【趣の庭】釣り三昧
2013.2.12

釣り三昧 Vol.85
Joy of Fishing


雪に閉じこめられて


樋口 正博


生け垣も雪で押しつぶされそう

■少ないはずの雪が降った

 信州は雪がたくさん積もる。そう思っている人は多い。だが、雪が深いのは飯山とか野沢など、いわゆる北信と言われる地域だ。
 タコの介の実家は塩尻市。いわば中信のまんなか。ここは冷え込みは厳しいが雪は少ない。
 信州は南北に長く、面積も北海道以外では岩手県、福島県のついで三番目に広い。隣りの山梨県の三倍以上もある。「日本の屋根」と言われるくらいで、急峻な山岳が連なる。
 タコの介の家からは峰を真っ白に染めた北アルプスが見渡せる。そのなかでひときわ高くそびえているのが乗鞍岳(3025m)。日本には3000m峰の山は21山ある。そのうち14山が信州にある(隣りの県と県境を共有する山も含む)。ちなみにタコの介の実家の標高は680m。
 寒いが雪はそれほど降らない塩尻に雪が降った。1月14日の成人の日だった。関東でも異例の雪になった日である。
 前夜から降りだした雪は一日中降り続いた。結局40センチ近くの積雪となった。タコの介のインプレッサはすっかり雪に埋もれた。ノーマルタイヤなので掘り出しても走ることはできない。
 ガレージに入れてあった軽自動車はスタッドレスタイヤを履いているのでこちらを使うことにした。といっても、幹線道路はすぐには除雪車が来ないので2日間は閉じこめられたのだ。
 連休明けの15日(火)には東京に戻ろうと思っていたが、もう諦めた。まずは軽自動車を動かすことにして、16日にはようやくスーパーに食料品を買いにいくことができた。


東京から走ってきた車は雪に埋もれた


■腰に来るのよ

 雪が降ると田舎ではやることがある。自宅の前の路地の雪かきだ。みんな早朝から雪の降るなか雪かきをしている。これは田舎のマナーなので放っておくわけにはいかない作業なのだ。
 タコの介も長靴と軍手で雪かきを始めた。これが、普段の運動不足と酒飲みの日々を過ごしているタコの介にはとっても辛い。
 実家の敷地に面している路地は30m近くもある。しかも、すでに何回か車が通っていて、道路は圧雪された轍が2本。さらにこの雪は水分を含んでいて重い。
 たちまち荒い息となり、腰が猛烈に痛くなってきた。雪は降り続く。たとえ全部の路地を雪かきしても、午後か夕方にはまた雪かきをしなくてはならない。むなしい。
 途方に暮れては、腰を伸ばして肩で息をする。思い直して、ふたたび重い雪をすくい取っては「ウォーッ!」と叫んでは道の左右に放り投げる。一回やっては腰に手を当ててひと休み。そしてまたもやわれに返って、雪をすくい「ウォーッ!、ドリャアー!」と叫んでは放り投げるのだ。
 叫ばないと力などどこからも出てこない。ご近所さんはすでにきれいに雪かきが終わっている。
 タコの介の路地だけが取り残された。自宅の庭も雪。玄関先も雪。だが、そんなの関係ない。問題は路地、人様がお通りになる路地の雪かきが大事なのだ。


これが第一回目のなんとか開通した路地

■蛇口が破裂だ!

 「よう、頑張ってるな。『中屋』(これタコの介んちの屋号)は道が長いから大変だな。手伝おうか」
 と、遠い親戚になるむっちゃ(すでに75歳)が声をかけてきた。
「あっ、ありがとうざざいます。でも、大丈夫。ひとりでできます」
 と、やせ我慢をした。75歳のじいさんに自分ちの雪かきをやらせるわけにはいかないでしょう。メンツ的にも。
 雪かきは草取りと似ている。遠くを見るとうんざりして力がなえる。だが、足元だけを見て、そこだけに集中して作業をしていると、「あれま、ずいぶんはかどってるじゃない」ということになるのだ。
 タコの介がその「あれま」と気づいたのは、やり出してから約30分後だった。なんだ、たかが30分をぐだぐだいかにも大変そうに言うなと叱られそうだが、都会生活でなまった身体は普段使わない筋肉を酷使して「痛いよー、痛いよー、腰も痛いよー」と悲鳴をあげていたのだ。
 その4日後、どうにか雪国を脱出して東京に戻った。そして、ふたたび信州に来たのは2週間後の2月1日。そしたら実家が大変なことになっていた。
 お勝手の水道の蛇口が凍結のために破裂して、水がジャンジャン流れていた。連日氷点下10度を下っていたのだ。
 市役所から電話がきた。「水道、どうかなりましたか? 普段より使用量がケタ違いです」
 オー・マイ・ガーッ!
                                                                                   

樋口 正博 (ひぐち・まさひろ)
1952年、長野県生まれ。
釣り専門誌の編集長を経てEditor&Writer。へら師にしてフライフィッシャーマン。そしてパラ愛好家。庭、釣り、農、酒を通して社会を見つめている。通称「タコの介」。Twitterのアカウント@takonosuke7
 
 
 


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