政治時評
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  新時代の構築に向けて

 



2016年12月26(月)     


トランプ次期大統領とどう向き合うか
日本は自らを省みる大切な時


                        上毛野 哲也



 世界中がトランプ次期大統領の一挙手一投足を見守っている中で、安倍晋三首相は世界のリーダーに先立って、トランプ氏と会談した。菅儀偉官房長官は「素 晴らしい会談だった」と言う。だが会談の内容は一切公表されてないので、どのような会話があったのか判断のしようがない。選挙直後に大統領選の勝利者と日 本の首相が会うのは異例で、オバマ政権からはまだ控えて欲しいと注文があったといわれる。

 USトゥディ紙はトランプ氏は過去30年間に3500件以上の訴訟に関与し、「人生は勝つか負けるかの連続であると言っている」と伝えている。巨万の富 を築いた手法を国際政治の舞台に取り入れるかもしれない。ナイーブな交渉ができる相手ではなさそうだ。自民党がカジノ法案を急いだのはトランプ氏との会談 と無縁ではなく、トランプ系ホテルの日本進出の話もあるようだ。

米国内に病理抱える

 ただしトランプ氏の過激な発言が多くの人々の不満を晴らしたことは、アメリカの社会がそれだけ多くの病理を抱えている証ともいえるだろう。これまで労働 者や庶民を基盤にしていた民主党は、牙城だった五大湖周辺の工業地帯で敗れた。民主党を支持した白人労働者たちは、大富豪ながら庶民に寄り添う姿勢を示し 続けたトランプ氏に投票している。権力者は批判するものに対して反撃するものだが、トランプ氏はとりわけ批判的だったマスメディアに対して攻撃的な姿勢を とっている。

 トランプ氏の勝因は、ビル・クリントン民主党政権時代に導入された規制緩和と、金融資本主義の拡大によって、生産拠点が移動し職場が奪われ、代わって労 働条件の悪いサービス業などが増えたにもかかわらず、民主党は労働者の不満や不安に対応できる政党ではなくなっていたことだ。失業率は改善しても全米で 4700万人がフードスタンプ(低所得者向け食糧補助)を受けているといわれる。

政権がナショナリスティックに傾く危険

 米大統領選挙は、超大国米国社会が抱えている問題点を隈なく浮き彫りにしたといえるが、翻って日本にも自らを省みる大事な時期であることを気づかせてく れた。懸念の1つは安倍政権がトランプ氏に共鳴してナショナリスティックな傾向を強めるのではないかという点だ。外務省の高官は、「安倍政権が中国や韓国 との緊張関係に抑制的になっていたのは、自制心からというよりもオバマ政権からのブレーキが大きかった」と指摘する。その象徴ともいえるのが2013年9 月のケリー国務、ヘーゲル国務両長官が千鳥ヶ淵戦没者墓苑の献花だったとされる。トランプ政権の登場で、このブレーキがどうなるか気になるところだ。

 もう一点はアベノミクスの成果がはかばかしくないことだ。9月の日銀のアベノミクス総括的検証では、黒田東彦日銀総裁の異次元緩和やマイナス金利に対し て弊害が指摘され、成果が上がっていないと評価された。アベノミクスの提唱者の浜田宏内閣官房参与は、日経新聞のインタビューで「私がかつて『デフレはマ ネタリーな現象だ』と主張していたのは事実で、学者として以前言っていたことと考えが変わったことは認めなければならない」と誤りを認めている。

 マイナス金利で気掛かりなことは日銀が債務超過になることだ。マイナス金利では満期時より高い価格で国債を取引することだから、日銀はそのたびに損失が 出る。既に10兆円といわれ、これは日銀の自己資本(7・2兆円)、引当金(2・7兆円)に相当する数字だ。だが黒田総裁は失敗を認めずに、続投して量的 緩和をさらに続けるという。金融専門家の間でも、政府は手持ちの経済政策をすべて使いつくしていると評価されている。日銀の対応には太平洋戦争を組織面か ら分析した名著といわれる「失敗の本質」が指摘する病理が表れているように思われる。

賢明な外交政策を期待

 そこで元に戻ることになるが、安倍政権は国民の目をそらせるために、ナショナリズムに訴えてくるのではないかというのだ。ローマ帝国が崩壊した原因につ いて多くの分析がされているが、その1つに国民をパンとサーカスに夢中にさせ、政治から国民の関心をそらせたというのがある。東京オリンピックは国威発揚 を煽って、国民の関心をそちらに集中させようと仕立て上げられるのではないか。自民党のある長老議員は「アベノミクスの失敗で反省していたら、憲法改正の パワーが弱まる。たとえ失敗と分かっても反省などしないで突き進むだろう」と言う。

 政策にはうまくいっている面とそうでない面がある。それはやむを得ないと思われる。ただし内閣支持率を大事にする割には、国民にはいいところのだけの数 字を示し、野党の質問に正面から答えないで肩透かしをするケースが目立つ。また外電は虚偽を拡散することにもたけていると伝えている。アベノミクスの後 退、英国のEU離脱、トランプ次期大統領の経済政策、欧米に広がる極右勢力の動向、ちょっとしたきっかけから世界的規模の反動が起きないとも限らない。政 治は国内の矛盾を減らすように努め、国際的には誤りなき賢明な外交選択を期待したい。                         

(政治ジャーナリスト)   


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