで ない。雇用も深刻だ。失業者は1000万人を超えたといわれ、若者の失業率はアメリカ並みに高い。
C 仕組みで言えば、各省で閣僚夜副大臣を支えるために、政治任用をもっと拡充するとか、民主党独自の政策を企画立案する戦略局の強化とか、体制立て直し を急いで欲しい。
B 国家公務員制度改革とかムダ排除、天下り撲滅、国会議員の歳費削減などは最低限度実現しないと増税なんてとてもできない。それになぜ財政赤字が 1000兆円にもなったのか原因の究明と、予算編成の在り方のチェックもしていない。メディアそこをもっとアピールする必要があるね。
E 民主党の批判ばかりになったが、政権交代して例えば、寄付税制の拡充とか、農家の戸別補償も中間を飛ばして直接農家を保障するということは、民主党だ からできた1つの構造改革のモデルだ。国民から負託を得ているのだから、もっと自信を持てだ。

◆ 政局でなく 対案示して質疑をリード
A 民主党が混迷しているのに自民党の谷垣禎一執行部はチャンスを生かせていない。
D 一番いけないのは何でもかんでも政局に仕立て上げようとすることだ。予算にしても新エネルギー開発にしても、とことん議論して一段高い結論を出すとい う見本を見せて欲しい。政権をとったら少子高齢化社会にどう対応するのか雇用、年金、医療はこうする、ムダ排除や公務員制度改革はこういう手順で必ずやり 遂げるという対案を出して優劣を争ったらいい。それがないから官僚ばかりがどんどん大きくなっている。今や暴走気味だぞ。
B 政局見通しだが、予算が衆院を通過する3月、国会が閉幕する6月、民主党大会の9月がヤマだというね。小沢の裁判もヤマだ。野田政権の求心力も含めて 読み筋はいくつかあるが、見通しを付けるのは難しい。
A ことしは中国をはじめ韓国、アメリカ、ロシアも大統領選挙がある。トップの交代時期はやはり大きな変革期だよ。政治も変わる時期に来ているということ だ。野田さんも世論調査の動向を見て今何を優先すべきなのかじっくり考え直して欲しい。


                            (文責・栗原 猛)



2011 年1月15日(日)     



野田増税路線に7つの疑問 

― メディア志望の大学生が提唱する財政改革


                        栗原 猛


 「ネバー・ギ ブアップ」−。野田首相は、脇目も触れずに財務省謹製の増税路線をひた走っている。
 新聞、テレビを目指して国際金融や政治、財政学などを学んでいる大学生に聞いてみると、野田政権には大赤字をつくった責任とか反省、それに改革精神もう かがえない。これではいくら増税してもすぐまた増税、という情けないことになってしまうのではないかーと手厳しい、のだ。

な ぜもっとはやく手が打てなかったのか
 学生たちの疑問で多いのは、まず財政赤字が天文学的な1000兆円(国と地方分を合わせて)にも膨れあがっ たのか、ということである。
 「優秀なはずの政治家や財務省主計局の役人が、毎年、毎年9月から12月下旬、あるいは越年してまでも長期間かかって予算編成をしていて、なぜ手を打て なかったのか」―である。

 小泉政権が誕 生した2001年の財政赤字は650兆円だった。小泉政権は改革に努力したにもかかわらず、その後さらに350兆円も増えている。予算編成の過程で不要不 急のものは先に送り、カットするなどして赤字を減らす措置がとられなかったのか、悔やまれる。

財 政赤字の分析を
 2つ目は、各省庁のどういう部門がどれだけ財政赤字を抱えているのか、詳細を明らかにして欲しいという点 だ。
 赤字のトータルの数字だけではなく、どの役所のどのセクションがどれだけ赤字を抱えているのか、詳細が分かれば、見直し作業はもっとスムーズに進むので はないか。

 かつて国鉄は 30兆円、公営企業金融公庫は70兆円、道路公団40兆円の赤字をつくったが、赤字は凍結されたままだ。体裁を考えたのか、これらの団体はすべて名称を変 えた。
 1000兆円の財政赤字の70%は、5000近くある独立行政法人や特殊法人がつくったといわれ、最近では7000近くある国管理の公益法人の問題を指 摘する声もある。NHKの世論調査でも「増税の前に改革すべき」が70%もあった。

 3つ目はそれ と関係するが、それらの赤字補填はどう手当てをしているかだ。
 郵便貯金からはいくら、簡易保険、年金基金、日銀、一般銀行などからはいくらというように、借入先の実態も是非明らかにして欲しいところだ。

税 の不公平感
 4つ目は、消費税で日本のように一律の国はないという点である。欧米ではGDPの60%以上を占める食料品 や医療品などはゼロ税率である。学用品なども低い税率の国が多い。フランスはリホームにも税金をかけない。きめ細かい配慮がある先進各国の消費税と比較し た議論を深めるべきだーと、留学先から帰国した学生の報告にあった。

 5つ目は「ク ロヨン」とか「トウゴウサンピン」とよくいわれる税の不公平感の問題だ。サラリーマンは給料の全額が捕捉されるが、一方租税特別措置で企業などは6兆円も 税が免除されている。

責 任を明確に
 6つ目は、財政法では財政赤字をつくることを厳しく戒めているのだから、法律を破った歴代首相や、財政相 (蔵相)など関係者の責任をはっきりさせるべきではないか。これだけ国と国民に迷惑をかけて、トップの誰も責任が問われないのならば、政治家や行政に対す る信頼がなくなり、それこそ日本の法秩序の基礎か揺らいでしまう。中国の汚職体質を批判してはいられないーという指摘もあった。

予 算チエックを厳しく
 7つ目は,立法府に関するもので、国会ではその議論を一般会計予算に集中させているが、一般会計の3倍もあ る特別会計予算にももっと時間を割くべきではないか。審議の時間が足りなければもう一つ委員会をつくればいい、という提案だ。会計検査院を立法府に移り、 立法府の立場からも予算と決算をチェックする機能を拡充すべきだという意見である。

 学生の疑問や 不安には、財政赤字を自分たちの問題としてとらえようとする、新鮮さと真剣さがうかがえる。野田政権の増税路線にもこうした反省に基づいた検証と反省と改 革を期待したいところである。


                            (文責・栗原 猛)



2011 年11月29日(火)     


〔政治座談会〕

「財務省主導」で進む増税路線 

― 野田政権は亀裂恐れてひたすら沈黙


                        栗原 猛


 財務省主導の 増税路線が進んでいる。野田政権の面々は、党内亀裂を恐れて、ひたすら沈黙の一手だ。財務省主導については、民主や自民党内に「いくら何でもやりすぎだ」 と批判がくすぶりはじめた。大阪のダブル選挙で改革派の圧勝は、民主、自民などの既成政党が民意を汲み取れていない証しである。いつもの憂国の5人組が東 京・有楽町の焼鳥屋の2階に集まった。

「首 相は、政治決断さえしてくれればいい」

― 財務省の根 回しは相当激しいらしい。

 A 税は国民生活にかかわるのに、説明責任のない野田首相が一番悪い。

 D 議論すると党内に亀裂が入りかねない。財務省も「根回しは自分たちがやるので、政治決断さえしてくれればいい」と言っている。そろそろ若葉マークを 外して欲しいね。

 B まず財務省が民主党案を作り、自民、公明党の要求を丸飲みにする。そして満場一致で成立という段取りだ。復興基本法や原発賠償法と同じ「与野党連立 政権方式」だな。

 E そんなにうまくいくのかね。財政、経済に素人の「安住財務相」は、おかしいと思っていたが、国対委員長経験者なので、自公とのパイプ役が主たる役割 だったのだな。

「ま るで太平洋戦争に突入前夜だ」

 B 旧知の官 僚は、いまの霞が関は、財務省主計局の戒厳令が引かれたみたいだといっていた。まるで太平洋戦争前夜の日本のような、重苦しい空気だそうだ。

 A 景気も悪く、失業者は1000万人を超えた。国家百年の大計を誤らないで欲しいね。戦前は優秀だといわれた参謀たちが世界情勢も見極めないで、功名 心にかられて戦争に突入した。それを政治家や軍のトップが待ったをかけられなかったのだ。

 C 「歴代宰相の師」と呼ばれた陽明学者、安岡正篤氏は「秀才事を誤る。誤って責任を逃げる」といっていた。そうであっては困る。

 E 急いでいるのは増税論議をやっていると、900兆円の財政赤字をつくった責任論が出てくる。それを恐れているというね。

政 権基盤の弱さに付け込まれる

― 政治主導は 民主党の政権公約だったはずだが。

 D 政府と党の税調会長をはじめ、官房副長官、秘書官、戦略担当相とぐるりと財務省出身や関係者が取り囲んでいる。前原政調会長や仙谷会長代行も増税論 者ときている。

 E 政治主導だといって大臣1人で省庁に乗り込んでも何もできないよ。英国だって2,30人の議員が政治任用で各省に入って、政策の企画、立案、国会対 策などを分担する。税金を使って何度も英国に視察に行って何を学んできたのかね。

 B 菅さんもそうだが、野田氏も政権基盤がしっかりしていないから、財務省は頼もしいとばかり頼ったら、待ってましたとばかりに洗脳されてしまった。

 C 新聞社のトップにも新聞には軽減税率を適用すると言っているそうだ。

 E メディアが増税問題をあまり報じていないのはそのせいかな。

 B 財務省は自民、公明両党に「中選挙区に戻したら」とも持ちかけているそうだ。民、自、公3党は「増税でもご協力を」といいたいのだろうが、いささか やりすぎだ。

 A 野田政権は安全運転もいいが、政権交代とか政治主導を何と心得ているのだ

「特 別会計をなくすと、天下りやムダ使いができなくなる」

― オバマ政権 はイタリア政府に財政改革をしろと要請したね。

 C ミスター埋蔵金の高橋洋一氏が、国の資産は650兆円あると言う。米国は150兆円、欧米諸国はGDPの10%程度だ。日本はダントツに多い。金融 資産500兆円のうち300兆円の現金、預金、有価証券、特殊法人への貸付金などですぐにも使えるそうだ。

 B 伏魔殿の31ある特別会計にも、大所では財政融資資金特別会計に26・1兆円、国有林野事業特別会計に6・5兆円、労働保険特別会計に2・6兆円。 全部合わせれば50兆円にはなる。

 D なぜそれを活用して財政赤字を埋めないのかね。

 E 埋蔵金や株、債券などを売ると、役所の影響力が弱くなり天下りができなくなる。特別会計をなくすと運用の失敗なども隠せないし、第1ムダ使いもでき なくなるからな

北 の丸公園近くの幹部専用宿舎はただ

 D 会計検査 院の調査で5000億円ムダを発見したが、昨年は1兆円を超えている。

 E 国と地方公務員の総人件費30兆円もある。これを2割カットすると6兆円捻出できる。サラリーマンはここ数年、所得が減っている。税収も減っている のだから公務員も足並みをそろえてもバチが当たらないぞ。

 A 民主党は官公労の影響下にあるから、労使が共闘して反対すれば削れないだろう。カットできたら民主党の政治主導は本物だったと褒めていい。(笑い)

 D 特殊法人と独立行政法人は4500もある。ここに12兆円税金が投入されて、2万5000人が天下っている。大蔵省出身の自民党議員だが、「930 兆円の財政赤字の70%は特殊法人がつくっている」と言っていたよ。

 E 公務員宿舎建設は、事業仕分けで凍結にしたが、野田さんは解除した。批判されて再凍結にしたがまだふらついている。一方建設をやめると40億円超の 賠償金がとられる。政策ミスだから税金からではなく、民主党の閣僚や政党交付金から払うべきだ。

 C 北の丸公園近くの超一等地の幹部専用の住宅はただというね。

 B この夏に官僚OBが退職金で金を買いまくっているという話があったが、最近、資産形成コンサルタントに聞いたら、退職金の運用の相談に来るのは官僚 OBが多いと言っていた。人間が欲しいものに、地位とカネと名誉の3つがあるといわれるが、3つとも独り占めにしようというのはいかんね


「武士は食わねど高楊枝」の精神

 C 財政 難にあえぐ英国では、航空母艦をネットオークションに出そうという話さえある。
 どこも増税の前に徹底した改革をやっている。イタリアもかつてムダ使をした政治家50人、官僚1000人を刑務所に放り込んで財政再建をした。

 A 後藤田正晴(副総理・故人)さんの話だが、戦前、高等文官試験に受かると、「『武士は食わねど高楊枝』の精神が大事だ」と、訓辞を受けたそうだ。政 治家の諸先生には、こういう時代こそ国民の目線を忘れないで欲しいね。


                            (文責・栗原 猛)



2011 年11月10日(木)     


野田政権に期待できる か

― 「天の声」、「民の声」に耳を澄ませ 


                        栗原 猛


 新聞の投書欄 が学者や評論家などの間で、今秘かに注目されている。本番の新聞記事にはないような新鮮な指摘が、少なくないからで、天の声や本当の民の声が、そこにはあ るのかもしれない。

「外 圧増税」に首相不信広がる

 まず野田首相 の政治姿勢についての注文が目立つ。首相就任から2カ月がすぎたが、いまだにこの政権は何をするのか、理念とかメッセージがない。充電中かなと思うと、主 要20カ国・地域(G20)首脳会議の席で、いとも簡単に消費税増税を国際公約してしまう。それでいて所信表明演説では国民に説明なしである。
 気配りと低姿勢はいいとしても、説明責任と情報のオープン化を看板に掲げている民主党政権としては、有権者を軽んじすぎているのではないかーと、投稿氏 は指摘する。

官 の資質に苦言

 税のムダ使い や官に関するものが相変わらず多い。日本航空に政府が公的に融資した470億円が焦げ付いた。財務省管轄の日本政策投資銀行は「個別の問題に答えられな い」と突っ張っているが、「すべて国民の税金である。ああそうですか」では済まされない。就業者6000万人で1人当たり800円近い負担となるー。財務 省や日本政策投資銀行の説明を聞きたいところである。 

 環太平洋連携 協定(TPP)について、交渉担当の閣僚や官僚が日本の国益を本気で守るのか疑問だから反対だというのがあった。その理由は鳩山政権時代、普天間基地問題 で、防衛省や外務省が早々に県外移転を断念して、両省の官僚たちは日本の要請に安易に妥協するなと米国に進言さえしているからだ。

 TPPの相手 は米国だから、一度交渉に入れば撤退は不可能だ。彼らは「撤退したら日米関係は悪化する」と言うだろうから、普天間と同じになるーという分析である。外 交、防衛問題のテレビの報道番組を見ていると、どこの国の学者、官僚かと思われる発言に出会ってびっくりすることがある。

公 務員住宅の次は国の地方庁舎の新設再開

 公務員住宅に 続いて国の地方庁舎新設も、いったん凍結したものを次々に解除している。民主党は政権交代直後に22カ所凍結方針を決めた。しかも民党政権の行政刷新会議 は、すべての独立行政法人について、廃止や民営化など徹底的な無駄削減をするーと宣言している。

 ところが野田 政権は、いつの間にか国の地方庁舎8カ所(600億円)の凍結を解除して、今年度は4カ所の予算を計上した。「新設となると、臨時増税の是非や多寡、国家 財政全般の再建にもかかわってくる。これではいくら税金があっても足りなくなるはずである。「偽装改革劇はご免だ」と、投稿氏の怒りは当然であろう。

「復 興財源」案は、企業には減税、国民は増税

 震災復興財源 案も企業には減税、国民には増税となるのだ。案によると、法人税率のうち国税30%(地方税は10%で計40%)は4・5ポイント下げ25・5%に減らし たうえで、その1割を付加税として3年間だけ課すという。付加税は税率に換算すると約2・5%だから、結局、法人税は4・5ポイント下げたあと、2・5ポ イント上げるので、実質2%の減税である。

 一方、所得税 は税額の4%が10年間上乗せされるので、国民は9兆円の増税、企業は12兆円の減税となる。これでは3兆円の財政赤字になるだけではないか。企業にはこ のほか租税特別措置で約6兆円の減税されている。国会で野田首相は「計算すればそうなる」と認めているが、これでは財源をつくるどころか財政赤字を推し進 めるようなものである。

6 兆円の租税特別措置は廃止か是正を

 財源が必要な ら資本金10億円以上の大企業約5000社の内部留保257兆円の応分の負担を求め、受取配当の益金不算入など18項目の租税特別措置廃止や是正、16兆 円確保する方法もある(日本国家公務員労組連合会の税制改革提言)。月給は1997年の最高時から15%以上落ちている国民に負担を求める案は改革すべき だーと提案している。

 少し古い数字 だが、国民は銀行を助けるために「ゼロ金利」で10年以上我慢してきたが、ゼロ金利でなかった場合、国民が得た利子は300兆円を超えると、前日銀総裁が 国会で答えている。

 野田氏が尊敬 する大平正芳首相は聞き上手で知られた。特に自分にとって嫌な話、都合の悪い話には耳を傾けていた。財務省に操られているという陰口を返上するためにも、 野田首相をはじめ民主党政権の面々は、「天の声」「民の声」に心耳を澄ませる時ではないか。有権者から直接選ばれたという政治家の見識と、判断、責任で日 本の起死回生の方途を探って欲しい。



栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


2011 年10月25日(火)     


増税の前に改革は不可 避ではないか
まず、出(いずる)を制せよ

― メディアの声欄に見る正論 


                        栗原 猛


 先だって情報通信界の最先端にいる AP通信のトム・カーリー社長の話を聞く機会があった。アップル社を創業したスティーブ・ジョブズ氏の功績をたたえながら、新たなニュースの配信先のモバ イルの近未来について熱っぽく語った。
 ここまでは予想できたが、驚いたのは、メディアの役割について「政府のウオッチ・ドッグ役だ」、「政治や権力に目を光らせて、政治リーダーに働いてもら う」―と、何回も繰り返していたことである。ウオッチ・ドッグとは、番犬ではなく監視役のことで、政治や行政に不審や危険を感じたら、わんわん吠えて国民 に知らせることだ。
 そのウオッチ・ドッグ役である新聞の声欄を読んでいると、批判や問題点の指摘ばかりではなく、具体的な提案も目立つ。なかには「なるほど」とひざをたた きたくなるようなものもあって、意気盛んである。

ま ず国民に語れ。「外圧」利用の「原発再稼働」と消費税発言

 野田首相 は、訪米に先立って原発について米紙のインタビューに応じて、「来年の春以降、夏にかけ再稼働できるものは再稼働していく」と述べた。すかさず声欄では、 「日本の最重要案件に関する決断をなぜこの時期に、なぜ米紙に語ったのか疑問だ」と指摘した。

 一方、安 住財務相はG20財務相・中央銀行総裁会議で、消費税を10%という法案を何とか来年成立させたいと、述べている。民主党内では国際公約につながりかねな いという懸念があるが、「財務省が、外圧に弱い日本の体質を見越して、国際会議で言わせたのではないか。『国際公約を破ると、日本の信頼を損なう』と、消 費税増税に反対する国内世論を抑える強引な手法だ」−という分析もあった。
 ご両人とも初の日米首脳会談や国際会議とあって、肩に力が入りすぎていたのかもしれないが、「外圧利用」という点では同じだ。「外交は内政の延長」とい われるが、まず国内を固めることが大事である。国民に直接語ることを最優先すべきではなかったか。それが日本の国際信用回復にも役立ったはずである。

電 気料金はもっと下げられる

 東電に関 するものも目立つ。東電が政治家のパーティー券を5000万円引き受けていたことが明らかになったが、声欄では、「電力会社は地域独占だから広告にお金を 使う必要はないはずだ。      
 東電はテレビなどの広告費にも200億円払っている。その費用は、すべて私たちの電気料金から出ているのではないか。こんなムダをやめれば電気料金は もっと下げられる」―という指摘があった。明快な論理で、東電側はどう答えるのか注視したい。

 税金の使 い方では、こういう趣旨のものもある。防衛省は、航空自衛隊松島基地のF2戦闘機18機が津波で被害を受け、修理費など1090億円を第3次補正予算で要 求した。1機110億円で購入した18機のうち12機は直しても使用できず、残る6機の修理費は800億円だという。
 これでは修理費は1機130億円で購入費を上回ることになる。地震が起きてから津波が来るまでに、どのように機体を避難する努力がされたのか。虎の子の 戦闘機を失った自衛隊現地のトップは責任をどう考えているのかー誰もが対応を知りたいところである。

宿 舎凍結違約金は民主党が払うべき

 ムダ使い では埼玉・朝霞の公務員住宅の建設(建設費105億円)は二転三転の末、凍結されたが、実は昨年の事業仕分けで凍結が決まっていた。
 ところが、野田首相は財務相時代にこの決定を解除する。世論の厳しさを知ってか凍結にしたが、凍結ではなく中止にすべきである。しかも宿舎は既に着工さ れているから、建設を中止すると、建設業者に40億円近い違約金や賠償金がかかる。
 だから「凍結」でも、建設費はすべてが節約にはならない。財政赤字を増やした穴埋めは、民主党が受け取る政党交付金から払うべきだーというのもあった。

ま ず「出(いずる)を制せよ」

 どこの家 庭でも子供の入学時期などは出資のかさむときは、他を切りつめるものだ。だが政府の「2010年代半ばまでに段階的に消費税を10%まで引き上げる」とい う方針は、そうした努力をしないで国民に金を無心しているようなものだ。社会保障に使うといえば反対しにくいだろうことを見越して、増税の口実にしてい る。天下り根絶のための公務員改革、年間40兆円にもなる国家公務員と地方自治体職員の人件費の2割り削減、行政の効率化、国会議員の報酬削減などは避け て通れないのではないか。

 日本航空 に政府が公的に融資した470億円が焦げ付いた。日本政策投資銀行は「個別の問題に答えられない」というが、誰もが「ああそうですか」とは引き下がれない のではないか。就業者6000万人、1人当たり800円近い負担である。国民に丁寧な説明が不可避である。 

改 革を早く断行せよ

こうした声欄の指摘はどれも正論である。かつて「帝王学」の師といわれた陽明学者の安岡正篤氏が「政治には政 機、政治家には機峰が大事だ」と、説いていたのを聞いたことがある。つまりタイミングである。増税をいう前に改革を断行する「政機」(タイミング)が近付 いているのではないか。


    

2011 年10月2日(日)     


「日本人の忍耐強さが 政治を3流にした」

― 欧米特派員が見た日本の長所と短所 


                        栗原 猛


 菅首相は原発事故で経産省事務次官、原子力安全・保安院長、 資源エネルギー庁長官など原子力関係のトップ3者を更迭する。ただ経産省などに反発もあり「首相と道連れ」という動きもあるらしい。ただし、たとえ百歩 譲ったとしても彼らトップ3者の結果責任は逃れられないのではないか。「脱原発」の菅氏の首を取ろうというのだろうが、原発事故の責任と政局は峻別して、 ここはけじめを付けることが国際社会に対する責任でもある。

「菅降ろし」の背景に「原子力村」

 先だって日本に駐在している欧米の特派員と懇談する機会が あった。ある特派員は「菅さん(首相)は、新エネルギーや沖縄問題、CO2にしてもまずまずだが、どうして民主党や官僚は足を引っ張ろうとしているのか理 解しがたい。どこの国のトップも多かれ少なかれ独善的で思いつきでものをいうものですーと、怪訝そうだった。


 知日派のジャーナリストは、「菅降ろし」について、「『政、官、財』の利権構造になっている『原子力村』が、解体されそうになってきたので、結束して反 撃に出ているのでしょう」―という見立てだ。

「豊かな社会は安全に投資する」(英インデぺ ンデント)

 欧米メディアの日本関係を整理してみると、英のインデペンデ ントは、「豊かな社会は安全に投資している」と題して、2010年ハイチ大地震(M7・0)の死者20万人超、中国四川大地震(M7・9)の死者7万人と いう数字を並べていた。日本は経済大国であるにもかかわらず、人命の安全に対する認識が薄いという指摘である。

 同じく英のエコノミスト誌は、「(日本人の)がまんが政治を 悪くしているのではないか」、ワシントン・ポストは社説で、「(国民は)冷静さ、助け合い、協調性、粘り強さ を見せたが、政府は無能さをさらけ出した」 と論じた。「菅降ろし」が強まると「大事な時期に政権交代などやっている場合か。市民を馬鹿にするな」(英エコノミスト誌)と激しい調子だ。

 米のニューヨーク・タイムズも「忍耐力と克己心で秩序を保っ ている日本人」と称賛する一方で、「国民のこのがまん強さが、政治指導者を3流でもよし、とさせてきたのではないか」と、忍耐強さのマイナス面を強調し た。

新たな「産業革命」の時代

 ロスアンゼルス・タイムズは、福島原発の耐久性について「第 一世代の沸騰水型で、安全対策は心許ない。過去10年、事故隠しや事故を小さく見せようとする傾向がある」と、東電の安全管理について疑問を示している。 日本は1960年前後に石炭から石油へとエネルギー革命を経験したが、いま原子力から自然エネルギーへと新たな「産業革命」を迎えているーという見立ても ある。

 特派員たちは日本のメディアが、あれだけ政権交代を推進して きながら、手のひらを返すように政権批判を繰り返していることも、不思議に映るらしい。政界の表面の動きはめっぽう詳しいが、「現状維持」を変えていく方 向にカジを切るべきではないかーというご託宣である。

 忍耐強さ、協調、規則正しさ、などは日本人の美徳だといわれ てきたが、にっちもさっちも前に進まない「現状維持」を少し前に進めるために、一時この伝統の美風をかなぐり捨てる覚悟が必要かもしれない。



    

2011 年8月30日(火)     


立党の精神を堅持せよ

― 政党政治、議会制民主主義の基本を守るべき
 


                        栗原 猛



  結束しないと改革はできない

 危機管理に詳しく読書人でもあった後藤田正晴元副総理(故人)は、よく「歴史観のない人といくら話をしてもムダだな」と言っていた。
 これは「日本の歴史の歩みをしっかり知っていないと、直面する課題を解決するにも、将来のビジョンを描くことも難しい」と、いうことを言っていたのでは ないだろうか。

 すべての物事は最初が肝心である。新政権の取り組むべきテー マは多いが、各種メディアが詳しく言及しているので、それについてはそちらに譲り、今回指摘したいことは2点に絞った。
 その一つは日本がいまどういう時代に直面しているかという歴史観を持つこと。そして、もう一つは挙党体制をつくらない限り、民主党が政権交代で掲げた課 題は何1つ実現できないーということである。

 福祉、雇用、国民が抱える不安

 少子高齢化時代に入り、年金も社会保障も不安だ。ゼロ金利は20年も続いている。都内下町の繁華街には200円の弁当屋が現れた。
雇用はもはやアメリカやイギリスだけの問題ではない。日本では完全失業率は4・9%(293万人)といわれる。さらに生活保護受給者は202万人、雇用調 整助成金の受給者は166万人。
 また、工場の海外移転で職をなくした人は推定で300万人もいる。すべてを合わせると、失業者は1000万人を超えた。就労者は約6000万人だから、 6人に1人は失業していることになる。

 オバマ大統領が再選できるかどうかのカギは、この1年間で 9%台の失業率を改善できるかにかかっているといわれる。イギリスで起きた激しいデモの原因は、財政再建を急ぐあまり、格差問題や失業対策が遅れていたの が大きな原因だ。いずれも遠い海の向こうで起きたことでは済まされない。

 さらに、この際指摘しておきたいのは、国際機関や欧米のメ ディアも指摘していることだが、公務員制度改革や天下り廃止などの「既得権益」である。この問題は、菅前政権が取り組みかけたら、とたんに霞が関は自民党 ばかりでなく補補助金や補給金などを出している「利益団体」などを巻き込んで、猛烈に反発し、巧妙な抵抗を試みた。これに対して、民主党は党内が2分して いたから、この問題はいまだ店ざらしの状態で、止まっている。

 増税より経済の回復が先

 原発事故の責任で更迭した経産省の3高官を勧奨退職にして退 職金を1000万以上も上積みしたというのも国民の批判の的になっている。こうした事実は官僚システム全体の綱紀が緩むきっかけになりかねない。
 経済官庁の官僚が国債や株を売って金に買い換えているという話も、わずかな例かもしれないが、あってはならないことだ。ただ霞が関のガラパゴス島といわ れた法務、検察内部でもさすがに、村木さん問題、小沢一郎元代表の秘書問題などをきっかけに改革の動きが出てきている。

 事業仕分けでは、930兆円の財政赤字のうち、750兆円は 独立行政法人や特殊法人がつくったことが明らかになった。ムダの徹底した排除、予算編成制度の検証・改革―責任体制―経済成長。という順序を経て、初めて 消費税が議論される、というのが順序であろう。

 立党の精神は降ろすな

 新政権は、政権交代の際に国民に約束したマニフェストを1つ でも前進させることである。そうすることが日本に政権交代可能な「2大政党政治」を根付かせる、第一歩であろう。
 マニフェストを放棄しようという声もあると聞くが、それは政党として自殺行為である。

 野田新政権は、「連立構想」を志向している様子がうかがえ る。しかし、「連立政権」は人材が広く集まるから、物事が解決するかのように見えるが、これは2つの点で懸念材料である。1つは民主党には政権能力がない ことを認めたことになること。もう1点は、消費税を増税しても、どの政党も責任を取らなくて済みそうなことーつまり責任をあいまいにするために「連立」、 という色彩がにじみ出てくる。
 一方、財務当局は消費税をやれば、財政赤字を積み上げた責任問題から逃げられると踏んでいるのだろう。

 「連立政権」は、責任関係を曖昧にするから、日本の再生に とって必要な改革を、先送りすることにもなりかねない。政権が頻繁に交代すると、同じ政党の政権でも、やりかけた課題が首相交代の時点で棚上げになった り、骨抜きにされて振り出しに戻ったりしがちだ。新政権は、あらためて政権交代で掲げたマニフェストは継承して発展させるという決意と覚悟ぐらい表明して いいのではないか。



    

2011 年8月25日(火)     


「政権交代」の遺産を 潰すな

―パワーを出せる態勢をつくれるかがカギだ
 


                        栗原 猛


 不思議な民主党の代表選挙(首相選び)である。大震災に原発 事故、世界連鎖株不安、円高という難問に、どのように立ち向かうのかどの候補からも聞かれない。いつもの5人組が有楽町の中華料理店の2階に集まって、民 主党の代表選挙や「政権交代」は何だったのかなどを語った。


震災対策、円高、ドル安、覚悟を語ろう

― 民主党代表選挙の立候補者が出そろったね。

 A 東日本大震災や円高など経済が抱えているテーマは予想以上のスケールだ。代表選挙の顔ぶれから誰が選ばれようと、国難を乗り切ることは不可能ではな いか。すぐに行き詰まってしまうよ。

 B 政治空白をつくらないためとはいえ、8月27日告示、 29日投票と開票というのはいくら何でも短い。日本の首相を選ぶ代表選挙なのに、これでは激務をこなせる力量のある人物かどうかを見極めるストレステスト にもならない。ワシントン・ポストではないが、国民を馬鹿にするなといいたくなるね。

米、中国では長丁場の「ストレステスト」

 A 中国では来年の党大会で、国家主席就任が確実視される習近平副主席が、米副大統領と会談するなど、試運転をはじめた。米の大統領選挙も来年秋だが、 いまから候補者選びが本格化している。これから1年以上の長丁場であらゆる角度から「ストレステスト」が行われるが、トップはそれくらい大事な職責なのだ という認識が欲しいよ。

 E 菅さんにはアイデアがあっても実行する力はなかった。そ の最大の原因はいたずらに党を分裂させたからだ。新代表は党再生に向けて、結束してパワーを出す挙党態勢が作れるかどうか、その一点に尽きるね。

 A 少子高齢化社会に入り社会保障や、雇用問題も不安があ る。自民党の一党支配を終わらせ税金の無駄遣いや天下りの撲滅など、政治が官僚をコントロールして、日本のシステムを再起動させて欲しいということだ。

党内抗争にエネルギー使い果たす

― 足腰を固めなければいけないのに、党内抗争ばかりしていた ね。

 D 国家公務員制度改革、一般会計と特別会計の一本化、天下り廃止など、マニフェストで約束したことを1つでも実現しようとすれば、霞が関ばかりではな く、自民党や財界も巻き込んで猛烈な反対運動が起きる。党のエネルギーを結束して当たらなければいけないのに内向きの権力闘争ばかりして、10分の1もパ ワーが出せなかった。

 E 辞めていく人を悪くいうのは武士道精神に反するかもしれ ないが、「改革の小泉」に比べて度胸も胆力もなかったね。

橋本自民政権も増税でつまずいた

― 菅政権を弱体化するために財務省が消費税増税をいわせたの かな。

 C 増税でいえばこういう話がある。橋本龍太郎政権(1998年7月)の参院選は、「自民勝利間違いなし」とメディアも報じていたのだが、投票日1週間 前に橋本は、増税を示唆したのだ。ところがものすごい反発があってあわてて言い直したが後の祭りで、選挙結果は改選議席61に対して44しかとれず大敗 だった。それが退陣に直結したのだが、橋本は後になって「(財務省に)やられたな」といっていた。

 C 菅さんの場合もそっくりだ。しかし、その後がいけなかっ た。突然の10%アップでつまずいたので、支持率を上げようと小泉手法を真似て、小沢一郎元代表を悪者に仕立てたが、こんどは党内が分裂して政権権基盤を 弱まってしまった。

 D そして弱まった求心力をカバーしようと、さらに官僚頼り になりめろめろになった。財務省は増税という手を使えば、自民党政権でも民主党政権でも倒せるのだな。財政赤字は自分たちにつくった責任があるのではない か。

 A 菅さんは日ごろから先人の失敗譚ぐらい研究しておけばよ かった。かつては安岡正篤とか四元義隆とか政治家に「帝王学」を教える人物がいたのだがね。

「政権交代」の原点を放棄した

 C 半世紀ぶりに実現した「政権交代」の大事な原点を放棄したこの辺りから、ポストにしがみついているだけ、というところが誰の目にも分かってしまっ た。お天道様はちゃんとみてござるというわけだな。

― 自民党や霞が関の反発やいやがらせも手が込んでいたね。

 D 自民党の中堅議員が、民主党議員の政治献金問題やスキャンダルはほとんど、官僚からのリークだといっていたよ。

 B 官邸サイドの話だが、菅さんは自民党から「子供手当の乗 数効果はいくらか」と質問されて立ち往生したことがあったが、財務相時代、乗数効果の意味がよく分かっていなかったので、官僚が自民党にたれ込んで質問さ せるという手の込んだ嫌がらせをしている。

 E 党が結束さえしていれば、びくつくことはないしいくらで も反撃できたのにね。

外交機密、事業仕分けなどは前進

― 政権交代で評価すべきことはないのかな。

 B 外務省密約、農家の戸別補償、子供手当などはそれなりに評価していいと思う。

 C 密約は自民党政権だったら政府はいまだに知らぬ存ぜぬを 繰り返していただろう。戸別補償も農協や特殊法人などの中間搾取をやめて、直接、税金を農家に手渡そうという手法だ。日本航空の問題がきっかけになった オープンスカイも一歩前進だ。東京電力もそうだが、独占はいかん。競争によってチェック機能が働くようにする必要がある。

 D 各省庁にある記者クラブは、世界で日本だけらしい。閉鎖 性、独占性がいわれていたが、外務省、金融庁、総務省で一部だがオープン化がされた。

事業仕分けは税への関心高める

 B 事業仕分けも挙げていい。「廃止」などの8割以上が復活してしまったが、市民が予算編成や税金の使い方に関心を持つ大きなきっかけにもなった。これ も評価してよい。

 B 省庁への接触も民主党の幹事長を通さなければならなく なったから、陳情のスタイルも変わってきた。霞が関も自民党議員に直接会いにくいので、不満を漏らしていた。

 E 1700人以上もいる各種審議会などで、出ずっぱりの御 用学者や官庁OBなどが少しずつ交代しているのも前進かな。おかしなことはすぐにインターネットで出回ったりするし、少しはチェック機能が利いてきた感じ だ。

政治家の構想力、勇気、責任感

―まだ民主党政権が続くわけだが、「政治主導」はどうだったのか。

 B 最初が肝心なのだが、政権が変わったのだから霞が関の事務次官には辞表を書いてもらう。例えば、この内閣は天下り法人は廃止する方針だから、これに 反対ならばお引き取り願うという一札ぐらいは必要だろう。これくらいやらないと長年、自民党と一緒にやってきたのだから何事も進められないよ。政権が交代 すれば、また同じことをするわけだ。

 C 強いリーダーシップといわれるが、国家公務員制度改革と かムダの排除はだれが政権につこうと、日本の財政事情を考えると避けては通れない。政治学の入門書にもあるように、官僚の知恵を借りることは大事だが、政 治家は日ごろから有権者に接して広い視野があるのだから、方向性を出すとか、物事をまとめるとか、構想力、胆力、勇気、責任感を磨いていることだね。

 E 更迭したはずの経産省の3幹部に退職金の前倒しとして 1000万円超上積みした。こういうことをやっていては、日本中の綱紀が緩んでしまう。それに財政赤字がたまる一方だ。次期政権は見直すべきだよ。

 D メディアも小沢陣営や反小沢陣営の分析などはめっぽう詳 しく報じるが、日本の方向付けについてもっと議論を発掘して欲しいね。

 A 何事も最初が肝心だ。「『亡国とは亡にいたってしかる後 に亡を知る』ことだ」と中国の古典にあったが、後になって気がつくのでは手遅れになる。いま世界は歴史の大きな分岐点に立っていると思う。政治家の面々に は、しっかり反省をした上で頑張って欲しいと願うのみだ。



栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


2011 年8月9日(火)     


「日本人の忍耐強さが 政治を3流にした」

―欧米特派員が見た日本の長所と短所 


                        栗原 猛


 菅首相は原発事故で経産省事務次官、原子力安全・保安院長、 資源エネルギー庁長官など原子力関係のトップ3者を更迭する。ただ経産省などに反発もあり「首相と道連れ」という動きもあるらしい。ただし、たとえ百歩 譲ったとしても彼らトップ3者の結果責任は逃れられないのではないか。「脱原発」の菅氏の首を取ろうというのだろうが、原発事故の責任と政局は峻別して、 ここはけじめを付けることが国際社会に対する責任でもある。

「菅降ろし」の背景に「原子力村」

 先だって日本に駐在している欧米の特派員と懇談する機会が あった。ある特派員は「菅さん(首相)は、新エネルギーや沖縄問題、CO2にしてもまずまずだが、どうして民主党や官僚は足を引っ張ろうとしているのか理 解しがたい。どこの国のトップも多かれ少なかれ独善的で思いつきでものをいうものですーと、怪訝そうだった。

 知日派のジャーナリストは、「菅降ろし」について、「『政、官、財』の利権構造になっている『原子力村』が、解体されそうになってきたので、結束して反 撃に出ているのでしょう」―という見立てだ。

「豊かな社会は安全に投資する」(英インデぺ ンデント)

 欧米メディアの日本関係を整理してみると、英のインデペンデ ントは、「豊かな社会は安全に投資している」と題して、2010年ハイチ大地震(M7・0)の死者20万人超、中国四川大地震(M7・9)の死者7万人と いう数字を並べていた。日本は経済大国であるにもかかわらず、人命の安全に対する認識が薄いという指摘である。

 同じく英のエコノミスト誌は、「(日本人の)がまんが政治を 悪くしているのではないか」、ワシントン・ポストは社説で、「(国民は)冷静さ、助け合い、協調性、粘り強さ を見せたが、政府は無能さをさらけ出した」 と論じた。「菅降ろし」が強まると「大事な時期に政権交代などやっている場合か。市民を馬鹿にするな」(英エコノミスト誌)と激しい調子だ。

 米のニューヨーク・タイムズも「忍耐力と克己心で秩序を保っ ている日本人」と称賛する一方で、「国民のこのがまん強さが、政治指導者を3流でもよし、とさせてきたのではないか」と、忍耐強さのマイナス面を強調し た。

新たな「産業革命」の時代

 ロスアンゼルス・タイムズは、福島原発の耐久性について「第 一世代の沸騰水型で、安全対策は心許ない。過去10年、事故隠しや事故を小さく見せようとする傾向がある」と、東電の安全管理について疑問を示している。 日本は1960年前後に石炭から石油へとエネルギー革命を経験したが、いま原子力から自然エネルギーへと新たな「産業革命」を迎えているーという見立ても ある。

 特派員たちは日本のメディアが、あれだけ政権交代を推進して きながら、手のひらを返すように政権批判を繰り返していることも、不思議に映るらしい。政界の表面の動きはめっぽう詳しいが、「現状維持」を変えていく方 向にカジを切るべきではないかーというご託宣である。

 忍耐強さ、協調、規則正しさ、などは日本人の美徳だといわれ てきたが、にっちもさっちも前に進まない「現状維持」を少し前に進めるために、一時この伝統の美風をかなぐり捨てる覚悟が必要かもしれない。



栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



政治は「フクシマ」か ら何を学んだか

― エネルギー政策転換はいまが好機である 


                        栗原 猛


 

トップは独善的で思いつき

 菅首相の「脱原発」発言があった夜、東京で取材している欧米 の特派員数人と懇談する機会があった。特派員らは「菅さんは、新エネルギーや沖縄問題、CO2にしても正しいことを言っているのに、野党ばかりか官僚や民 主党までその足を引っ張ろうとしているようでよく分からない。トップはどこの国でも、多かれ少なかれ独善的で、思いつきでものを言うものです」と、怪訝そ うに言った。

 滞在が長い知日派のジャーナリストは、『政、官、財』の利権 構造になってきた『原子力村』が解体されることを恐れたアンシャンレジームが、結束して菅降ろしに足並みをそろえているのではないか」―と分析してみせ た。

 政権交代の必要性を強調してきた日本のマスコミが、せっかく 交代したばかりの政権に対して手のひらを返すように批判を繰り返していることも不思議に映るらしい。日本のメディアは、政治の表面的な動きは詳しく報道す るが、もっと政治の方向性を打ち出して報道をしてもいいのではないかーというご託宣もあった。

ドイツは90年代から「脱原発」を議論

ドイツでは1990年代から、電力会社、専門家、市民などが議 論を積み上げてきたが、脱原発に踏み切った背景には、メルケル首相の強い指導力があった。「フランスからたびたび原発による電力を買っているからではない か」、といわれるが、先だって、ドイツ大使館の関係者に取材したら、「ドイツは電力の輸出入を繰り返していたが、いまは大型火力発電所7基分の電力を輸出 している」ということだった。

「安全、コスト安神話」崩れる

イタリア国民が、脱原発を選択したことについて、「集団ヒステ リーみたいだ」といった野党幹部がいたが、原発の安全神話は崩れ、もう1つの低コスト神話も、電源3法による補助金や使用済み核燃料の処理、再処理などの 費用が含まれていないことが分かり、崩壊した。しかも日本の電気料金は、同じ石油輸入国である韓国より3割も高いといわれる。

250`圏に4500万人

いまもって放射能が大気中や海に流れ続け、放射能漏れが完全に 止まる見通しは立っていない。共同通信の世論調査によると、82%の人が「原発廃炉へ」だった。福島以外の栃木、茨城、千葉、埼玉、東京など関東、静岡で も放射能の健康被害に対する不安が広がっている。この地域には5000万人以上の人々が生活している。事故原因や責任の検証や究明、「原発村」の在り方、 経産省から保安院の切り離しなどの議論が遅れている。海江田経産相は原子力になお固執して行く方針のようにみえる。

 日本はヨーロッパ諸国よりも日照時間が長く、風の強い日も多い。3200カ所近くあるダムも、相当数発電に活用が可能だ。108ある活火山の地熱を活用 すれば原発をかなりカバーできるのではないか。
住宅に断熱装置を施すなど、再生エネルギーは、新しい産業分野の開拓も期待できる。世界中の人がいまの生活を維持するには、今世紀末には地球がもう一個必 要だという計算もある。再生エネルギーの開発は待ったなしである。

日本は再生エネルギーに好環境

 原子力発電に限らず、基地問題やダム建設やさまざまな公共事 業など、多くの政策は戦後長い期間、政権を担当した自民党と一部官僚、専門家・学者、業界によって決定され進められてきた。特定の地域にはカネが渡され、 住民は犠牲が強いられてきた。自民党が、菅政権を批判するのならば、まず徹底した自己批判と斎戒沐浴をした上ででなければ、説得力を持たないのではない か。

功を焦り官僚の術中にはまる

一方、菅首相の消費税導入発言が象徴するように、民主党は、議論を積み重ねて結論を導き出して、野党と粘り強く調整して成立させるという能力を欠いてい る。功を焦った菅首相が自民党や与党の批判をかわそうと、官僚を味方に付けようと近づき、かえって官の術中にはまってしまったところもある。

100日を超えた原発の事故から教訓を引き出すなら、まず政治 がここまでマヒしてしまった以上、会期末に退陣することを明確にした上で、エネルギー政策に関するまじめな構想を示して政権を締めくくるべきだ。それが対 外的な信用失墜と国民の信頼を回復する唯一の近道である。



栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



「脱原発」で世界一の 自然エネルギー大国を目指せ

― 菅さんは名を残したければやることは1つある 


                        栗原 猛


 

菅政権の最重要課題、大災害の復旧、復興作業は遅々として目を 覆うばかりだ。東電第1原発の4基は不安定な状態で相変わらず、毎日、放射能の垂れ流しが続く。久しぶりに5人組が有楽町の焼き肉屋に集まって、災害復復 興や原発問題を話し合った。

県紙、新聞を無料で配る

― 震災地でボランティア活動をしたり現地を見て、復興の進み 具合はどうだったか。

C 三陸方面を回った後、仙台市の市営霊園に立ち寄った。大きなプレハブが建っているので、のぞいたら遺骨が沢山納めてあった。引き取り手も行方不明に なっているのだ。言葉もなかったよ。

B 震災から100日以上たつというのに義捐金や賠償金などもまだ行き渡っていない。がれきのヤマも延々と続いている。ハエやダニが大量に発生して環境が すこぶる悪い。

E 阪神大震災の時に比べると、被災者は高齢化している。これまで隣近所で介護などを助け合ってやっていたが、バラバラにされてできなくなった。仮設住宅 にもきめ細かい配慮が必要だ。

D 地元の新聞社の販売店では避難所などに、毎日、新聞を無料で配っていた。販売店では「心意気です」と言っていた。着の身着のままで避難している人か ら、新聞代は取れないというのだ。最初のころはラジオだけでテレビやパソコン、携帯、電話などどれもダメだった。新聞は回し読みができるし情報量も多い。 ここに来て存在感を示しているよ。

やはり義捐金もらったら生活保護は打ち切られ ていた

A  三陸海岸沿いの役場ごと流されたところでは、関東の県や 市町村から職員が交代で応援に来ているが、20代の職員は知らないことを随分学んだと言っていたね。

B 仮設住宅に当選しても電気代やガス代が払えないと、定員の3分の1しか入居がないところがある。生活保護費で生活している人が義捐金をもらったら、生 活保護が打ち切られたという深刻な話は本当だった。経済大国の政治や行政のやることではないよな。菅政権には被災地のどこを見ているのかと聞きたいね。

農業、漁業など職場の確保が急務だ

D 田畑が放射能や塩害で農作物ができない。家畜は放置された まま死んでいる。急がなければならないのは、職場を早く確保することだ。阪神大震災で神戸市の人口が元に戻るまでに9年かかっている。

A 完全失業率は5%に近付いてきた。20代は7%で平均よりかなり高い。景気低迷で給料もダウンしている。小麦が高騰しているからいずれ他の食料品にも 波及するだろう。電気代の値上げも話題にのぼっている。こんな時に復興増税なんかやっていたら巷に企業倒産と失業者が溢れるぞ。

C 財務省のOBだが、主計局はお金を持てれば政治や省庁に顔が利くから、「何としてでも消費税を上げたいのだ」と言っていたな。900兆円もの財政赤字 は、自分たちの不始末がつくったのではないのか。

E 三陸のある町で中央から来た経済官庁の役人が、漁業関係者を集めて復興策を話し合っている現場をのぞいた。「皆さん1人1人を助けるために、やって来 たのではありません」とやった途端に、「『誰の税金で給料をもらっているのだ』とヤジが飛んでいたよ。

A 中央からくる人には、現場の人の気持に疎い。松本復興担当相の被災地での発言はまさにそれだ。閣僚失格ものだよ。政治も役所もこういうときには、後藤 田正晴(元副総理)さんがよく言っていたが「情と理」だ。理屈だけでもいけないし情に流されても政治はできない。そのかねあいが大事なのだがね。

80%以上が「原発は廃炉へ」

B  それなのに東電の人事はなんだい。あれだけの事故を起こしておいて、副社長以上は役員報酬は返上するが留任だ。国際社会に対する日本の責任をどう考えてい るのだ。東電の基礎を築いた元社長の木川田一隆は、「出処進退こそ最大の教育だ」といっていた。トップの社会的な責任の大事さをいったものだが、少しは煎 じて飲んで欲しいな。

A 情報の隠蔽や汚染水のデータの改ざんなど、欧米各国からも批判され、国際社会に向けて日本の信頼を回復させるいい機会だったのにね。「流星光底長蛇を 逸し」たよ。

E 原子力発電に80%近く依存しているフランスも「安全だ」と言っているが、一方で、万一メルトダウンの事故が起こったら、どうするか詳しく住民に知ら せて日ごろから訓練もしているのだ。

「原発安い」はウソだった 

A 先だってドイツの元エネルギー相の話をきいたら、ドイツは ここ大型水力発電7基分の電力を輸出していると言っていたよ。1990年頃から自然エネルギーに着目して、ポスト原子力をにらんで、再生エネルギーの技術 開発に力を入れてきた。再生エネルギーは特許の宝庫だそうだ。

C 東電の発表は眉につばをして聞く癖がついたが、節電にしても原発が必要だと言うことを印象づけるためにやっているのではないか。火力発電などを集める と余力がかなりあるね。

E 「東電の数字」で言えば、原発は安価だというのもウソだった。電源3法による自治体への補助金や使用済み核燃料の処理費用などは入っていない。これを 入れて計算すると、原発のコストは一番高くなるんだ。

D いい加減な計算をして国民をだましていたんだな。電源3法の補助金などを軸に「原子力村」という利権共同体ができていた。事故が一段落したら本格的な 検証が必要だ。日本のメディアがやらなくても欧米のメディアは熱心に取材しているよ。

日本再生はメルケル政権の原発政策にあり

― それなのに菅さんには危機感とか真剣さがいまいち感じられ ないね。

E 復興基本法が成立したのを機に、少しは反省して新規まき直しで取り組むかと期待していたが、復興担当相発言はひどすぎる。もとは自民党の谷垣総裁に打 診したポストだった。菅さんは「燃え尽きる覚悟で取り組む」といったが、言葉だけが躍っている感じだね。

D 霞が関ににらみが利き、野党の協力も得られ、被災地の声を吸い上げるパワーの持ち主となれば、もはや国民新党の亀井静香代表とか小沢一郎元代表しかい ない。

B 菅さんは自分が先頭に立っていないと気が済まない。国民に頑張りをアピールしたい。それが延命につながると思っている。亀井なら官僚を使って成果を上 げるだろう。そうなると自分がかすんでしまうのが気掛かりになる。もう総理になったのだから、妙な競争心は捨てて器量を大きく持って欲しいよ。

歴史の流れは「脱原発」だ

C 「大福戦争」(福田赳夫、大平正芳両元首相の争い)は、政 界名勝負と言われるほど激しかったが、首相の大平氏が病院のベッドで、「おれが倒れたら後はやはり福田かな」と言ったという有名な話がある。長年、政敵 だったが、お互いに相手の力量を認めていたのだな。心のどこかに国家、国民のためというけじめがあった。

D ドイツやイタリアは脱原発だし、オバマ米政権は原発堅持といっているが、スリーマイル島事故以来、原発はつくっていない。一方再生電力はもう20%を 超え、再生エネルギーの技術開発で特許を取りまくろうとしているというね。

B 菅さんは再生エネルギー買い取り法案を目玉にしているが、ドイツのメルケル政権の原発政策にぜひ学んで欲しいね。

C 最新の世論調査では、80%以上の人が「原発は廃炉に」だった。

A 電源3法は第一次石油危機を機会に、火力依存を減らすのが狙いだったが、結果は、原発が力を持った。事故をきっかけに時代状況を読むと、原発依存から エネルギー政策を段階的に変えていく時代の節目に立ったということをはっきりさせるべきだな。



栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



現場の「強さ」と政・ 官・大組織の「弱さ」くっきり

― アネクドートで読む日本の評価 


                        栗原 猛

 

 欧米を回ってきた友人がこんなアネクドートを聞きましたと教 えてくれた。世界最強の軍隊をつくる場合、どのような民族の組み合わせがよいかという話で、将軍は中国人、参謀は日本人、兵隊はイタリア人の構成が一番弱 い軍隊ができる。将軍はアメリカ人、参謀はドイツ人、兵隊は日本人という組織が一番強い軍隊になるーというものだった。

 被災者と作業員の道義や勇気を称賛

 とっさにいまの日本が皮肉られているなと思った。欧米のメディアは、被災地の人々が忍耐強く行列をつくって 給食を待っている姿を見て、ストイックなまでに道徳的だと称賛した。放射能を浴びながら原発現場に踏みとどまって、必死の活動をしている作業員は、「決死 隊」とか「神風のような活躍」といって勇気や犠牲的な精神をたたえた。

 薄いトップの責任意識

 一方政府や、経産省・保安院、東電など大組織の「司令塔」は、万事、後手後手で、都合の悪いデータは隠して 楽観的な情報ばかり流すなど、緊急時の混乱ぶりを見せつけた。「放射能は心配ない」と、テレビでしゃべった高名な大学教授が、研究室に戻った途端、学生に 窓を閉めさせ空調も止めたという。これでは風評を起こさないでくれといっても無理である。

スリーマイル島原発事故では、米政府の高官は現場近くのホテル に陣取って、住民の誘導や記者会見をした。今回、政府や東電のトップが原発現場で先頭に立ったという話は聞かない。「安全で安心」というのならば、前線に 立つことが何よりも、被災者に安心感を与えるのではないか。欧米では「司令塔」がこんなにもたもたすると、世論の大きな反撃を受けるという。

 官僚は「武士は食わねど高楊枝」だった

 事業仕分けを一緒に見た学生が、毎年、4カ月近くも予算編成 作業をしていて、なぜ900兆円もの財政赤字をつくったのか。予算編成のやり方がまずかったのだから、まず問題点を検証して改めるところは改めてから増税 論議をするのが筋だ。われわれの世代にツケを回されてはたまらないと、語っていた。

 「3・11」前の新聞をめくると、天下り、事務次官の贈収賄 事件、裏金つくりや天下り、公金の不正使用、行政改革の後退など、官の綱紀を疑う不祥事が続いた。鳴り物入りの事業仕分けでも「廃止」や「見直し」となっ た項目の80%が名称を変えて復活しているという。民主党政権のムダ退治は、ほとんどと進んでいないと言っていい。

 98歳、内務官僚としてスタートした奥野誠亮元文科相(文 相)に先日会った。司令塔の混乱ぶりを聞いたら、「入省するとすぐに『官僚は武士は食わねど高楊枝の精神が大事だ』と訓辞があり、身が引き締まった。まず 国民が豊になり官の懐はその後だ。それが逆になると、官は国民から信頼されなくなる」と、語った。

 昔も今も「現場の強さ」が日本の原動力

戦前の日本の透徹した分析で知られるE・H・ノーマンは著書、「日本における近代国家の成立」の中で、日本が 短期間で先進帝国主義と肩を並べるまでに成長した秘密は、「農村」にあったという。二宮尊徳流の貧苦に耐え、内需を抑制して、輸出に振り向けるという勤労 精神が働き者で強い農民を育て、その農民が強い軍隊の中核になったーというのだ。

大震災から3カ月もたち、まだ9万人以上の人が避難生活をして いる。死者、行方不明者は2万5千人以上。先だって仙台、石巻方面に行ったら市営霊園にプレハブが立ち、遺骨がたくさん安置されていた。引き取り手が来な いという。義捐金をもらった人が生活保護を打ち切られる。

仮設住宅が当たっても電気、ガス代が払えないと断る人もいる。 特殊法人など特別会計には潤沢なおカネがあるというのに、経済大国の政治、行政のありようとは思えない。

時代状況も生活環境もノーマン氏が分析した時代と違うが、「現 場」のガンバリズムと、政治や行政、大組織の「司令塔」の右往左往ぶりを見ていると、戦前も現在も日本を支えているのは「強い現場」にあるという感じがひ しとした。



栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



『大連立』は大増税へ の一里塚

民主党に3つの気掛かり 


                        栗原 猛

 

 「政治は臨機応変の芸術だ。理屈は後でついてくる」と、よく 言われる。突然、浮上して沈静化した大連立構想は何ともご都合主義である。「震災に早く対応するため」が大儀名分だが、震災発生から3カ月以上もたって、 それならいままで何をしていたのだと問いたいところである。


 安保、外交問題も共同責任

 「大連立」には、閣内協力と閣外協力の2種類がある。民主党の岡田幹事長や仙谷官房副長官が進めたのは、自 民党も閣僚を出す閣内協力である。これだと迅速な政策が行われるだけでなく、自民党も復興関係の公共事業に関与できるというメリットがある。一方、閣外協 力とは政策合意だけのケースだ。

 この閣内協力は、閣僚が閣議に出席して署名するから、「大連立」の目的である大震災以外は嫌だとはいえなくなり、政策全般に共同責任を負うことになる。 一致するテーマならまだしも、憲法や安保外交問題もからむと、議論が混乱してかえって政治空白を長引かせることも考えられる。


 問題点が国民に見えなくなる

 「大連立」そのものに対する懸念もある。衆院に400議席(定数480議席)以上の大勢力ができると、政府 に対する国会のチェック機能が失われかねないからだ。自民党の石破茂政調会長は「議論を急ぐようになるから、問題が国民に見えなくなる」と、クギを刺して いる。また同党内には「国会に批判勢力がなくなり、大政翼賛会的な暗いイメージ」と、批判する声も上がっている。

 公明党も「健全な監視機能が働かなくなる。一致点を見いだすのならば、政策担当者同士が互譲の精神で詰めれば済むことだ」という立場だ。政党にはそれぞ れ立党の精神、政策、日常活動、地方組織などの違いがある。いまごろになって「大震災のための大連立」というのは説明がつかないのである。

 原発事故はウヤムヤになる

 大連立はいきなり浮上しただけに、きな臭さも漂う。メディア の中には「被災地のために大連立だ」と言っているが、原発を推進の自民党が参加した連立政権になると、原発事故の解明はウヤムヤになり、東京電力は救済さ れるのではないか。エネルギー政策も展望できないと、懸念する声が少なくない。


 助け合い精神につけ込んだ増税論

どさくさに紛れて一気に増税にもっていくという財政当局の思惑もある。財務省のある高官OB氏は「財務省に とっては増税さえやってくれれば、首相は誰でもいい。野田財務相が浮上したのは、増税を刷り込んでいるからだ。菅さんと2代続けて財務相経験者を官邸に送 り込んで増税といきたいのではないか」と、解説する。

 被災地への連帯の精神が盛り上がっている。義捐金も2000億円以上も集まり、ボランティアの動きも全国に広がっている。財務省は助け合いの精神につけ 込んで増税路も理解されると踏んでいるのではないか。民主党の金融問題に詳しい議員は、「日本は世界一のムダがあり、世界一の債権国だ。増税は経済成長の 足を引っ張るだけだ」と、増税の前にまだやることがあると言っている。

 マニフェストの見直し

 菅もう一点はひとえに民主党内のお家の事情である。現執行部には小沢憎くしの面々が少なくない。政権交代の原動力になったマニフェストも小沢主導だった だけに、見直したいという空気がある。マニフェストを骨抜きにすることは自民党は歓迎だ。マニフェストを廃止して自民党と連立を組み、小沢グループを外 すーということが、大連立の背景にあるようだ。

 ただ「日本一新」「生活第一」「脱官僚」「政治主導の確立」などは、政権交代のシンボルであっただけでなく、いまの日本の政治課題でもある。反小沢陣営 にも「民主党の原点は大事にしないといけない」とする声もある。小沢嫌いの執行部がそこまで突き進むとこんどは、自民党に飲み込まれて溶けてしまうことに なるかもしれない。



栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



首相の不決断は政治、
行政を液状化する

民主党は立党の原点に立ち返って首相を選ぼう 


                        栗原 猛

 

 民主党政権の誕生には菅直人首相が、野党時代に薬害エイズ問 題の解明で見せた強力な決断力と指導力で、閉塞した日本の政治と行政を打開して欲しいという大きな期待があった。しかし最近の首相からは、その理想を放棄 したかのよう言動ばかりが目につく。

 トップの進退には「教え」が必要だ

 2日の菅首相と鳩山由起夫元首相の会談、内閣不信任案否決をへて、小康状態に向かうかと思われたが、民主党 内の分裂状態はかえって悪化した。菅、鳩山会談の微妙なところは知るよしもないが、「綸言汗の如し」で、首相経験者同士の「辞任と言った」「言わない」の 言い争いは醜態の極みである。

 陽明学者で「歴代宰相の師」といわれた安岡正篤氏(故人) は、進退の相談を受けると、ただひと言、「出処進退には全人格が現れる。政治家が辞めるときは教えがないといけない」と、アドバイスしたといわれる。トッ プは2つの目でしかものを見ないが、国民は何千万という目で首相を見ているのだから、進退はことのほか重要なのである。

 決断は早いほどよい

 首相はもはやレイムダック(死に体)になり、進退窮まったよ うに見える。菅氏がまだ首相を続けられるかどうかという議論は、もはや意味はないのではないか。政治と行政の混迷をこれ以上、長引かせないためにも、辞任 は早いに越したことはないと思われる。

 手本のブレア政権は改革に邁進した

 2009年、半世紀以上続いた自民党から政権を獲得した民主 党は、ブレア英政権が1997年に18年ぶりに政権を奪還したことを手本にした。ブレア氏は政権につくなり、1年以内に経済改革の大半を発表し、次々実現 させ、政権担当能力を印象づけ。政権交代から間もなく2年になるが、見るべき成果は残念ながらまだ見えない。鳩山、菅両氏にはブレア政権の結束力や巧みな 実行力を学んで欲しかった。

 次の政権の課題も官僚システムの改革だ

 菅政権は自民党を支えてきた官僚システムを改革して「政治主導」によって政治をよりよい方向に持っていくことを掲げた。しかし例えば、@局長以上の人事 は新政権の基本方針に協力することを約束させるA「政治任用」を、100人程度に拡充B「行政刷新会議」、「国家戦略局」を軸に改革を断行するC一般会計 と特別会計の一本化―などの多くは棚上げされたままだ。

 トップはもっと自己鍛錬を

 その原因は、ひとえに力量不足と、未熟ともいえる言動にある。直面している深刻な問題に取り組まなければならないのに、菅氏は政権交代の最大の功労者で ある小沢グループの協力をえる努力をしなかった。政権基盤が固まっているのならばともかく、まず足元を固めなければ、野党や霞が関が反発する改革などでき るはずはないのである。この点を軽く見ていた。

 未熟といえば、内閣支持率が60%になった途端に、「消費税 は自民党案を参考にしたい」として、10%引き上げを提唱したことである。なぜ突然、消費税増税かという、説明もなく戸惑ったものである。案の定、直後の 参院選は惨敗、求心力がみるみる落ちていった。増税の前にムダ排除が欠落していた。財務相時代にすっかり増税路線に洗脳されてしまったとしか言いようがな い。

 日本を閉塞した状況に陥らせたのは、もとより民主党だけでは ない。野党を含めた政界、行政にも問題がある。東日本大震災の死者と行方不明者は2万4000人にのぼる。まだ10万人以上の人が避難所暮らしだ。原発も まだ安定化していない。だが、大震災をきっかけに、政界が結束してこの20年間の日本の停滞に取り組む機運が出てきたように思えた。

 しかし残念なことには、欧米のメディアは、被災者たちの秩序 ある行動や助け合いの精神を称賛したが、日本は「第一線の人々」の技術力と責任感が支え、政治家や大組織のトップほど、危機に遭遇するとうろたえ、自信の なさを見せつけるーと評している。「第一線の人々」のパワーが国会議事堂をもう一度、揺り動かすさないと日本の行き詰まり打開の出口は見えてこないかもし れない。



栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


2011 年5月20日(金)     


国際機関や外国メディ アが早かった
「フクシマ原発」

正確に早く情報を国民に知らせるべき


                        栗原 猛

 

  何をいまさら、である。東京電力は福島第1原発 事故から2カ月以上もたって、ようやくメルトダウンを認めた。原発事故の報道では、欧米の政府やメディアが官邸や経産省の原子力安全・保安院、東京電力の 発表の先を行くケースが目についた。

 米エネルギー長官、燃料棒の破損を指摘

 例えば、ニューヨーク・タイムズは、既に3月22日に1号機は地震の1カ月前に10年間の運転延長の認可が下りた際、補助電源のディーゼル発電機にヒビ があり、冷却用のポンプに問題があることを指摘され、東電側は機器の検査を怠っていたことを認めていたーと報じた。

米の原子物理学者でノーベル賞学者のスチーブン・チュー・エネ ルギー長官は、4月1日、既に「詳密なモデリング(仮説実験)の結果、福島原発の1つは圧力容器の70%、別の原子炉の燃料棒は30%が損傷している」― 分析している。保安院もかなり早い時点の記者会見で、メルトダウンの可能性を示唆していたが、どういう分けかこの担当者はいつの間にか別の担当者に替わっ た。

 ルモンドが2700度と分析

 同じころ原発先進国、フランスのルモンド紙は、同国の原子力関連企業の幹部の話として、「一部溶融した核燃料棒の温度は、最高時に2700度に達してい た」―と、衝撃的な分析を紹介。別のメディアは「厚労省が今回の事故に限り被爆線量の上限を250ミリシーベルトに引き上げたのは、東電側が補償請求を免 れるための方便ではないか」と、指摘している。

パリ大学の教授は、国際原子力機構(IAEA)などの資料デー タを分析して、「日本の放射線防護策は原子力産業の保護が先だ。原発の作業員が白血病になってもなかなか労災と認定されない」と、東電の安全管理の在り方 を批判した。中には日本のメディアが政府や東電の記者会見を右から左に流していることに疑問を投げかける報道もあった。

 早い段階から無人偵察機などで監視

 米政府は早い段階から、人工衛星や第1原発上空に無人偵察機などを飛ばして、放射性物質などを収集している。専門家によると、大気中に排出された放射性 物質を分析すれば、原発のどこまで壊れているか推測がつくと言われる。官邸や東電が情報を隠そうとしても「頭隠して尻隠さず」だったのである。

危機管理に一家言あった後藤田正晴・元副総理は、「危機の時は 情報を隠し立てすることが何よりも危険だ。政府が信頼されなくなり、センセーショナルな憶測を生んでパニックの原因になる」と、情報隠しを戒めていた。

 

 東電などは希望的楽観論ばかり 

 当初、情報公開に慎重なのは、不安を煽らないための配慮かなと思っていたが、海水を真水に切り替え、窒素の注入など基本的な点で米、仏側からアドバイス を受けていたことなどを見ていると、官邸や東電、保安院は実態を掌握しきれず、希望的な楽観論ばかり発信していたのではないか。こうした情報の小出しに対 する不信感が、海外に向けて発信した彼らのニュースがセンセーショナルになったといえる。

残念ながら欧米政府機関や海外メディアの懸念や過激な指摘が現 実のものになった感じだが、事は生命や身体に影響がある問題である。何よりも優先されなければならないことは、地域住民に正確に早く知らせることである。 と同時にグローバル社会では国際世論とどう情報を共有していくのか、日ごろから国際感覚を磨いておくことも欠かせなくなった。



栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


2011 年4月26日(火)     


財源論はもっと幅広く 論議すべきだ

復興会議の財務省ペースを排す


                        栗原 猛

 

  復興構想会議がスタートした。特別顧問の梅原猛 氏が「文明災だと思う。原発が人間の生活を豊かにし、便利にする。その文明が裁かれている」とあいさつした。復興作業の顔ぶれには哲学者あり、建築家あり で多彩だ。梅原氏が指摘した「文明災」が原発にどのような判断を示すのか興味深い。

 衣の下から財務省の増税路線が

 ただし第1回目の会議で、五百旗頭真議長が冒頭のあいさつから増税を訴えたところは、衣の下から早くも財務省の増税路線がのぞいた感じである。安藤忠雄 議長代理もテレビで増税を訴えた。
 だが、少子高齢化社会に入り、これまでほど税収には頼れないことを考えると、経済や生活の在り方、雇用や地域間の格差の議論が大事なのではないか。

 増税論に関連して、新聞の声欄には「財政赤字1000兆円のうち800兆円ぐらいは毎年、予算編成をしてきた自民党と財務省の責任ではないか。もっと予 算編成の進め方を変えたりムダを廃止するのが先だ。スリム化や一般会計と特別会計の組み替えなども必要ではないか」という指摘があった。

 鳴り物入りで行われた事業仕分けで不必要だとして、「廃止」または「見直し」になった項目の80%以上が、現実には復活したといわれる。一般会計で廃止 になっても、名称を変えて特別会計で復活したり、またその逆もある。
 こんな調子では万一、復興税が行われたとしてもまた何年もたたないうちに消費税増税ということになりかねない。

 「自分たちの今しかない財務省」(橋本元首 相)

 消費税といえば、橋本龍太郎首相(故人)時代に3%から5%に消費税を増税して、4兆円消費税が増収になったことがある。ところが財務省(当時大蔵相) が景気の見通しを誤り、法人税や所得税が逆に6兆5千億円も減収になった。
 結局、2兆5千億円も財政赤字を積み上げる結果になった。後になって橋本氏は「主計局は、国家、国民のことは考えていない。自分たちのいましか頭にな い」と言ったことがある。

 危機管理に一家言あった後藤田正晴・元副総理は、「財政が先行して復興計画をつくると、とんでもないものができてしまう」と、言っていた。財源論に振り 回されると、震災の教訓が生かされずに、ただの復旧だけに終わってしまうということを言ったものだろう。こういうときこそ、本来の政治主導の出番である。

 グランドデザインを描け

 今回は各方面の専門家から、増税によらない財源確保策のアイデアが出ている。例えば、国債整理基金特別会計(12兆円)の活用、日銀の国債引き受け、元 本償還期限のない永久国債(英国が活用)の発行、決算剰余金30兆円の活用など―まだまだある。復興会議の賢人たちには増税論に固執しないで、幅広く高い 見地から、千年先にも耐えうるような「この国のかたち」のグランドデザインを描いて欲しい。



栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


2011 年4月19日(火)     


未曾有の危機に
小沢、亀井両氏の経験を生かすべき


安易な連立、連合論を排す


                        栗原 猛

 

  東日本大震災から一ヶ月以上経ったが、政府首脳 や民主党幹部が大勢で、わいわいがやがややって、物事は一向に前に進んでいない感じである。阪神淡路大震災の時は被災地でも、三日後には炊き出しの暖かい 夕食がとれたという。ところが今回はいまだに、朝は乾パン、昼はカップラーメン、夜は冷たいにぎりめしという被災地がある。
 また、相談すべき町や村役場などが消失したため、農民や漁業者などはどう生活を立て直していくのか、途方に暮れている。

 全権を小里氏に

 阪神淡路大震災が発生したとき、首相だった村山富市氏に聞いた。村山首相は、ただちに当時実力者であった小里貞利さんに「制度や法令にとらわれずに、や らなければならないことは全て決める権限をあなたに与えます。責任は政府が取ります」と、簡明に頼んだ、と語った。小里氏に全権を与えて、首相は官邸で全 体の流れを見る立場にいたのである。
 今回の東日本大震災の場合、「3.11」から一ヶ月以上経っているのに、政と官に一体になって取り組んでいるという感じが見られないのは、管首相の政治 認識に問題がありそうだ。
 ある財務官僚が「霞ヶ関は管政権とは半身の構えつき合っているのではないですか」と、言っている。かみ砕くと、管政権はどこまで続くか分からない。連立 の動きもあり肩入れはできない。ほどほどにつき合っていく、という意味ではないか。
 裏を返していうと、管政権が復興という難事業を現実に推進していくには、政権の基盤を強化してパワーアップすることが何よりも先決にされるべきなのであ る。


 片肺飛行の菅政権

 民主党の勢力は二分されているから管政権の基盤はというと、民主党の衆参両院議員約400議席の半分の200議席、つまり片肺政権ということになる。内 閣制度にも詳しかった後藤田正晴氏は、首相の法的な権限は戦前の反省から弱くはないが強くもない。佐藤栄作、田中角栄両首相が影響力があったといわれるの は、首相の法的な権限からくるのではなく、国会で第一党のしかも大きな支持グループのバックアップがあったからだ」と言っていた。「政治は数だ」といわれ るゆえんはここにある。復興作業で政と官に一体感が見られないのは、政権基盤に原因があるのではないか。ここが固まれば政官の関係はびしっといくはずであ る。

 経験豊かな小沢、亀井の両氏

 手元にある国会便覧をめくって議員の経歴などを見ていくと、小沢一郎元民主党代表と亀井静香・国民新党前代表が目につく。亀井氏は阪神大震災のとき運輸 相として陸海空交通機関の復旧に活躍している。この際、小沢氏や亀井氏の経験を活用するべきではないか。
 政治とカネは大事なテーマだが、未曾有の震災対策と比べると、喫緊の課題は後者である。震災復興対策を進める一方、放射能汚染には国の総力を結集して取 り組んでいるという姿勢を国際社会に印象づけるためにも、挙党態勢を築くことが大事である。




栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


2011 年3月29日(火)     


原発消火に国際支援・ 協力が不可欠

国際信用の回復には小沢氏ら挙党態勢が急務
欧米紙は「日本政府の発表は信用できない」


                        栗原 猛

 

  福島原発は、米国が指摘しているように冷却水剤 を投入、コンクリート詰めにしてできるだけ早く放射能の封じ込めをするしかない。欧米のメディアは、当初、日本人の冷静な対応を賞賛していたが、ここにき て政府や東電、経産省・保安院などの対応のまずさを批判する論調に変わった。今回は緊張が続く福島原発事故に絞って語り合った。


 菅政権と東電の初動ミス

― ニューヨーク・タイムズは、いち早く「核危機」と報じたね。

A 「3・11」直後の欧米の新聞や中国、韓国のマスコミは、日本人の冷静な対応を褒めていたが、きのう当たりか ら論調が変わった。政府や行政のもたつきと、情報の隠蔽体質に批判の矛先が向いてきた。

C 米政府は早い段階から、冷却液を流し込んで冷やして、コンクリートで封じ込めるしかないといっている。

B スリーマイル島の事故の経験があるから動きが早い。東電側は技術協力すると申し出があったが断ったというね。

C 東電はボヤ程度で消し止められると思ったのだろうが、次々にエスカレートして手に負えなくなった。

E 海水で冷やすということは、原子炉を痛めることだ。また米の技術支援を受けると知られたくない技術もオープン になってしまう、一方、原発の海外売り込みは国策でもあるから、廃炉にするには東電のトップだけでは判断できなかったのではないか。

A そこは菅さんが政治指導すべきだった。それがなかったのだから、これは初動ミスで、人災だ。


 放射能のストップが最優先だ

― 菅さんは原子炉に水をかける順番まで指示しようとしたという。枝葉末節だな。

A 歴代帝王学の師といわれた安岡正篤氏から、「最悪事態の準備をして、楽観的に対応する」のがトップの危機管理 だ、と言っていた。

B トップは全体の仕組みを作ったら、冷静に見ていればいい。

B コンクリートで固めるといっても、冷やさないとできないのだろう。

D 米政府はU2機や人工衛星で調べ、450人の特殊部隊が空母・ドナルド・レーガンで待機しているという。

A 世界中に放射能の被害を撒き散らしているのだから、経済的な未練やメンツは捨てて一刻も早く国際機関の協力や 原発先進国の技術支援を求めて、放射能を止めることが先決だ。


 米、仏紙は早くから福島原発の危険性を指摘

― 欧米の新聞の論調ががらりと変わったね。

B 米のウォールストリート・ジャーナルだったかな、原子力安全基盤機構(JNES)のデータ(2005〜09 年)を引用して、「福島第1原発の事故は15件で、事故発生率が最も高く、保守管理の在り方が事故原因のトップ」だと厳しく指摘している。

D 原発先進国、フランスのルモンド紙は、「厚労省が今回の事故対策に限り、被ばく線量の上限を250ミリシーベ ルトまで引き上げた。緊急措置といっているが、東電側が補償請求を免れるための方便ではないか」と報じている。

E パリ大学の教授も「日本の放射線防護政策は、原子力産業の保護が優先だ。原発作業員が白血病などを発症して も、めったに労災と認定されない」といっているよ。

B 1号炉は40年も前にGEから入れたという記事もあった。とすると、自民党の佐藤栄作政権時代だ。12年は大 丈夫だと言われたというのだ。

D 耐用年数はとっくに過ぎていたのではないか。

A 日本批判に転じたのは、日本政府や経産省・保安院、東電、原子力学者などが都合のいいデータしか出さず、情報 操作をして信用できないということになってきた。

B いま原発はどういう状況にあり、政府はどういう対応しているのかという説明が、ほとんどない。だから外国にま で不安を広げていくのだ。

A 危機管理に一家言があった後藤田正晴・元副総理は、国民に不安を広げないためにも「危機管理の要諦は正確な情 報を出すに限る」と、いっていたな。

D 閣僚が作業着姿でテレビに映るとうんざりする。日本中が放射能で汚染されているのではないかと錯覚してしま う。現場に行かないのだったら作業着はいらないよ。


 危険な作業は下請け企業に

E 被爆した2,30代の社員は東電社員ではなく、下請け企業の社員だ。東電幹部はどこにいるのだろう。日ごろ安 全訓練をしたり防護服も十分あったのか。

D フランスから1000着送られてきたが、サイズが合わないなどといちゃもんをつけていたというね。被爆した作 業員にはまだ届いていなかったのか。

B 社長や上層部はまだ現場に足を運んでいないね。

E 現場の東電幹部なども30`圏の外に待避して、そこから指示を出しているようだ。30`といえば、東京―横浜 間の距離だ。

C 最前線で作業している作業員や消防庁や自衛隊員の人に頭が下がるが、東電首脳は顔向けできないのではないか。


 東電、経産省・保安院・東大のトライアング ル

― 日本の信用を回復するには、国際機関からの参加を求めるしかないと思う。

B 原子力の世界は極度の専門家集団だから、かばい合って情報を出さない。従兄弟のいる原子力工学科のある大学で は、あまり話すなと箝口令が出たそうだ。
 そこで「学問は人類の進歩に役立てるためにあるのではないか。しかも国民の税金でやっている。日ごろ「学問の自由」といっているのだから、こういうとき こそ都合の悪い情報も出さないといけない」と一喝しておいたよ。

D 東電、経産省、保安院、東大などが堅固なグループになっている。原子力関係の天下り先の特殊法人なども多いと いうね。

E 随分前のことだが、原発の危険性を書いたら、東電の記者会見は出入り禁止になった。電通もすぐ飛んできたな。

C 「安全神話」がその通りなら結構だが、それなら今の事故はどう説明するのだろう。

E 汚職疑惑で裁判中の佐藤栄佐久・前福島県知事がテレビ番組で、経済産業省の・原子力安全保安院と東電の隠蔽体 質を叱っていた。2003年に福島原発内で事故が起きた時、保安院、東電とも伏せて県に報告がなかったそうだ。「保安院が経産省の管轄下にあっては、なれ 合い隠蔽は繰り返されるばかりだ」と怒っていたな。

B チェック機関の保安院が経産省の中にあって人事までつながっていたら、泥棒に金庫番をさせるようなものだ。

D 原子力に強いと言っている菅さんは、独立した第3者のチェック機関をつくらないといけない。

A 日本の安全管理の信用が国際的にガタ落ちなのだから、国際機関も参加させたものにしないといけない。


 官と官の権限争いを調整せよ

― 「脱官僚」などといわれた各官庁は頑張っているのかな。

D 米軍の協力を断ったのは外務省だといわれているね。東京消防庁のハイパーレスキュー隊も官邸は決断できず、石 原東京都知事の判断で派遣命令を出したというのが真相のようだ。

E 外国から来た医療派遣団についても、この薬は持ち込めないとか、いろいろ難癖を付けられて空港に留めおかれた というケースもある。一刻を争う時なのにね。

D 中越地震の際、柏崎刈羽原発が放射能漏れ事故を起こしたが、内閣官房が各省庁の局長を集めて調整するよう指示 を出している。官邸はこれに気がつかないから、対応が後手になり、第一線で混乱が起きたりしている。 

B 国家の一大事なのだから、危機管理を経験した議員の知恵を借りないといけない。こういうとき田中角栄や中曽根 康弘の人使いはうまかったぞ。菅さんも学ぶべきだね。

C 淡路大震災を経験している亀井靜香や小沢一郎を使わない手はないね。谷垣禎一にも断られるような口ぶりで入閣 を持ちかけたようだ。アリバイづくりだった。

E 小沢だって選挙区は岩手だし活躍してもらえばいい。日本がのるかそるかの一大事の時に、「政治とカネ」を言う のだったら、菅さんだって大震災直前には、カネの問題が指摘されていたよ。

D こんなことでもたもたしていたら、民主党政権に期待した人はがっかりするだけだ。それこそ政治不信に陥ってし まうぞ。

A 日本が少しでも国際的に信用を回復するには、世界中に放射能が流れないよう一生懸命取り組んでいる、というと ころを示すことしかない。それに片肺内閣ではいかにも弱い。経験も不十分だ。この際、恩讐を超えて挙党一致体制をつくって、全力で復旧に取り組む構えを内 外に示すことではないか。




栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


2011 年3月22日(火)     


福島原発の事故は「人 災」ではないか

政府と東電の隠蔽体質が世界に不安と不信を広げた
東北・関東には千年に一度大津波と地震がくる


                        栗原 猛

 

  地震災害と、福島原発の事故も重なって、未曾有 の大震災となった。被災者救済の全力投球をお願いするとともに、福島原発の消火作業の成功を祈るばかりだ。復興には国際的な支援が必至である。政府、東 電、JRの取り組みや、日本の復興などについて、いつもの5人組が話し合った。交通事情などで出席できない場合は電話やインターネットなどで参加しても らった。


 貞観地震の教訓を生かせなかったのか

― 現地の作業員や自衛隊、消防などの懸命の努力には頭が下がるが、それにしても官邸、東電、経産省・保安院の官僚的な隠蔽体質や後手後手の対応には国際 的な批判が出ている。

A クリントン米国務長官も情報が少ないと怒っていると外電は伝えていて、米軍の優秀な偵察機を使って独自の調査 を行って判断している、とも伝えられる。米が特殊部隊450人を、派遣するということ自体、深刻に見ている証拠だ。

C 外務省は当初、その必要はないと断ったそうだね。

D 建屋というのは、2メートルもある鉄筋コンクリートの放射能を封じこめる機能を持つ壁でもあるというではない か。それが爆発したということ自体、非常時だ。

B 6メートルの津波に耐えるということだったが、津波は堤防を越えて、ポンプの動力が止まり、非常用のディーゼ ル発電機も壊れて冷やせなくなった。それが大惨事のきっかけだ。自然災害を甘く見ていたのではないか。

C「想定外、想定外」とよく言うが、記録によると869年(貞観11年5月)に三陸海岸にM8・3以上の貞観地震 (じょうがんじしん)があり、仙台平野が水没している。平安時代に編纂された日本三代実録にも詳しい記録が載っていて、津波で1000人もがさらわれてい る。津波堆積物調査でこうした地震は1000年ごとに繰り返していたことも分かっている。原発の建設に当たって、こうした調査も十分参考に出来なかったの か。そうしたら、10メートル以上の津波防護壁、さらに原発機器への海水対策を十分にしておけたはずだ。津波堆積層からもそろそろ東北関東に連動型の大津 波を伴った地震が来る時期だったわけだしね。

A しなかったのなら、最先端の専門家たちは、地震の歴史や自然のパワーを軽んじたことになる。防潮堤は6メート ルしか設けなかったらしいし、これでは足りない。まさに「人災」だ。


 対応がちぐはぐで遅い菅首相

E 最先端技術の固まりみたいな原発に、学生デモに水をかける放水車を動員したというのにも驚いた。無線操縦の消 火器具とかロボット消火設備などなかったのかね。

C 阪神淡路大震災の時の村山富市内閣も、初動が遅れたと批判された。誰が首相だって最初はもたつくよ。大事なの はその後すぐ立ち上がるかだ。

B トップはまず、全体状況を把握すること。次に野党をはじめ、各省庁、自衛隊、警察、消防、東電、JRなどを網 羅した総合対策本部の立ち上げが危機管理の要諦だ。

E 1週間もたって、やっと自民党に入閣して協力して欲しいと呼びかけて断られた。前官房長官の仙谷由人が裏で動 いたらしいが、入閣となると連立政権になる。予算から何から何まで調整が必要になる。しかも震災復興担当と言うから、今の内閣はお手上げ、責任押し付けと いったようなものだ。

D 元幹事長の小沢一郎にも協力を求めているが、動きが遅い。

E 仙谷が災害対策担当の官房副長になったが、「尖閣列島」で不信任案を突きつけられて、更迭されたばかりだか ら、自民党は国会答弁をOKするのかな。


 被災地を書き出した大パネルが威力を発揮し た

― 阪神淡路大震災の経験がもっと生かせないのかな。

C 被災地は広範囲だし、原発事故も重なった。しかも真冬だ。16年前の阪神淡路大震災の経験からいうと、まず水 や食糧、燃料、医療、エネルギー、医療・薬品、住居、トイレなど、ライフラインの確保だ。当時首相だった村山さんに知恵を借りてもいい。

E 私は3日後に大阪駅から神戸市役所まで歩いて入ったが、玄関に被災者や連絡先、医療機関、収容施設、公共機関 など、災害状況などを書き込んだ大きなパネルが何種類もあった。一目瞭然、いいアイデアだと思った。

B 菅さんは、東京電力に乗り込んで怒るのはいいが、何でも1人でやろうとする。危機管理のプロだった後藤田正晴 (副総理・官房長官)さんは、トップは要所要所 に責任者を配置したら、後は任せて全体を冷静に見ていることだ」といっていた。


 東電の社長は現場で指揮を執れ


― 官邸もそうだが東電の対応のまずさが目立つね。

D 原発の建設は東芝や日立、GEだが、運営は管理会社、そして作業などは多くの下請け孫請けの会社などで運営さ れている。それが1号から6号炉まであり、だから指揮命令系統も責任の所在も複雑怪奇だ。

E 東電はメーカーだといい、製造した会社は管理会社だといい、管理会社は、下請けだ、孫請けだと押しつけあって いく。最後は、最前線で一番危険な仕事をやっている作業員の会社に来てしまう。

A 東電は、自分は被害者だぐらいにしか思っていないのではないか。トップは現場の最前線に立って指揮を執らない といけない。トップが近くにいれば、現場の士気も上がるし、トップがいるのだから安全だ、ということにもなる。

C 東電は前から官僚体質が指摘されていたね。経団連の幹部だが、「あそこの原発は専門家集団と経産省の天下り組 が固めていて、まるで独立国みたいだ」といっていた。


 情報の小出しが国民の不安をかき立てる

E 官房長官の会見もそうだが、経産省の保安院や東電も情報やデータを右から左に流しているだけという感じだな。 IAEAの天野事務局長が来日したのも、政府が情報を出さないことについて、国際的に不信が高まっているということを伝えに来たようだ。

B 「…と報告を受けています」とか「これが現地からの情報です」とか、伝聞ばかりだ。その情報を政府や東電はど う判断して、どのような手を打としているのか、それがない。官房長官は「質問しないで下さい」などといっている。

D 「原発は安全」という神話が壊れることを心配しているのだろうが、「こういうときは隠さず正確に伝える」こと が、危機管理の鉄則だ。情報を隠したりするから不安や憶測をかえって広げるものだ。

A 韓国や中国では春休みで帰国した大学生に、「日本には当分の間、帰るな」といっているそうだ。留学生が東京に 戻ってこない。観光客も帰国している。

C そんな中で、スリランカ、インドネシア、ベトナム、タイなど、100カ国以上から救援の申し込みがあった。ま だ就活中の大学生が日本をこんなに心配してくれる外国人がいるのかと思うと、心強くなったといっていた。

 ― 新宿、渋谷など繁華街は停電なしの「計画停 電」だね。

E 私鉄は停電ありだが、JRは節電だけらしい。東京23区は停電がないから、電力を食うはずの渋谷、新宿、池袋 の繁華街でも皎々としている。パチンコ店も停電なし。官庁街は、自家発電機が備えてあり停電しても困らないはずだ。地震3日後に都内で落語を聞いて、10 時過ぎに郊外の自宅に帰ったが電車はがらがらだったよ。

D 市の窓口では、東電から連絡はこないし、問い合わせると話し中でつながらないと、困っている。臨時電話を増設 し、宣伝カーを出して市民に知らせるぐらいするべきだね。

B 欧米や中国、韓国の新聞は、日本人は冷静沈着に対応していると、褒めちぎられている。日本人は従順でおとなし く、お上がいったことを素直に聞き、文句1ついわない国民だ−だそうだが、皮肉られている感じがする。

C 自民党の防衛族議員は、「日本人は従順だという印象を広がると、占領しても大丈夫と思われるのではないか」と、心配していた。

D パフォーマンス好きの菅さんは、被災地に行くといって結局、止めたが、注文や文句をどんどん耳に入れた方がい い。


 ピンチをチャンスに変える

― 経済へのダメージも大きい。被害額は15兆円を超えるなどといわれているが、実際の復興には、都市計画など予算の二年分は必要だろう。つまり二百兆は みなければ。
まず、当面の必要額を、投入してから、本年度本予算の見直して、更に中、長期的に見た全体の復興計画を作っていく、というのが道筋だろう。

A  阪神大震災では被害総額は9兆円、GDPは2%のマイナス成長だったが、回復は意外に早かった。災害対策と いう名目ではなかったが、総事業費21.5兆円、真水部分は9.6兆円で、ほぼ被害総額と同じ財政出動をしているからだ。

E よく例に出されるが、関東大震災の時、政府は国家予算の3分の1に相当する5億円の予算を組んだ。いまでいう と30兆円以上だ。

D 今回は岩手、宮城、福島と被災地が広いうえ、津波で田畑の塩害、放射能で農作物、漁業も心配だ。阪神大震災以 上の財政出動を早く決めないといけない。

C 観光庁も当分、閉店休業だといっている。

A まだ言い出しにくいが、ピンチを日本復興と改革のチャンスに変えないといけない。

B この際、IMF(国際通貨基金)など国際機関から金を借りることも必要となってくるのではないか。財務省は反 対するだろうが、菅さんにそれを跳ね返す覚悟ができるかな。

A 菅さんも谷垣禎一自民党総裁が財務省の尻馬に乗って、臨時増税などといっているがそれは国民の意欲をそぐ危険 があるし、最悪の手だ。経済を再建し成長軌道に乗せながら財政再建を目指すべきだ。危機をチャンスに変えるのが政治ではないか。

E 異色の経済学者、高橋洋一氏は「財政負担にならない復興国債を日銀に引き受けさせる方法がある」といってい る。


 「この国のかたち」を考える

B 復興に当たっては、町づくりとか地方の在り方を根本的な考えるチャンスでもある。見直しといえば原子力発電に 頼りにくくなるだろうから、エネルギー問題の再検討もある。

D 少子化と高齢化、人口減社会、格差の是正などを考えると、この機会に日本は経済成長一筋でいいのかという「こ の国のかたち」の議論も欠かせない。

C 大きな組織ほど神経が行き渡らないことを知ったが、グローバリズムや規模の大きいことはいいことかということ も議論していい。幸せとはなにか、地方分権論もある。
現在の九つに分かれている九電力会社体制も見直すべきだね。もっと大きく東と西でもよいね。電力会社でサイクルが違うなんていおかしいよ。

A 被災地の復興がまず最優先課題だが、政治や行政の在り方、経済や産業、地方自治など、「この国のかたち」を冷 静に考えるチャンスにもなる。現地で復旧作業のお手伝いができなければ政府や行政、東電などの尻をたたき、かつ叱咤激励を続けよう。


栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


小沢支持と改革推進を 求めるデモが
全国に広がる

市民派宰相は声なき声に耳を傾けるべきだ



                            栗原 猛

 

 2月末、東京・新宿に出かけたら「小沢○○」とデモ行進のマ イクが叫んでいる。てっきり反小沢デモではないか、と思って近づいたら何と、「小沢一郎氏を支持し、改革を進めよう」とくり返した。
 実際、昨年秋口から、「小沢一郎は無罪だ」「生活一新・改革を進めよう」と掲げたデモが各地に広がっている。

 昨年秋の10月には、「検察・検審を糾弾する」デモが東京・ 京橋の小さな公園から、日比谷公会堂まで行進した。翌11月には明治公園で「マスコミの偏向報道は許さないぞ」という集会の後、デモが原宿、渋谷駅周辺を 廻った。
 大阪の靫公園でも御堂筋から本町界隈でデモ行われる。昨年暮れの12月には東京・日比谷野外音楽堂で、日本の権力構造の分析で知られるオランダのジャー ナリスト、カレル・ウオルフレン氏が講演し、このあと集会とデモがあった。

 集会でウオルフレン氏は、「小沢一郎氏に対する検察の対応は 超法規的である。改革反対の官僚とメディアが手を結んで、改革を掲げる小沢の価値をおとしめようとしている。真の改革派議員たちによる改革こそ日本の可能 性を開くだろう」と語った。

 今年になってからも、1月10日と23日には、大阪と新潟市 で、「小沢一郎議員支持デモ」、同月30日には東京・新宿で「検察審査会の情報公開を求める」街頭署名活動があった。   2月9日は東京・永田町の国会 近くの憲政記念館で、「小沢問題と議会制民主主義の危機」と題する講演会と、検察審査会の調査報告会が開かれた。500人予定していたところ1000人以 上集まったという。

 2月21日は東京・幡ヶ谷の区民会館でシンポジウムとデモ、 27日は鎌倉市でも「真っ白デモ」が行われるなど、各地で小沢支持、そして改革推進を求める集会やデモが続いている。支援カンパをしたところ、半日で5万 円集まった集会もあったという。

 いずれも主催者がインターネットで呼びかけ、100人から 1000人規模での集会のあと、デモ行進している。テーマは、小沢問題に対する検察と検察審査会の問題点を指摘し、予算の無駄遣いや改革路線の推進などを 訴えている。

 集会やデモとは直接関係はないが、新聞の投書欄などを開くと 「予算審議を人質に取って、小沢問題に血道を上げるのは揚げ足取りではないか」「解散総選挙はカネと時間と労力の浪費で国民生活の混乱を招くだけだ」「税 金の無駄遣いと天下りの根絶はまだ民主党の大儀である」など、聞くべき指摘や提案も少なくない。

 小沢問題の決着を機に菅首相の支持率は急浮上すると飲み方も あったが、最新のフジ産経グループの世論調査では、内閣支持率は、18、7%(2月12日、13日は20,7%)、不支持は66、7%で(同62、9%) と下がった。「小沢氏問題」には、どこかに不自然なものが感じられるのではないか。大マスコミの報道には集会やデモは、まだ登場していないようだが、こう した動きは国民感情の最前線を知る上で極めて重要だと思う。


  2011年3月4日(金)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


議会政治、政党政治の 危機にも

局面打開に人気よりも力量あるトップを



                            栗原 猛

 

   党員資格停止―小沢グ ループの党籍離脱と、政治はめまぐるしく展開している。菅首相は小沢問題の決着で、求心力を回復するどころか、一気に行き詰まってしまった。民主党内の内 紛に加えて、与野党間でもにらみ合いが続き、あたかも議会政治の機能が停止した感じだ。急きょ東京・有楽町のおでん屋で座談会を催した。

   ○ 「小沢のいない民主党は怖くない」

   ― 菅さんはあれだけ小沢問題にこだわっていたのだから、当然、小沢グループの離脱まで想定していたはずだが。

A 民意に敏感な菅さんも、小沢問題では読み間違い、勘違いをした節がある。 
E 国民が戦後初めてともいえる政権交代を実現させたのは、予算の不始末とか税金の無駄遣いにメスを入れ、経済を立て直して少子高齢化社会への道筋をつけ て欲しいということだったと思うよ。
B ところがムダ排除は官僚に抵抗され、世論調査では「指導力がない」といわれるものだから、「政治とカネ」で弱みのある小沢問題さえ処理すれば、指導力 も支持率も急浮上すると踏んで、遮二無二に突っ走ったのが間違いのもとだった。
D 自民党の幹部に会ったら「自民党にとって怖いのは小沢だけだ。伝家の宝刀を自らの手で処分しようというのだからこんなにありがたいことはない」と、あ きれていた。背後に小沢がいるぞということが、菅さんの影響力、パワーになっていたのにね。
E 「情と理」を説いた後藤田正晴(故人・元副総理)さんではないが、小沢さんは民主党が政権を取った功績者なのだから、もう少し「情」のある対応をした 方が、民主党の包容力を示せたのではないかという議員が執行部内にもいた。
B マスコミは検察審査会が強制起訴を、予算審議の直前にしたことを問題にしていいぞ。検察だって政治家に関する事件は、前の年の秋口に事件の端緒を発覚 させ、国会でさんざん揉んで、国会が閉幕した6月ごろ強制捜査というパターンを踏んだ。検察でさえ議会制民主主義の総本山、国会審議を大事に考えていた。 検察審議会の対応は議論ありだぞ。


   ○ 増税の財務省と2人3脚に

   ― 黄信号が点滅したがこの先どう展開していくのかな。

E マスコミの扱いは小さかったが、象徴的な出来事がある。会計検査院の検査官の人事で、官邸は当初、改革派の若手会計士に決めていた。ところが、財務省 に反対されて菅さんがひっくり返したというのだ。
D 会計検査院というと地味な存在だが、国の収入・支出の決算ばかりでなく、中央官庁、国が出資する政府関係機関や独立行政法人など天下り先にもメスを入 れる。欧米各国は重要だから強い独立性を与えている。ところが、財務省はこれ以上事業仕分けのような華々しい活躍をされては困ると思ったのだろう。牙を抜 いたんだな。
C 菅さんの周辺は、増税ありきの与謝野経済財政相、藤井裕久官房副長官、社会保障問題の柳沢伯方氏ら財務省OBの消費税増税信奉者で、がっちり固めてい る。まさに2人3脚になってしまった。
C 反小沢グループの議員でさえ「民主党は一般会計と特別会計207兆円を全面組み替えしてムダを省く、消費税は4年間増税しない、国家公務員の総人件費 を2割カットする、公益法人の原則廃止―などを約束したが、1年半になるが、どれ1つ取り組んでいない。支持率は上がらないのは当たり前だ」と、ぼやいて いた。
D 知人の財務省OBが「財務省というところは消費税増税さえしてくれる首相なら、誰だっていいのだ」と、こともなげに言っていた。菅さんも気を付けない といけないのにね。(笑い)


   ○ 消費税増税で橋本首相が述懐

   A 橋本龍太郎政権時代に、消費税を3%から5%に上げて、消費税は4兆円増収になった。ところが、景気が回復して いないのに増税したので、所得税と法人税が6兆5千億円も減ってしまった。結局、2兆5千億円も財政赤字を増やしたわけだ、後になって橋本さんは「大蔵省 (現財務省)の次官や局長は、自分が担当している間のことしか考えない。国家国民のことは頭にないのかな」と述懐していた。
B 「省や局はあっても国家なし」ということだ。実感がこもって意味深い発言だな。


   ― 菅さんに黄信号がともったね。

E 世論調査では「総選挙すべき」が増えている。議会政治だから与野党で決着しなかったら、有権者の意向を聞くのが憲政の常道だ。
B 総選挙か総辞職の場面だが、地方議員に民主党での公認辞退や会派離脱者が出ている。菅では選挙ができないという声も出始めた。
C 負けることが分かっているのに、政権を手放すような解散、総選挙はしないだろう。やはり頭のすげ替えだ。ただし政界再編となれば別だな。「亀井靜香首 相」で政界再編なんて動きがある。
D 松下政経塾出身者のたらい回しだけはかんべんして欲しい。
A この間、国会便覧をめくって、難局を乗り切れそうな人物をピックアップしたが、政治力と政策とかビジョンを兼ねている政治家と言えば、小沢しかいな かった。あとは引退した元議員だった。政界も人材が払底しているといわれるが、そのご仁が動けないというのは、日本の政党政治の危機でもある。
B 菅さんは「熟慮」とか「熟議」とかよく口にするが、こういうときこそ高度の視点に立って、よりよい知恵を出すことをいうのだと思うのだがね。
A 山口二郎北大教授が大分前から議会制民主主義、政党政治の危機だと警鐘乱打している。日本はいろいろな意味で危機なのだから、権力闘争の矛は収めて、 国会議員になった初心にたち返って、才色兼備とはいかないまでも、政策と力量を兼ねた人物をトップに選んで議会制民主主義、政党政治を復権させて欲しい ね。


  2011年2月17日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



タイガーマスク現象は 政治、行政の
貧困の証しだ

日本はもっと寄付行為の門戸を広げよう



                            栗原 猛

 

   菅政権は、早くも負担増 のメッセージを発し始めたが、その一方で、タイガーマスク現象がさらに広がりを見せている。社会学者などが「生きている充実感を味わいたいのではない か」、「今のところ一方交通だ。双方向にならばければいけない」などといっている。菅首相も「心温まる。広がって欲しい」と、にこにこ顔でコメントしてい たが、政治家の発言としては、いささか軽いのではないか。

   親がいなかったり、いても一緒に暮らせなかったり、さまざまな境遇の子供たちが児童施設にいるが、タイガーマスクの 行為が、大きな反響を生んでいるのは、裏返せば、多くの人がいまの政治や行政のどこかに、不備や欠陥があると感じでいるからだろう。曲がりなりにも経済一 等国といわれた国の政治家は、こういうことがブームになること自体、恥としなければいけない。

   かつて、首相になる直前の大平正芳氏が幹事長室で、小さな紙を上着のポケットから出したり入れたりしていた。不思議 に思ってのぞき込んだら失業率、消費者物価、物価、為替、株価などのデータがびっしりと書き込まれている。「毎日、新しい数字と取り替えている」といって いたが、世の中の動きに絶えず注意を払っていたのである。

   竹下登首相や後藤田正晴官房長官に同行する機会もあったが、2人とも訪れた街の市場をよくのぞいた。後藤田氏は、 「その土地の食生活や、景気はどうかなどを判断するには市場をのぞくに限るんだ」と言っていた。民主党政権の閣僚の面々にもぜひ心掛けて欲しいところだ。

   実は、寄付行為を各国と比べてみると、日本はまだまだ低い。調査時点は異なるが、アメリカは年間の寄付金は19兆円 だ。この数字は日本の所得税と法人税を合わせた金額に匹敵する。イギリスは1兆5000億円、日本は5000億円である。建国の歴史や宗教観などの違いが あるといわれるが、日本についていえば、寄付に対する税制などにも問題がありそうだ。

   各国とも寄付行為について、税額控除など優遇措置がある。アメリカでは寄付金はすべて所得控除の対象である。ただし 受けた方は詳細を公表する義務を負う。ドイツは課税対象所得の5%まで、科学技術や文化に対する寄付は10%まで所得控除だ。イギリスでは給与の天引き制 度で優遇するなど、各国一律ではなくそれぞれ工夫がある。

   政府も遅ればせながら、2011年度の税制改革で「認定NPO法人」などに寄付すると、寄付額の半額が所得税・法人 税から控除されることに踏み切った。一歩前進だが、この「認定NPO法人」は、認定基準のハードルが高く、まだ200に満たない。認定基準のハードルを下 げるなどの取り組みが急務だ。

   寄付金が少ないことについて、ある財務省OBの大学教授は、「官のパワーの源泉こそカネと許認可だということで、優 遇措置を嫌った。時代の流れは寄付行為を育てていくことにある」という。寄付行為を育てるように、政治主導を発揮するのも民主党政権の課題である。


  2011年1月18日(火)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



消費税増税の前に失政 を検証すべきだ

― 菅政権は国民生活の現状を見つめよ



                            栗原 猛

 

   事業仕分けを一緒にのぞ いた学生にリポートを書いてもらった。「優秀な政治家や役人が毎年、9月から12月まで4カ月以上、予算編成をやっていて、なぜ900兆円もの天文学的な 財政赤字になったのか不思議だ。予算編成がどこかが間違っていたのだから、まず失政の検証をするべきだ。それをしないでいくら増税をしても2、3年たつ と、また増税しなければならなくなる」―というのがいくつもあった。

   菅政権は消費税増税による財政再建、社会保障制度改革を訴えているが、国民生活の現状をしっかりと、見据えているよ うには思えない。日本を取り巻く閉塞感の根本は、900兆円の財政赤字にあり、国債の格付け引き下げは、財政赤字に対する菅政権の構えについて「イエロー カード」が突きつけられたのではないか。

   中間層が減り、低所得層が増え格差が広がっている。生活保護世帯は140万世帯196万人を超え、生活保護世帯以下 だが生活保護費をもらえない世帯もこのくらいいるといわれる。可処分所得はここ数年減り続けている。就労者の4人に1人は非正社員といわれる。 GDP500兆円のうち国民の消費は60%だから、これでは消費が増えるはずがない。

   大手銀行の純利益は1兆円を超えているが、20年以上も「ゼロ金利」が続く。利子を上げると、国債の利子も上がり、 赤字が増えるから低く抑えているという。ゼロ金利でなかった場合、国民が得たであろう預金の利子は、400兆円を超えた。国民は犠牲を払って大銀行を助 け、赤字国債を支えているのである。

   高齢化社会を迎えて社会保障にカネがかかるというが、OECDの国民負担率(GDP比)の調査を見ると、日本政府が 社会保障に使う税金は低い方である。税のあり方については、民主党の税制調査会関係の議員ですら、「日本の消費税は欧米に比べて安くても、所得税や住民税 など直接税は高いから、結局、日本の税負担は高い」といっている。

   現状を打開するには、まずこれまでの失政を検証することが先ではないか。ろくな反省もしないで、財務省出身議員を重 用して、増税路線を敷いて辻褄を合わせようというのは、いかにも姑息である。菅首相は国民がなぜ政権交代を選んだのか、政治主導とはどういうものであるべ きか、脚下照顧すべきである。


  2011年2月8日(火)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



新春座談会
景気、雇用、円高がなかった年頭会見

党内抗争を中断して、求心力回復が先決



                            栗原 猛

 

菅首相の年頭の記者会見は、「小沢切り」宣言が中心だった。国 民生活にかかわる諸課題の何をどのような手順で取り組むのか、というメッセージは聞かれなかった。新年に当たって、憂国の士5人が、いつもの新橋のおでん 屋で菅政権の今後を占った。

○ 繁華街から正月風景が消えた

― まず新春の感想から。
A 池袋と銀座を歩いたが、晴れ着姿が見られなかった。
B 丸の内のオフィス街でも、大きな竹を使った飾りが消え、謹賀新年と印刷したものを張ってすませている。
E 正月が消えた感じだ。取り立てて祝ってなどいられないということかな?
D それでも、デパートの高価な福袋は結構、売れたという。ただしわが家にも「仕分け」が及んできて、晩酌の缶ビール2本は1本にしたら、といわれた。 (笑い)

○ 政治献金、公共事業、事業仕分け…1つでも実現を

― 4日の菅首相の年頭記者会見からことしを占ってみるか。
C 小沢問題だけだったね。円高や景気、少子高齢化社会に向けた準備や、雇用にどう取り組んでいくのか、国民が一番心配していることがなく、拍子抜けだっ た。
B 去年の元旦に菅さんは、真っ先に小沢邸に駆けつけて、乾杯の音頭を取っていたではないか。不明を恥じてもいいと思うが。
E 「過ちて改むるに憚ることなかれ」という言葉もあるが、あまりに手のひらを返したような言動は、かえって信用がなくなるのではないか。
D 政治とカネの問題は大事なのだから、それこそ企業献金は再開すべきではなかった。企業献金は政・官・財癒着の根源だと批判してきたのは民主党だったは ずだ。
A 新進気鋭の官邸の記者諸君には、そこを年頭の記者会見では突いて欲しかったね。
C 八ツ場ダムは、公共事業のムダ廃止の象徴だった。再開するならキチッとした説明が必要だ。官房機密費も同じだ。それがないからずるずる後退している感 じを受ける。
D 天下り退治や公務員制度改革、特別会計や特殊法人改革などもストップしたままだ。
B 書店に積まれている「日本溶解」とか「日本解体」という題名の本は、どれも政治や経済、行政の改革を指摘しているものばかりだね。

○ 「内輪もめばかりしている時期ではない」

B 政権の基盤がしかりしていないのに、内輪もめばかりだ。相手は百戦錬磨の自民党や強大な霞が関だから、党が割れていたら、跳ね返されて、何もできるは ずがない。
C 「政治とカネ」の問題は、本質論からはずれて党内抗争の道具になってしまった。
D 正義か悪かという、2元論は小泉流だが、支持率の急落は、政権運営の拙劣さにあり、ということが分からないのかな。 C 自民党のベテラン議員の話だが、「何かすると反対や不手際が出るので、国民の目をそらせるために、小沢問題をクローズアップさせている。こっちは自損 行為を待っていればいいので楽ですよ」といっていた。
E 党内の半分の勢力を非協力に回していたら、景気も雇用も改革も何もできないよ。
A 菅さんはやるべき順番を間違えていると思う。政権交代は大いに期待されたのだから、まず1つでも公約を実行できるように、政権の足元を固めることが先 決だろう。

○「小沢官房長官」で緊張感をつける

― これからの道行きはどうなるのかな。
E 自民、公明両党は、官房長官が辞めない限り、「予算審議に応じられない」、と堅い。
B 官房長官は内閣の要だから更迭は痛いね。内閣改造はやるたびに政権の力が弱まる、というのが通り相場だ。
C しかし、更迭したからといってその先、展望があるわけではない。出たとこ勝負の展開が続く。菅さんは民主と自民の関係を政局にしてしまったからね。
D 中曽根首相が、警察庁長官をやった後藤田正晴を官房長官に据えた。ところがマスコミも世論もそれこそ「日本は警察国家になる」と大騒ぎをした。ところ が房長官を辞めるときは名長官といわれた。あり得ないことだろうが、危機突破ということで臨時的に「小沢官房長官」というのはどうかな。迫力が出て政治も 霞が関も緊張感が出るぞ。

○ 統一地方選が剣が峰だ

― 統一地方選の年でもある。
E 茨城県議選に続いて、首相のおひざ元の西東京市でも敗れている。候補者が民主党から出るのを尻込みするというのだ。
D だからトップを代えてくれという空気が出かねない。
A 国会審議、官房長官の交代、小沢の国会招致、強制起訴、一方、地方からはトップ交代論が出てきて果たして裁ききれるかだ。
B それに「小沢切り」の背景には政界再編があるというね。
C 官房長官が自民党やマスコミ界の長老などと、頻繁に接触している、という人がいる。財務省も政界再編の後押しをしているらしい。
D 菅周辺は、自民党のリベラル派となら一緒になれるといっているが、そんな都合のいい割れ方をするはずはないよ。
B そんなことをしたら、だれでも景気のよさそうな方につくのだから、大政翼賛会みたいな政党ができてしまう。そこで財務省は念願の消費税増税路線を引き たいのだろう。
C 有権者に対する最悪の裏切りだと思うね。いっそのこと野に下って、力を蓄えてまた政権にチャレンジするのが、民主党が主張してきた憲政の常道ではない か。
A 菅さんは何のために首相をやっているのか、ちゃんと歴史観に立って、次々と課題を実現していって欲しい。


  2011年1月6日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



菅首相は政治の優先順 位を間違えるな

― 小沢氏を活用する度量も必要だ



                            栗原 猛

 

 テレビ報道番組で、マイクを差し出された50代の婦人が「民 主党は態勢がかたまっていないのに、党内抗争ばかりしている。菅さん(首相)は何をするために首相をやっているのか分かりませんね」と、語った。「政治と カネ」の問題も大事だが、いま急いでやらなければならないことはもっとほかにあるのではないか。

 完全失業率は平均では5%だが、20代、30代はすでに10%を超えた。この世代はアメリカより悪いことになる。大学生の就職率は70%を切り、しかも 内定者の3人に1人は不安定な契約社員だ。生活保護を受けている世帯は150万人を超え、日本の最低賃金は700円を超えたところで欧米に比べるとまだま だ低い。

 欧米の経済はユーロ安、ドル安で景気がうるおっているが、日本政府がいくら円高で欧米に国際協調を呼びかけても、応じてくれないと言う。最近の新聞の投 書欄に、「政治がしっかりしていないから、北朝鮮や中国、ロシアばかりでなく、欧米からも軽く見られている」というのがあった。

 農業従事者は200万人を切り、しかも60歳以上が73%を超えた。TPPに加わることは大事だが、一方では農業の再建も課題だ。少子高齢化社会は、 GDPをはじめ年金、医療、介護、教育、社会保障などあらゆる分野で変革が求められるが、菅政権はどういう心構えで取り組むのか、メッセージが伝わってこ ない。

 事業仕分けは好評だったが、党内抗争にかまけている間に、「廃止」が次々に項目を変えて復活している。改革の第2弾になる天下りの廃止と公務員制度改 革、特別会計と一般会計の統合―などは手つかずの状況にある。

 民主党がモデルにしてきた英国のブレア労働党政権は、政権に就くやマニフェストに順番をつけ実現のための工程表をつくり、1つ1つ着実に実行している。 任期中にマニフェストの大半を実現したと言われる。これに対して菅政権は、国民生活には直接関係のないところでばかりエネルギーを使っている感じだ。

 メディアはあまり指摘していないが、仙谷官房長官が法相を兼務していることは、議会制民主主義の立場から、大きな問題を秘めている。実は自民党の派閥抗 争が激しいときですら、法相には主流派から出さずに、非主流派か無派閥の長老が就くという不文律が守られた。それは法相の管轄下に世界最強といわれた捜査 機関、東京地検特捜部があるからだ。主流派が政敵をけん制するかもしれないという懸念を払拭するためのルールだった。

 菅―仙谷ラインは、社民党や立ち上がれ日本に連立を呼びかけた。公明、自民両党とも接触しているといわれる。今のところ不発だが、「立ち上がれ日本」 は、自主憲法制定を鮮明にしている。一方、自民党との連立は、福田政権時代に福田首相と小沢代表との間でかわされた連立構想に反対したのは菅氏らだった。

 政治とカネの問題にけじめを付けるために、「小沢切り」を進めるのならば、構造汚職の根源といわれる企業献金の再開はするべきではなかった。熟慮が感じ られない。どこかちぐはぐで場当たり的だ。民主党政権に期待した有権者に説明が必要ではないか。

 今一番大事なこことは挙党態勢を造り、マニフェストを整理して優先順位つけ、1つ1つ確実に実現していくことではないか。


  2011年1月2日(日)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



民主党は原点に立ち返 るしかない

党内分裂がパワーを削いでいる    

自民党に接近する菅政権

                            栗原 猛

  中国漁船の衝突、船長の逮捕、釈放、ロシア大統領の北方領土訪問、企業献金の再開、八ツ場ダムの見直しーなど、民主党政権の対応のまずさと後退ぶりは目を 覆うばかりだ。内閣支持率急落もして党の支持率も自民党との差が縮まった。政界再編論も憶測されているなかで、自称、憂国の士、5人が新橋駅近くの居酒屋 の2階に集まった。(敬称略)

○ 中国、ロシアから外交の厳しさたたき込まれる
― 目を覆うばかりの不手際が続いたが。プラスになったことはあるのかな。
A 中国からもロシアからも外交の厳しさを、たたき込まれたね。
D 日米関係の大切さも分かったろうし、韓国をはじめアジア諸国との関係も重視しながら、外交戦略を立てないといけないということも肌で感じたろう。
E 「艱難汝を玉にする」というが、その間、内政課題はストップしていたのだから、国民は大迷惑だった。
B 私は、尖閣のビデオ流失を聞いたとき、戦前の高橋是清(蔵相、首相。2,26事件で暗殺)の伝記を読んでいたので、とっさに、倒閣運動かと思った。昭 和3年頃からの日本の政治の流れは、軍部と右翼青年はテロ、検察は帝人事件などをでっち上げて、政党政治をつぶしていく歴史だったからね。外交にナショナ リズムがからむと危ないな。
C 流失ビデオの公開をめぐる混乱もひどかった。情報公開は民主党の一枚看板だったからね。
E 危機管理といえば、1983年9月に、カムチャッカ半島上空で、ソ連の戦闘機が大韓航空機(KAL)を撃墜したことがあった。乗客には韓国人のほか日 本人20数人、アメリカの国会議員もいた。ソ連はどうしても撃墜したといわない。そこで後藤田正晴官房長官が、自衛隊が傍受していた戦闘機と地上の司令部 との交信記録を発表した。動かぬ証拠を突きつけられて、ソ連もしぶしぶ認めたことがあった。
C 仙谷官房長官は同じ徳島出身で、名官房長官といわれた後藤田氏を意識しているが、今回はその応用動作だったと思うが、この経験が少しも生かされていな かったな。
E 政府高官が「(海上保安官は)法律違反しているのだから逮捕はできるだろう」などと、言ってはいけないな。沖縄地検の中国漁船の船長釈放にしてもそう だが、指揮権発動そのものではないかと感じられたよ。
A 血刀ではなく、「指揮権発動」を振りかざしながら、政治をやっているようなところがある。

○ 政権交代の意味、再認識が必要だ

― 話は変わるが、廃止した企業献金の解禁や八ツ場ダムの見直 しは、昨年の総選挙で、政権交代を実現した最大の売り物だったのではないか。
A 政治とカネの問題を断ち切るということで、企業献金廃止を宣言したのだったね。献金をもらっても公表すると言っているが、献金を受けると「絶対」と いっていいほど、利権とか既得権益がからんでくるよ。
C このご時世に、反対給付を期待しないで献金する奇特な企業があるのかな。雇用を増やせと言いたいね。
E 八ツ場ダムの工事中止は、公共事業のムダを排除するという象徴的な意味を持っていた。日本の21世紀像を描くはずの「戦略局構想」も鳴かず飛ばずだ。
B 前原さん(誠司前国土交通相)は、自らの決断が否定されたのだから、ひと言あってしかるべきだろう。
A 帝王学の師といわれた安岡正篤氏(故人、陽明学者)が、「政治家は言動が大事だ。『無言の行』みたいなもので、発言に威厳とか責任感が備わっていない と、国民から信用されなくなる」とよく言っていた。

○ 菅民主、自民党に接近中

―ところで、参院の逆転現象もあってか、補正予算をはじめ外交 人脈でも民主党はどんどん、自民党に接近している感じだね。
B 中国とのパイプは、今の執行部にはまだない。そこで、小沢(一郎民主党前代表)ルートも動いたが、官房長官サイドは、野中さん(広務・元自民党幹事 長)ルートで、習近平国家副主席周辺に接触したとわれる。
C 李克強副首相は、岩手にある小沢さんの家に泊まるなど、親しい関係にあるといわれていたが。
E 今の執行部は「脱小沢」グループが多いから、党内にルートがあっても活用しようとしない。野中さんは小沢氏と犬猿関係にあるということで、かえって頼 みやすかったのではないか。
D ロシアとの関係でいえば、自民党の森喜朗元首相がプーチン首相と昵懇だ。
B そうなると当面の中、ロ関係は自民党人脈に頼ることになるのかな。
A 参院が逆転だからといって、政策のほかに人脈まで、自民党と一緒になるというのはどういうものかね。外交は一貫性が必要だからある程度はやむを得ない という人もいるよ。
C それでは政権交代した意味などない。どこの国だって政権が交代すれば、人脈も新しくなるものだ。このまま公共事業や、政治献金と限りなく自民党と歩調 を合わせていくと、両党の見分けがつかなくなってしまうぞ。
D 仙谷官房長官は、マスコミ界のドンといわれる渡辺恒雄氏にも相談しているといわれるね。

○ 小沢氏の知恵も活用すべきだ

E 執行部は小沢グループには、予算編成の個所付けなどでも嫌 がらせをしているらしい。しかし、ここは小沢の経験や知恵、それに人脈も活用して、マニフェストで掲げた課題に、全力投球する場面ではないか。パワーや重 みが感じられないから、世論調査でも実行力に疑問符が付くのではないか。
A 菅政権の基盤が固まっていれば別だが、内輪もめばかりやっていたら、官房長官がいくら頑張ったくらいでは政権に浮力がつくはずがない。ビデオ流失だっ て官の弛緩と関係あると思うな。
D 自民党は、細川政権の時に野に下ったが、政権奪還のために、水と油の対立関係にあった社会党の委員長を首相に担ぎ出したくらいだ。どこに手を突っ込む か分からない。霞が関だって、面従腹背になる。事業仕分けで、「廃止」しても、どんどん復活しているのが分からないのかな。

○ 早くも衆院解散―政界再編の憶測

A 佐藤(栄作首相)や池田、(勇人首相)、田中(角栄首相) 政権は、影響力があったと、よく言われるが、それは「宰相の座」からくる影響力ではなくて、一枚岩の政権与党のバックアップがあったから影響力があったの だ。
B 自民党はどんな抗争があっても、少数派や非主流派にも働き場を与えていた。党内対立を外に出さないことが党運営のコツだと聞いたことがある。
E ある官僚OBだが、日本には、まだ2大政党による政権交代は早いのではないかといっていた。政党は1つしかない方がコントロールしやすいからね。
D しかし権力には切磋琢磨とチェック・アンド・バランスが不可欠だよ。
A それを知っていて菅さんや、仙谷さんがなぜ挙党態勢をつくろうとしないのか、下心とかもっと別の狙いがあるとしか思えない。
C だから早くも衆院解散、総選挙―政界再編を憶測する声が出ている。
B 菅さんは内外ともに政策が行き詰まって、総選挙に追い込まれる。民主党は激減して、政界再編―と、推測されている。
C その場合の対立軸は、「小さな政府とか大きな政府」、「消費税増税」、「小選挙区制」ではなく、「反小沢」になるというのだ。
D そんなことで有権者は政権交代を望んだのではないだろう。
B 55年体制の一方の雄だった社会党も委員長が首相に担がれた途端に、溶解してしまった。村山さんはそれについては心を痛めていると言われる。自民党は 魔力があるから、何でもかんでも飲み込んで、自民党流に消化してしまうところがある。
E ある親しい官僚OBだが、900兆円の財政赤字のうち、800兆円は自民党と官僚がつくったものだ。そんなに簡単に有権者は許してくれますかね、と 言っていた。
A 常識のある人だね。財政赤字がにっちもさっちもいかなくなって、財政再建のための政界再編ということになったら、それこそ終戦直後の一億総懺悔みたい なことになってしまう。菅さんにはまだ、政権交代の志は失ってもらいたくないね。



仕分け判定に法的拘束 力を

廃止しても次々と復活する不思議


栗原 猛



 「事業仕分け」の第3弾をメディア志望の大学生たちと見た。「伏魔殿」とか「無駄の温床」と、指摘されてきた特別会計の切り込み会場は、東京・池袋のサ ンシャインシティ文化会館だ。この場所はかつて、極東国際軍事裁判が行われた巣鴨プリズン跡地を再開発したところで、どこか因縁めく。4日間の傍聴者は、 これまでの最高で5000人を超えた。

 今回の仕分け作業で目立ったのは、省庁側の副大臣や政務官が答弁に立って、同じ民主党議員と激しくやり合う場面が少なくなかったことである。
 副大臣は質問の矢面に立つことが「政治主導だ」と思っているのかも知れないが、結局は切り込みを拒む省庁の防波堤になっている感じで、民主党にも「族議 員誕生」という印象を与えた。

 「廃止」と判定されたのは、18特会・48事業のうち4特会、8事業のみ。「見直し」と判定されたのは40事業で、削減額はわずか6000万円程度だ。

 スーパー堤防の「廃止」は大きいが、実は国土交通省内でさえ「不必要ではないか」という意見が出ていた代物である。
需要予測の甘さなどもあって、「ムダの巣窟」と言われる道路整備や港湾、治水事業などでは、「10〜20%削減」になったが、所管大臣の馬淵国土交通相は 「必要な社会資本の整備はしっかりと要望していく」と、早くも反発している。

 民主党は昨年9月の総選挙では、総額170兆円に及ぶ特別会計について、天下りやムダ遣いの温床になっているとして、改革の大黒柱に据えた。
そして一般会計と特別会計を合わせた国の予算207兆円を「全面組み替え」して新たな財源16,8兆円を生み出すことを打ち出している。
マニフェストでも、@税金のムダ遣いと天下りの根絶 A独立行政法人の全廃を含めて抜本的な見直し B天下り団体となっている公益法人の廃止 C特別会計 をゼロベースで見直すーなどを看板政策に据えた。これが政権交代の大きな原動力になったと言ってよいだろう。

 ところが、これまでの仕分け作業をみると、1,2弾の事業仕分けで、「廃止」しても、次々に復活している。
例えば、外務省関係では「廃止」が決まった外交雑誌が外務省予算で復活、また宝くじの売上金を活用する事業で281億円が130団体に配分されている。
このうち8事業を「廃止」と判定されたが、地方自治体の反対などもあって復活している。

 しかも、「廃止」や「削減」の判定が、法的な拘束力をもっていないから、「『廃止』の判定をしてもいつのまにか換骨奪胎されてしまう」と、民主党議員で さえ苦り切っている。
政権の柱に取り組むにしては、尻抜けのそしりを免れないが、予算案ができる時点まで、巧妙に骨抜きされないように、党が目を光らせていることが必要だ。
同時に、「判定」に法的な拘束力を持たせることも急務であろう。

 したがって財源で見ると、第1弾は、削減額は7000億円で、埋蔵金と合わせると1兆7000億円。第2弾は独立行政法人と公益法人が対象で、1兆円が 国庫に入る予定だが、削られる可能性もあり流動的だと言われる。マニフェスト当時の意気込みには遠く及ばないのである。

 ある財務省高官の0B氏は「官僚は無駄だと思ってやっていないから、無駄廃止ではおカネは出てきません。結局、思い切った制度改革しかないのではない か」と言っている。若い男女でにぎわうショッピング街を歩きながら、学生たちは「税収は40兆円を切っているのだから、それに見合うように組織や政策を見 直すのは当然ではないか」と語り合っていた。

 9月始めに財務省が発表した財政赤字は、900兆円を超えた。それについて菅首相や財務大臣からコメントはなかったが、小泉改革がスタートした時点の財 政赤字は650兆円だったから、それ以来250兆円も増えたことになる。「三方一両損」とか「米百俵」とかのうたい文句で、国民に5兆円以上の負担増を強 いながら、財政赤字は減るどころか増え続けている。

 どう考えても予算編成の在り方や、査定の仕方にどこか問題があるとしか思えない。どこにどのような誤りがあって、どのように改革すれば赤字が減るように なるのか、事業仕分け作業では、引き続いてさらに踏み込んだ議論が必要である。


  2010年11月4日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



「政治主導」を発揮す る局面だった

急に秋が到来して、菅政権は本格始動かと期待していたら、尖閣 諸島沖の中国漁船衝突事件、大阪地検の検事逮捕などが立て続けに起きた。「有言実行」を掲げる菅首相の、腕さばきは、どことなくちぐはぐだ。いたたまれな くなった憂国の老壮青の5人が、新橋の中華料理屋の2階に陣取って談論風発した。

○外交上の判断を丸投げするな

― 検察庁の出先機関が中国漁船の船長を処分保留で釈放した。どうもガバナビリティに危なっかしさが目につくね。
A 菅さん(首相)は、国内法に基づいて粛々と判断したといい、一方、那覇の次席検事は「わが国の国民への影響と、今後の日中関係を考慮した」といってい る。政府は、大事な安保や外交上の判断を、検察に丸投げしたことになる。
B NHKの討論番組で、自民党の石原伸晃幹事長が、「検察は法と証拠に基づいて粛々と判断するのに、政治を持ち込んだ」と指摘していた。
C 仙谷官房長官は、検察官には「起訴便宜主義がある」といっている。弁護士出身らしい説明だが、これは犯罪がはっきりしているが、起訴するかどうかは検 察官の判断に任されている、というものだ。今回はそれに当たると言いたいのだろうが、検察官が日中関係まで考えて釈放したというのは、いくら何でも裁量権 を大きく超えている。
E 「脱官僚」、「政治主導」が看板なのなら、外交問題の判断を、一地方検察庁に丸投げしてはいけない。政治家自らの責任で、決断して公表する局面だっ た。それが政治主導というものではないか。

○ 国連で恩首相発言に反論すべきだった

― 国際的にはどうだったのかな。
B 国連で、恩家宝首相が強烈な対日批判をやっている席に、菅首相もいたわけだから、「中国は建国以来、1971年まで領土問題はいっていなかったではな いか」ぐらい、  反論してよかった。言われっぱなしの感じだね。
A とっさに頭に浮かんだのは、カムチャッカ半島上空で大韓国機がロシア(旧ソ連)の戦闘機に撃ち落とされたときもことだ。ソ連は知らぬ存ぜぬで押し通そ うとしたが、当時の後藤田正晴官房長官が、自衛隊が傍受していたソ連機と地上部隊の交信記録を公表した。これが動かぬ証拠になって、ソ連はしぶしぶ撃墜を 認めている。後で後藤田氏から経緯を聞いたが、防衛庁は公表を渋っていたが、押し切ったと言っている。
E 冷戦時代のまっただ中だったことを思うと、大変な勇気と決断だったね。アメリカとも緊密に連絡を取り合っていただろうが、気合いの入り方が違う。
C それが政治主導というものではないか。夜遅くまで大臣室で大臣や副大臣、政務官だけでにらめっこをしているのは、政治主導でもなんでもない。(笑い)
D そういえば、赴任したばかりの新中国大使に、外務省は肝心な情報を入れていないという話だね。
B 民間出身には、早く代わってもらおうと言うのだろう。例によって御殿女中のような嫌がらせだな。
E 官房長官はそんな話を聞いたら、即座に次の大使も民間から出すぞと、ひと言いえばいいのにね。これも政治主導の分野だ。(笑い)
C 冷戦構造時代ならともかく、現在は、民間人の方が大使に向いているといわれる。現在のルース駐日大使もそうだが、戦後のほとんどの駐日米大使は民間人 だ。外務省とは天敵関係にある鈴木宗男氏が、いまや外交官の締めくくりポストの大使は、機密費や天下りポストになっていると言っていた。

○ 中国専門家を育てよう

― 日本の対応には、アジア各国も関心を持っていたのではないか。
B 今回の政府の対応で、諸外国から「日本人はちょっと締め上げるとすぐに屈する国だ」という印象を持たれたのではないか。
A ドイツの新聞は、中国の傲慢さを批判しているね。コンプレックスの裏返しではないかと、一ひねりした見方だった。
D アジアの国々は、南沙、西沙諸島などで、中国の調査船がわがもの顔に動き回っているのを、苦々しく思っていた。日本は頼りにならず、やはりアメリカだ という空気が出てくるだろう。中国とは少し距離を置こうとするのではないか。
A 中国は、また次のチャンスを狙ってくるだろう。
C 日本は東南アジアの国々の信頼を得る絶好のチャンスだったのにね。
E アメリカがフィリッピンなどに、また米軍基地を置いてくれ、という話が出てくるかも知れないな。
 
○ 振り上げた拳を下ろすサイン

― 緊張関係はいつまで続くのかな。
A いくらなんでも中国も日中関係が、いつまでもこのままでいいと思ってはいないだろう。再び反論したが、こんどは謝罪と賠償を「求める権利がある」と、 言っている。表現を弱めた感じだ。
B 日中貿易関係者に25日に聞いたところでは、「希土類の対日輸出を止めるという指示は出していない」と、通知してきていたといっている。ベトナムの方 で希土類の地層が大量に発見されたと言われるし。これは中国側が「振り上げた拳」を徐々に降ろそうとするサインだろう。
C 今後の課題で言えば、日本には中国研究者が少ない。また後藤田さんのように中国に苦言を呈したり、腹を割って話し合える人もいなくなった。民主党にも そういう持ち駒がいない。日本全体が人材の端境期だ。外務省でも中国派は肩身が狭いと言っている。これを機会に日本は中国研究に力を入れるべきだね。
D 今回、クリントン米国務長官が、尖閣諸島には安保条約が適用されると、発言しているし、ゲーツ国防長官も同盟の責任を追考すると言っている。日本政府 は、けがの功名ではないが、内心ほっとしただろう。
E ところで、今回の件については、米中合作説がある。ふらふらしている民主党政権を、日米安保の枠に押し込んだと言うのだ。
B 中国もその方が米中だけで、アジアを仕切れるというのだろう。
A 普天間飛行場の移設問題でぎくしゃくした日米関係が、改善されるきっかけになるかも知れないね。
D ところが、自民党など野党は臨時国会で、ここぞとばかり民主党追及の拳を振り上げている。こちらの拳の方が威力を発揮しそうだ。

○ 「東西の特捜部」は使命を終えた

― 改ざん事件に移ろうか。
E 大阪地検特捜部検事によるフロッピーディスク(FD)書き換え事件は、衝撃的だった。どうひいき目に見ても、検察史上の大汚点だ。トップの検事総長が 辞任してもおかしくないね。
D この検事が手がけた他の事件の信用性にも疑問が出されかねない。
A だから検事逮捕を一部メディアが先行したのも、1検事の問題に特化して組織全体に広がらないようにしようとする、陽動作戦だったのではないか、とみる OB検事もいる。
E 世論の関心を特定の方向にだけ向けようという伝統手法だね。
B そういえば、証拠隠滅容疑で捕まった検事が、小沢一郎氏(元民主党幹事長)の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐって起訴された、元公設第1秘書 の取り調べの担当だった。
 C FDの改ざんをやるような検事が作った調書に、信用性があるのかと指摘されたら、 分かりやすいし、ちょっと面倒だな。
 A 外国の特派員などに聞くと、日本のメディアは、検察のいうことを鵜呑みにしすぎていると言うね。昨年の西松事件や鳩山首相の偽装献金にしても、方向 性の判断まで検察に任せている感じがすると言っていた。権力の乱用という視点からの記事があってもいい。

○ 検察は欧米に比べて強大すぎる

A そういえば、村木さんは無罪になったが、北海道教祖の選挙違反といい、西松建設事件といい、検察は事件の先に民主党の政治家を見立て、「民主党つぶし を狙っている」という見方が、早くから民主党や自民党の一部にあったね。
D 足利事件などの冤罪事件では、警察や検察の取り調べの問題点が指摘され、JR西日本の脱線事故などでは、検察の判断が検察審査会で覆されている。
E 捜査の在り方などが問題になるのは、経済や社会が大きな変革期に来ているということだけでなく、検察という組織自体も、自らを顧みる時期に来ているの ではないか。
A 欧米の検察は裁判中心だ。日本の検察は捜査権、逮捕権、訴訟権を持っているし、何週間も容疑者を拘束できる。だから「最強の捜査機関」といわれるのだ が、権限が強大すぎて重荷になっている感じがする。事件の複雑さなどを考えると、公訴中心になるべきではないか。
C 千葉景子前法相は、取り調べの可視化や証拠の開示など省内で議論して、改革の必要性は感じていても、なかなか前に進まなかったといっている。
B いまや経済や金融犯罪については、国税庁や会計検査院、公取委、証券監視委員会などが、拡充されてきている。
D だから、特捜部の役割は終えていると、指摘する特捜のOBもいる。
A すべての組織は時代に応じて、変革が求められる。不易流行といわれるが、同じことは日本のメディアにもいえるね。


  2010年10月7日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



代表選挙の原点
菅、小沢両氏はもっと 政策論議を戦わすべきだ
―雇用、景気、霞が関改革など政治がやるべき課題は多いぞ

 民主党の代表選挙で不思議に思うことは、政策論議がほとんど 聞かれないことである。菅首相は現職の首相であるから円高やその対応に動くのは当然としても、小沢氏との間で論戦らしい論戦が交わされていない。政権与党 の代表選といえば即、次期首相を選ぶ選挙である。円高で株安という事態のさなかに、政治空白をつくって国民に迷惑をかけているのだから、何をやるのかにつ いての開陳ぐらいあってもよいと思われる。

 共同通信の世論調査によると、首相になる次期代表に望む政策 のトップは、「景気・雇用対策」の51・9%である。次は「税金の無駄遣い一掃など行政改革」が34・3%と、高水準で続く。「税金の無駄遣い一掃など行 政改革」は、ここ数年、世論調査のトップか2番手を占めている。少子高齢化社会にともなって、税収が減っていくことを考えると、ムダ排除の改革は霞が関に とって、もはや避けられない感じする。

 こうした世論調査の背景をみると、失業率は5%で、最悪時を 脱したといわれるが、依然高い。世代別で見ても、「15~24歳」の若い世代の失業率は9%である。大学生の就職内定者は卒業予定者の7割に達していな い。しかも内定者の3人に1人は非正社員である。解雇が簡単にできる非正社員の急増は、親にとっても祖父母にとっても深刻な問題である。

 最近では5500万人の雇用者のうち正規雇用者は3400万 人で、1700万人が非正規雇用者だといわれる。つまり3人に1人以上が非正社員ということになる。非正社員の急増について、社会保険料の雇用主負担が大 きいなどと説明されているが、90年代以降の雇用者の増加は、正社員は増えずに、非正社員の増加だったということになる。

 生活保護世帯の推移も深刻だ。05年度に104万世帯を超え たのをきっかけに、基準を厳格にしているといわれるが、それでも毎年3〜4万世帯ずつ増え、09年12月にはついに130万世帯を超えた。最低賃金を見る と、日本は700円台だが、フランスは既に1000円を超えている。日本は最近少し改善したたが、まだまだ独、英国などに比べると低い。

 別の分野に目を転じると、昨年、米国で博士号をとった中国人 は1400人だという。日本人は50人程度だ。またこのところ中国から米国への留学生は5万4000人。一方、米国からの中国への留学生も1万4000人 いるという。こうした数字は、世界の若者が最近の日本をどう見ているか、学問や研究のレベルだけでなく、その国の魅力、将来性なども含めた総合的な「国 力」をはかる尺度なのである。

 岡田外相と直嶋経産相が、先ほどレアメタル輸出規制の解除の ために訪中したが、中国首脳からは、やんわりとかわされた感じだ。日本の政治混乱や財務省がつくった900兆円もの財政赤字の対応すらできていない日本政 府の足元が、見透かされてしまっているのではないか。

 格差といえば、年金の官民格差の是正も進んでいない。職域加 算や国からの補助金が多いなどの官民格差もいっこうに改善されていない。じつは年金の統合は30年以上前から厚労省は検討してきたが、未だに具体化されて いない。政権が代わったのだから、ピッチを早めるべきではないか。

 格差や貧困問題は、救貧対策で解決できる問題ではないし、泥 縄式の対症療法で改善できるテーマでもない。日本の政治や行政が真剣になって取り組まなければならないものばかりである。菅さんも小沢さんも、国民はなぜ 昨年、政権交代を選んだのかという原点に立ち返って、日本が抱える根本的な問題を真剣に議論して欲しい。


  2010年9月2日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



座談会続編

歴代財務大臣は財政赤字の責任をどうするのか
財政健全化を図ったイタリアから何を学ぶか

司会 栗原 猛

 メディアの話題は、民主党の代表選一色だ。ただし菅首相が民主党代表に再選されても、求心力を回復してさまざまな改革に 立ち向かうには、挙党一致の結束ができるかどうかにかかっている。そこで、赤字国家を作り上げてしまった責任はどこにあるのか、今後どうすればよいのかな どについて、座談会の続編を試みた。

○ 小泉改革以来、250兆円も増えた     

  • A 9月の民主党代表選が終わるまで、政治も行政もストップした感じだ。これではなぜ政権交代をしたのかわからな い。
  • B 8月の暑い最中に財政赤字が900兆円の大台を超えた。景気も足踏み状態だ。
  • C 日本の財政法は赤字を出さないよう厳しく戒めている。「お上」が自ら財政法に違反している。小泉改革がはじまっ た2001年の財政赤字は650兆円だった。あれだけ改革、改革とやってきたのに赤字が350兆円も膨らんだ。いったい、何をやっているのだと聞きたい ね。
  • D 「900兆円」を超えたとき、財務大臣も財務省の事務次官も、コメントも何もなかったね。「申し訳ない」とか 「こうやって削減します」とか、ひと言ぐらい釈明があってしかるべきだ。
  • B 年金も医療も社会保障も、行き詰まった元凶はすべて放漫財政にあるのだがね。
  • E 歴代の財務大臣(大蔵大臣)、財務省の幹部は丸坊主になって反省しても罰が当たらないのではないか。平気の平左 だ。
  • B 民主党政権にとって、これから国のビジョンを描くはずの国家戦略局を縮小したということは、何もしないというサ インだな。「これでは第2自民党だ」と陰口をたたいていた民主党の議員がいた。小泉改革は経済財政諮問会議を拠点に、功罪はともかく頑張ったからな。
  • C 日本の財政をここまで破たんさせておいて、さらに「改革先送り」では、世界中からもの笑いになるぞ。
○ 改革派官僚は積極的に登用すべきだ
  • D ところで菅さんは、また「政治主導」と言い出したね。
  • A 「賢臣に親しみ小人を遠ざけしは、先漢の興隆せしゆえんなり。小人に親しみ賢臣を遠ざけしは、後漢の傾頽せしゆ えんなり」とは、諸葛孔明の有名な言葉だ。悪知恵のたけた守旧派官僚は得てして権力者に取り入るのがうまいから、こういう人物ばかり近づけていると国家は 傾いてしまう。改革に前向きな官僚の知恵をどんどん借りるべきだという意味だ。守旧派か改革派かの目利きができるかが本来の政治主導だよ。
  • C たとえ消費税を10%上げたところで、特殊法人や特別会計の無駄遣いをこのまま放置し、霞が関のシステムを改革 しないことには、2,3年先にはまた行き詰まる。財務大臣は「足りなくなったので高齢化社会のために増税を」と言い出すに決まっている。
  • A 官僚の人たちには守旧派も多いが、それでも最近は、改革しないといけないという良識派が増えてきた。菅さんはそ うした良識派に協力を求めないといけない。それが政治家の力量というものだ。信州・松代藩の恩田木工が書いた「日暮硯」(岩波文庫)を読むと、藩財政の改 革に当たって守旧派で悪知恵のある人物をうまく使っている。悪知恵のあるヤツは法の抜け道を熟知しているからね。それを防ぐ手立ても分かるのだ。上杉鷹山 の米沢藩の改革も有名だが、恩田木工を参考にしたといわれる。
  • B もう15年以上も前になるが、イタリアでは財政赤字をつくった責任者の政治家約50人、頭の黒い官僚1000人 近くを起訴して大胆な改革を断行した。いまやイタリアの財政は健全化に向かっている。日本でも刻一刻、こうした荒療治の必要が迫っている感じだね。
  • A ある財務省の高官にイタリアの改革をほめたら、嫌な顔をしていた。イタリアの財政改革で偉いところは、中央省庁 の再編、地方のへ分権化、公営企業の民営化、公務員制度の見直し、脱税の取締、人件費の抑制、税制度の改革に留まらず、予算、会計、決算の検査制度の改革 など、グローバルな視点で広範囲にわたって改革をやったことだ。EUの通貨同盟(債務残高GDPの60%)への加盟条件を整えるという「外圧」もあった が、わずか5年間だ。政治家も官僚も自らを大胆に削っている。
  • D 日本のように消費税を上げて、ちょろまかそうという小手先ではないのだな。
○ 一般会計と特別会計は一本化すべきだ

― どこから手を付けたらいいのかな。
  • B まず一般会計と特別会計の組み替えをして予算の出入りをガラス張りにすること。次は5000もある悪名高い天下 り特殊法人をざっくりと減らす。650兆円も財政赤字をつくっているのだから当然だ。一方、天下りをしなくて済むように公務員制度を改革しで定年も延長す る。これをトータルとして取り組むことだ。一部だけやっても尻抜けになる。換骨奪胎するのはお手のものだからね。(笑い)
  • C 間もなく予算編成作業がはじまるから急がないといけない。守旧派は先送りにしようと画策するから、そうはさせな いぞという気合いが大事だね。
○ 消費税で自民政権復帰の可能性探る

― 少し生臭い話になるが、その消費税を軸に菅グループは小沢グループを振り切って、自民党と政界再編に突き進むのではないかと見る向きもある。
  • E 民主党は消費税ばかりでなく、ほとんどの法案で自民党と政策協議が必要になる。まず予算案をはじめ、公務員制度 改革などで政策協議を続けていくと、そういう空気が出てこないとも限らない。
  • B 小沢グループ抜きにだ。自民党内にはまだ反小沢感情が強いからな。
  • C 一方、自民党内には労組依存の民主党執行部に対する警戒心もある。そのときの経済情勢や政府がIMFなどに働き かけて、財政赤字に対する「外圧」を巻き起こしでもすれば別だが、小選挙区制での政界再編は簡単ではないぞ。
  • D 菅さんが消費税で突っ走って総選挙をやるということになれば、民主党が負けることは必至だろうから、自民党は意 外に早く政権復帰ができるかもしれないな。
  • E 鳩山由起夫前首相がいろいろ動いているのは、そういうことにならないように、菅と小沢(一郎前幹事長)の間を取 り持とうとしているのではないか。小沢代表の時に菅を代表代行に起用しているし、小沢は代表選には出ないということで、まとめようとしているのではない か。
  • D 2大政党制のアメリカのケースはやや参考になるよ。共和党のレーガン政権がロシア(旧ソ連)に軍拡競争を仕掛け て財政的に参って社会主義体制は崩壊したが、アメリカも大変な財政赤字をつくった。その後始末は民主党のクリントン政権がやっている。共和党はカネを使っ て財政を火の車にして、民主党が立て直すという役回りだ。したがってクリントン政権は、日本にいろいろと注文が厳しかった。
  • B だから日本の政界には共和党ひいきが多いのかな。(笑い)
○ 局面打開は与野党協議の積み重ねしかない
  • B 繰り返しになるが、もう3年もすると総選挙がある。民主党の基盤はまだ弱いから、支持団体や有権者の票になるよ うなことをどんどんやるだろう。財政赤字が1000兆円を超える。そうして消費税増税で一か八かの勝負に出るのではないか。
  • E 政権を明け渡すという覚悟を決めれば別だがね。
  • B やはり菅は成長路線については自民党と、公務員制度改革はみんなの党というように、政策協議を重ねていくしかな いだろう。それが議会政治の王道でもある。
  • D 自民と民主党が増税路線に向かいかどうかは、そうした積み重ねができてからではないか。しかも財政再建や普天間 などを考えると、大連立ができないとも限らない。期間を区切って連立を組み、総選挙前に解消してこんどは丁々発止とやり合うというのだ。
  • E 小手先の政治だね。小沢グループにしてみれば、小沢はずしと見るだろう。自民党にも連立を組まないで政権を奪還 すべきだという意見もある。民主党もやっと政権についただから政権を大事にしたいのではないか。
  • D めぐりめぐったが、政治は理想を掲げそれを実現することが第1だが、現実の問題も解決しなければならない。菅さ んが圧倒的な数で再選されたところで、参院が逆転しているので政権のパワーは強くなったわけではない。人脈を駆使して押したり引いたり譲るところは譲り、 霞が関とやり合ったり、党内をまとめられるのは小沢ぐらいしか見当たらない。菅さんも小沢に協力を求め、小沢も「会わない」なんて子供みたいなことを言っ ていないで、歩み寄るべきではないか。政治家を志したものは皆、国家、国民のために汗をかくということであったはずだ。

  2010年8月19日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



座談会(下)  参議 院選挙後の政局展望

民主再建は政権交代の原点に立ち返るしかない
―老壮青が菅政権をしかる

司会 栗原 猛

 民主党政権は、昨年の9月に史上初めての政権交代を実現してから、まだ1年もたたないのに急降下した。「政治とカネ」問 題で、この春に放談会をやった老壮青の顔ぶれが、有楽町近くの中華料理屋で菅政権を肴に、暑気払いをやった。結論は急がば回れで、民主再生には、政権交代 の原点に立ち返って、数知れないほどある改革を1つ1つ粘り強くこなしていくことしかないーだったと思われる。
老荘青のジャーナリスト三人が今回の参議院選挙の結果を総括し、その後の政局などについて展望してみた。

○「日本人は淡泊で忘れっぽい」とドイツ紙

― まず参院選の総括からいこうか。      

  • A 敗因はズバリ唐突な消費税発言だろう。歴史的な政権交代からまだ1年もたっていないのに、菅民主党は有権者が政 権交代を選んだ意味を理解していなかった、としか言いようがない。発言直前の新聞には年収200万円以下の人が1000万人を超えたとか、年収1億円の高 額所得者の一覧表が発表されている。市民派にしては世間の実情に疎すぎた。
  • B 内閣支持率が突然、V字型の急浮上をしたので、気が緩んで自陣過剰になってしまったのではないか。好事魔多しだ よ。
  • C ドイツの新聞に「日本人はこの間まで、国会を牛耳ってきた自民党政治に飽き飽きしていたはずなのに、日本人の政 治的記憶は淡泊で忘れやすい」とあった。皮肉たっぷりだが的は射ている。
  • D どの報道機関の世論調査も消費税増税で「賛成」が「反対」を上回っていたから、これなら行けると踏んだのではな いか。当初、財務省は「勇気のある発言」ともて囃していたが、旗色が悪くなると途端に「菅さんは国際会議に出て財政赤字の深刻さを知ったのだ」と、36計 を決め込んでいた。膨大な財政赤字はだれがつくったのかと聞きたいね。 
○小沢を意識しすぎた?
  • B 小沢(一郎前幹事長)を意識して焦ったといっていた議員がいた。
    E 世論調査の質問が誘導的で意図的だと統計学の教授が言っている。865兆円の赤字を示して、赤字を減らすために「増税賛成」か「反対」か、と聞けば、 誰だって減らす方に○を付ける。だれがなぜ財政赤字が増やしたと思うか、どこに原因があり、どこをどう改めたらいいのかーという質問が必要だ。肝心な議論 が抜けている。
  • D 消費税で「自民党案を参考にする」と言ったのは、自民党と共闘が組めると直感したのではないか。財政に大穴をあ けた事実はは間違いないのだから、まず国民に「申し訳ない」という気持ちがあって当然だ。誠実さが感じられないんだな。それがなくて市民派宰相の看板を掲 げているものだから、余計にかちんとくる。看板に偽りありだ。
○蔵相時代から周到な準備をした竹下首相

― 自民党政権でも税は鬼門だった。
  • E 税では大平(正芳首相)、中曽根(康弘首相)両政権を思い出すな。大平さんは、79年10月の総選挙で、一般消 費税導入を掲げた。勇気ある行動だったが、評判が悪くて選挙の途中に断念する。結果は惨敗で、その責任をめぐって有名な40日抗争が展開された。中曽さん (康弘首相)は、国鉄、電電の民営化、同日選大勝などの実績を背景に売上税を打ち出した。しかし、党内から反対の署名運動まで起きて断念している。
  • D 結局、中曽根を引き継いだ竹下登政権が3%の消費税を実現させたが、そういえばキャッチフレーズは今と同じ「高 齢化社会に備える」だったよ。竹下は蔵相時代から財政再建のための決議案を採択したり、行政改革や不均衡税制の改革などを訴えて準備万端、用意周到だっ た。唐突発言の菅さんとは大違いだ。
  • E 竹下時代の政治家は皆、税の重大さを知っていた。財務省(旧大蔵省)の連中は、「竹下さんの方に足を向けて寝ら れない」といっていたが、それでも竹下は満身創痍、ボロボロになって退陣していった。増税は政権にとって命がけなんだ。
  • C 税務署長とか警察出身という肩書きはポスターに書かなかったくらいだ。
    A 私が印象深いのは橋本政権(龍太郎首相)が、自民勝利間違いなしと前評判がよかった参院選の投票日1週間前に増税を示唆した。ところが急に風向きがお かしくなり二転三転した。歴史は繰り返すで今回とよく似ている。しかし後の祭りで惨敗、退陣になった。

○こんどは外圧で増税ムード作り
  • C 菅の増税発言は、細川護熙首相が深夜、突然記者会見して「福祉目的税」を発表した場面を思い出した。細川は記者 団からアップ率を聞かれて、「腰だめだ」と答えた。この発言が「不真面目だ」と反対の火に油を注いだ格好になったが、後で取材してみると、「福祉目的税」 が財務省や小沢一郎幹事長など、一部の間の根回しで進んでいることに腹が立ち、とっさに口をついて出たものらしい。
  • A 腹立ち紛れの発言がいい結果を生むこともあるんだな。(笑い)菅はまず民主党内で論議をすべきだった。それをし ていないから、だれだって財務省の受け売りだと思うよ。
  • B こんどはIMFなど国際機関や米政府などに働きかけて「外圧」で、増税ムードを盛り上げようとしているらしい。
  • A そんなことをしたら日本はあっちにもこっちにも頭が上がらなくなるぞ。税は民主主義の原点中の原点だ。英国の議 会が誕生したのも、米国の英国に対する独立戦争もきっかけは税金だった。フランス革命は米の独立戦争の影響を受けている。昔だけでなく今も税こそ議会制民 主主義の基本だ。そこが肝心なところで民度がはかられる。
  • C 比例の得票数を見ると、民主党は1840万票で、まだ自民党に400万票以上の差を付けている。これは民主党に 対する期待感だろう。「過ちて改むるに憚ることなかれ」で、再生するかどうかは、政権交代の原点に返れるかどうかにかではないか。
    取り巻きの経済学者は財務省の息がかかっている。財務相をやっている間に財政や経済を勉強したと言っている。勉強したと言っているが、丸め込まれてしまっ たと言う人もいるが。

  • D 支持率がV字型の急浮上ですっかり天狗になってしまったのではないか。発言でいくつか菅の性格が出た。1つは ちょっと軽い感じだということだ。党内議論をしないのに突然消費税をい出すなんて、それに支持率の自身からかかなり強権的なものを感じたという人もいる。 菅の性格が多方面から観察された一幕でもある。

○お灸をすえすぎた?

  • C 増税という大課題をやるには、党内論議をして体制を組んで取りかからないと、結局財務省の組織に載って増税路線 を引くことになってしまう。有権者はそこを感じ取ったのではないか。
  • D 党内論議為しに踏み込んだのは独裁的だという若手がいた。
  • A 菅さんは支持率が上がったのですっかり有頂天になってしまった。そこを財務省当たりから「これをやれば大宰相で すよ」と甘言をささやかれて、すっかりその気になってしまったのではないか。
  • A そこで資質に2つ問題が出た。1つは税の難しさを知っていなかったと言うことと、もう1つは支持率が急浮上した ところで、打ち出すという一種の軽っぽさだ。党としっかり打ち合わせをしないといけない。それなしで打ち上げたものだから財務省にすっかり言いくるめられ たのではないかと見られてしまった。
  • C その話は自民党議員からも聞いたよ。組織を挙げてオルグをしていたのではないか。逃げ足はめっぽう早いからな。 (笑い)
    誰でも創価も知れないが市民派の人は支持率が高いとすっかり有頂天になってしまうところがありがちだ。

    甘酸直前まで社の世論調査では軒並みの支持率が低落気味だ。
    「菅さんの突然の消費税発言は、細川政権の福祉目的税を思い出すな」―民主党のある幹部が言っている。菅は突然言い出した。反響を聞いて少し直している。 支持率の影響が出ているようだ。
    過去では1994年2月の細川政権の時国民福祉税はこうだった。何の前触れもなく、細川首相が深夜に緊急の記者会見を開いて、国民福祉税導入の記者会見を した。税率7%の根拠を問われた細川首相は「腰だめの数字」と答えた。税率の根拠について細川は大蔵省当局から、説明を受けていた。官僚に利用されたとい う無念さがあったといわれる。「」腰だめ発言は首相が、大蔵省に操られているという印象を国民に抱かせるに十分だった。
○税は民主主義の原点だ
  • A 唐突と言う点では、細川政権時代の深夜の国民福祉税に似ている。財務省にいわされたといういまいましさもあっ て、細川は肝心な数字について腰だめだといった。
    国民福祉税構想は翌日、破棄し撤回された。結果はともかく、経緯は当時の国民福祉税構想と酷似していると言っていいだろう。
    自民党内では「財務相をやっている間にすっかり籠絡された」という見方がつよい。

  2010年8月2日(月)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



座談会(中)  参議 院選挙後の政局展望

議会政治の真価を生み出すチャンスだ
―老壮青が菅政権を叱る

司会 栗原 猛

 今回の参院選により、衆参のねじれ現象が起こり、参議院では攻守ところを変えた。対決のまま混乱が続き、地殻変動が起き るのか、話し合いで歩み寄りの方途を見つけ出すのか。日本の議会政治の真価が問われる局面を迎えた。政と官の在り方に今回は焦点を合わせた。

○ 民主、自民は権力抗争でなく論戦を優先させよ

― 菅さん(直人首相)は大分落ち込んでいるね。    

  • A 「あなたが首相になって何が変わるの?」という菅夫人のタイトルの著書が話題になっている。身内からの叱咤激励 だが、有権者の声を代弁しているところがある。
  • B ブレはひどかったからね。国家戦略がないことまで暴露してしまった。これでは折角、政権交代をした意味がなく なってしまう、と有権者はハラハラしている。支持率急浮上は自分の実力だと錯覚したのが禍の元だ。そこで高転びした。夫人はここをズバリと突いていて、有 権者の琴線に触れるところがある。
  • C 国家戦略会議とか「政治主導」の看板も下ろしたね。安倍政権は政治主導を掲げて霞が関と対立したが、次の福田政 権は改革の旗を降ろして官僚と宥和策をとった。どこか同じ道を歩いている。政治主導はそんなに難しいのかな。
  • D 民主党の勢力では、野党が反対したらそれこそ何もできない。日銀総裁人事が拒否されて大揺れになった福田政権と 立場が入れ代わった。参院で否決されたら衆院で3分の2ないから最重要法案の予算以外の再議決は無理だ。
  • B どんな太っ腹の首相だって、臨時国会、民主党代表選挙、普天間、臨時国会、予算編成と考えると、暗澹たる気分に ならざるを得ないだろう。
  • C 福田政権当時、衆参がねじれて民主党はここぞとばかり攻めまくっていたからね。立場が逆になった。
  • E この世界は「明日は我が身」だ。「禍福はあざなえる縄の如し」とも言う。普段から言動には注意が肝心なんだ。
  • D 谷垣周辺は早晩、行き詰まるから「総選挙近し」だと煽っている。
  • E 外国のメディアは、地殻変動の方を予測しているな。
  • A 私は日本の議会政治にとって、今、ものすごく大事な時期だと思っている。英国の議会政治は壁にぶつかるたびに、 世界中どこにも例がない中で、粘り強く議論して1つ1つ先例を積み上げてきた。日本でも与野党が粘り強く押したり引いたりして、歩み寄りの道を創り出すべ きだ。議会政治がレベルアップする絶好のチャンスでもある。
  • C 谷垣自民党が先にそれをやったら、自民株は急浮上間違いなし。(笑い)
  • E メディアも囃し立てるのはなく論戦をリードするぐらいでないといけない。
○ 守旧派の総本山は「霞が関」だ

― これだけ霞が関改革が叫ばれているのだから、官側から改革の火の手が挙がってもよさそうなものにね。改革と叫んで霞が関を飛び出した「脱藩官僚の会」 にも期待したいところだ。
  • D 霞が関にとって権力抗争は大歓迎だ。国家公務員制度の改革や天下り排除などが吹っ飛ぶからな。もともと守旧派の 総本山だからね。
  • B 改革案を換骨奪胎したり、すり替えたりするのもお手のものだ。政治が弱くなると強くなるのはいつの世も役人だっ た。
    E 860兆円もの財政赤字をつくった責任をどう思っているのだろう。
  • D 中国共産党の伝えられる汚職もひどいが、官僚同士似たところがあるようだね。
○ 国会議員は自らのムダ排除の音頭をとるべきだ

  • A ところで豪華な議員会館が3つもできた。1780億円だ。
  • B ちょっとのぞいたがこれまでの倍の広さがある。豪華な部屋に負けないようなよい政治をして欲しい。
  • A 財政再建策で提案があるんだが、歳費をカットするとか、各種手当を減らすとかね。国会議員から提案があってもい い。いまの衆参両院の議長は、ともに元社会党の議員だ。率先垂範、大胆提案があってもおかしくない。
  • B 政治家がムダ排除の先頭に立てば、霞が関だって反対ばかりしていられないだろう。
  • E それが物事の道理だよ。例えば、各省庁の事務次官当たりから、「天下り制度は評判が悪いから直していこう」と、 いい出したら評価が上がるのにね。ムダとか時代遅れになった組織とか制度の矛盾点は、自分たちが一番よく知っているのにね。

○ 民主党政権の実績も上げている

― 菅政権が政権交代の原点から出直すとして、何から手を付けたらいいんだ。

  • A まず政治と行政の透明化だろう。自民党時代にたまったウミやアカを落として政府の政策決定の過程をもっとオープ ンにすることだ。
  • E 橋本政権は6大改革といって間口を広げすぎたという反省があった。やるべきことはいっぱいあるが、ポイントを 絞って、まず一点突破してから順位進めるべきだろう。
  • C いの一番は自信を取り戻すことではないか。メディアはあまり取り上げないが、実績も挙げている。例えば、核密約 は政権の交代がなければ、外務省はいつまでも知らぬ存ぜぬを通していたろう。医師会、農業団体、日弁連などではトップが交代した。日中議連など超党派の議 員連盟でもトップが民主党に入れ代わっている。政府の審議会も官僚OBや御用学者が随分交代して、風通しがよくなっている。やがて行政にも反映されていく はずだ。
  • D 経団連も自民党から距離を置いた。「政官財利権のトライアングル」とか、伏魔殿とかいわれた権益グループの変化 は、政権交代でもなければ考えられなかったよ。
  • B 07年の数字だが、経団連は自民党に29億1000万円、民主党に8000万円献金している。経済界はその見返 りに税などで優遇されてきた。
  • A しかし「権力は必ず腐敗する」から、やがて民主党政権にもアカやウミがたまる。有権者はまた政権を交代させれば いいわけだ。
  • D 大学生を連れて事業仕分けに通ったが、不思議なことに学生たちは「廃止だ」「こ見直しだ」とほとんど当てていた よ。ところが「廃止」の事業が、一般会計で復活したり、特別会計の別の項目の中に名前が変わって潜り込んでいたり、換骨奪胎が進んでいる。
  • C ある旧知の官僚が「省あって国なし、己のみで、国民は眼中になし。霞が関の劣化も著しい」と嘆いていた。そろそ ろ国乱れて忠臣が現れてもいいころだ。
  • A 政権権交代の大事なところは、しがらみも既得権もないうちに思い切った改革ができることだ。英国や米国のよう に、政権交代がある国は改革がしやすいので、壁に頭を打ち付ける前に、Uターンができる。昨年の政権交代は、利権や既得権が複雑に絡んでいる自民党では改 革はできないから、民主党に期待を託したはずなんだがね。

  2010年7月26日(月)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



座談会  参議院選挙 後の政局展望

民主再建は政権交代の原点に立ち返るしかない
―老壮青が菅政権をしかる

司会 栗原 猛

 民主党政権は、昨年の9月に史上初めての政権交代を実現してから、まだ1年もたたないのに急降下した。「政治とカネ」問 題で、この春に放談会をやった老壮青の顔ぶれが、有楽町近くの中華料理屋で菅政権を肴に、暑気払いをやった。結論は急がば回れで、民主再生には、政権交代 の原点に立ち返って、数知れないほどある改革を1つ1つ粘り強くこなしていくことしかないーだったと思われる。
老荘青のジャーナリスト三人が今回の参議院選挙の結果を総括し、その後の政局などについて展望してみた。

○「日本人は淡泊で忘れっぽい」とドイツ紙

― まず参院選の総括からいこうか。      

  • A 敗因はズバリ唐突な消費税発言だろう。歴史的な政権交代からまだ1年もたっていないのに、菅民主党は有権者が政 権交代を選んだ意味を理解していなかった、としか言いようがない。発言直前の新聞には年収200万円以下の人が1000万人を超えたとか、年収1億円の高 額所得者の一覧表が発表されている。市民派にしては世間の実情に疎すぎた。
  • B 内閣支持率が突然、V字型の急浮上をしたので、気が緩んで自陣過剰になってしまったのではないか。好事魔多しだ よ。
  • C ドイツの新聞に「日本人はこの間まで、国会を牛耳ってきた自民党政治に飽き飽きしていたはずなのに、日本人の政 治的記憶は淡泊で忘れやすい」とあった。皮肉たっぷりだが的は射ている。
  • D どの報道機関の世論調査も消費税増税で「賛成」が「反対」を上回っていたから、これなら行けると踏んだのではな いか。当初、財務省は「勇気のある発言」ともて囃していたが、旗色が悪くなると途端に「菅さんは国際会議に出て財政赤字の深刻さを知ったのだ」と、36計 を決め込んでいた。膨大な財政赤字はだれがつくったのかと聞きたいね。 
○小沢を意識しすぎた?
  • B 小沢(一郎前幹事長)を意識して焦ったといっていた議員がいた。
    E 世論調査の質問が誘導的で意図的だと統計学の教授が言っている。865兆円の赤字を示して、赤字を減らすために「増税賛成」か「反対」か、と聞けば、 誰だって減らす方に○を付ける。だれがなぜ財政赤字が増やしたと思うか、どこに原因があり、どこをどう改めたらいいのかーという質問が必要だ。肝心な議論 が抜けている。
  • D 消費税で「自民党案を参考にする」と言ったのは、自民党と共闘が組めると直感したのではないか。財政に大穴をあ けた事実はは間違いないのだから、まず国民に「申し訳ない」という気持ちがあって当然だ。誠実さが感じられないんだな。それがなくて市民派宰相の看板を掲 げているものだから、余計にかちんとくる。看板に偽りありだ。
○蔵相時代から周到な準備をした竹下首相

― 自民党政権でも税は鬼門だった。
  • E 税では大平(正芳首相)、中曽根(康弘首相)両政権を思い出すな。大平さんは、79年10月の総選挙で、一般消 費税導入を掲げた。勇気ある行動だったが、評判が悪くて選挙の途中に断念する。結果は惨敗で、その責任をめぐって有名な40日抗争が展開された。中曽さん (康弘首相)は、国鉄、電電の民営化、同日選大勝などの実績を背景に売上税を打ち出した。しかし、党内から反対の署名運動まで起きて断念している。
  • D 結局、中曽根を引き継いだ竹下登政権が3%の消費税を実現させたが、そういえばキャッチフレーズは今と同じ「高 齢化社会に備える」だったよ。竹下は蔵相時代から財政再建のための決議案を採択したり、行政改革や不均衡税制の改革などを訴えて準備万端、用意周到だっ た。唐突発言の菅さんとは大違いだ。
  • E 竹下時代の政治家は皆、税の重大さを知っていた。財務省(旧大蔵省)の連中は、「竹下さんの方に足を向けて寝ら れない」といっていたが、それでも竹下は満身創痍、ボロボロになって退陣していった。増税は政権にとって命がけなんだ。
  • C 税務署長とか警察出身という肩書きはポスターに書かなかったくらいだ。
    A 私が印象深いのは橋本政権(龍太郎首相)が、自民勝利間違いなしと前評判がよかった参院選の投票日1週間前に増税を示唆した。ところが急に風向きがお かしくなり二転三転した。歴史は繰り返すで今回とよく似ている。しかし後の祭りで惨敗、退陣になった。

○こんどは外圧で増税ムード作り
  • C 菅の増税発言は、細川護熙首相が深夜、突然記者会見して「福祉目的税」を発表した場面を思い出した。細川は記者 団からアップ率を聞かれて、「腰だめだ」と答えた。この発言が「不真面目だ」と反対の火に油を注いだ格好になったが、後で取材してみると、「福祉目的税」 が財務省や小沢一郎幹事長など、一部の間の根回しで進んでいることに腹が立ち、とっさに口をついて出たものらしい。
  • A 腹立ち紛れの発言がいい結果を生むこともあるんだな。(笑い)菅はまず民主党内で論議をすべきだった。それをし ていないから、だれだって財務省の受け売りだと思うよ。
  • B こんどはIMFなど国際機関や米政府などに働きかけて「外圧」で、増税ムードを盛り上げようとしているらしい。
  • A そんなことをしたら日本はあっちにもこっちにも頭が上がらなくなるぞ。税は民主主義の原点中の原点だ。英国の議 会が誕生したのも、米国の英国に対する独立戦争もきっかけは税金だった。フランス革命は米の独立戦争の影響を受けている。昔だけでなく今も税こそ議会制民 主主義の基本だ。そこが肝心なところで民度がはかられる。
  • C 比例の得票数を見ると、民主党は1840万票で、まだ自民党に400万票以上の差を付けている。これは民主党に 対する期待感だろう。「過ちて改むるに憚ることなかれ」で、再生するかどうかは、政権交代の原点に返れるか原点に返れるかどうかにかかっている。

  2010年7月15日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



消費税の引き上げ論議 はまだ早い
天下には常設のチェック機関が必要だ
―大学生が見た仕分け作業

栗原 猛

 これだけ事業仕分けをやってもあまり無駄がないのだから、いわれているような無駄使いはないのではないか。そろそろ消費 税を増税して社会保障に回すなど、財政再建論議に入るべきだーという議論がメディアで見かける。日本人は忘れっぽい人種だといわれるが、実は消費税を3% から現在の5%に引き上げるときの政府の説明は、「将来の社会保障に備えるため」というものだった。

 事業仕分けの第2弾を、今回も政治や経済を専攻している大学3年生3人とのぞいた。傍聴者はサラリーマンや年配の方で満員だ。学生は数えるほどしか目に つかなかったらしい。以下は学生たちの感想であるー。蓮舫議員はテレビには厳しく迫っている画面ばかりが映るが、会場で見ると、相手の考えも尊重した上で 「廃止」に対する意見を述べている。実際に見るのとでは大違いだーと第一印象をいった。

 ハイライトは、21日の「日本宝くじ協会」、「自治総合センター」など、総務、財務、経産省のOB天下り団体である。年間300億円投入される総務省 OB官僚の天下り先の年収が、2000万円前後と説明されると、傍聴席がどよめき「国民を馬鹿にするな」とヤジが飛んだ。塩の販売をする財務省の「塩事業 センター」、競輪の収益金の助成を受けている経産省の「JKA」などの、不透明なカネの流れが次々に公開された。学生たちは「3省の均衡をとったのだろう が、一部とはいえカネの流れがオープンになったのは前進」という感想を述べた。

 学生たちは、官僚の答弁ぶりから、直感的に廃止か存続かが分かるようだった。農水省の全国農林統計協会連合会の「調査員の講習会委託事業」と「田んぼの 生き物調査」の仕分けを見た学生は、いくら聞いても事業の効果や成果を検証しているようには思えない。答弁が何度も詰まっていたが、学生の判定は「廃止」 だったが、結果もやはり「廃止」、「見直し」となった。

 帰り道、学生たちは「無駄排除のシステムを定着させる機関が必要だ」と語り合っていた。「廃止」と判定されても、別のところで復活したり、こっそり他の 事業に潜り込んでいたりするからだ。例えば、第1弾で、外交専門誌を買い上げて配布する事業は「廃止」となったが、外務省は新規予算で自ら雑誌を創刊す る。また「発売中止をやめる」とされた宝くじは、総務省は発売を続ける方針だ。そうなると、OBの天下りや高額な報酬はどうなるのかだ。
 また埋蔵金や補助金は地方自治体と折半になっているから、法改正をしないと、地方と組んで反対されることもある。元の木阿弥にならないように、今後は、 「130事業の廃止」がその通り、実行されているかどうかを監視することが極めて大事になる。

 昨年11月から行われた仕分け作業の第1弾では、2010年度概算要求のうち450事業、第2弾では独立行政法人のうち47法人の151事業と、公益法 人、特別民間法人の計70法人の82事業が対象になり、計683事業のうち130事業が廃止と判定された。

 「廃止」の数は多いように見えるが、国の事業全体から見ると、まだまだごく一部にしかすぎない。「富士山でいえばまだ2合目かな」という霞が関の声もあ る。しかも国の予算には事業系ばかりではなく、制度系のものがあり、予算額も制度系の方がはるかに多い。今後はさらに仕分け人を増やして残りのすべてに切 り込んでいく気構えが欲しいところだ。

 天下りや無駄排除は、霞が関をはじめさまざまな抵抗があって、政権の命運をかけるくらいの覚悟が必要といわれるが、今の日本を建て直すには、この改革は 避けて通れないのではないか。

 例えば国会の予算委員会では、予算案の審議だけが脚光を浴びるが、これからは特殊法人、独立行政法人などの特別会計の審議も必要になる。予算委で十分な 時間がとれないのならば、別途、委員会を設けるべきだ。天下りでは国家公務員制度の改革を急ぎ、定年を引き上げることも大事だ。チェック機能でいえば、参 院の決算委員会の機能を拡充し、欧米議会にあるような会計検査院的な独立の監視機関を国会に設けてもよいだろう。一般会計と特別会計を統合してガラス張り にすることも急務だ。

 無駄使いや天下りを退治するには、行政、立法、メディア、公務員の意識改革、国民の監視の目―などが、総合的な視点から取り組むことが必要であるように 思われる。


  2010年6月2日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



いま新聞の「声欄」が おもしろい


栗原 猛

 普天間問題では、政権の迷走ぶりと5月末までの期限、沖縄の反響ばかりがクローズアップされがちだ。ところが、新聞の 「声欄」に目を通していると、はっとするような知恵やアイデアが披露されている。この中から混迷する事態の打開策が見つかるのではないかー。

 まず、どこの地方自治体もかかわりたくないのだろうが、国の安全は沖縄だけの問題ではない。国民全体の問題である。例えば全国知事会は、沖縄の負担軽減 のために話し合いを呼びかけたらどうか。知事会のリーダー格の梶原福岡、発進力のある東国原宮崎、元気印の橋下大阪府知事らの行動力に期待したいーという 提案である。知事会が率先垂範、こういう時に行動力を見せれば、懸案の地方分権も前進させられるのではないか。

 沖縄の戦跡めぐりから基地見学もしてきたという主婦は、日本にある米軍基地の7割以上が沖縄にあるといわれ、戦後60年たっても基地に苦しんでいる。基 地の規模といい、戦闘機の離着陸の騒音といい半端ではなかったと言っている。旅行関係者は、このところ普天間、嘉手納基地に足を延ばす旅行客が増えている という。

 連休直後の「声」には、鳩山首相は沖縄県民の声を直接聞いた結果、どの案も打開策にはならないことを肝に銘じるべきだ。5月決着にもこだわる必要はな い。まず訪米して政治生命をかけて米側と話し合いをしてほしい。その際は、日本国民の生命と財産はこうして守るという明確に意思表示すべきだ。野党やメ ディア、評論家などはまたぶれたと非難するだろうが、米国は民主主義や人権も大事にする国だ。国民の声を優先する姿勢は必ず理解してもらえるはずーという 趣旨である。

 抑止論の立場からは、沖縄米軍の抑止力を減らしてはいけない。米軍の抑止力が利いているから、憲法9条の下でも安全保障が確保できることを認識するべき だ。沖縄の人には申し訳ないけれども地理的条件から、海兵隊の基地が沖縄に置かれるのはやむを得なのではないかーと指摘する。

 これに対しては、彼我の軍事力の比較も大事だが、例えば、中国に進出した日本企業で働く中国人は1000万人を超えた。日中間に万一のことがあれば、困 るのは結局、日中両国家、国民である。したがって学術、地球環境、文化芸術、科学、スポーツなど、さまざまな分野で交流を深めていく「ソフト抑止力」を強 化していく努力こそ大事だーとの反論がある。

 外交・安保については、専門家に任せておくべきだという意見がある一方、専門家だけに任せておいたからこそ、行き詰まってしまったという指摘もある。 「声欄」の主は、外交、安保の専門家でないかもしれないが、グローバリズムの世界で丁々発止とやり合っている。外交も安保もビジネス世界の鉄火場もそう大 きな違いはないはずだ。こうした人々の「声」には、聞くべきものがあるように思われる。

 国の外交や安全保障の基本は、政権交代があっても変えるべきではないと言われる。ただ、ある外務省のOB高官氏は、「空気は変わるでしょう。これが大き い」といっている。それがないと政権交代を選らんだ民意は何だったのかということになり、日本の議会制民主主義の底は浅いものだということになってしま う。

 首相だった池田勇人、佐藤栄作、中曽根康弘、竹下登氏らは難問にぶつかると、よく東洋哲学者の安岡正篤氏、「経世の師」といわれた四元義隆氏を訪ねた。 安岡氏は「虎穴に入らずんばー」といって、宋時代の碩学、張横渠の「万世のために太平を開く」という気構えを説いた。四元氏は「大死一番、活殺現世」と色 紙に書いている。安岡、四元両氏のような「心の師」は見当たらないが、捲土重来、もう一度スタート台に戻って、チャレンジする勇気をかき立てることではな いか。


  2010年5月20日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



米軍経費負担、他の米 同盟国26カ国分より多い
―基地の75%は沖縄県に


栗原 猛

 普天間問題をきっかけに、日本に米軍基地がどのくらいあって、駐留経費はどうなっているのか疑問がわいてきた。新聞をい ろいろめくってみたが、まとまって報じられていないようだったのでちょっと調べてみた。

 米軍基地は世界中に展開しているが、日本には現在29都道県にあり、総面積は1000平方`超である。一概に1000平方`といっても分かりにくいが、 東京都23区の1,6倍の広さだ。そのうち75%が沖縄に集中している。一方、四国、近畿、日本海側にはほとんど米軍基地がないのが特徴だ。

 在日米軍の規模だが、移動などもあって実数はつかみにくいが、44、850人(2008年、外務省)といわれる。これに軍属、家族を含めると94、 217人となる。お隣の韓国は、37、000人で、ドイツには71,000人、イタリアには12、000人とみられている。

 さて駐留経費の負担額は、調査時期の違いもあるが、米国の同盟国26カ国がそれぞれ自国の駐留米軍費を負担しているが、その総計は約84億jである。こ のうち日本の負担額は、44億1100万j(現在のレートで約4400億円)で、全体の53%である。つまり日本をのぞく26カ国の合計より多いのであ る。2番目はドイツ15億6400万j、韓国の8億4300万jと続く。

 規模が大きくなったのは、日米安保条約にも根拠がないといわれる「思いやり予算」などが拡大されてきたからだ。また米軍再編の本格実施に伴い、再編経費 が前年度比481億円増の1320億円に増えたこと、また沖縄米海兵隊のグアム移転のためにグアム島の基地増強計画の126億円増や、米海軍厚木基地の空 母艦載機が米海兵隊岩国基地への移住も215億円増だった。

 「思いやり予算」は1978年に、円高ドル安対策として、在日米軍基地で働く日本人従業員の給与の一部負担(62億円)でスタートし、その後、米側の要 求が光熱費、水道費、訓練移転費、施設建設費、米軍のレクリエーション施設などに拡大。2001年の2573億円を最高に、2010年は1810億円、 78年から2010年までの32年間では5兆5千億円(NHK、2010年4月)となっている。

 「思いやり予算」については、ドイツも払っていると言われたが、NATOの規定で駐留米軍の住宅補助や税の優遇措置があるが、日本のような「思いやり予 算」はない。民主党は、事業仕分けで「思いやり予算」は、米軍基地で働く従業員の給与水準だけについて実施し、見直しを行うという結論を出していたが、実 際には行われていない。ことしは安保条約50年の節目に当たる。また政権交代があってまだ1年もたっていないが、世界的にも高水準の駐留経費は、適正規模 にする努力が求められているように思われる。


  2010年5月5日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



政権交代の効果が出て きた


栗原 猛

 民主党政権の支持率急落、普天間、郵政改革の迷走イメージばかり印象づけられるが、22年度予算が成立し、株価が上向き をはじめ、経済界には不況の2番底は回避されそうだとの楽観論も出ている。これまで自民党支持の「政官財」で固められていた組織のトップ人事でも静かに交 代が進んでおり、チェンジ効果が徐々に現れ始めた。

 空気の変化が感じられたのは、核持ち込みに関する密約文書の存在をめぐる一連の経緯である。米政府は公文書で認めているが、日本政府は頑強に否定してき た。ところが政権交代を機に、外務省の元高官が次々に密約の存在を明らかにした。追い打ちを掛けるように情報公開訴訟で東京高裁が、国民の知る権利をない がしろにしているとして、密約不存在を認めず、開示命令を出した。つまり紛失したのはいつで責任はどうなっているのかと追及したのである。政権の交代がな かったら、こうした展開はなかったのではないか。

 医師会、農業団体といえば、自民党の堅い支持基盤だったが、ここでも変化の兆しが出ている。先の会長選挙で会長が民主党支持派に入れ代わり、農協グルー プの全国農政連は、この夏の参院選では組織内候補を立てずに自主投票になった。日弁連にも人権派の会長が誕生している。昨年夏、政権交代を選択した民意と 無関係ではないだろう。

 日韓議員連盟の会長が、自民党の森喜朗元首相から民主党の渡部恒三元衆院副議長に交代したのも象徴的だ。同議連は75年に結成され、国会議員200人と いう大所帯で、福田赳夫、竹下登両元首相など大御所が会長を務めてきた。日米関係のさまざまな交流の分野でも入れ替えが進んでおり、民主党によると、 103ある超党派の議員連盟の2割で既に会長が交代したという。

 「足利事件」で無罪判決が出て、裁判長が謝罪した。これをきっかけに検察や警察の捜査の在り方に疑問が出された。JR宝塚線の脱線事故で、神戸地検が不 起訴処分にしたJR西日本の歴代社長3人について、神戸検察審査会が、業務上過失致死罪で強制起訴すべきだという起訴議決を出している。市民の目線が「お 上」の判断を覆したケースといえる。

 また東京高裁は、国家公務員が休日に、政党の機関誌を配布したことを処罰するのは表現の自由を保障した憲法に反するとの判決を出した。判決の中で高裁 は、公務員に対する国民の意識が変わった。表現の自由は民主主義国家の政治的基盤を根元から支えるものだ、との判断を示しているところが注目点だ。

 最高裁判事に岡部喜代子・慶応大法科大学院教授が就任。15人の裁判官のうち現職の桜井龍子氏とあわせて、女性が複数を占めるのは初めてである。背景に は、女性を起用したいという鳩山内閣の強い意向があったといわれる。遅すぎた感は否めないが、「ガラパゴス」といわれてきた司法の分野でも変化を感じさせ る一幕である。

 前原国土交通相が、国土審議会など主要な3審議会の委員を入れ替えた人事も見逃せない。御手洗冨士夫・日本経団連会長ら自民党政権に近かったということ で、財界人や学者27人が交代した。前原氏は「御用学者的な方は排除したい。政権に対してもものを厳しく言って下さる方を選んだ」と言っている。新委員も ポストにしがみついて既得権化しないよう定期的に交代することが肝心だ。

 鳩山政権に対する評価は芳しくないが、ただ批判や中傷の中には霞が関の内情を熟知したものも少なくないらしい。欧米で政権交代があるのは、ポストや組織 を入れ替えることによって、チェック機能を働かせ、利権構造や既得権益をつくらないようにしているからだ。したがってアゲインストの風が強いほど、チェン ジが進んでいると言えることにもなるが、まだチェンジ効果が現れていない雇用、年金、中央と地方の格差、天下りや無駄の排除などに向けて、さらにエンジン を吹かす気構えが大事だ。


  2010年4月22日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



批判を直視し政権交代 の原点に返ろう
  ―民主党の立て直し策


栗原 猛

 各紙の世論調査で内閣支持率が軒並みに下がっている。歴史的な政権交代から半年しかたっていないのに、危機的な状態だ。 支持率低下の原因にはひとえに鳩山首相、小沢幹事長の政治とカネの問題にあった。小沢氏の政治手法や鳩山家のカネの問題への対応は、自民党時代とたいして 変わりがないではないか、という不信感を広げた。

 民主党は政権交代をしたのだから、これまでとは違った対応が求められた。不況克服のための予算審議は大事だが、たとえば、予算委員会とは別に政治とカネ の問題を徹底審議する場を設け、今回は検察の捜査の在り方についても重要な問題が指摘されたのだから、その点も含めて議論してよかった。

 そこでは山口二郎北大教授も指摘するように、小沢氏は大量の秘書で選挙を戦う小沢流のビジネスモデルを、また鳩山氏は自分のカネで政治をする井戸塀政治 家をアピールする手法もあったのではないか。野党の追及の機会を封じようとするなど、かえって対応のまずさをさらけ出した感じだ。

 自民党の基盤を切り崩すためとはいえ、幹事長の下で公共事業などの陳情政治が復活するようでは、今までの自民党批判は何だったのかということになる。参 院選に向けて組織固めが大事かも知れないが、自民党時代に逆戻りした印象だ。また友愛精神を掲げながら朝鮮学校を高校無償化からはずした。いずれも民主党 らしさを減じたと思われる。

 気の早い週刊誌は、鳩山退陣時期を取りざたしているが、鳩山政権が数カ月で政権を放り出すようなことになれば、民主党のリーダーも安倍、福田、麻生首相 ら自民党のリーダーと変わらないことになる。ある省のOB局長に会ったら「政治家主導では何事も前に進まない。やはり優秀な官僚主導が必要ではないです か」―と言っている。そうなると民主党の危機どころか、日本の民主政治の危機ということになってしまう。ここは大死一番、頑張りどころである。

 マイナス面ばかりが目につきやすいが、前進した分野もある。政治とカネの問題ばかりでうんざりしていた予算委員会では後半、マニフストをめぐる議論も活 発になった。核密約の一端が明らかになり、事業仕分けでは政府予算の無駄が指摘された。冤罪や捜査の可視化、裏金問題などについても議論が出た。いずれも 政権交代があったからこそ起きた変化であろう。議員連盟や政府の各種審議会で、官庁OBや常連の学者が退き、メンバーチェンジしているのも変化だ。

 政権交代というのは、さまざまな分野で人脈を入れ代えることによって、利権構造を減らしていこうということだから、一時的に効率が落ち、交代させられる 側からは猛烈な批判や反発が起こる。揺り戻しという現象だが、その代わりにチェック機能が働くようになり、新しいエネルギーもわく。時代の変化への対応も スムーズになる。欧米の議会政治で国民が、政権交代を選択している根本はここにあるといわれる。

 共同通信の最新の世論調査では、雇用、景気、年金問題への期待が突出していた。これは政権交代直前とまったく同じである。民主党にいま大事なことはまず 原点に戻って、課題を整理して優先順位をつけ、いつまでに実行するのか示すことではないか。海の向こうのオバマ政権は、懸案の医療保険制度を成立させた。 民主党もオバマ政権の粘り強さと実行力を見習って、着実にチェンジを進めてほしいところだ。


  2010年3月25日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



検察行政の改革急務、 メディアも猛省を
  米は「鳩山―小沢」に期待感
  ―憂国の士が放談会


栗原 猛

  長かった鳩山・小沢氏の政治とカネをめぐる捜査が終結したところで、5人の老・壮・青がこんどは 東京・本郷のすき焼き屋の2階で放談会をやった。酒は広島出身の長老が持参した剣菱だ。「頼山陽が日本外史を書くとき、発憤するために飲んだ。四十七士も 討ち入りの時にやっている」と、前口上があった。飲むにつれピッチも上がり、話題は検察やマスコミの在り方、日米中関係など憂国の至情は広がった。(敬称 略)


―大騒ぎの収支決算は。

  A 日本人は勝ち負けに割り切りがちだが、そうではなくて今回はブログ、週刊朝日、日刊ゲンダイの健闘が光った。一方の大マスコ ミは総崩れだ。
  B マスコミ人にとっては、現役時代に一度あるかないか、のるかそるかの局面だったと思った。
  C 日ごろ鍛えた真価を発揮するチャンスだと思ったが、「検察対小沢」というパターンで見ていた。うまく誘導された感じだ。
  A 「流星光底長蛇ヲ逸ス」の図だな。
  B 日本全体が豊になり、学生運動やベトナム戦争反対も知らない世代が社会の中堅になって、権力の怖さを知らない人が多くなって いるのではないか。
  E うちのかみさんは検察と二人三脚見たいといっていた。
  D 今ごろになって「土地代の原資も壁」とか「上層部が慎重」とか、検察批判に転じている。信頼回復のために検証や猛省が先だ ね。

―「検察も指揮権発動は覚悟の上だ」と大見得を切っていた。

  A かつて指揮権が発動された時、検事総長はかんかんになって怒っていたが、その後3年もポストに居座わり、結局7年も勤めた。 本来なら抗議して辞めるのが筋だった。出処進退について、当時、検察内部でも批判があったね。
  C 指揮権の知恵を出したのは検察高官だったというね…。
  D 政治と検察の妥協があった。今回は、指揮権が発動されても、当時のように政府批判は起きないだろうと、旧知の検事OBは言っ ていたな。司法や検察に対する世間の見方が変わってきているというのだ。
  E 鈴木宗男議員や佐藤優氏ら裁判中の人が堂々と、マスコミに登場して捜査の非を鳴らし、国家の将来を憂いている。それを認める ような素地があるということだな。 
  B 昨年の夏の選挙の結果は、もっと年金の不始末、天下りや税金の無駄遣いをしている「巨悪」を退治してくれということだったは ずだ。
  C 検事総長や特捜の幹部がゼネコンや商社などに天下りしているね。裏金問題もある。そういえば検事総長を辞めたら政治評論家に なるといった人がいた。そう願いたいね。 
  D 足利事件などここにきて冤罪事件も目立つ。横浜事件は戦前だがひどいものだ。何人も殺されている。事情聴取の可視化は急ぐべ きだ。
  C 調べのテクニックだとはいっても、「四つんばいになって伏せていろ」とか、机の脚をけったりするのはひどい。米軍が事件を起 こした兵を日本に渡さないのは、後進国の捜査には任せられないと言っているそうだ。
  A 日本の検察官は訴訟から捜査、ガサ入れまで欧米の検察官を上回る強大な権限を持っている。守備範囲が広い上に、有罪に持ち込 むことが至上命題だから、どうしても無理が出る。事件の絵柄を描いて、それにあわせて証拠を固めをする。ところが「事実は小説より奇なり」で、世の中の方 はもっと複雑怪奇で奥深い。そこを読み切れないから最高裁で無罪になったりする。欧米の検察のように訴訟一本でいくべきではないか。
  E 「国民の信頼」が「検察や司法の権威」を支えているんだがね。

― ところで今回はブログの活躍が目立った。

  C いくつかのぞいてみたが、まじめなものがあった。それに面白い。うかうかしていると重大局面では、世論はメディアでなくブロ グがつくるということになりかねない。
  B 中国の古典に、「政治家や役人は二つの目でものを見るが、世論は何千万という目でみている」というのがあった。ブログという のは、その人たちがすべて発信機能を持ったということだ。

― 「100年に一度の不況」なのに政治や行政は空白が続きそうだ。
  E 国会は鳩山・小沢たたきだ。景気、雇用、年金、国家公務員制度、特殊法人、特別会計の改革など山ほどある。ピッチを挙げても らいたいね。
  C 昨年の給料は3,9%も減った。15歳から24歳までの若者の失業率は8,4%だ。JALもトヨタもどこかおかしい。財務省 も日本銀行も何か手を打っているの。
  E 野党は証人喚問とか、参考人招致とかやって参院選まで引き延ばすつもりだろう。政治の空白極はまだまだ続きそうだ。
  A そろそろ「国乱レテ忠臣現レ」てもよいころなんだが。
  B 議会政治の前進という点から言うと、自民党は作戦を変えて、徹底的な政策論議をした方が、ニュー自民党を売り出せるチャンス でもあるんだがね。
  D この間、奥野誠亮(元法相)さんに会った。96歳、かくしゃくとしたものだ。戦前の政治家や官僚は、「三事忠告」という本を 読んだと言っていた。中国の宋時代に宰相、検察長官など3つの要職を務めた張養浩という人が書いたもので、「結論をいえば政治家や役人に大事なことは廉 直、公正、自制だ」といっている。
  B 真理は足下にありだ。
  A 西郷隆盛は、「地位とカネと名誉」がいらない人でないと国家の大事は任せられないと言った。この3つを一人で独占しようとす る欲深が多すぎるから、国の財政に大穴を開けても平気なんだ。

―話が変わるが、キャンベル米国防次官補と駐日米大使が小沢に1時間も会っているね。

  B 地検の方針が出る前日だ。第6感だが「米政府は鳩山・小沢を支持している。検察もそろそろ矛を収めたら」というサインだった のではないか。
  E 日本政府には訪日の予定をもっと早くから伝えてきたはずだ。米は捜査の推移を見極めていたのだな。
  D ブッシュ政権時代のネオコン人脈、自民党や霞が関の右の勢力が連携して、安保、防衛、外交などで「鳩山・小沢」を揺さぶって いるという見方がある。経世会と清和会の最終決戦だとみる人もいたな。

  D 小沢は「親中で反米」だが筋が通ってもいる。ここは一番、小沢のガバナビリティーに任せるしかないと判断したのかも知れな い。米は小沢に先の訪中団を上回る代表団を連れて訪米してくれと言ってきているというし。
  E 中国も日米が良好なことを望んでいるというし、日米中はこれからますます大事になる。国際政治の舞台は、上品な二世三世では 心許ない。潔癖性ばかりも言っておられない複雑で奥深いところがある。
  A 米政府にとって日本の政局が安定しないと、中国をにらんだ世界戦略が描けない。ホワイトハウスの中にも日本の国民が選んだ政 権だから、柔軟に対応しないといけないのではないかという考えも出てきたらしい。民主主義の深さを感じさせるね。
  C 長く続いた「自民党外交」から「民主党外交」に、ギアチェンジする歴史的な瞬間に来ているのだろう。だからアンシャンレジー ムの「鳩山・小沢」引き下ろし作戦はさらに激しさを増すとみる。


  2010年2月8日(月)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



「鳩山・小沢の執拗な 捜査」は
公務員制度改革阻止にあり


栗原 猛

   鳩山政権は4月から財政赤字の元凶といわれる特別会計の事業仕分けに入る。国民こぞって成果を期待しているところだが、実はこうした一連の改革と「鳩 山・小沢の執拗な捜査」とは、底流で結びついているのではないかとみる向きが少なくない。

 鳩山政権は、特別会計、国家公務員制度改革、天下り先の特殊法人改革などを、税の無駄遣い退治の3大改革に据えている。ところが、この改革に霞が関は総 論賛成、各論は絶対反対である。実は国家公務員制度改革など行政改革に取り組んで、官僚陣から揺さぶられた内閣は民主党の鳩山政権だけではないのである。

 自民党の橋本龍太郎、小泉純一郎、安倍晋三政権もそれぞれ行政改革を掲げ、霞が関から巧妙なサボタージュや骨抜き、挙げ句に個人攻撃をされたと、当時の 関係者は証言している。橋本政権は省庁再編や財政構造改革など6大改革に取り組んだ。ところが橋本首相は参院選の終盤になって突然、恒久減税をとり挙げ、 これが二転三転する。その結果、参院選は勝利間違いなしという前評判は覆り敗北、退陣につながった。当時、首相周辺にいた人たちは、「恒久減税は省庁再編 に対する霞が関からの意趣返しだった」と言っていまでも悔しがっている。

 次の小泉改革は独特のキャラクターと大立ち回りをして、道路公団と郵政の民営化にこぎ着けたが、郵政改革は政権が交代した途端に元に戻った。小泉改革を 引き継いだ安倍政権は、国家公務員制度の改革を表看板にして取り組んだ。ところが、「冷蔵庫の開閉から箸の上げ下ろしまで批判され」、安倍政権は誹謗中傷 の中で退陣する。「悪口のネタもとはほとんど霞が関だったよ」と、当時の関係者はいまでもお冠だ。

 特別会計、天下り法人の削減、公務員制度の改革の3点セットは、これまでの政権が取り組んできた一連の税金の無駄遣い撲滅、公務員制度改革の締めくくり に位置する。それだけに官の反発や抵抗の嵐が予想される。巧妙な骨抜きや落とし穴も各所に仕掛けられるに違いない。鳩山政権は覚悟を決め、しかも結束して 事に当たらないと改革は一歩たりとも前進しないだろう。

 財政赤字850兆円の3分の2は、5000近くある天下りのための特殊法人がつくったといわれる。また会計検査院の調査でも税のさまざまな無駄遣いが指 摘されているところだ。裁判所や検察庁ですら裏金問題が指摘されている。肩たたきの慣行を含めた公務員制度の改革は日本が抱えた喫緊の課題である。国民に 奉仕する官であるならば、そろそろ官の側から改革の声が挙がってもおかしくない時期だ。

 政治とカネの問題でいえば、2008年度の調査では、自民党には企業献金と、個人献金をあわせると224億円、経団連からの政治献金が28億円で、合計 すると252億円になる。これに対して、民主党は野党だったこともあるが、企業献金と個人献金はあわせて40億円、経団連からの献金は8000万円の計 40億8000万円である。与党と野党のハンディキャップが大きすぎるのではないか。政権交代を軌道に乗せるためにも国会はこの格差を縮める議論をしてほ しい。

 いま政治とカネの問題では、鳩山・小沢コンビがやり玉に挙げられているが、岡目八目でみても、各省庁間の調整なしに競ってハコものをつくり、5000も ある特殊法人に天下りや渡りなど、税金の無駄遣いの「巨悪」に比べたらまだ「小悪」ではないか。昨年夏の政権交代は「鳩山・小沢」コンビのパワーで、「巨 悪」を改革してほしいという期待が込められていたと思われる。

 じつは日米外交筋によると、米側の小沢に対する評価が変わってきたといわれる。アジア、中国、EUなど世界情勢などを見ると、いま日本の政治が安定して いてもらわないと困る。ガバナビリティーのある政治家は小沢しかいないのではないか」と、言っている。こうした意向は、日本政府にも伝えられているはずと 言われる。

 政治とカネの問題は、捜査中で何ともいえないが、戦前は、検察によって斎藤実内閣が帝人事件でつぶれたが、事件は全く架空のものだった。戦後は昭和電工 事件で民主党の芦田均内閣が崩壊したが、これは検察とGHQが仕組んだ事件だったといわれる。芦田は無罪になったが政治生命は失った。検察の歴史を振り返 りつつ、捜査の執拗な長引き方といい、鳩山・小沢両氏に集中していることといい、底流では国家公務員制度改革潰しなど、政治的意図や人脈が絡んでいるので はないかと疑念を抱かずにはいられない。


  2010年2月4日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



検察捜査に「政治的意 図」?


栗原 猛

 小沢一郎民主党幹事長の事情の聴取が終わったことで、事件捜査は新しい段階に入った。異業種間交流の仲間の老・壮・青が 有楽町のガード下の焼鳥屋で遅い新年会をやった。話題は鳩山・小沢両氏の政治とカネの問題から検察の在り方などに広がった。(敬称略)

 ―まず小沢の会見の印象は。
 A 傲慢さは消えていて、どこかさばさばしていたから、幹事長を辞めると言い出すのかなと感じた。説明は不十分だがともかく国民の前で説明したことは好 かったと思う。
 B これからは起訴を視野に入れて攻め上っていくのではないか。指揮権発動は覚悟の上だとしきりに流れている。
 D その指揮権発動だが、昭和電工事件でこの知恵を出したのは、検察幹部だったというではないか。そのときの検事総長は7年もやっている。論功行賞か な。指揮権発動をかんかんに怒っていたのだが。
 C 考えても見ろよ。予算論議はそっちのけで鳩山・小沢問題ばっかりだ。景気対策や雇用、無駄遣い退治とか何もない。知り合いの官僚は公務員改革など吹 き飛びますねと喜んでいた。
 ― リークがこんなに話題になるのも珍しいね。
 A ほぼ同じ内容の供述が同じ日の2つの新聞に出ていたこともある。
 C 報道機関はどこもリークはないと否定している。ただ辞め検(卒業した検事)の弁護士に聞くと、夜回りなどで捜査の核心に触れられたりすると、書かな いでもらう代わりに、本筋から離れた供述内容などを渡して、お帰りいただくということはあるという話だ。
 C 最高裁で無罪になった長銀事件を担当検事が、今回の事件の指揮に当たっているといわれる。無罪ということは、人権を著しく傷つけたことだから、われ われの職場では責任問題になるが、検察ではその点どうなっているのかな。
 D 組織で捜査するのだから、個人に責任はないということではないか。
 E 百歩譲っても結果責任はあるのではないか。米海軍は横須賀で駆逐艦がちょっと火災を出したら、すぐに艦長を更迭している。けじめが組織の弛緩を防ぐ のではないか。
 D 民主党の政治主導路線に対して、絶対反対の霞が関守旧組が検察をバックアップしているという人がいる。
B 元官僚でもある堺屋太一さんが、官僚機構の問題点は、国民のことを考えないで、天下りなど組織の利益だけを追求しはじめていることだと言っていた。国 や組織が滅びる兆候だな。トインビーも「歴史の研究」の中で似たことを言っていた記憶がある。
―それにしても長い捜査だな。昨年の3月から小沢1人にかかわっている。
 B 法事で親戚筋の検察OBに会ったら「『民主党は日本にとって危険な党だ』といっていたのには驚いた。
E 憲法の下で仕事をやっているのに、議会制民主主義とか有権者の選択をなんと考えているのかな。それこそ危険思想だね。(笑い)
 C そういえばある判事から「司法はガラパゴス島だ」と聞いたことがある。
 ―財政赤字を800兆円にも積み上げてしまった方が、よほど犯罪的だと思うけど。
 B 税の無駄遣いは合法性を装っているから、政治資金規正法違犯に負けないくらい悪質だよ。かんぽの宿や全国に13もあった大規模保養施設をすべて倒産 させて、1兆円以上税金に穴を開けても、誰も責任をとっていないんだ。まずこの捜査をしてほしいな。
 D 税の無駄遣いは一発で駆除できるね。
 C 検察といえば、遠山の金さんとか正義の味方だとかいわれ、格好いい商売だなとあこがれたこともあった。
 E 日本人は潔癖すぎるから、いったん悪口が報道されると、尾ひれがついてしまいには大悪人にされてしまう。山本七平さんがいう空気ができてしまう。少 数意見をいう勇気が大事だね。ケンブリッジ大学に留学した友人は、徹底討論で鍛えられといっている。
 A ところで最近、日本人の順法精神とか、司法の権威が薄れているという心配がある。例えば、贈収賄で逮捕された防衛省の元事務次官が、普天間問題で新 聞に堂々と登場している。その道の権威かも知れないがちょっと変だよ。掲載する方もおかしい。
 ― 欧米では政界トップがかかわるような場合はどうしているのだろう。
 C 欧米では、国の安全とか国家の利害損得という高度の判断から、捜査を先に延ばしたりする。それを国民も認める土壌がある。これは民主主義の成熟度の 問題だといっていた。
 B 台湾や韓国では政権交代があると、前大統領を逮捕するなど激しいのはお国柄の違いかな。この調子だと景気対策や行政がお留守になって、日本は沈没し てしまうぞ。
 D 老婆心で言わせてもらうと、検察を激励することも必要なときがあるが、戦前には政党政治に介入し、でっち上げ事件で内閣を倒すなどの歴史があった。 斎藤実内閣は架空の帝人事件で崩壊させられた。戦後では民主・社会・国民協同の三党連立の芦田均内閣が昭和電工事件で潰されたが、この事件は検察とGHQ のG2(参謀第二部)が、中道政権を潰そうと仕組んだと言われる。斎藤をはじめ芦田らは無罪だったが、内閣は潰されたままだ。日本の検察は、アメリカやド イツの検察と違って、公判だけでなく捜査もやれば逮捕もできるので権限は強大だ。国民の潔癖性と結びついてブレーキが効かなくなりがちだということも知っ ておいた方がいい。


  2010年1月28日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



いま日本の政治に大事 なことは何か


栗原 猛

  「日本人は1つの方向に動き出すと勢いの赴くまま一気呵成に流れてしまうようなところがあるから、『ちょっと待てよ』と立ち止まることが大事だな」―。生 前、後藤田正晴元副総理から「これは遺言だよ」と言って、何度か聞いたことがある。

後藤田氏は中学生時代に、第一次世界大戦後の好景気と直後の大恐慌を経験。当時、生活苦から娘さんを売りに出す農家も出た。これに同情した青年将校が右翼 の青年たちと結びついて、政党政治家や財界人を次々に暗殺していく。暗殺が報じられるたびに世論や新聞は喝采したという。「ちょっと待てよ」と誰もがブ レーキをかけられないまま日本は、世界大戦に突入し敗戦となる。最近では郵政解散、総選挙、そしていまの政治状況に一気呵成の空気が感じられる。

大疑獄事件のように連日、「検察VS小沢」と大きな活字が躍る。1面から社会面まで、鳩山献金と小沢一郎幹事長の政治資金管理団体「陸山会」の土地取引を めぐる検察の強制捜査で埋め尽くされている。捜査当局も3月に迫った政治資金規正法違犯(虚偽記載)の時効が迫っており、さらにピッチを挙げるだろう。そ の経過はリークとは言わないまでも紙面をにぎわすだろう。自民党は小沢氏が説明責任をしない場合は、議員辞職勧告決議案や政治倫理審査会に呼ぶなどさらに 攻勢を強める構えだ。

しかしここでちょっと立ち止まって考えてみたい。鳩山政権になって初めての国会は、国民の暮らし、雇用、景気が脇に押しやられそうなことだ。「政治とカ ネ」の解明も大事だが、今国民にとって切実なテーマは、庶民の給料減、雇用不安、家計の赤字など国民の暮らしを何とかしてくれということではないか。景気 が二番底に突入する懸念も指摘される。大学生の就職内定率は73・1%で前年同期を7・4ポイントも下回った。内定者の3分の1は不安定な契約社員だとい う。「就職氷河期」の再来に支援策も待ったなしである。

予算を成立させ必要に応じて10年度第一次補正予算を組む必要もある。GDP、輸出、輸入、鉱工業生産、食糧自給率、資源エネルギー、少子高齢化など国際 比較の数値では日本の地盤沈下が著しい。有権者が初めての政権交代で選んだ鳩山政権では、こうした国家の浮沈がかかった課題への取り組みも期待されてい る。迅速な対応が必要なときにいくら問題があるとはいえ「政治とカネ」の問題ばかりにエネルギーを使って、政治空白をつくっている余裕は、いまの日本にあ るのかということである。

今回のような場合、欧米の民主主義国では、どのように対応しているのか。在京の特派員や海外事情に詳しい学者などに聞くと、「日本人は潔癖性が強いが、さ まざまな点から高度な政治判断をして国家の安全を優先させる。これは議会制民主主義の成熟度の問題でもある」と言った。

政治とカネの問題は、自民党政権時代から延々と議論が続けられてきた。そして今回、民主党の鳩山・小沢コンビに集中した格好だ。政権交代を選んだ有権者の 期待は、政治主導による税の無駄遣いなど官僚機構のさまざまな分野の見直しや改革にあったはずである。だが鳩山政権が、これから取り組もうとしている国家 公務員制度や特別会計の改革に霞が関は反対のようだ。げすの勘ぐりかも知れないが、そうした雰囲気も捜査を後押ししているのではないかと思えるのだ。

「政治とカネ」は、煎じ詰めると議会制民主主義、政党政治の在り方に深くかかわってくる問題だ。その都度、捜査当局を煩わせることではなく、政権の交代を 機に与野党が徹底議論して、企業献金や団体献金の廃止を打ち出すぐらいの再発防止のシステム作りが必要ではないか。「政治とカネ」の報道の嵐の中で、後藤 田氏が指摘するようにともかく「ちょっと待てよ」と言って、立ち止まって深呼吸してみることが大事だと思われる。


  2009年1月19日(水)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



変化の先を論議しよう

元旦紙面の読み比べ

栗原 猛

  雀百までで、元旦早々、地元紙を含めて7紙の朝刊を買ってきて読み比べた。各紙は、変化の先をどう見るかを競っているが、緊急なテーマがないだけに、か えって各紙の色合いの違いが出ていたようだ。ことしは日米安保50年に当たる。

 社説は比べやすいが、朝日は日米安保50年を足元から考えよう、という提案だが特に新味はなかった。かつて後藤田正晴副総理(故人)が、日米安保は軍事 条約だから、敵国を想定している。それは社会主義ソ連や中国だ。しかしソ連は体制が変わり中国とは平和条約ができたのだから、30年、50年かかるかもし れないが、日米安保は平和条約に変えないといけない」といっていたのを思い出した。

 読売は「日本漂流」に対する嘆き節の感じである。日経、東京は時代が抱える問題を幅広く網羅的に取り上げている感じだ。毎日は、文化を含めた「発信力」 で未来に希望を築こう、と訴えた。1面の主筆の論文も合わせて、悲観論に陥らずお説教調でもなく前向きなところが気に入った。

 社会ダネでは、小沢民主党幹事長の資金処理を読売(1面トップ)と朝日、東京が取り上げた。鳩山首相の献金問題とともに、新年は小沢城攻めにかかると見 受けられた。企画記事では毎日の「ガバナンス」が鳩山政権の人事構想が財務省と妥協して急進性失った真相を描いて興味深い。別刷りは、広告事情の厳しさを うかがわせたが、日経3部「奈良遷都1300年」は歴史的意味に光を当てている。

 午後は、都心に住む仲間のマンションに往年の仲間5、6人が集まった。途中の池袋駅や東京駅は普段と同じように人出は多かったが、お正月の晴れ着の女性 は見かけず、松飾りも少ない。年々お正月風景が薄れていく感じだ。

政治談義に花が咲き、「自民党は鳩山、小沢問題など攻める材料はいくらでもあるといっている」「改革路線に反対の官僚も資料を提供しているらしい」「鳩山 政権は3月がヤマかな」「民主党は参院選で勝てないのではないか」「いや、いまの自民党には逆転するような勢いはないよ」といった話になった。

 いくら献金問題の解明が大事だからといって、国会でそれだけをやっていて済むものでもなかろうと、考えていたら、横合いから一番の長老が、「ちょっと 待った」と、大声を出した。「君らは政治を政権抗争としか見ていない。昨年夏、衆院選で逆転して政権交代があった意味を考えてみろよ。権力闘争は面白いだ ろうが、そんなことばかり根掘り葉掘り報じていたら、政治もメディアも有権者から見放されるぞ。霞が関も政策の話題から国民の目をそらせようと、いろいろ 自民党にリークしているという話もある」といった。

 中国は元気がよさそうだが、アメリカやEU足元を固めるために懸命だ。日本も構造改革のひずみやら少子高齢化社会に向けたグラウンドデザインづくりが急 がれる。完全失業率も高い。就職が決まった大学生の3分の1は契約社員だという。まだまだ無駄の多い官の改革も避けて通れない。中央から地方への動きも加 速する必要がある。間もなく開幕する国会ではこうした分野についても白熱した論戦を期待したいものだ。


  2009年1月6日(水)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



今度は霞が関が自己改 革案を出す番だ


栗原 猛

 政府の事業仕分けについて、メディアの評判は賛否両論さまざまだが、世論調査は、どこの社も高い評価だ。共同通信社の調 査では「来年度以降も継続するべき」が83%もあった。月末まで刷新会議や財務省と各省の調整が進められるが、項目を変えてこっそり復活したり、特別会計 に潜り込ませたりと、まだ抜け道がある。パフォーマンスに終わらせないためにさらに目を光らせていくことが大事だ。

 事業仕分けについては、「消費税導入のためのガス抜きではないか」という見方がある。案の定、政府の審議会の大学教授が、「あれだけ切り込んで1兆 6000億円の削減したのだから、これ以上無駄はないはず。消費税増是のための理解が深まったのではないか」という趣旨の見解を示した。

 ノーベル賞受賞者やスポーツ界からは、削減を見直すべきだという意見が出た。科学技術やスポーツ振興の重要さも大事には違いがないが、科学者も国家の将 来とか人類のためとか肩を怒らせないで、現下の厳しい財政事情をそれなりに受け止めて、研究を続けてほしいところだ。

 こうした論議を聞いていて、1つ腑に落ちないことがある。それは有権者が政権交代を選択した背景には、政治や行政が積み上げた無駄排除があったと思われ る。ところが、霞が関側から、「それでは改革に協力しよう」という声がいっこうに聞かれないことである。それどころか、公務員制度改革をはじめ天下りや渡 りの禁止、給与や年金などの官民格差是正などは一進一退である。

 公務員の共済年金とサラリーマンの厚生年金を比べると、350万人参加の共済年金には補助金は1兆7000億円投入されているが、3500万人加入の厚 生年金には1兆8000億円しかない。官にはこのほか職域加算など手厚い。年金一元化は30年も前から取り組まれてきたが、いまだに日の目を見ない。官僚 とサラリーマンの生涯賃金を比べると、大きな差になるのではないか。

 衆院調査局によると、天下り先の特殊法人や独立行政法人は約5000カ所あり、2万8000万人が天下りしているという。しかも補助金や貸付金が12兆 円投入されている。事業仕分けでは、職員より役員の数が多いこと、80歳近くになってまだ理事長などで頑張っているケースなどが指摘された。それぞれの制 度には、つくられた経緯などがあるかもしれないが、このご時世、見直しは不可避である。

 片山善博慶大教授(元鳥取県知事)が、県知事時代、3500億円の県予算のなかから、200億円の余剰金を出して注目された。その片山氏が、削減の2つ の秘伝を披露している。1つは初めての人を財政課長のポストに据えたこと。2つ目は、予算を余した課長を積極的に評価して、意識の変革に取り組んだこと だーという。

 イギリスの軍事史家パーキンソン氏が、官僚組織を研究して有名な2つの原則を発見した。1は、組織はいったんできると仕事がなくても人員だけは増える、 2は、官僚は入った予算はすべて使い切ってしまうーの2点だ。官と民をさまざまな点で比較してみると、霞が関自身が自己改革の音頭をとっても遅くはないよ うに思われる。


  2009年12月10日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。



「公開処刑」と「刈り 込み」作業


栗原 猛

 来年度の予算要求の無駄を洗い直す行政刷新会議の仕分け作業をのぞいた。会場は国立印刷局市ヶ谷センター(東京・新宿 区)の体育館。地下鉄市ヶ谷駅で降り、小高い坂を10分ぐらい歩く。かつて財務省所管だったが、2003年から独立行政法人になった。会場は薄いベニヤ板 のようなもので4つに仕切られ、事業仕分け作業は3つの会場で行われている。

 それぞれの会場は長方形に机が置かれ、民主党議員や各省担当者、学識経験者など約20人が対面する格好で質疑が進められる。通路を隔てて折りたたみの椅 子が100脚近く並べられ、一般の人が間近でやりとりを見られるようになっている。小雨交じりの日だったが、3会場とも満員で2階の観客席にも多くの人が 詰めていた。

 メディアの中に「官僚を怒鳴ったり、居丈高になったり、まるでギロチンのない公開処刑だ」「学識経験者とはいえ、権限もない人が削るのはどんなものか」 という趣旨の記事があったので、3会場を行ったり来たりした。ところがどうして、若手議員は丁々発止、議論しており、予想したよりも頑張っているなという のが率直な印象である。

 例えば、特殊法人の無駄をめぐる質疑では、「プロパーの職員が3分の2も占めているのだから、外から理事や顧問を連れてくる必要はないのではないか」 「常勤顧問の報酬が高すぎる」「生え抜きで十分できる仕事だ」「役員らは年間1800万円の報酬を得ている。8億円の補助金は人件費と管理費が半分以上占 める」―といった具合だ。

 一般論や制度の理念などを長々としゃべって、矛先をかわそうとする官僚には、時々、進行役が「具体的な数字で」「ポイントをはぐらかさないで」と、注意 が飛ぶ。これを「公開処刑」というようでは、いささか霞が関の肩を持ちすぎているのではないか。

 本来、国民から負託を受けた国会議員や官僚が腰を据えてやるべき作業を、国民注視のなかで行うことについては、違和感がないわけではない。ただ、各省庁 の権益や利権、人脈などが複雑怪奇に入り組んでいて、公開の場で荒療治でもしない限り、削れなくなっているのが実態なのだろう。ではなぜ優秀であるはずの 議員と官僚が国の財政を崩壊寸前までにしてしまったのだろうか。

 その問題は別の機会に譲るとして、この仕分け作業を意地悪くみると、民主党にとっては存在感をアピールする絶好のチャンスだ。一方の財務省は、世論と政 治主導が背景になった刈り込み作業という形になれば、各省庁や自民党、業界、天下り先のOBなどからの風当たりは少なくて済む。ひょっとしたら民主、財務 両者の二人三脚、できレースではないかと思えた。

 そんなことを仲間と話しながら、市ヶ谷の坂を下りてきたら、旧知の農水省のOB局長に出会った。「消費税導入のためのパフォーマンスです。財務省にとっ て一番恐いのは、天文学的に膨れあがった財政赤字の責任を、歴代幹部が遡ってとらされることです。ここは、民主党を立てておいて損はない。切り込み劇がう まくいって、消費税導入の抵抗感が薄まれば、それこそ願ったりかなったりです。だから民主党を前面に立てて、自らは縁の下の力持ちに徹しているのですよ」 という。立場が異なるとまったく違った見方ができるものなのだ。

 ただ見逃せないことは、この仕分け作業は、国民の前で刈り込んだものだが、これが結論ではない。この後、行政刷新会議での議論があり、さらに財務省と各 省庁と折衝が控えている。その過程でいつの間にか削ったものが復活したり、別のところに滑り込んでいたり、特別会計の方で手当をしたりと、換骨奪胎する手 はまだいくらでもある。そういうことがないように国民もメディアもまだまだウオッチが欠かせない。


  2009年11月19日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


 国政調査権を使って もウミは出すべき


栗原 猛

 黄葉真っ盛りの八ッ場ダムを駆け足で見てきた。都心からは関越で渋川・伊香保インターで下りて、吾妻川に沿って走る国道 145号線で1時間30分ほどだ。地元の人が「群馬の耶馬渓」と呼んでいる国指定の名勝、吾妻渓谷は、群馬県長野原町と東吾妻町にまたがる地域で、遊歩道 につながる駐車場はどこも満杯で、大勢の観光客が訪れていた。

 前原国土交通相の建設中止表明以来、見物客も急に増えたとかで、町役場も週に2回見学者のツアーを企画して好評だとい う。有名になった橋脚と橋桁は、テレビや新聞の写真をみると、巨大な建造物をここまでつくって中止するのはもったいないという気持ちにさせられるが、大自 然の中で見ると、都心を走る高速道路の橋桁を少し高くした感じだ。

 ところどころで、山裾を削るトラクターや削岩機が砂煙を上げているが、湖面だけでも30キロにも及ぶという広さで、工事 の関係者から、「工事の70%は済んでいる」と、説明を受けたが、ダム本体ができていないので実感が沸かない。工事のピッチを挙げているとのことだが、 「断固建設」とか「工事反対」とかの看板などは目につかなかった。

 ただし、「70%」というのは、総事業費4600億円の7割を使ってしまったという意味で、工事の進渉率ではないという ことだ。どうやら「ここまでカネを投入したのだから、中止すると税金の無駄使いになるので、工事は続けるべきだ」ということを言いたかったらしい。残り3 割の1380億円で、ダムができるのかどうか。ダムは当初、2110億円で完成予定だったが、04年には現在の4600億円に倍増した。国や県は借金をし ているから、その利子を含めると、8800億円にもなるという。ダムは特殊法人などをつくって管理、運営するから人件費なども含めると、完成後の運営費も 大な額になるはずだ。

 ダムには、洪水を防ぐ治水ダムと利水ダム、多目的ダムや発電用などがあり、八ツ場ダムは国交省が管轄の治水ダムだ。この ほかに農水省や地方自治体、電力会社などがダムをもっており、全部合わせると日本には3000近くのダムがある。前原国交相は、計画中や建設中のものを含 めて140のダムについて、継続の是非を判断すると言っているわけである。

 前原発言をきっかけにダムや公共事業についての関心が高まってきたのは、一見脈絡がないように見える八ツ場ダムと JAL、空港、道路づくりなど公共事業には、政官業に共通する無駄や癒着構造があるのではないか、という疑念があるからだ。

 藤井財務相は先の日本記者クラブの会見で、「自民党政権時代のウミのようなものがいろいろ出てきている。民主党は少なく とも4年は政権を運営するので、これからもっと出てくるのではないか」といった。行政刷新会議の『目安箱』にも、これまで表に出されなかった省庁のデータ や資料が届けられているという。藤井氏は、「こうした霞が関の微妙な変化にも政権が交代したなという実感が沸いてくる」そうだ。

 八ツ場ダム撤退は、臨時国会では与野党対決の焦点になりそうだが、前原国交相と親しい自民党議員が「おれと前原の関係を 知らないで、国交省の幹部が前原のことをあしざまに言って帰った。自民党と民主党の対決の図式をつくって、反対運動を盛り上げたいのではないか」といっ た。いまや国会は権威を示す意味からも、国政調査権を使って、既に使われた事業費や今後の支出の明細資料などの、提出を求めてしかるべき局面ではないか。

 現地を急いで見ただけの印象では、工事を継続すべきか中止すべきかの判断はしにくいが、甘い需要データをもとにつくられ た空港で赤字が続出したり、4車線の道路が建設されている公共事業全体を見渡した判断でいうと、公共事業の予算は見直すか圧縮して、徐々に「生活第1」に 組み替えていくことが、時代の要請であるように思われる。


  2009年10月28日(水)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


 安心、安全、公正、 豊かさを目指す
             ―自民党の再生(下) 

 「民は国家なり」―不易と流行


栗原 猛

 人材とともに大事なのは保守の理念や政策の再構築である。保守本流の政治家といわれた大平正芳元首相は幹事長時代に夜回 りしたら、「人間は『貧しさを憂えず。等しからざるを憂う』ものだから、豊かで貧富の差の少ない国造りをしないといけない」と、よくいっていた。中国の古 典にある「民は国家なり」という言葉が生きていたように思われる。

 政治の目指すべきものは何時の時代も安心、安全、公正、豊かさではないか。そしてその目標に向かって熱っぽく未来を語る ことである。いたずらに競争をあおる社会は先進国といえないだろう。市場システムを取り入れながらも、ヨーロッパ型の福祉、医療、雇用を重視した政党に蘇 らせることが大事だ。貧富の差が激しい社会は、犯罪や非行が増え社会不安になる。自殺も13000件を超えている。グローバリズムは歴史の流れだとして も、ゆっくりブレーキをかけることも必要である。

 民主党が福祉や社会保障を増やした「大きな政府」に進むのなら、自民党は「中規模の政府」を目指しながら、福祉や社会保 障の手厚さを工夫して打ち出してもよい。外交で民主党が「日米対等」ならば、自民党は「同盟強化」やアジアやEUとの関係を打ち出す方途もある。万事、単 純化するのは危険だが、2大政党時代は、有権者が選択しやすいように、変わるべきものと変わらざるものとの仕分けー不易流行も大事だ。

 テレビ局の関係者によると、政局番組には若手議員の出演希望が多いという。顔や名前を売るにはテレビが手っ取り早いから だろう。「日本列島改造論」をひっさげて改革を進めた田中角栄首相は、当選したばかりの若い議員に、「辻舌鋒3万回、戸別訪問5万回を欠かすな」と、よく 大声を張り上げていた。有権者とコミュニケーションをすることの大事さを言ったものではないか。

 かつては地方自治や社会福祉、農村、日中国交正常化、差別問題など、生涯1つのテーマに取り組んだ「一業一筋」の政治家 がいたものである。こうした多彩な政治家の幅と奥行きの広さが、自民党を支えてきたように思われる。人材の発掘や育成は、先輩たちの労苦の跡をたどり、再 生へのエネルギーをかき立てることが必要だ。

 1995年5月、18年ぶりに政権を奪還したブレア英政権は、野党時代に「影の内閣」で、路線や政策を磨いて時機の到来 をうかがった。幾星霜、自民党を取り巻く環境も変わり、小選挙区制が軌道に乗り、2大政党制も定着しかけている。

 先の総選挙の小選挙区の得票を見ると、自民党は2700万票、民主党は3300万票で、その差は約600万票である。 300万票が民主党を離れると互角になる。そんなに急がなくても民主党は遠くに行ってしまわないだろうから、自民党も「影の内閣」をつくって政策を鍛錬し 直すときである。繰り返しになるが、日本にも議会制民主主義を定着させるには、切磋琢磨する「2大政党」の存在が急務だからである。


  2009年10月19日(月)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


 人材の養成・発掘― 自民党の再生(中) 

栗原 猛

自らを鍛え戒めた

 自民再生のポイントは人材の養成・発掘である。小選挙区制の選挙は、党同士の一騎打ちの選挙になる。先の総選挙もそう だったが、トップの力量や人柄、日ごろの言動、イメージなどが党の命運を左右しがちだ。したがってトップを含めて人材の養成はことのほか重要になった。

 読書家で知られた前尾繁三郎・衆院議長は2万冊の蔵書があった。漢籍にも詳しく、著書も多い。「政の心」の「保守党論」 の中では、「政治的保守主義は革命は否定するが、改革や進歩は否定するものでなく、逆に改革や進歩を有効に遂行するためのもの」だ、と指摘している。「自 民党」が政権奪還を目指していくには、時代の変化に応じて自らを改革・進歩していくしかない。

 所得倍増論を打ち出し、経済成長路線を軌道に乗せた池田勇人首相は、「政治家は3人の心友を持て」と言った。「1人は優 れたジャーナリスト、2人目は立派な宗教家、3人目は名医」である。「優れたジャーナリスト」がなぜ大事なのかというと、首相になると耳障りのいい話しか 聞こえてこなくなり、裸の王様になって、客観的な判断ができなくなる。だから直言してくれる優れたジャーナリストが大事だというのである。

 筆者も首相官邸を取材しているとき、竹下登首相が「総理になった途端に情報が丸くなった。いい情報しか入ってこない」 と、嘆くのを聞いたことがある。野党やマスコミに批判されても、「権力を動かしているのだから、批判されるのはやむを得ない。謙虚に聞かないといけないん だ」と戒めていた。

 後藤田正晴・副総理は、60代のころは乞われると色紙に「天行健(天は公平に見ている)。君子は自彊(自らを鍛える)し てやまず」と書いている。70代には「一日生涯」(一日一日を大切に)、80代になると「粛心」と書いた。それぞれの年代ごとに自分に課題を科していたの ではないか。こうした心構えや自らを律する気持ちは、何時の時代にも大切に引き継がれていかなければならないだろう。

 自民党議員は、引退すると子や女婿に引き継がせる世襲が増えた。世襲議員にも優れた人は少なくない。地盤、看板、カバン に恵まれていて、子供の時から都心で育ち、選挙区回りは選挙の時だけという豪の者もいる。世襲は選挙区が固定化されるので、霞が関や民間企業の優秀な人材 から敬遠されてしまう。候補者選びは公募とし、予備選は公開にするなど人材集めをオープンにする改革が必要である。

 小選挙区制になって政治家のスケールが小さくなったという指摘があり、この点を欧米の特派員に聞いたら「イギリスも小選 挙区制だが、チャーチルやサッチャー首相など強いリーダーを生んでいる。小選挙区制は関係ない」といった。

 イギリスでは、親の選挙区から出馬は禁止だが、それ以外ならどこからでも出られる。また同じ選挙区からは3期までだが、 選挙区さえ代わればOKだから、そのたびに新しいエネルギーがかき立てられる。チャーチルは選挙区を4回代わったーと言う。世襲の弊害に活を入れるには、 こうした改革も欠かせない。


  2009年10月5日(月)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


 原点に立ち返る−自 民党の再生(上) 

栗原 猛

立党精神に立ち戻り、先輩たちから学べ

 自民党は谷垣禎一新総裁のもとで、再生のスタートを切った。自民党に対しては、政治学者などから、「議会政治が機能する には野党の存在が大事になる」と、いう声が聞かれる。日本の民主主義の行方を左右する「政権交代」が軌道に乗るかどうかは、巨大与党をチェックする野党・ 自民党の再生が大事である。

 自民党は細川政権の一時期をのぞいて、一度も野党の経験がない。当時、予算編成期になっても、党本部は人の出入りはまば らで閑散としていた。「予算編成を2度やられたら干上がってしまう」と、危機感でいっぱいだった。その時は苦し紛れに社会党の村山富市委員長を首相に担ぎ 出して政権を奪還した。しかし、今回は2度目、16年ぶりの野党暮らしとなる。

 自民党の懸念は、野党暮らしに耐え切れなくなって、民主党へ鞍替えする議員が出るのでないかという点である。ただ先の選 挙で、民主党はほとんどの選挙区に現職議員がおり、自民党議員が他党に移ることは難しい。小沢民主党幹事長の「純化路線」による政界再編の再燃を危惧する 向きもあるが、与野党の勢力が拮抗しているのならばともかく、圧倒的な与党になったいまはこれも考えにくい。

 もう1点は、政党助成金制度である。年間319億円が議員数と得票数に応じて各党に配られる。(共産党は受け取りを拒否 して、各党が分けている)自民党は議員が減ったので、これまでの180億円から100億円程度になる。企業献金もこれまで通りというわけにはいかないだろ うが、兵糧が底をつく心配はない。小選挙区制も政党助成金制度も政党がばらけるのを防ぐ「接着剤」の役割を果たすのではないか。したがって、党再生に専心 取り組むことができる。

 自民党の長期政権の秘密は、国内の対立を巧みに乗り切り、日米基軸を大事にしながら、経済成長を軌道に乗せてきたことに ある。ところが1991年のソ連の解体とグローバリズムの拡大、バブルの崩壊、長期不況と続き、小泉改革に期待されたが多くの分野で格差を生んだ。また、 長期政権を支えてきた「政と官」の二人三脚も「税の無駄使いが多い」と弊害が指摘されている。

 「困った時は初心に帰れ」といわれる。歴史や伝統には、危機を切り開く知恵が詰まっているということを言ったものだろ う。谷垣氏は28日、総裁に選出され、「自民党の結党宣言に立ち返る。国民の意見をもっと吸い上げたい」と語った。政党は理念、組織、運動、政策から成り 立っている。結党当時とは時代も社会状況も違うが、党の歴史を振り返り、立党の精神に脈打っている先輩たちから学ぶべきことは少なくないと思われる。


  2009年09月30日(水)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


 伏魔殿の「特別会 計」と一般会計の統合 

栗原 猛

 鳩山改革政権は一斉に改革路線をスタートさせた。メディアの世論調査は、まずは好調な出だしだが、正直なところまだ期待 半分、懸念半分といったところではないか。

 共同通信の最新の世論調査によると、新政権に取り組んでほしい政策課題のトップは、「税金の無駄遣い一掃など行財政改 革」、次いで「年金・社会保障」、「景気・雇用対策」の順だ。「税金の無駄遣い一掃」といえば、特別会計こそ無駄遣いの元凶、伏魔殿といわれながら、改革 のメスが入っていない分野である。

 国の予算は、一般会計予算と特別会計予算がある。一般会計の財源は税金で、国のインフラ整備などの財政活動に使われる。 これに対して特別会計は、一般会計とは別枠で設けられた予算である。財源は郵貯、年金、雇用保険、一般会計などからの繰入金、ガソリン税、登記などの手数 料、空港使用料からなる。850兆円の財政赤字の大半は、この特別会計がつくっているといわれる。

 特別会計は各省庁合わせて31あり、09年度は一般会計88兆5千億円の4倍に当たる354兆9千億円だ。一般会計との 重複分があり、それを差し引いても242兆円と巨額である。しかも一般会計が赤字なら、特別会計は火の車だといわれて久しい。

 不思議なことは、特別会計がこれほど巨額な赤字を抱えているのに、実態がほとんどオープンになっていないことである。所 管の各省庁の縄張りになっていて、財務省の査定さえ形式的だという。また一般会計は、国会の予算委員会で2カ月近く審議されるが、特別会計は審議時間がな いことを理由に、ほとんど議論されていない。

 この特別会計は、各省庁が一般会計の借金のツケを回し、一般会計では赤字になりそうなものを特別会計に仕立て、また一般 会計の「隠れ借金」に使うケースなどがあることだ。しかも、多重帳簿だから複雑に入り組んでいて不透明だ。「国民が関心を持たないように、わざと分かりに くくしている」とさえいわれる。

 例えば、公的年金では、厚生年金、国民年金の各特別会計は、厚労省の所管で保険料などを財源に全国13カ所に大規模保養 施設をつくったが、総て倒産、1兆円以上の巨額赤字を出した。それでも責任を問われた形跡はない。また、道路整備特別会計は国土交通省が仕切り、自民党の 道路族がその資金を背景に、道路行政に大きな影響力を持ってきた。

 住宅金融公庫は77兆円、道路公団も40兆円の赤字を抱え、組織替えして名称も変えてしまった。少し前では国鉄、食糧管 理、国民年金の各特別会計が大赤字を出したことは記憶に新しい。一般会計の赤字のツケを特別会計に回し、だれも責任も問われないのだったら、いつまでたっ ても、財政赤字は減らないはずである。

 シーリングもないから、チェックも甘い。問題なのは、特別会計予算がつぎ込まれている特殊法人や独立行政法人は、天下り や渡り先でもあるという点である。80歳を過ぎた人までトップに居座っている。いくら高齢化社会で優秀な人材だからといってもやりすぎではないか。

 特別会計は、所管官庁の縦割りの中で管理・運営されているので、各省庁の既得権になっている。しかも競って天下りや渡り 先になる特殊法人、独立行政法人を増やし、一方、政官二人三脚になって族議員の既得権益の温床も広がる。特別会計こそ『官僚政治』『官僚主導』を支える金 脈といわれるゆえんである。

 しかもずさんな運営、管理で積み上げた膨大な財政赤字を、「それでは消費税増税で穴埋めしてください」では、国民はた まったものではない。まず、仕組みや実態を明らかにして、改革をオープンな場で議論すること、大赤字をつくった責任を問う場面も必要だろう。国会での審議 時間がないのならば、委員会を新設すればよい。そして、究極の特別会計の改革は一般会計と統合してチェックを厳しくすることに尽きる。「政官利権」の伏魔 殿、特別会計の大改革こそ「税金の無駄遣い一掃」の核心部分である。


  2009年09月24日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


 議会政治には存在感 のある野党が重要だ 

栗原 猛

 「自民党の最大の弱点は野党の経験がないこと。ばらけないで結束していってほしい」―。こういった声が政治学者や議会制 度の研究者から聞かれる。議会政治が機能を発揮するには、与党に対してこれを抑制できる野党の存在である。巨大な民主党政権が誕生したことで、日本の政治 が民主一色になってしまうことは、本来の議会政治の在り方からすると気掛かりである。

 どのような立派な制度にも長所と短所があるが、小選挙区制の大きな特徴は、今回の選挙で見られるように政権交代が起きや すいことである。政権の交代によって政治に活力が蘇えり、人脈も入れ代わるから政、官、財の癒着も減るだろう。既得権益にもチェックが入り、税金の無駄遣 いなどもオープンになる。政権交代が時々、必要だといわれるゆえんである。 

 ただし小選挙区制には、もう一つ特徴がある。それは首相に権力が集中しやすくなることだ。小選挙区制のもとに議会制度を 発展させたイギリス政治を見ると、サッチャー首相は「鉄の女」と呼ばれるほど強権を発動し、労働党のブレア首相は、イラクに英軍を派遣する際、強烈な指導 力を印象づけた。政党が違ってもトップが強い力を発揮できたのは、力量もあるだろうが、小選挙区制で選ばれた「宰相」だったからといわれる。

 なぜ小選挙区制ではトップに権力が集中するのだろうか。それは政党助成金や候補者の公認などすべて党中央の専権事項にな るから、自然にトップに権限が集中するのである。どの党も党運営が組織的になると、党の盛衰は党首の力量や人柄やパフォーマンスなどに左右されるようにな る。その点アメリカでは、政党が一枚岩にならないように、議会で法案を採決する際の党議拘束は日本より穏やかだ。

 首相に権限が集中すると、責任も総てトップに集まる。例えば、ブレア首相は意図的に誤った情報によってイラク派遣が決定 された事実が明らかになると、国民から批判を浴びた。結局、経緯を説明して謝罪、辞任する。責任の所在がはっきりするので、国民への説明責任もこれまでよ り重視されるようになるのではないか。

 一方、注意しなければいけないことは、首相の権力が強大になることのマイナス面である。例えば、国民の喝采を浴びて誕生 した英労働党政権も長期になると、閣僚の贈収賄事件が摘発されるなど、政治腐敗が指摘されている。「権力は腐敗する」の例え通り、民主党政権でも同じよう なことが起きないとも限らない。

 そこで議会政治にとって、いま大事なことは、巨大な与党を監視してチェックする強力な野党の存在である。立場はがらりと 変わった自民党に期待されることは、与党をチェックしけん制するパワフルな政党に再生することではないか。


  2009年09月14日(月)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


 霞が関の反撃がはじ まった

栗原 猛

 「霞が関が反撃をはじめたな。民主党も腰を低くして世論のバックアップのあるうちに改革を進めないと足元をさらわれる ぞ」―。勇退したばかりの官僚出身の自民党の長老議員がいっている。長老氏によると、「霞は関はやろうと思えば、政権をひっくり返すことぐらい朝飯前だ」 という。

 先だって石原信雄・元官房副長官の記者会見が、日本記者クラブであった。タイミングがよかったためか150人以上の現役 OB記者が詰めかけた。ただし異例に感じたのは、冒頭から国家戦略局、政治家100人の政治任用をはじめ、行政刷新会議、事務次官会議の廃止など民主党の マニフェストに異論を述べ、優秀な官僚と意見調整しながら進めるべきだ、と注文をつけたことである。

 石原氏は、歴代政権の官房副長官を長く勤めた。官房副長官は、首相官邸で週2回行われる閣議の前日に開かれる事務次官会 議の主宰者だから、官僚機構のトップの立場にあった。今も総務省の外郭団体である地方自治研究機構の会長だ。したがって霞が関の意をたいした発言といって いいだろう。

 古手の記者から「政治家は官僚機構に手を突っ込むなという話だが、選挙結果は、年金、天下りなど『政と官』の税金のずさ んな使い方に、有権者がレッドカードを突きつけたのではないか。官の方からもっと改革案を示したらどうか」という質問が飛んだ。明確な答えはなかったが、 霞が関が選挙結果に神経過敏になっている感じだった。

 霞が関の「反撃」については、例えば各省で事務次官人事を急ぎ、天下り先を確保する。補正予算の執行を急いでいるのも自 民党の予算関係議員は、「予算に政治家はクビを突っ込ませないぞという意思表示ではないか。精査される前に使い切ってしまおうということだ」とみる。出先 機関や大学などにも「だいたいでいいから早く見積もりや研究計画を出せ」と、矢のような催促があったことからもうかがえる。

 報道されたケースでは、国土交通省が高速道路無料化の経済効果の試算をひた隠しにしていたり、役所が都合の悪い資料や データをシュレッダーかけたり、焼却処分にしているケースが指摘された。外務省が地下で公文書類をトイレットペーパーにしているというのまであった。国民 共有の財産である貴重な歴史的資料を焼却処分にするということは、まさに犯罪行為ではないか。

 霞が関はこうした手荒な抵抗もある。自民党三役を務めた議員が、国会である省の法案に反対したら、翌日朝早く業界誌の記 者が訪ねて来て「先生は最近、(政治資金報告書の)修正申告をしましたね」と言ったという。この議員はとっさに「どこから聞いてきたのだ。それは国家公務 員の守秘義務違反だぞ」と、にらみつけたという。「官僚は知りがたい情報をもっているから、都合次第で善用も悪用もできる。この幹部議員は政治がしっかり しないといけない」としみじみと語ったものだ。

 ただ国家公務員法の改革をめぐって、甘利行政改革担当相と激しく対立していた谷人事院総裁が最近、辞任表明したのは、民 主党も「内閣の一元管理による幹部職制度の実施」をうたっていることから、「300議席」の効果とみてよいのではないか。

 後藤田正晴・元副総理は、「議会制民主主義では、政治家の役割は、法律や政策をつくり、官僚の役割はそれを誠実に履行す ることだ」とよく言っていた。政治家も政治主導するならその結果責任についてもキチッとさせること、一方官の側は、指摘されている税金の無駄使い方など官 の改革に、もっと自浄機能を発揮してよいのではないか。先の総選挙での有権者の判断は、その一点にあると思われる。


  2009年09月11日(金)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


 どこか「フランス革 命」に似ている

栗原 猛


 自民大敗について、欧米への留学経験がある自民党の長老議員は、「民意の反乱であり、その民意の圧勝だ。万事、お上意識 に慣れてきた有権者が、自らの1票で政権を交代できると実感した意味はとてつもなく大きい」と語った。中堅のリベラル派議員は「年金も雇用も天下りや無駄 遣いも、もとをただせば税金の使い方の問題だ。ギロチンのないフランス革命に似ている」と言う。

 歴史をちょっと振り返ってみると、民主党がモデルにしている英議会(3権分立)は、国王の過酷な課税に承諾するかを チェックするために生まれた。アメリカのイギリスからの独立戦争のきっかけも、英政府の過酷な税の取り立てが原因だ。その結果、税金の徴収や無駄遣いを チェックする議会が誕生した。

 フランス革命も財政逼迫、国王の厳しい徴税が端緒である。このフランス革命に影響を与えたのが、アメリカの独立宣言と米 憲法の3権の分立の発想である。「税金は政治そのものだ」と、言われるゆえんはここにある。

 欧米の報道機関は、「日本もやっと欧米の議会制民主主義のスタートライン立った」という趣旨の指摘が目立つ。フランスの ルモンドは「国会の革命だ」とコメントした。今回の選挙の主役は、年金にしても雇用、医療にしても税金の使い方にあったという点で、欧米の議会制民主主義 がたどった歴史に酷似している点を指摘したのではないか。

 その欧米の議会では時々、政権が交代する。政権が交代すれば、まず政治に清新さや新しいエネルギーが蘇る。また人脈が入 れ替われば、利権構造や既得権益を断ち切れるはずだ。日本の政治も政権交代が常態化するようになれば、政権党は交代した際、新政権から政策ミスや無駄使い などを指摘されないように、ふだんから税の使い方や汚職がないように気をつける。天下りや税金の無駄遣いなども減らすことができるだろう。

 英米では7,8年に1回ぐらいの割合で政権交代がある。マニフェストを掲げて選挙をして勝てば、有権者の支持を背景に、前政権の政策や行政のミスや暗部 を大胆にチェックするので政治や行政から腐敗が減ったという。また政策の変更も曖昧にずるずる変えるのではなく、国民にしっかり説明することが不可欠にな る。

 ただし、どのような制度にも長所と短所の両面がある。小選挙区制の特徴をおさらいしてみると、選挙がマニフェスト(政権公約)中心になること、党首のイ メージが選挙を左右するようになるので、党首や党中央に権限が集中することだ。党首はパフォーマンスを演じがちになる。例えば、ブレア前英政権では、党首 の権力が強くなりすぎて独断専行の弊害が指摘された。一方で政権交代が起きやすい制度であることも証明された。

 「権力は腐敗する。絶対的な権力は絶対に腐敗する」という千古の名言が指摘するように、巨大政党になった民主党とてよほど注意しないといけないのではな いか。その場合、与党のブレーキ役となる野党の存在が重要になってくる。冷静かつ沈着に政治をチェックして警鐘を鳴らすメディアの役割もますます大事に なってくると思われる。

  2009年09月1日(火)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


 財政赤字はなぜ 900兆円にも膨らんだのか 

栗原 猛


 最近、新聞の声欄を読むようにしている。政治や行政に対する指摘に目を開かせてくれるものがあるからだ。なかには論説などよりもよほど具体的で説得力の あるものがある。それは生活に根ざし地に着いた発想があるからだろう。

 先だってはこういうのがあった。年金、医療、福祉、雇用など政策課題になると必ず、財源をはっきりさせない政策は政策で はないといった論理が展開される。しかし、財源論に集約されすぎているのではないか。政策論議は税の配分であり、限られた予算の枠内で税金の無駄遣いをや めて、国民生活に関わるところに予算をつけることだ。国民の関心事は税の使い方、配分にあるーという趣旨のものだった。

 さて、財源論の前に立ちはだかる難問の1つに、816兆円も及ぶ財政赤字がある。財政赤字については常々疑問があった。 それは優秀であるはずの政治家や霞が関の官僚が、毎年、半年近くもかかって予算編成をしているのに、どうして800兆円も借金をつくってしまったのかとい うことである。

 1兆円と言われてもどのくらいの分量なのかピントこないが、1万円札を積み上げると、8000メートル級のエベレストの 山の高さになるという。したがって800兆円となると、この8000メートルの山が800本も林立することになる。

 小泉首相の改革がはじまった2001年の財政赤字は650兆円といわれた。その間、医療費が2割から3割負担増、国民年 金0・9%アップ、定率減税の廃止、生保の予定利率引き下げ、配偶者特別控除、扶養控除の廃止、介護保険料の引き上げ、介護施設利用の自己負担増など、 「痛み」を我慢してきた。ところが、財政赤字は減るどころか、150兆円以上も増えているのである。

 800兆円の財政赤字のうち200兆円は、地方自治体がつくった財政赤字だといわれる。ただ、地方自治の実態は3割自治 とか2割自治だ。中央官庁からはしの上げ下ろしまで指示されていることを考えると、800兆円の大半は中央官庁がつくった赤字といえるのではないか。

 民主党は政権発足と同時に、政治家主導の「行政刷新会議」を設けて、予算や制度の精査を行うという。したがって、税金の 無駄遣いや予算の不正な使われ方、天下りや渡りなどの実態が解明されていくはずである。

 その際、なぜ財政赤字が800兆円という天文学的な数字に膨れあがったのかの解明である。どの役所のどの分野が財政赤字 を抱えているのか、予算編成の仕組みのどこにどのような問題があり、これからはどのように改めるのか、しっかりした説明が欲しいところである。国の資産は 600兆円もある心配はいらないという財務省関係者もいるが、百歩譲ってよかれと思ってやった結果、財政赤字が膨らんでしまったのだとしても、800兆円 といえば半端な金額ではない。財政の規律を立て直す意味からも、結果責任をはっきりさせることも不可欠である。


  2009年08月27日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


 「改革政権」は最初 が肝心だ 

栗原 猛


 ブレア政権が1997年に、18年ぶりに政権を奪還した直後の動きは鮮やかだった。まず、新政権の経済政策の骨格になる補正予算は、3カ月もたたないう ちに成立させ、経済改革の大半は1年以内にすべて発表し、実施に移している。スピード対応で政権担当能力を内外に印象づけたのである。そして10年間政権 を維持する目標を立てて、次々に政策課題をアピールしていく。

 1994年、社会党委員長で自民党と連立政権を組み、首相になった村山富市氏は、当時をこう述懐する。本会議場で首相に 選ばれると、あっという間に秘書官やSPに取り囲まれ、首相官邸の執務室に連れてこられた。党の幹部と相談する暇などなかった」という。

 その首相官邸には財務、外務、経産、自治、警察庁から局長直前の4人の秘書官と50人近くの官僚が詰め、出身官庁とは水 も漏らさぬ連絡網をつくっている。政治家といえば首相、官房長官、官房副長官らわずか4人。右を向いても左を向いても官僚ばかり。党の意見を聞きたくても 簡単に政治家に会えない。日程も秘書官などがつくるから、首相は46時中官僚のお膳立ての上に乗っていることになる。村山氏は「なるほど、これが官僚政治 というものか。よほどしっかりしないといかん」と、腹をくくったという。

 民主党政権にとって肝心要なことは、スタート時点でのブレア政権並みの覚悟ではないか。「脱官僚政治」の柱として、@  局長以上の人事は新政権の基本方針に協力することを約束してもらう。同意しない幹部は異動するA 官房長官や首相補佐官、副大臣、政務官などの「政治任 用」を、現在の約60人を100人程度に拡充B 首相直属の「行政刷新会議」、「国家戦略局」を新設して、首相周辺を「政治任用者」で固め、官僚の協力も 得ながら予算を決めていくーという手法だ。

 象徴的なのは予算編成で、従来型ボトムアップ方式ではなく、トップダウン方式を採用する。まず官邸の「政治任用者」たち が総額を決め、各省庁はその枠内で項目を決めていく。ボトムアップ方式とは、各省庁が下から合意を積み上げていく政策決定方式のことで、相互に調整しなが ら政策をつくっていく場合は良好に機能するが、迅速な対応が必要なときには後手後手になるといわれる。そのうえ政策の枠組みを変えようとする場合は、霞が 関が猛反発する。

 したがって、政権交代するような大きな政治転換期こそ改革のチャンスだといわれる。大事なことはトップダウンで決めると いう方式は、議会制民主主義の本来の趣旨でもあり、欧米では多少の違いはあれ、この原則は貫かれている。日本の政治は万事、官僚に任せすぎたところがあ る。その結果、政治を飛び越して官僚機構の許認可権など裁量権が膨大なものになってしまった。「箸の上げ下ろしまで役所のお伺いを立てなければならない」 と言われるゆえんだ。「政と官」の在り方に詳しかった後藤田正晴・元副総理(故人)は、「政策や法案をつくるのは政治家の役割、それを誠実に実行するのが 官僚の役割だ。ごっちゃになっていないか」とよく言っていたが、「政と官」の役割分担が大事なことを言っていたのではないか。

 法案や政策などは閣議決定の前に、全省庁の事務次官会議で、大枠が決められている。したがって、最高決定機関である閣議 は、「サインをするだけで議論はあまりない」といわれる。民主党案は、事務次官会議に「政治任用者」の政務官を出席させ、決定も参考意見にとどめるーな ど、政治主導を前面に押し出している。霞が関は反対の雲行きだが、政治家が最終判断をすると決めた場合は、結果責任も政治家が取るという自らを厳しく律す る覚悟も大事であろう。

 日本の今の政治経済の行き詰まりは、自民党と霞が関の二人三脚が長く続いた結果、既得権益が膨大になり、日本の財政が にっちもさっちもいかなくなってしまったことにあると言われる。しかし歴代政権は「官僚主導を改め政治主導にする」といいながら、いつの間にか官僚主導に 戻っている。

 その最大の原因は、政治家は選挙区がなによりも大事で、「金帰火来」、地味な政策や立法作業は、官僚任せにしたので、官 僚は次第に力をつけていったと言われる。「政治主導」が実現するかは、政策を企画、立案し、法案をつくることに一生懸命な政治家が増えるかどうかにかかっ ているのではないか。各党は政策スタッフを増やし、民間のシンクタンクなどが政策提言を活発化させる環境を整えることも大事だ。政治家主導の政治が定着す るかは、政治の側が自覚と覚悟を持続させられるかにかかっていると思われる。またメディア側の不断のチェックも欠かせないだろう。


  2009年08月20日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


 「改革政権」のグラ ウンドデザインは何か 

栗原 猛


 先のオバマ大統領と中国首脳との会談を機会に、米中2局構造(G2)が幕開けしたと、欧州の新聞は報じている。オバマ氏は、「米中両国は手を携えて21 世紀を造って行くことになろう」と見解を示し、「ワシントンと北京の協力ほど重要な相互関係は世界に2つとない」とまで言い切った。EUも年内に「EU大 統領」を新設し、存在感を示すだろう。

 世界の政治、経済地図は大きく様変わりしようとしている。

 そこで出そろった各党のマニフェスト(政権公約)をみると、雇用、医療、年金、福祉、介護、子育てなど、国民の生活の身 の回りの問題に目を向けている。遅きに逸した感は否めないが、「政治、行政の要諦は国民生活にあり」と気づいたことは、それなりの進歩だろう。

 ただし、いずれも重要なテーマに違いはないが、どこか心に落ちるものがない。それはいずれも個々のシステムの改革や手直 しであって、全体を通じて流れる基本的な考え方、21世紀の日本の姿、ビジョンが示されていない。大きな方向が示されていれば、国民はそのビジョンをもと にいろいろ議論の輪を広げていくことができるはずである。

 将来の目標を描くには、まず20世紀はどのような時代であったか、日本はそれにどう対応したのか。歴史の認識とその反省 に立って、内外情勢を展望することが大事になる。その上で情報化社会、21世紀も国際協調、交流の活発化―などに対応できる国の在り方を考えていくべきで はないか。

 日本のグラウンドデザインは、武力の不行使、平和と国民生活の向上と安定、国際貢献などを軸に描かれるべきだろう。国際 政治の厳しい局面を直視せよという議論があるが、政治は理想を高く掲げて、それに向かって努力することが大事である。

 思いつくままにテーマを挙げてみると、第1は、豊かな社会づくりである。経済力はまだ強大だが、国の財政は優秀であるべ き政治家と官僚が破たんさせてしてしまった。雇用も年金も社会保障も医療も不安がいっぱいだ。失業率も高い。豊かさについては議論があるだろうが、老後の 不安を少しでも取り除く努力が政治には求められると思う。

 2つ目は「公正、公平」な社会を目指すべきだ。米国では1%に人が米国の富の90%を握っていると言われるが、これほど 格差の大きい社会は好ましくない。世界の栄養不良人工は8億2000万人、食糧難の子ども1億8000万人もいる。こうした点もにらんで国の針路を示すべ きではないか。

 3つ目は「自主、共生」である。イラク戦争で見せた小泉首相のように何が何でも米国の後に付いていくという姿勢は本来の 日米関係にとって好ましいことではない。ブッシュ政権の大国主義に対しては苦言を呈するぐらいの態度が必要だった。「G2」の動きもあるが、中国、韓国、 東南アジアとも協調して何でも話し合える枠組みづくりを進め、共生の道を模索する姿勢も示してほしいところだ。


  2009年08月5日(水)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


 米国の政権交代と政 治任用 

栗原 猛


 静岡知事選、都議選と自民党の連敗が続き、このところ同党を支えてきた霞が関に動揺が目立つ。知らぬ存ぜぬを通してきた密約文書の存在が、幹部の口から 明らかにされ、貴重な公文書やメモ類がトイレットペーパーに化けていたことも報じられた。混乱する気持ちも分からなくはないが、新政権から突っ込まれそう な文書類を焼却し、シュレッダーに掛けるというのはどう考えてもおかしい。常軌を逸している。

 政権が代わろうと、なかろうと公文書類は国家の歴史や政策を知る大事な資料である。欧米諸国は公文書類を大事に考え、政府高官の電話の会話さえ公文書に して保管している。情報公開法や、公文書管理法があるのに、勝手に処分するということは、知られたら困る資料があるからではないか。それを焼却するのは国 民にとって悪質な犯罪行為である。

 自民党のある長老議員は、終戦直前、日本の敗戦が近くなり、政府や軍部が米軍の手に渡ったら困るような機密書類などを焼却し、煙が何週間も続いたことを 思い出すと言った。

 その政権交代だが、大統領制のアメリカでは、各省庁の特別補佐官など多い時には8千人も交代する。オバマ政権では、民主党を応援した企業トップや大学教 授や、シンクタンクの研究者などが約3千人が政治任用された。例えば、歴代の駐日米大使の多くは、大統領が任命する政治任用者たちで、職業外交官はまれ だ。

 英米の政権交代を長さで比べると、戦後、米国では民主党40年(大統領7人)、共和党36年(同7人)。英国では保守党は35年(首相7人)、労働党は 27年(同6人)だから、ほぼ互角だ。ただ英国では保守、労働党の他に自由民主党が約40議席、地域に依拠した政党もわずかだが議席を持っており、共和、 民主両党に2分された米国とは異なる。

 政権交代でもっとも期待されることは、オバマ政権の誕生が世界中から注目されたように、政策や人脈、政治理念などが代わるから、時代の変化と将来への希 望やエネルギーを生むところにあるといわれる。

 また現政権は、つぎの政権から政策のミスやスキャンダルなどをつつかれないようにと、日ごろから綱紀粛正に心掛ける。つまり政策のミスや汚職のないよう 気をつけるようになり、政治や行政の透明度も増すといわれる。

 ブレア政権の船出は鮮やかだったが、オバマ政権の打つ手もはやかった。マニフェストで約束した景気対策の77兆円の出動、GMの救済、雇用創出など瞬く 間に実施に移している。

 何事も最初が肝心だ。ブレア、オバマ両政権が、鳩山民主党にとって教訓になることといえば、まず日本が目指そうとするグラウンドデザイン、世界の中で果 たす役割を示すことではないか。それは例えば、「公正」とか「平和」、「豊かさ」、「安心」、「自由」、「共生」とかいったものではないか。そして総選挙 で約束したマニフェストを1つでも2つでも1カ月以内に実施する迅速果敢さである。


  2009年07月16日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


 英国の政権交代と 「政治任用」 

栗原 猛


 報道各社の世論調査は、現時点で見る限り「政権交代必至」である。財務省をはじめ霞が関の各省庁は、民主党とも接触も始めるなどあわただしい。菅直人代 表代行が政権交代の先進国、英国を研究して帰国、同党の「政権移行チーム」の議論もピッチが上がってきた。

 1997年5月、18年に及ぶ野党暮らしから、政権を奪取したブレア前首相(労働党)は、発足4日後にはマニフェスト (政権公約)に掲げた金融政策の決定権を、財務相からイングランド銀行に移すと発表。1カ月後には、実行するというスピードぶりだった。

 日本では1996年に、自民党が新日銀法の議論をはじめてから日銀が独立するまでに2年もかかった。ブレア政権はさら に、改革のための補正予算を政権発足2カ月後に発表。経済改革の多くは、ほとんど1年以内に公表して実施に移している。新政権は既得権益や官僚とのしがら みがないから、一気に改革が進められたのだ。

 ブレア氏にとって初めての閣僚が首相だが、それまでの間、「影の内閣」の政策集団を率いて企画、立案の腕を磨いていた。 さらに特筆されるのが、政治任用者(ポリティカルアポインティ)たちの活躍ぶりである。強力な政権でも霞が関だけに任せていたら、これほど早く改革は進め られなかったろうといわれる。

 オバマ大統領が発足したときも、政権を支える「政治任用」たちが大幅に入れ代わったが、英国でもまず、「影の内閣」の閣 僚が正式な閣僚に移行し、同時に党で政策を研鑽してきた与党議員が各省庁に2,30人ぐらいづつ副大臣、政務官などになって配属される。

 あるものは省の政策を企画、法案をつくる、また野党や議会との折衝役や、大臣の秘書役になって大臣の日常業務を支える。 一方、専門の官僚とも協力しながら、選挙で有権者に約束したマニフェストの実施に取り組むわけである。党3役である幹事長や政調会長も閣僚になるから、強 力な布陣となり、官僚主導ではない政治家主導が確立されるわけである。

 もちろん官僚陣にも協力を求めるが、これまでのような「官僚主導」ではなく、国民が直接選んだ政治家による政治、政策遂 行になるだろう。実はここが政権交代の肝心要のところである。「政と官」の在り方に詳しかった後藤田正晴・元副総理は、「議会制民主主義、政党政治では本 来、政策や法案をつくるのは政治家の役目、それを誠実に実行するのが官僚の役目だ。役割分担が崩れていないか」とよくいっていたものである。

 ただしそれができなかったのは、政党が政策スタッフをそろえるには膨大な費用がかかるうえ、霞が関に任せておけば大丈夫 だという過信があったからと言われる。今や財政赤字は900兆円という。2001年の小泉改革がスタートした時点では、650兆円だったが、あれだけ国民 は痛みを分け合ったにもかかわらず、250兆円にも増えたことになる。年金、医療、介護、雇用など緊急課題は山積になっている。政策決定のシステムも時々 交代する必要がありそうだ。


  2009年07月10日(金)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


 政権交代とはどうい うことか

栗原 猛


 「心のはりがすっとなくなっていく感じがする。長年続いた組織が崩れるというのはこういうことかな」―自民党の長老議員が、同党が独自で行った世論調査 を見てこう言っている。厳しい結果だったらしい。報道各社の世論調査も、現時点では「政権交代必至」である。

 ただ、政権の交代があったからといって、今の不景や雇用、年金、介護問題などが一気に解決されるわけではない。それなら ば「一時的とはいえ政治や行政が混乱する政権が交代しないで今のままでいいのではないか」という議論になりがちである。だがそれは大いに違う。目に見えな いが政治や行政の根本のところで大きな変化が起きる。見逃されがちだが、じつはここが政権交代の一番肝心なところである。

 政権が交代すると、まず政治や行政に組み込まれてきた積年のしがらみや人脈が一度見直される。これまで多くの政権が取り 組んできた財政や行政の改革は、いつの間にか元の木阿弥になっているが、その最大の原因は、既得権益を手放すまいと政・官・業などから、さまざまな骨抜き 攻勢があったからだといわれる。

 高度成長時代のころまでは「政と官」のシステムはうまく機能した。しかしいまや低成長へ向けて既得権益の山を改革しなけ ればならないにもかかわらず、改革や見直しを阻む巨大勢力となっている。小泉改革の功罪が検証されることなく、次々に骨抜きになっていくのもその1つであ る。

 政権の交代とは政府が変わることだから、政策ばかりでなく政・官の人脈も代わることである。じつはこれが既得権益を見直 し、しがらみを断ち切ることになり、政界や霞が関に新風を吹き込んで、ダイナミズムを蘇らせるきっかけになるはずである。欧米各国では数年に1回政権の交 代がある。

 先の自民党長老の指摘にもあるように、霞が関には早くも、政権の交代を見越した動きが見られる。たとえば、沖縄返還交渉 の際の密約の存在が次々に報じられているが、あるOBの外交官氏は「政権が代わってからつつかれないより、今のうちに公表してしまおうということでしょ う」と、語っている。

 与党が圧倒的に多数の場合は、国会論戦で「知らぬ存ぜぬ」で通しても、与党が助けてくれたが、与野党が入れ代わるとそう はいかなくなる。政治や行政の真相が少しでもオープンになるということは、国民の理解や判断を高める上でも大事である。それが政権の交代で、一歩でも進め ば、日本の議会制民主主義にとって大きな前進になるのではないか。


  2009年07月02日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


 支持率と選挙結果の 関係

栗原 猛


 新聞を整理しながら、報道各社の内閣支持率や政党支持率を見比べていたら奇妙な相関関係があることに気が付いた。

 まず前回05年9月の衆院選挙は、小泉政権の郵政選挙、刺客騒動が話題を呼び、自民党は圧勝した。このとき投票日直前の支持率は、自民党の比例29・ 7%、選挙区30・6%で、獲得議席はそれぞれ77人、219人。これに対して、民主党は、比例18・3%、選挙区は17・5%で、獲得議席はそれぞれ 61人、52人。いずれも自民党は民主党より支持率が高く圧勝した。

 次に自民、民主が逆転した07年7月の参院選直前の調査をみると、こんどは自民党(比例21・5%,選挙区22・1%)なのに対して、民主党は(比例 27・4%、選挙区27・1%) で、いずれも民主党が自民党を上回った。選挙の結果もご存じの通り、民主は比例20人、選挙区40人で、自民党(比例14人、選挙区23人)を圧倒する。

 さらに、内閣支持率や政党支持率も選挙結果と密接に結びついている。前回の参院選の時点での、内閣支持率は29・0%(不支持59・0%)で、30%台 を切っている。政党の支持率をみても自民党は31・5%なのに対して民主党は37・6%と高い。

 1社だけの調査では客観性を欠くと言われるかもしれないので朝日、毎日、読売、日経の調査をそれぞれ比べてみたら、数字こそ違え傾向は同じだった。最新 の6月調査によると、内閣支持率17・5%、不支持率70・6%。自民党の支持率は19・8%、民主党の支持率は38・5%である。麻生首相や自民党が解 散に尻込みする気持ちは分からなくはないが、内閣不支持率が、内閣支持率の3倍以上もあるのに政権が続いているというのも不思議だ。

 どうしてこういう数字が出るのか、政治意識調査をみてみると、「政治に不満」が83%、不満の中味(複数回答)をみると、断然トップは「税金の無駄遣 い」の63%である。「政治に取り組んでもらいたい分野」では、「年金、医療、介護など社会保障の充実」が69%。以上の数字を岡目八目的にみていても、 自民地滑り的大敗というデータである。

 「亡国とは亡に至ってしかる後に亡を知る」という有名な古語がある。人間は得てして大事なことに気が付くのが遅くなるーということを戒めた箴言だ。政治 の最大の課題は、こうした国民の切実な願いを、政治や行政がどれだけ真剣に受け止るかの一点に絞られている。


  2009年06月28日(日)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


  「景気底入れ」と大型補正と総選挙

栗原 猛


 「景気は底入れした」と日銀総裁が会見した。与謝野財務相も「金融機関の傷は浅く金融機関は 健全」と「景気回復宣言」をしている。誠に慶賀すべきことで、政府の善政これにしくものはないーと言いたいところだが、どこかおかしい。

 そんなに早く底入れするのなら、なぜ大騒ぎをして15兆円もの大型補正予算をつくったのかで ある。麻生首相は「選挙より政策」と繰り返し、総選挙の時期を先送りにして、補正予算の成立を急ぎ、成立したなと思ったら景気底入れ宣言である。

 まず分かりにくいのは、「百年に一度の経済不況」がこんなに早く底を脱するものなのかどう か、大型補正予算をつくる判断をしたことも疑問点だ。意地悪く見れば、もともと「百年に一度の不況」というのは、嘘っぱちで、総選挙対策用の大盤振る舞い のために「百年に一度の不況」を演出したのではないかとさえと思えてくる。

 というのは政府の経済危機対策が、なんとも気前が好すぎるからでもある。政府が発表した資料 は雇用対策、金融対策、低炭素対策、健康・長寿、地域活性化、安全安心等の確保など、8項目が並び計15兆円となる。一見、「景気対策に全力」のようにみ えるが、各項目の実態を知るには各省庁ごとにある明細書を見ないと分からない。しかもこの明細書は国会議員でも予算委員にしか配られていない。

 ある予算関係の議員がこの明細書を計算したら、15兆円のうち6割、約9兆円が補助金だっ た。また、「安全・安心確保等」の項目には「4車線化(2600億円)」が入っている。道路建設費は本来、道路会社が負担すべきもので、国の税金を使うの はおかしいのではないか。また4車線化される区間は自民党道路族の地元でもある。

 07年12月の閣議で廃止が決まった「都市再生機構」に1千億円、「雇用・能力開発機構」に も140億円が付いている。今年度から生活保護の母子加算手当200億円が廃止されたが、これぐらいの税源はいくらでも工夫できたのではないか。世襲政治 家が増えていることとの因果関係は分からないが、政治や行政が民意とかけ離れているように思われる。

 鉱工業生産指数は上を向き始めたというが、完全失業率はまだ5%と高い。可処分所得は減って いる。日本の最低賃金は703円(1時間)で、年収200万円にも届かない。経済大国といいながら欧米の水準より低いのである。百年に一度の不況、大型補 正予算、国会延長、不況脱出宣言ーの文脈を見ていると 、解散、総選挙をもて遊んでいる感じである。自民党内では、総裁選前倒し論が出始めているが、解散権を党利党略のために使うことを戒めた保利茂衆院議長の 名見解をもう一度、かみしめてほしいところである。

 


   2009年06月09日(火)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


  「小沢傀儡」と政権交代

                          栗原 猛


 永田町の政治体質について、日ごろ厳し口調で批判している社会部の大先輩から、「小沢の心境は頼山陽の『流星光底長蛇を 逸す』ではないか」と、電話が入った。西松建設事件では「政権党も捜査をしなければ片手落ちだ。公平も欠く」とも言っていた御仁である。

 民主党の代表選挙の報道ぶりをみていて、ちょっと気になることがある。1つは代表選を報ずる16日夕刊と17日の朝刊の一面のトップが代表選ではなく、 インフルエンザだったことである。インフルエンザは人の命にかかわる問題だから、大きく報じてしかるべきだが、政府はこの直後には警戒のランクを下げてい る。もとより政府、与党に気兼ねをしたわけではないだろうが、代表選の方が重要度が高いのではないかと思われた。

 もう1つは、「小沢傀儡」とか「小沢依存の克服」という趣旨の解説記事は目立ったたが、その先の議論が少ない感じがした。次の総選挙は、政権交代の是非 が大きな争点になると報じてきているわけだから、政権交代とはどういうものなのか、霞が関がなぜ反発するのか、英、米の政権交代はどのように行われるの かーなどについての紹介や解説が必要ではなかったか。

 東京新聞が13日付朝刊のこちら特報部で「官僚が民主復活を怖がる理由」として2ページにわたって、6項目の特集をしている。その中で、民主党が導入す るという「幹部職員の政治任用」について、「『おいしい天下り』をぶち壊す制度だ」「霞が関が面白く思わないのは当たり前。官僚が自公政権を望むのは当然 だ」と指摘していたが、なかなか興味深かった。その延長線上に「国策捜査」があっったのではないか、類推された。

 政権交代というのは、長い間、一党支配によって積み重なってきた利権の構造や人脈が入れ替わることである。大事なことはその際、政策のミスや税金の乱暴 な使い方などにチェックが働く。政権の交代が英米のように定期的に行われると、政権を担当している間は、次期政権から政策ミスや税金の無駄遣いなどを、つ つかれないように気をつけるようになる。つまり自浄機能が働くようになる。

 政治学では、「権力は絶対に腐敗する」といわれる。だから時々、有権者は投票で政権を代える必要がある。交代を繰り返していくたびに、政治や行政はガラ ス張りになっていく。霞が関にもチェックが働くようになる。政権の交代は、政党政治や政治主導を根付かせるうえで大事なことなのである。


   2009年05月28日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


  解散権と「保利議 長見解」

                          栗原 猛


 日本の政治家は外遊先で、国内政局について記者会見し、見解を披露するのが好みらしい。ある首相秘書官が、「旅先での発 言は、多少ドライブがかかっても帰国後に修正しやすいから、観測気球にはもってこいなのですよ」と、明かしてくれたことがある。

 麻生太郎首相も先の連休では外遊先で、衆院解散・総選挙の時期について「衆院選と東京都議選のどちらを優先するかといったら、それは衆院選だ」と語っ た。同時に「09年度補正予算と関連法案の成立が最優先」「最後は私が決断する」とも言っている。任期満了の9月10日は刻一刻近づいているが、狭まった 選択幅の中で自らの主導権を精いっぱいアピールするのが発言の狙いだと、各紙は報じている。

 首相の解散権は、国民が選んだ衆院議員のクビを切るわけだから、伝家の宝刀と呼ばれ、閣僚の任免権とともに首相のパワーの源泉と言われ、政敵に打撃を与 えたり、野党の攻勢をけん制したりするためにも使われる。

 麻生首相の祖父の吉田茂元首相は、1952年に有名な「抜き打ち解散」をして、反吉田の急先鋒だった鳩山一郎(鳩山由紀夫民主党幹事長の祖父、元首相) の台頭を抑えようとした。福田赳夫首相と大平正芳幹事長(後の首相)が激しく主導権争いをした1977年の「40日抗争」では、福田氏(康夫前首相の父) は、解散権をちらつかせては反福田勢力をけん制した。このとき党内から「解散反対」の署名運動が起きたほどだった。

 解散権が、党内抗争や反対勢力の攻撃のために使われることを憂慮した当時の保利茂衆院議長が考えをまとめ、死後の1979年に公表されたのが有名な保利 見解である。保利議長は、この中で「国会議員は、主権者である国民の厳粛な信託を受けて立法その他の権能を果たしているのであって、内閣に衆院の解散権が あるといっても、内閣の都合や判断で一方的に解散できるものではないーと解散権の乱用を厳しく戒めている。

 政府与党にとって、有利な解散時期を選択することが最大の関心事かもしれないが、多くの国民にとって最大の関心事は、非正社員などの雇用対策や年金問 題、景気の先行きはどうなのかなど生活にかかわる「安心」と「安全」である。解散権をもてあそんでいるわけではないだろうが、議会政治の先達の知恵をじっ くりかみしめてみることが大事だと思われる。


   2009年05月07日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


  「世襲」と英の腐 敗防止法

                          栗原 猛


 親などの親族を引き継ぐ世襲候補について、民主党が次期衆院選挙から制限することを打ち出した。親族の範囲は「3親等以 内」を軸に詰め、マニフェスト(政権公約)に盛り込むという。小沢一郎代表秘書の違法献金事件でダウンしたイメージの挽回策ともいえそうだが、民主党に限 らず各党も世襲の規制に乗り出してほしい。

 現在、国会議員の経験のある父母または祖父母を持つ議員は130(衆院議員480人)人を超える。自民党は3人に1人、民主党も7人に1人の割合だ。麻 生内閣の17閣僚のうち12閣僚が2世、3世議員である。平成20年間で13人の首相が誕生しているが、このうち9人、最近では小泉純一郎、安倍晋三、福 田康夫、麻生太郎氏と世襲議員が続く。小泉首相が次期衆院選に次男を後継にすることを明らかにして批判されたが、民主党でも小沢一郎代表、鳩山由起夫幹事 長は2世と4世議員だ。

 2世議員のなかには資質も識見もあり、パワーに溢れる議員も少なくない。問題とされるのは地盤、看板、カバンが一種の既得権益となって、さまざまな分野 から人材が政界に進出しにくくなり、政治から活力が薄れ、民意に対する感度も鈍くなっていくのではないかという懸念だ。

 議会政治の先進国といわれる英国では、2世議員はいないといわれる。政治家は名誉職、奉仕活動と考えられ、「年俸や議員歳費を合わせても2000万円ぐ らい」という。日本では、歳費と文書通信交通滞在費は、政党交付金、公設秘書3人の給料も合わせて年間1億円近い国費が支給される。

 もっとも英国も一気に議会政治の模範国になったわけではない。かつては選挙で買収や供応が横行して、1988年、グラッドストン政権時代に、日本でも知 られている「腐敗及び不法行為防止法」がつくられ、何度か改正されて罰則なども強化され、世襲にもメスが入れられてきた。

 現在は、下院では親子は同じ選挙区から出馬を規制され、同一政治家の同一選挙区からの連続立候補も制限される。逆に選挙区を代えて当選しさえすれば政治 家が続けられるわけだ。だからチャーチル元首相は4、5回選挙区を代えたといわれる。

 ブレア政権では、世襲貴族議員や一代貴族議員で構成されている上院議員1330人から659人の世襲貴族議員(無報酬)を廃止し、671人にスリム化し ている。腐敗防止や活力回復のための努力を重ねてきており、経済第2位の日本でも実現できないはずはない。ここに来て天下りや渡りなどを禁止する公務員制 度の改革をはじめ、特殊法人改革など後退感が否めないが、日本のパワーアップのために、政治が率先して既得権益にメスを入れるなど改革の模範を示すことが 必要ではないか。


   2009年04月28日(火)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


  「調査報道」と説 明責任

栗原 猛  


 東京地検特捜部による民主党小沢一郎代表の公設第一秘書の逮捕について、ある官僚OB氏が「政策捜査の臭いがしますね」 と興奮気味に言った。永田町では政治家にかかわる事件ではさまざまな憶測が広がるが、今回ほど検察の捜査の在り方も含めて、議論を呼んだことは珍しい。

公共事業と政治が絡んだ事件の徹底究明は大事だが、いくつかの疑念もある。1つは、日本をはじめ米欧など足並みをそろえて 「100年に一度の不況」克服に立ち向かっている時期になぜという点だ。もう1つは、もう5カ月以内には総選挙があり、政権交代があるかどうか日本の政治 が大事な時期にあるという点である。

共同通信社の世論調査でも、96%の人が景気が悪化していると指摘し、65%の人が失業不安を感じている。政治の空白に よって、政府の景気浮揚策に支障が出るのではないかという懸念は、経済界でもよく指摘されている。日本の政党政治を長く研究しているコロンビア大学のジェ ラルド・カーティス教授は、「次期首相になるかもしれない人物の公設秘書を『政治資金規正法違反』という形式犯で、いきなり逮捕するというのは極めて異例 である」(朝日新聞3月12日付け朝刊)と指摘している。

自民党の国対関係者は、「民主党との間で5月17日投票という線で、総選挙の日取りがほぼ固まっていた。なぜこの時期に なったのか知りたいと言う。話題になった政府高官のオフレコ懇談も民主党は「逆指揮権ではないか」と非難する。

検察は時の政治には関係なく、事実と証拠に基づいて厳正に捜査すると言われる。信じたいがダグラス・グラマン事件などにか かわっていた検察高官から、当時、「検察も行政府の一部だから、政治に全く無関係というわけにはいかないところがある」と聞いたことがある。

永田町では事件の発端が西松建設の海外出張所だったことからCIA説もある。小沢民主党が官僚政治からの脱却を掲げて、 「公務員の人事制度の見直しや幹部の取り替え、天下り、渡りなどの禁止」を打ち出していることから、「既得権益を守ろうとする『霞が関の虎の尾』を踏んだ のではないか」と解説する議員もいる。

報道各社の世論調査で、民主党や小沢支持は減ったものの、麻生政権の支持率は微増だったことから、自民党内には、国民各階 各層の政治に対する怒りは、もっと深い。雇用や年金問題や中央と地方の格差、官僚の天下りや渡りなどに地道にとり組むべきだという声も出ている。

今回は報道の在り方も問われている。マスコミは「関係筋によると」などという書き出しで、「事件は自民党にも広がりそう」 とか「二階経済産業相にも波及しそうだ」などと、報じている。このうち立件できるものがどれだけ確認されているのかーという疑問も指摘されている。

「ジャーナリズムの可能性」の著者、原寿雄氏は 「報道する側は、検察当局の情報を鵜呑みにしないで、いまこそ調査報道に徹する気構えが大事だ」と、語っている。もとより小沢民主党の肩を持つわけではな いが、捜査段階で話しにくいかもしれないが、日本の政治や経済が重大な時期を迎えている時期であること、また政治不信ばかりか、検察の中立、公正さを疑わ れないためにも検察首脳の十分な説明が必要だと思われる。


   2009年03月18日(木)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


  首脳外交と 「100年に一度の不況」

栗原 猛  


 ロシア、米大統領と首脳会談をこなした麻生首相が、この夏に向けてさらに首脳外交を展開する。麻生降ろしの動きを封じや、支持率アップに狙いがありそう だが、外交関係者の中には「政権基盤を固めてからでないと、足元を見すかされる恐れがある」と、心配する向きがある。

 首脳外交では、5月にはロシアのプーチン首相が来日し、胡錦涛中国国家主席、李明博韓国大統領との首脳会談も調整が大詰めだ。日中会談は、昨年5月に胡 錦涛氏が来日しており、今回は首相が訪中する番だ。韓国大統領の訪日もある。国際会議では、4月2日にロンドンで金融サミットが開かれる。また4月にはタ イで、東アジアサミット、5月末には、北海道で太平洋・島サミット、7月8日からはイタリアでG8サミットがあり、8月までの日程はほぼ埋まった。

 首相は外相経験が長く、外国生活の経験もあり、党執行部も「内政では問題発言もあったが、外交になると生き生きとこなしている」と言う。7月のサミット まで外交日程を組んだのは、総選挙を8月以降に想定しているからではないかと、見る向きもあるが、「民主党の小沢一郎代表の事務所に、政治資金規正法違反 で東京地検の捜査が入ったことで、状況は変わった。解散は早まる」との分析もある。

 これまでの首脳会談の成果だが、欧米の報道ぶりを見ると、「(オバマ米大統領との会談は)日本側からの必死の要求に応じて公式訪問リストのトップに掲げ た」(ロシアのイタル・タス通信)、「(招いたのは)現首相個人ではなく、日本の首相というポストに対する敬意だ」(フィナンシャル・タイムズ、電子版) など、辛口の論評が目立つ。英国の新聞は小さい扱いだった。

 外交は国内政治の延長だとよく言われる。各国首脳は相手国の政権のパワーなどを知り抜いた上で会談に臨んでくるし、基盤が弱かったりすると、国内向けの パフォーマンスのために、前のめりになりがちなことを戒めた言葉である。

 祖父、吉田茂元首相は、マッカーサー元帥の威光を背景に、国内政局を乗り切るろうとしたが、こと外交になると、熟慮の上にも熟慮を重ねたと言われる。首 相自身が「100年に一度の経済危機」と宣言しているのだから、「むしろ国内に踏み止まって、景気対策の陣頭指揮に当たった方が、指導力を印象づけられる のではないか」という見方も少なくない。


   2009年03月9日(火)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


  ご意見番の不在

                             栗原    猛


 郵政迷走発言、小泉純一郎首相の痛烈発言、GDP年率12.7%減、中川昭一財務相のもうろう発言・辞任、麻生内閣の不支持率が支持率の3倍超にー。こ うした異常時には、大所高所から辛口の直言をするご意見番とか、事態打開の労をいとわない長老がいたものである。ところが、最近は「あの人が言うなら ば…」という役回りの人物が、政界ばかりではなく経済界、学界などにも見当たらない。
 
 調整役は豊富な経験とか知恵、それに人脈の広さなどが必要だ。修羅場をかいくぐった経験からくる迫力も欠かせない。思い出す限りでは経済界では、第2次 臨時行政調査会の会長として行政改革の旗を振った土光敏夫氏(経団連会長)はうってつけだった。めざしが好物で、一度使った封筒を裏返しにしてまた使うと いう清貧さも魅力的だった。

 タイプは違うが安岡正篤、四元義隆氏らは、政治家の「心の指南役」いう立場である。首相は官邸の広い執務室で、ただ1人で、国の大事にかかわることを決 断することもあるから、「心の師」が必要になるといわれる。四元氏は中曽根康弘元首相や安倍晋太郎元外相の指南役で、中曽根氏が難局にぶつかると、「私利 私欲を捨てて大死一番ですぞ」と進言したという。

 政界では、椎名悦三郎、保利茂、福田赳夫、田中角栄、後藤田正晴、金丸信、竹下登といった首相や副総裁経験の面々がご意見番だった。イラン、イラク戦争 の際、ペルシャ湾に掃海艇を派遣しようとした中曽根首相に、「(派遣は)武力行使になる必然性がある」と辞表を懐に、派遣中止を迫った後藤田官房長官の見 識は今でも語られる。風圧を感じさせる人物がいたのである。

 最近、このようなご意見番的な存在が見当たらないことについて、ある議員のOB氏は「テレビの討論番組には出たがるが、野党との面倒な交渉ごとなどは敬 遠しがちだ。だから先輩の知恵や交渉術、人のつながりなどが引き継がれなくなっている」と言った。

 政治の混迷が長引くようだと、国民生活にかかわるばかりでなく、社会不安が高じて、一気に問題を解決しようと過激な行動が出てこないとも限らない。混迷 ぶりを見ていると、大所高所から公正に判断して、直言する知恵者がいま求められているように思われる。


   2009年02月25日(水)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私 の後藤田正晴」など。


  政治家の言葉

                             栗原    猛


 ヨーロッパから来ている東京在住の特派員が、「ノーベル賞を一度に4つもとる国なのに、政治家の発言に重みがありませんね」と言っている。オバマ米大統 領の就任演説を聞いて徹夜したという自民党の中堅議員は、「政治家の演説はあれでないといけないな」と、感心している。

 オバマ氏はテロという言葉こそ使わなかったが、「広範囲に及ぶ暴力と憎悪のネットワーク」を打破するとキッパリと宣言した。「安全と理想のどちらかを選 ぶーそんな間違った考えは拒絶する」とも言っている。建国以来、アメリカを築いてきた先人たちの労苦や犠牲をたたえ、人間の尊厳と歴史の将来に強い希望を 訴えた。目立ったキャッチフレーズこそなかったが、かえって力強さを感じさせた。涙をためている人がテレビで大写しになったが、オバマ演説に自分たちの愛 せる国を取り戻せると感じとったのではないか。

 そのオバマ氏は、71兆円と350万人の雇用創出を盛り込んだ景気対策法案をスピード成立させた。共和党の反対で調整が暗礁に乗り上げると、反対派議員 の選挙区に乗り込み、得意の「草の根」の対話路線で、景気対策の重要さをアピールしている。反対派の議員も自分の選挙区でこれをやられたら、たまったもの ではないだろう。

 翻って、日本の政治も経済も「百年に一度」の大事な時期を迎えている。GDPが年率換算で12・7%減る見通しになったことで、政府や自民党は追加経済 対策の検討に入っている。まだ景気対策を盛り込んだ本予算案を審議中だというのに、見通しが甘かったのではないか。

 自民党内には「雇用状況などを考えたら、与党内で内輪もめをしている余裕はないのではないか」という意見も少なくないが、今期限りで引退を表明した郵政 改革の元祖、小泉元首相も表面に出てきて、自民党内の混迷がさらに深まった感じだ。混迷の火元は、麻生首相の郵政改革についての不用意な発言がきっかけで ある。

 トップの発言については、少し前の永田町には「閣僚の発言は『綸言汗の如し』でないといけない」という言葉が生きていた。閣僚の発言は、汗と同じような もので一度発言したら、引っ込めることはできないから、注意が肝心だという意味である。マックス・ウエーバーの名著「職業としての政治」をもじって、政治 家に大事なのは「地盤、看板、カバンではなくて、熱情と責任感と目測力だ」と、説いている長老議員もいた。政治家の発言は、人々に勇気や希望も与える。古 来、日本では言葉には特別の霊力が宿るとされ言霊とも言われた。麻生首相はサービス精神が旺盛なのかもしれないが、大事なのは言葉の重みではないか。


   2009年02月15日(日)

栗原 猛(くりはら・たけし)
1940年、北朝鮮清津生まれ。早稲田大学大学院法学研究科修了。共同通信社に勤務。政治部、編集委員などを経て、明治大学特別招聘教授。著書は「なぜ改 革は進まないか」、編著「政治家 後藤田正晴」など。


  政治と行政の劣化 現象

                             栗原    猛


 自民、行政の政策対応力鈍る国会論戦やテレビの討論会でも、最近、さまざまなデータを比較した表、フリップをもとに説明されるようになった。難しい経済 問題なども随分と分かりやすくなってありがたいが、最近、気になることがあった。 選挙区から国会に戻ってきた自民党の中堅議員が「地元では自民党の政策や総理、総裁をアピールしないで、自分党党首のつもりでやってきました」と言ってい た。政治や行政にひと頃のパワーが感じられなくなっていることである。

 政党は理念と組織、政策から成り立っているが、実はこの3点のいずれも劣化が見られるようだ。雇用、年金、医療・福祉・介護などは、政治や行政が何より も先に取り組まなければならない課題だと思われるが、どこか動きが鈍い。
その原因について、まず小選挙区制で自民党の人材の劣化が進んだと指摘されている。衆議院480人のうち世襲議員は3割以上になている。歴代首相を見て も、橋本龍太郎、小渕恵三、森喜朗、小泉純一郎、安倍晋三、福田康夫、麻生太郎首相のうち父親が国会議員でない首相経験者は森氏ただ1人である。
 世襲議員はまじめでよく勉強もしているが、地盤、看板、カバンもそろっていて、東京育ちとくると、国民が政治に何を期待していて、政治は何をすべきかど いうことに疎くなりがちである。 政治家の供給源といえば、地方議員か官僚が大所だが、官僚は世襲議員の多い自民党を避けて、抵抗感なしに民主党から出馬 するようになっている。自民党の活力が弱まる一方で、野党にも人材が集まる傾向が強まってきたことも挙げられそうだ。

■「保守の知恵」が枯渇

 以上のこととも関連するが、「保守の知恵」が継承されなくなっていることも大きい。安倍晋三、福田康夫氏は続けて政権を投げ出したが、「粘り強さ」とか 「しぶとさ」が感じられない。かつて幹事長など党三役は、迫力を感じさせる人がいたものだが、国際舞台での差しの会談などを堂々とやっていけるのか、いさ さか心配だ。
 麻生首相は渡辺喜美氏の離党話を聞いて、「個人の問題」と言っているが、あるベテラン議員は「少し前の政治家だったら、『ご指摘はもっともなところもあ るので、党ともよく相談してみたい』などと言って、事態を治めるような雰囲気をつくったものだ」と言っている。
 
  自民党はこれまで政・官・財の利害調整をはかりながら長期にわたって政権を維持してきた。高度成長が終わり財政赤字も天文学的になったことで、このシステ ムが機能しにくくなっているようだ。また小泉改革は「自民党をぶっ壊す」ことにエネルギーを注いだが、改革が目指す21世紀のビジョン、「この国のかた ち」を国民に語らなかったことも大きい。

 雇用、医療、年金問題など未だに抜本策が打ち出せずにいる。年金問題といえば、厚生省元事務次官の襲撃事件に関連するが、元事務次官が課長時代に、年金 の一元化の検討が始まっている。しかし、いまだに結論が出ていないのである。
与野党の勢力が拮抗する政治状況になったことで、官僚もこれまでのように自民党ばかりに肩入れしにくくなっていることも、政治や行政の動きの鈍さの背景に ある。

 オバマ政権は、雇用や景気対策に次々に手を打ってくると思われる。政治は比べられる。与党と野党が四つに組んだ選挙は政治史上はじめてだ。

   2009年01月30日(金)

栗原 猛(くりはら・たけし)
1940年、北朝鮮清津生まれ。早稲田大学大学院法学研究科修了。共同通信社に勤務。政治部、編集委員などを経て、明治大学特別招聘教授。著書は「なぜ改 革は進まないか」、編著「政治家 後藤田正晴」など。


  消費税増税論の前 にすべきこと

                             栗原    猛



 国会論戦やテレビの討論会でも、最近、さまざまなデータを比較した表、フリップをもとに説明されるようになった。難しい経済問題なども随分と分かりやす くなったが、どうもよく分からないのが麻生首相が、「百年に一度の不況」と叫んでいるさ中に、消費税増税へのこだわりである。
 
■ 「選挙に税」はご法度

 というのは永田町には「総選挙前に増税論はご法度」という堅い不文律があるからだ。これから春にかけて景気はさらに冷え込むと言われるから、麻生首相の 積極姿勢はなおのこと理解しにくいのである。首相周辺は「言いにくいことをあえて口にした勇気を理解してもらいたい」と言っているが、どうも腑に落ちな い。
 「選挙と税」の関係をみてみると、1987年、中曽根康弘首相は、前年の衆参同日選挙の大勝の勢いをかって、売上税の強行突破をはかろうとして、野党の 牛歩戦術に遭って結局、断念したことがある。当時、自民党は衆参両院で圧倒的な勢力を誇っていたが、それでも難しかったのである。
 98年の橋本龍太郎政権の参院選挙では、事前の予測は自民圧勝だった。これに気を良くしたのか、橋本首相は選挙戦の終盤になって増税を示唆してしまっ た。ところが、党内や地方の組織から一斉に反発の火の手が上がり、慌てて軌道修正したが、時、既に遅しで大敗する。そして求心力が落ち、退陣につながって いく。当時、永田町では「橋本政権が取り組もうとしていた省庁再編に、財務省(旧蔵省)が反発して、増税を持ちかけてわざと混乱させたのではないか」と、 噂さされたものである。

■ 責任すり替え

 今回も渡辺喜美元行革担当相の離党騒動など、自民党内には推進派と反対派に二分されかねない雲行きである。麻生首相のこだわりについては、雇用問題など で守勢に立っているので、話題の矛先を変えようとしているのではないかと見る向きもある。一方、「埋蔵金の活用と、消費税増税を取引したのではないか」ー と言い切る自民党議員もいる。というのは、財務省にとって増税路線が決まれば、国民の批判は財務省を通り過ぎて、与党に向けられるから財務省は、批判の矛 先をかわせるーと踏んだというのである。

 真相はまだはっきりしないが、日本の財政赤字900兆円に膨れあがっている。国有資産は500兆円とも700兆円ともいわれるから、これを差し引いたと しても財政赤字は天文学的である。900兆円と言われてもピーンとこないが、1兆円を積み上げると9000メートルの高さになるという。エベレストの最高 峰よりも高いことになる。それを900本も並べるとまさに「借金山脈」になるわけだ。
 日本の財政赤字は、小泉改革がスタートした2001年は650兆円と言われたが、減るどころか250兆円も増えているのだ。「三方一両損」とか、「痛 み」を分かち合おうということで、国民は改革に協力してきたが、あの改革はどこかおかしいところがあったのではないか。
 民主党のある幹部は、「アメリカの共和党は、大盤振る舞いしたつけは民主党政権に回して財政再建をさせるが、自民党や官僚は政権交代あり得べしと見て、 ばらまき財政の後始末を民主党政権にかぶせようというのではないか」と言っている。

 信じたくはないが、そうだとすれば「党利、党略と省利、省益あって国家、国民なし」ということになる。予算案は、毎年9月から年末まで4カ月間、じっく り時間をかけてつくられるが、実はこの編成作業にも問題があったのではないか。まず無駄をテェックして、どう改革するのかを国民にオープンにして、その上 で責任体制もはっきりさせることがまず先決ではなかろうか。そうしないと増税してもまたすぐに赤字財政となり、増税を繰り返すことになるからだ。
 かつて各界のトップリーダーに「帝王学」を説いた陽明学者の安岡正篤氏は、「秀才、事を誤る。誤って責任を韜晦する」と、戒めていた。いま何よりも大事 なことは、天文学的な財政を赤字にしてしまったことに対する自浄機能と、責任感を発揮させることではないだろうか。


   2009年01月17日(土)

栗原 猛(くりはら・たけし)
1940年、北朝鮮清津生まれ。早稲田大学大学院法学研究科修了。共同通信社に勤務。政治部、編集委員などを経て、明治大学特別招聘教授。著書は「なぜ改 革は進まないか」、編著「政治家 後藤田正晴」など。


  政治は「非正社員 切り」に迅速対応を    
  公共事業重視から転換急務


                             栗原    猛


 NHKスペシャルの「ワーキングプア」、日本テレビ系列の「ネットカフェ難民」、新聞も「横並び社会」、「偽装請負」などのキャンペーンで取り上げ、い まや非正社員問題は最大の政治問題だ。麻生首相もやっと重い腰を上げたが、政治や行政の対応はまだ鈍い感じだ。 

■ 非正社員は先進国一だ

 雇用労働者5500万人のうち1700万人が非正社員といわれるから、働いている人の3人に1人は非正社員だ。非正社員は、トヨタ、ホンダ、日産など日 本を代表する自動車メーカーのケースにもあるように、真っ先に解雇される。6割は雇用保険に加入していないから、職を失うと同時に収入を失う。非正社員が いる家庭では、当人だけではなく、その両親、祖父母も孫の将来は心配である。
 
 非正社員の定義には国によって多少違うが、ドイツ、フランス、イタリアは13〜14%、イギリスは6%程度だから、日本は飛び抜けて多い。イギリスは サッチャー政権の市場化政策で、金融部門をのぞく雇用、教育、医療の3分野は荒廃したが、ブレア政権が、雇用政策を改善したのである。
 
 小泉改革を支えた竹中平蔵・元経済財政相が、非正社員が増えたことを聞かれて、「改革が止まったからだ。やめずに進めるべきだ。完全失業率(10月は 3・7%9月は4・0%)は改善されており、株主の配当も増えている」と、答えているのを聞いていささか驚いた。ちょっと説明が必要だが、完全失業者と は、毎月月末の1週間、「求人活動中で、それでも仕事がなく、仕事があればすぐにもつける」ーの3条件を備えた人だ。仕事が見つからずに仕事探しをあきら めると、完全失業者にカウントされない。したがって、町に失業者が溢れていても、完全失業率は低いということもあり得る。
 
 完全失業率は改善されたかもしれないが、自民党内にさえ春先には、03年の5・5%という過去最悪を上回りそうだーという懸念がある。一部のいい数字だ けを取り上げて評価すると、雇用問題の切実な実態を見おとすことになるのではないか。求人数を示す有効求人倍率は下がり続け、昨年10月は0・80倍と 04年5月以来の最低になった。また39道府県で求人数が求職数下回っている。
 
■ 英紙も日本の雇用荒廃を指摘
 
  一方、公共事業費をみると、日本は6兆9000憶円で、この数字はイギリス、アメリカ、フランス、ドイツの公共事業費を合わせたよりも多い。社会保障 費を2200億円を削減することですったもんだしたが、公共事業費を少し回せば済むことではないか。最近では公共事業より社会保障の方が経済効果が大きい という指摘が少なくない。 イギリスのインディペンデント紙は、最新号で「(日本の大学で)マルクス主義の本が復活していることは、世界第2の経済大国で 不平や不満が増大している証だ。この国では過去10年間にわたる全面的な構造改革の中で、労働者を保護する多くのものが奪われた」と、指摘している。
 
 非正社員を含めた雇用政策で、成功例で言えば、ブレア政権は全国に職業訓練、職業紹介網をつくり雇用機会を増やした。スウエーデンやデンマークは、育児 休業中の所得保障などで成果を上げるなど、各国それぞれ工夫している。雇用不安で心配なことは、凶悪犯罪など社会不安の引き金になりかねないことだ。いま や非正社員対策は厚労省だけではなく、総務、経済産業、文部科学、国土交通、農水など縦割りの壁を取っ払って、総合的な視点で取り組むべきではないか。オ バマ氏は「1分たりとも無駄に出来ない」と、一気に経済、、安全保障チームの陣容を立ち上げたが、麻生政権も迅速果敢な雇用対応が急がれる。


   2009年01月09日(金)

栗原 猛(くりはら・たけし)
1940年、北朝鮮清津生まれ。早稲田大学大学院法学研究科修了。共同通信社に勤務。政治部、編集委員などを経て、明治大学特別招聘教授。著書は「なぜ改 革は進まないか」、編著「政治家 後藤田正晴」など。


栗原 猛

 政府の事業仕分けについて、メディアの評判は賛否両論さまざまだが、世論調査は、どこの社も高い評価だ。共同通信社の調査では「来年 度以降も継続するべき」が83%もあった。月末まで刷新会議や財務省と各省の調整が進められるが、項目を変えてこっそり復活したり、特別会計に潜り込ませ たりと、まだ抜け道がある。パフォーマンスに終わらせないためにさらに目を光らせていくことが大事だ。

 事業仕分けについては、「消費税導入のためのガス抜きではないか」という見方がある。案の定、政府の審議会の大学教授が、「あれだけ切り込んで1兆 6000億円の削減したのだから、これ以上無駄はないはず。消費税増是のための理解が深まったのではないか」という趣旨の見解を示した。

 ノーベル賞受賞者やスポーツ界からは、削減を見直すべきだという意見が出た。科学技術やスポーツ振興の重要さも大事には違いがないが、科学者も国家の将 来とか人類のためとか肩を怒らせないで、現下の厳しい財政事情をそれなりに受け止めて、研究を続けてほしいところだ。

 こうした論議を聞いていて、1つ腑に落ちないことがある。それは有権者が政権交代を選択した背景には、政治や行政が積み上げた無駄排除があったと思われ る。ところが、霞が関側から、「それでは改革に協力しよう」という声がいっこうに聞かれないことである。それどころか、公務員制度改革をはじめ天下りや渡 りの禁止、給与や年金などの官民格差是正などは一進一退である。

 公務員の共済年金とサラリーマンの厚生年金を比べると、350万人参加の共済年金には補助金は1兆7000億円投入されているが、3500万人加入の厚 生年金には1兆8000億円しかない。官にはこのほか職域加算など手厚い。年金一元化は30年も前から取り組まれてきたが、いまだに日の目を見ない。官僚 とサラリーマンの生涯賃金を比べると、大きな差になるのではないか。

 衆院調査局によると、天下り先の特殊法人や独立行政法人は約5000カ所あり、2万8000万人が天下りしているという。しかも補助金や貸付金が12兆 円投入されている。事業仕分けでは、職員より役員の数が多いこと、80歳近くになってまだ理事長などで頑張っているケースなどが指摘された。それぞれの制 度には、つくられた経緯などがあるかもしれないが、このご時世、見直しは不可避である。

 片山善博慶大教授(元鳥取県知事)が、県知事時代、3500億円の県予算のなかから、200億円の余剰金を出して注目された。その片山氏が、削減の2つ の秘伝を披露している。1つは初めての人を財政課長のポストに据えたこと。2つ目は、予算を余した課長を積極的に評価して、意識の変革に取り組んだこと だーという。

 イギリスの軍事史家パーキンソン氏が、官僚組織を研究して有名な2つの原則を発見した。1は、組織はいったんできると仕事がなくても人員だけは増える、 2は、官僚は入った予算はすべて使い切ってしまうーの2点だ。官と民をさまざまな点で比較してみると、霞が関自身が自己改革の音頭をとっても遅くはないよ うに思われる。


 


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