経済時評
  新時代の構築に向けて


2011年6月22日(水)     



増税策を採るべきタイミングではない

国民、経済ともに疲弊している

今は国と被災した民の体力回復を図るべき 


                        長宗我部友親

 

 増税論がなぜか、しかも姑息にも「福祉目的」という、もっともらしい仮面を被って急浮上してきている。だが、これは安直で愚策だと思う。

右肩上がりの時代はとっくに終わった

 かって、毎年続いていた自然増収(増税策を採らなくとも税収が上がる)が、ぴたりと止まって歳入欠陥が生じた時、政府はそれに対応した、基本的政策を採らずに、安易に国債の発行で後年度負担を初め歳出増に応じた。
 これは、大型の台風が襲来しているというのに、破れた屋根の穴をトタンでふさいで修理するというようなものである。この財政法4条の精神に背いた借金策は、国家財政を赤字で埋め続けるという結果となった。
日本は、右肩上がりの高度成長が終わり、歳入が伸び悩むという状態に入ったにもかかわらず、その際に思い切った歳出面の、つまり予算全体の見直しをせず、その穴を借金で埋めるという措置をとったのである。
 大蔵省(当時)は、高度成長が続いていたころ、次年度の税収を見積もるときに、前年度の税収にある一定の係数をかけて毎年はじき出していた。この係数分がいわゆる自然増収である。歳入に余裕があったからである。こうした背景から、歳出、特に税収がそのまま歳出に繋がる色つきの予算、つまり特別会計が、ほとんどブレーキが効かずに膨らんでいった。
 本来歳出と、歳入は拠って立つ理念が違うのだから、紐付の税金は作るべきではない。これは政策の悪弊を呼ぶ。
 
税金は本来無色であるべき

 あくまでも税制は無色で作り、歳出は政策論として計られるべきである。だから、財務省には主税局と主計局が別個にあるではないか。この2つの局を素通りしてゆく紐付の目的税は作るべきではないし、いらない。
 財政当局が、福祉に予算を大きく割り振るべきだと考えるなら、もう高度成長という経済の局面は終わっているのだから、一般会計と特別会計、それに地方財政計画というようなさらに予算を複雑化するものは、いったん大きく見直して、そのなかから捻出するのが基本である。真っ直ぐ道路財源に行ってしまうような揮発油税などの紐を取ってやり、完全に予算見直しをやった上で、増税策は論ずるべきと思う。

復興と増税論はなじまない 

 それに、増税の時期であるが、今は基本的に経済が弱まっているときである。さらに、東日本大震災、福島原発事故が起こって、国民は大きく疲弊している。そのような時期に、迅速な災害対応も実行せずに、復興と増税論をいっしょくたにして、あたかも優れた会計士でもあるかのような論を前面に出してくるのは姑息である。
 被災地では、政府が速やかに手を差し伸べないがために、生活の前途に希望を持てず、老妻を殺して自らも死を選ぶといった悲惨な状況が起こっている。     

 にもかかわらずニタニタと笑って延命を図る政治家は論外だが、優れた官僚と政治家がいるなら、まず徹底的に被災地を救済し、放射能を出し続ける原発の収束を図る。そのためには率先して歳出面の対応をする。
 財源策は二の次である。日本国民はいったい何のために、これまで汗を流して懸命に働き、経常黒字を積み上げてきたのか、経済大国というまでになったのか。そうして蓄積してきた国力は文句なく被災した国民に、遅滞なく与えられるべきでではないだろうか。
橋本内閣の時に消費税を3パーセントから5パーセントに引き上げたが、この時の税収総額は、計算通りには増えていない。つまり経済が弱っているときの増税実施は、机上の空論に終わりかねない。

 かって、仁徳天皇は民の竈から煙が上がっていないのを見て、徴税をしばらくやめて、民の力の回復を待った。それのみか自らも贅を戒めた。現在も同じである。今は、為政者が贅を戒め、歳出の見直しを、まず本格的に図るべきときであろう。
 それに震災復興は一時的なものである。それと恒久税制となる増税策はなじまない。


 水資源の保全確保が緊急課題

川村 彰      


 「世界は将来、石油ではなく水を巡って争うようになる」との指摘が、一部専門家の口から囁かれだして久しい。日本の年間平均降水量は世界平均の約2倍。毎年のように取水制限下に置かれる地域が出るとはいえ、日本はまだまだ「水資源の豊かな国」である。そんな国で生活をしていると、冒頭の提言はどうにも遠い国の遠い未来のお話のような気がしてしまう。しかし、それは生活をする上で実感に乏しいというだけで、実際は現在進行形で世界を蝕む大問題なのである。
 
 2009年10月、産油国・ベネズエラでチャベス大統領自らが、「節水」を国民に呼び掛けたことは記憶に新しい。大統領は閣議において、閣僚とテレビカメラの向こうの国民を意識した上で、「一部の人々はシャワーで歌を歌ったり、30分もシャワーを浴びたりしている。冗談は抜きにして、3分あれば十分だ」と切実な眼差しで訴えたという。ベネズエラでは、今や石油と水の価値観が日本とは正反対になっているのだ。
 
 また、中国の華北平原では、過剰揚水が原因で浅い帯水層の枯渇が広がっているという。農民たちは、「大深度の化石帯水層」に頼らざるを得ない状況だ。化石帯の地下水は、降雨などによって新しく補給されることがないため、いつかは枯渇してしまうだろう。こうした過剰揚水による水不足は、アメリカ・オーストラリアなどの穀物輸出国で多く見られる。これは、日本のような食物自給率の低い国々にとっても深刻な問題となるだろう。穀物輸出国が水不足によって生産力を落とせば、日本の食生活への影響は必至だ。
 
 穀物の生産に「水」が必須なのは当然のことだが、私たちは穀物の輸入を通して大量の「水」も輸入していることになる。日本は世界でもトップクラスの「水消費国」なのだ。日本の年間食品ロス(食べ残し・廃棄)は700万トンと言われ、あえて感傷的な言い方をすれば、「食品の過剰消費が、世界の水ガメから貴重な水を奪い続けている」ことになる。水道の蛇口から出る水だけが問題ではないのだ。
 
 中東・北アフリカ地域が2005年に輸入した穀物量を、生産に必要な水の量で言い換えると、アスワンハイダムにおけるナイル川の年間流水量に匹敵するという。つまり、当該地域に「2本目のナイル川」が穀物輸入の形で流れ込む一方で、穀物輸出国では同量の水が失われ、生産力の低下はもちろん深刻な渇水に瀕する危険性さえ生じることになるのだ。こうした事態が進行すれば、穀物輸入国と輸出国の間に深刻な亀裂を生むことになるだろう。
 
 したがって、節水は当然のことながら、各国が食物自給率を上げ、国内の水資源保全と拡充に努めることは、世界的な緊急課題であるのだ。日本では、2009年11月から政府与党による「事業仕分け」がスタートしたが、水資源に関するさまざまな取り組みに対して削減の動きが見られた。環境省・国土交通省など、複数の省にまたがっていた事業を廃止・統合することで、事業全体を効率化・合理化することに異論はないが、一元化された政府の考えが明確に示されていないため、まずは削減ありきの仕分けになっているような印象を受ける。
 
 財源確保もけっこうなことだが、長期的なビジョンを示した上で取り組まなければ、スパコンの予算削減と同様、国民に大きな誤解を与えることになるだろう。


  2009年11月30日(月)

川村 彰(かわむら・あきら)
1974年静岡県生まれ。国際紛争地、社会事件、災害などの追跡取材を行う一方で、広告・コピーなど様々な分野を手掛ける新進の雑食系ライター。



 八ッ場ダムは作れ

吉原 勇      

 劇的な大勝利で政権を握った民主党内閣は、マニフェストの早期実現を目指して一斉に動き始めた。来年の参院選までには一定の成果をあげないといけないから急ぐのは当然と言える。しかし反対の動きもある。性急にことを進めると将来禍根を残すことも考えられ、問題によっては慎重な姿勢が必要だ。
 現在、焦点になっている群馬県の八ッ場(やんば)ダム事業中止問題もその一つである。同ダムは1949年ごろから基本構想が練られ、1952年に計画が発表されている。しかし反対運動が激しく、ようやく1990年代の後半から住民も軟化して工事が進み始めたところである。事業費4600億円のうち3000億円余がすでに使われている。
 ところが新発足した鳩山由紀夫内閣の前原誠司国土交通相は就任後直ちに事業中止を表明、反発した地元住民との対話も開けない状況となった。やはり、中止を前提にするのではなく、ダムが本当に不必要なのか否か、根本的な問題から議論すべきではないだろうか。私は八ッ場ダムは作るべきだと思う。

首都圏の貯水はもともと少ない
 東京には水は十分にあると思い込んでいる人が多いが実はそうではない。関東には八つのダムがあるが首都圏一人あたりのダム貯水量をみると30m3に過ぎない。世界の主要都市の一人あたり貯水量はボストン717m3、サンフランシスコ527m3、ソウル392m3、台北118m3などでほとんどが日本の首都圏の2倍以上である。
 これまであまり問題なくやってこられたのは、下水処理をして繰り返し使うからである。京都大学環境衛生工学研究所のデータによると、大阪市民の飲む水道水は平均して他人の身体を6回通っている。東京の場合はもっと多くの人の身体を経由している。これは非常に危険な状態である。
 オーストラリアでは一昨年、水不足で飲料水確保のため一度下水処理場を通った水を水道水にしようとしたところ世論が大反対、農業用水を飲料用に回してしのいだ。一度でも人の身体を経由するとその人の飲んだ薬が水道水に混ざるから使うべきではないとの考えからだった。

無視できない残留医薬品
 事実、厚生労働省が2007年に発表したデータによると、東京、大阪の7箇所の浄水場の水を調べたところ抗生物質、X線造影剤、抗アレルギー剤、抗高脂血症剤、解熱鎮痛剤など25種類の医薬品が検出されている。その濃度は欧州連合が環境への影響評価を義務づけている10PPMをはるかに超えていた。これらの医薬品は下水処理場でも浄水場でも除去は難しい。

 こうしたことを考えると東京の水道水については将来、いろいろと問題が出てくると想定しておかねばならない。最も望ましいのは新しいダムをいくつか作り、そこから東京の浄水場に直接水を送ることである。それは不可能ともいえるからせめて八ッ場ダムは建設し、残留医薬品の濃度薄めることぐらいはすべきである。ここまで工事が進んだものを中止するのは愚の骨頂である。


  2009年09月28日(月)

吉原 勇(よしはら・いさむ)
1938年朝鮮京畿道生まれ。中央大卒後毎日新聞社入社。西部本社代表室長、不動産企画室長、編集委員を経て、下野新聞取締役などを歴任。現在作新学院大学講師。著書は「トヨタ自販の経営」「日航が立ち上がる日」「特命転勤」など。総合政策研究会理事として多くの提言をとりまとめ政府に提出している。



 厳しい民主党の経済運営

吉原 勇      


 総選挙で歴史的な勝利を飾った民主党の鳩山由紀夫内閣が16日にも発足する見通しになった。管直人副総理兼国家戦略局担当、岡田克也外相、平野博文官房長官といった主要閣僚が順次決まりつつあり、首班指名直後にもスタートすると思われる。
 国民の強い期待を背にしての政権交代だが、この民主党政権の下で日本経済がどのようになるのか、実は、予測は極めて難しい。というのは、選挙前に約束したマニフェストのうち何と何をどのタイミングで実行できるのか判然としないからである。

 今回の民主党のマニフェストは、子ども手当てや農家への戸別所得補償のように直接国民の懐を暖かくする政策が盛り込まれており、従来の自民党政権では考えられなかった公約があって支持層を拡大した。しかし一方で公共事業の大幅カットを打ち出している。財源確保のためにはそうせざるをえないのだろうが、これは日本経済にはマイナス要因である。民主党は「消費が増えるからプラス効果」としているが、いまの経済情勢では需要不足を一部緩和する程度であり、波及効果は知れている。公共事業の場合は、二次、三次と波及効果が期待できるから経済を押し上げることができるのである。そう考えると、マニュフェストを真面目に実行すると、ややマイナスになる恐れがある。
 マニフェストには年度ごとの工程表がつけられており、間違いなく実行するというポーズを示している。ところが実行するには多くの難問が待ち構えている。財源を探さなくてはならないからである。マニフェストによると公共事業を1兆3千億円削減して財源の一部に充てるとしているが、最近の公共事業は耐用年数が近づいたため補修、改修する工事の比率が増えているから、無駄なものを見つけるのは容易ではない。直轄事業による地方負担金を廃止するという公約も削減を難しくする。また子ども手当てについては配偶者控除、扶養控除を廃止して捻出することにしているが、政府税制調査会が果たしてすんなり認めるかどうか分からない。公務員人件費のカットも、組合員の抵抗が予想され実現出来るかどうか不明である。
 
 民主党は当初、五月に決まった14兆円に上る補正予算の執行を停止してその金を転用するという説明もしていたが、執行停止は景気回復の流れを止める危険性があり、年度を越える未執行分だけになりそうだ。
 結局新政策の財源のほとんどは霞ヶ関の埋蔵金を探し出し、それを活用する形になると思われる。霞ヶ関官僚の協力が得られれば埋蔵金は2、30兆円出て来るといわれているから、1、2年はそれでしのぐことができる。
 結論をいうと、マニフェストは国民受けのするものだけを早期に実行、かなりの部分は先送りになるのではないだろうか。その結果、予算規模だけが膨らみ日本経済にはプラスに働くと思われる。マニフェストが持っていた経済へのマイナス効果が不完全実施によってプラスに転じるというシナリオが予想されるのである。


  2009年09月11日(金)

吉原 勇(よしはら・いさむ)
1938年朝鮮京畿道生まれ。中央大卒後毎日新聞社入社。西部本社代表室長、不動産企画室長、編集委員を経て、下野新聞取締役などを歴任。現在作新学院大学講師。著書は「トヨタ自販の経営」「日航が立ち上がる日」「特命転勤」など。総合政策研究会理事として多くの提言をとりまとめ政府に提出している。



 見えない日本経済の指針

吉原 勇      


 食品業界トップのキリンホールディングスと2位のサントリーホールディングスが経営統合に動き出し、産業界に衝撃を与えている。実現すれば酒類・飲料で年間売上げ3兆8000億円という世界最大規模の巨大企業が誕生する。しかしビールの国内シェアが50%を超え、公正取引委員会が認めるかどうか、サントリーは非上場企業で合併比率をどう決めるかなど、ハードルがいくつかありそうだ。
 両社が経営統合を模索し始めたのは昨年初めごろからのようで、縮小していく日本の市場に危機感を抱くとともに、世界市場で一定の地位を築くにはそうした戦略が必要と判断したためという。キリンの加藤壹康社長とサントリーの佐治信忠社長が大学の同窓で考え方も近いことが統合交渉の背景にある。
 両社の商品構成をみると、キリンの方が多角化を進めているものの似通っている。酒類の比率はキリンが51%、サントリーが36%だが、ビール中心のキリンに対しサントリーはウィスキーに強みを発揮、ビール部門でもこのところ販売を伸ばしている。清涼飲料・食品の売上げではサントリーの方が勝っている。この2社が統合すればバランスのとれたいい企業になるのは間違いない。
 関係者が最も気にしているのは公取委の出方という。公取委事務総長も早速、厳正に審査すると記者会見で述べている。しかし30数年前、私が食品業界を担当していたころキリンのビール占有率は60%を超えていた。当時の経営陣は公取委が会社分割を命じるのではないかと恐れ、われわれにもアドバイスを求めていた。その公取委は「競争状況は保たれている」として分割の意向はそれほど強くなかった。その後のアサヒの台頭は公取委の判断が正しかったことを示している。
 こうした過去の経緯をみると、今回の統合について、世界市場での競争力という視点も必要であり公取委はほとんど口をさしはさまないのではないだろうか。最大の難関は非上場のサントリーの株価をいくらと算定し、合併比率をどうするかの交渉だろう。またサントリーの創業家の持ち株比率をどこまで下げることができるかだと思う。政府としては側面から支援し積極的に推進するべきであろう。面白いのは監督官庁が経済産業省ではなく農林水産省であることである。
 城山三郎の「官僚たちの夏」がこのほどテレビドラマ化され、かつての通産官僚の活躍ぶりが話題にのぼっている。日本経済をどの方向に誘導していくか、官僚たちはビジョンを持ち、企業をその方向に誘導していったものである。しかし現在の経産省官僚はそうした気概を失い、自由主義という名の下に放任政策を採っている。
 半導体を含め電機業界をみるとそれがよく分かる。多くの企業が乱立し、国内での競争に明け暮れ、世界の市場から取り残され、政府に支援を求める企業も出ている。多くの企業が少しでもコストを下げようとして中国やベトナムに工場を作っている。これが日本経済の活力を奪い、同時に雇用機会を失わせているのだ。
 電機製品の製造コストに占める人件費の比率はせいぜい15%程度である。企業統合が進めば人件費のコストも下がり、海外に工場をつくらなくても国内で十分対抗できるのである。経産省はそうした視野を持って産業政策を進めるべきなのである。
 農水省にはキリンとサントリーの経営統合にあたり、経産省に範を示すような行動をとるよう切望したい。


  2009年07月22日(水)

吉原 勇(よしはら・いさむ)
1938年朝鮮京畿道生まれ。中央大卒後毎日新聞社入社。西部本社代表室長、不動産企画室長、編集委員を経て、下野新聞取締役などを歴任。現在作新学院大学講師。著書は「トヨタ自販の経営」「日航が立ち上がる日」「特命転勤」など。総合政策研究会理事として多くの提言をとりまとめ政府に提出している。



 GMは立ち直るか

吉原 勇      


 米ゼネラル・モーターズ(GM)が6月1日、ニューヨークの破産裁判所に連邦破産法11条の適用を申請、破産した。同条による破産は再生を目的にしたものであり、計画によると3割縮小した規模で新会社を設立するという。長らく世界一を誇った大会社も、創業からちょうど100年目で節目を迎えることになった。しかし発表されたこの計画案で果たして再生できるのか、極めて心もとないと言わざるをえない。
 再生のための計画をよく見ると、かつて1970年台に毎日新聞社がやったような新旧分離方式である。すなわち、収益力のあるブランドとその生産設備、優良資産などを集めた新社をつくり、ブランド力の弱い商品と不良資産は旧社に残すという手法である。残すブランドとしてはキャデラック、シボレー、ビュイック、GMCの四つに絞り、6万人の従業員は4万人に、47ある生産工場は34にそれぞれ削減するという。

■計画に甘さが
 しかしこの計画は、日本のトヨタや日産でさえ二〇一〇年三月期も赤字が続くと予想しているだけに非常に甘いと思われる。売れる車を開発していく資金を稼ぎ出さねばならないのに再建案は、そうした資金を生み出すにはコストがかかりすぎる案ではないかと思われる。しかも新会社は米政府が60%を出資する国有会社であり、その経営は容易ではない。オバマ大統領は自動車の燃費をリッターあたり15キロ以上にするという厳しい規制の実施を発表している。この環境規制を独自にクリアできるのかどうかも不明である。いずれ日本のメーカーに支援を仰がざるをえないのではないだろうか。

■雇用に配慮しすぎ
 こういうことを考えると新会社はこれまでの規模の半分ないし三分の一にするべきであった。できるだけ多くの雇用を維持するため甘い計画になったと思われるが、これでは毎日のたどった道をたどりかねない。場合によっては2、3年以内に再び危機がやってくる恐れさえある。苦境はまだまだ続くとみなければならない。



  2009年06月10日(水)

吉原 勇(よしはら・いさむ)
1938年朝鮮京畿道生まれ。中央大卒後毎日新聞社入社。西部本社代表室長、不動産企画室長、編集委員を経て、下野新聞取締役などを歴任。現在作新学院大学講師。著書は「トヨタ自販の経営」「日航が立ち上がる日」「特命転勤」など。総合政策研究会理事として多くの提言をとりまとめ政府に提出している。


  検討の価値ある政府紙幣発行

                             吉原 勇


 政府紙幣発行論が自民党の一部から出てきており議論をよんでいる。日銀券とは別の紙幣を政府の責任で出すもので、法的にも制度としても問題はなくいつでも発行可能という。ただ反対論が強く麻生内閣では実施しないようだが、発行できればメリットが多いだけに検討する価値はありそうだ。
 政府紙幣の発行は財務省OBの高橋洋一・東洋大教授が早くから提唱していたもので、自民党を離党した渡辺喜美・元行政改革担当相も主張していた。2月初め菅義偉・元総務相がテレビで「百年に一回の危機。政府紙幣発行を含めありとあらゆることを考えてもいい」と発言してから認識が広まった。
 政府紙幣は1882年の日本銀行設立前太政官札として発行されていたし、第二次世界大戦中は軍需費や膨張した植民地の経費をまかなうため発行している。経済が正常に動いている場合は、中央銀行である日銀が通貨の番人として通貨量を統括するのが普通だが、現在は非常時で放置しておくとデフレスパイラルに陥りそうだというのが推進派の考えである。

■ 閉塞感の打破が可能に
 
 政府紙幣発行の最大のメリットは、現在日本を覆っている閉塞感を打破することができるということである。閉塞感の原因は「これだけの借金を抱えているのだから、新規政策など出せっこない」という財務省の宣伝を信じ、諦めムードが充満しているからである。ところが政府紙幣の発行は、財源を心配せずに景気対策のための支出ができるのである。政府紙幣は税収とほぼ同じと考えればよく、返す必要はないし国債のような借り入れでもないから利息でふくれることもない。
 それだけでなく、うまく利用すれば政府が抱える莫大な借金を減らすことができる。景気が悪いのに消費税を上げるというバカな政策を採る必要もなくなる。こんなうまい話はない。

■ デフレを脱却、なだらかな物価上昇社会を

 問題があるとすれば、大量に発行した場合にインフレを招く恐れがあることである。しかし現在はデフレ傾向にあるだけに適度に発行すれば却って日本経済に良い結果をもたらすともいえる。周知のように、経済が最もうまく回転するのは3%から5%のなだらかな物価上昇が続くときである。第一、円高になる恐れがほとんどなくなる。デフレで知事困った生活を送らなくても済むし、そうした環境のもとでは賃金調整や価格調整がやりやすく、たとえばサラリーマン家庭では毎年何がしかのベースアップが行われ家計のやりくりが容易になる。物価調整をはじめ、その他あらゆる問題で調整がうまくいくのである。
 政府紙幣発行でそうした状況を作り出すことができれば最高である。だが一度解禁すれば歯止めが効かなくなる恐れがある。そこで日銀券発券残高を上限にするなどの制限を課すべきである。
 日銀券の発券残高をみると、一年前には80兆円超えも間近といわれていたのが現在は74兆円にまで落ちてきている。不況下にもかかわらず、日銀に言わせると不況下だから自然そうなるというものの、市場からどんどん資金を吸い上げているのである。日銀マンはインフレを恐れるあまり不景気のときにも金融を引き締めるのである。3%から5%のなだらかな物価上昇もインフレとみなしている。悪いことに、数年前の日銀法改正で日銀の独立性が強まり政府のコントロールが効かなくなって、政治家でさえどうすることもできない。政府紙幣発行はこうした頭の固い日銀の政策にブレーキをかけることができるというメリットがあることを忘れてはならない。


   2009年02月15日(日)

吉原 勇(よしはら・いさむ)
1938年朝鮮京畿道生まれ。中央大卒後毎日新聞社入社。西部本社代表室長、不動産企画室長、編集委員を経て、下野新聞取締役などを歴任。現在作新学院大学講師。著書は「トヨタ自販の経営」「日航が立ち上がる日」「特命転勤」など。総合政策研究会理事として多くの提言をとりまとめ政府に提出している。


  景気回復は自動車業界からか

                             吉原 勇


 日本経済は過去に例をみないほどの落ち込みをみせている。確かに昨年十二月の諸指標をみると鉱工業生産指数は9.2%減、工作機械受注額は72%減、粗鋼生産高は27.9%減、百貨店売上高は9.4%減(いずれも前年同月比)と惨状を呈している。
 こうした数字を眺めていると、日本はこのまま奈落の底に落ちていくような錯覚に陥るし、評論家のなかにも「未曾有の事態がやってくる」と危機感を煽る人が多いのも事実である。

■ トヨタの新社長人事

 しかし果たしてそうだろうか。日本経済のファンダメンタルズが破壊的打撃を受けたかというとそうでもない。底を打つのはそう遠い先ではないのではないだろうか。
 ところで、この大不況から最初に立ち直ってくるのは多分自動車業界ではないかと思われる。というは、ガソリン価格の乱高下の影響で比較的早くから販売不振に陥り、そのため対策も他業種より早めに打っているからである。トヨタのように創業家の豊田彰男氏を新社長に据える人事刷新を行ったところもある。

■ 悲壮だった第一次石油ショック

 思い出すのは今回とよく似た状況に追い込まれた第1次石油ショック直後の1974年である。当時のメモ帳をひも解いてみると、国内販売台数は3月は33.6%減、4月は29.7%減、5月になると45.1%減と前年の半分近い台数にまで落ち込んでしまった。
 「販売の神様」といわれていたトヨタ自動車販売(その後の工販合併でトヨタ自動車)の神谷正太郎社長は緊急の記者会見を開き「このままではディーラーの経営が立ち行かなくなる。ディーラーを守るため米国のGE(ゼネラル・エレクトリック)の家電を系列販売店で扱わせる」と悲壮な顔で発表した。さすがの神谷社長も、販売台数の急減には手の打ちようがなく、家電のなかでも比較的価格が高い冷蔵庫や洗濯機を扱うことで難局を乗り切ろうとしたのだった。
 ところがこのときの販売のマイナスは6ヶ月で終わり、その後は急角度で上昇していった。トヨタ販売店が扱い始めたGE製品は、利益率が少ないこともあってまもなく店頭から姿を消した。

■ 石油動向がカギ

 今回の国内販売台数減は昨年11、12月とも20%強であり第1次石油ショック直後よりは軽い。しかし金融危機もあり、当時のように短期間で終了すると予想するのは楽観的に過ぎるだろう。しかしひところリッターあたり180円していたガソリン価格は100円前後にまで下がってきた。第2次補正予算が成立すると3大都市圏以外では土、日、祝日の高速道料金が1000円で乗り放題となる。販売がプラスになるかどうかはともかく、異常な販売減は収まるのではないだろうか。


   2009年01月30日(金)

吉原 勇(よしはら・いさむ)
1938年朝鮮京畿道生まれ。中央大卒後毎日新聞社入社。西部本社代表室長、不動産企画室長、編集委員を経て、下野新聞取締役などを歴任。現在作新学院大学講師。著書は「トヨタ自販の経営」「日航が立ち上がる日」「特命転勤」など。総合政策研究会理事として多くの提言をとりまとめ政府に提出している。


  思い切った行財政改革を
  住民パワーを活用せよ

                             吉原 勇


 今回の金融危機とそれに伴う不況について「100年に一度の危機」という表現が用いられ、いつの間にか定着してしまったようである。本当にそうなのかということはさておき、それならそれで対策を講じなくてはならない。
 ところが現在までに打ち出された政府の対策に目新しいものは少なく、財政上の制約を理由に規模も小さい。旧態依然としたやり方だけで景気を浮揚させることは非常に難しいのではないだろうか。

 
■ 行政の簡素化

 魔法のような対策はないものの、やはり今やるべきことは思い切った行財政改革である。それも住民パワーを活用した効果的な対策である。幸いなことに団塊の世代が定年になり、無聊をかこっている人材は豊富にある。その人たちをうまく使うことで行政をスリムにすることが可能と思われる。
 道路や公園などの管理を民間のボランティアが行う「アダプト制度」はかなり普及しているが、かつては道路の補修や小さな河川の管理は住民の勤労奉仕で行われていた。それを行政に任せたから官が肥大化したことは否定できない。私の住んでいる多摩市ではコミュニティーセンターという公共施設を周辺住民のボランティア団体に運営させるという方式をとっており、それが定着してきた。こうした試みはもっと広がってよい。

■ 「新たな公」

 政府が現在策定中の国土形成計画のなかには「新たな公」という概念が取り入れられている。本来なら公が果たすべき業務をこれからは民間にも担ってもらおうという考えである。
 これはまさに住民パワーの活用を図ろうというものであり、政府の中にもそうした考えがあることを示している。国土形成計画は全国計画が昨年閣議決定され、現在広域地方計画の策定が進められている段階である。ネーミングにもう一工夫が必要だが、計画の全容が固まった暁には、この考えを浸透させ、行政の簡素化に取り組むべきだろう。


   2009年01月17日(土)

吉原 勇(よしはら・いさむ)
1938年朝鮮京畿道生まれ。中央大卒後毎日新聞社入社。西部本社代表室長、不動産企画室長、編集委員を経て、下野新聞取締役などを歴任。現在作新学院大学講師。著書は「トヨタ自販の経営」「日航が立ち上がる日」「特命転勤」など。総合政策研究会理事として多くの提言をとりまとめ政府に提出している。


  横断的発想で現行システムの切り替えを

                             長宗我部 友親


 確実に時代は変わりつつある。ミレニアムといわれた2000年を超えて、「どういう世の中に、これからはなってゆくのだろうか」。漠然だが、そうは思っていた。
 だが、21世紀にはいってから、その変化が具体的に表に出始め、変革は現実のものとして動き出した。

 「悪魔が地球に舞い降りてきて、終末を迎える」。と、いう
ノストラダムスの予言ということが、ミレニアムを迎える当時、盛んに語られた。今眼前に現れているのが、それではないかとも思えるくらいだ。
もっとも、それは地球が終末を迎えるということではなく、人類が構築してきた、現代のシステムが終末を迎え、再構築せざるを得なくなってきている、ととらえればよい。
 日本の株式市場、一部上場企業の資産が、株価の暴落により一年で急激に落ち込み、日本のトップ企業で世界的にも評価されている企業の2兆を超える利益が、一年をして赤字に転じるなどということは、通常では考えられないことである。間違いなく新自由主義といわれた経済は大きく変わろうとしている。
 政策面をみても、来年度予算の借金に当たる、国債の発行額が予算全体の四割近くにも膨れ上がっている。国債残高も、とても簡単には返済できる額ではない。
 それなのに、いまだに道路だの、飛行場などとハードに集中している。そして、財政再建といえば、消費税の増税ということで、国民から徴収することばかりを考えている。
 しかし、国の収入面を見ると、赤字に転落する可能性のあるトヨタを初め、法人税は大きく落ち込むであろうし、失業者が増え、生活扶助を受ける人がぐっと多くなってきていることからも、税収は減り、増税は受け入れにくいであろう。それなのに「3年後を見て増税」などおかしなところで議論している。
 これまで、戦後に構築してきた、日本の経済システムはもう疲弊してしまっていて、使い物にならなくなっている。財務省などと呼び方を変えただけで、これまでと変わらない方法論で予算作りをしていてもだめだろう。
 特別措置や、補助金、特別会計、地方財政計画など、矛盾だらけに思うし、本予算自体も、最重要の年金など福祉予算がもう破綻している。予算が組めなくなっているではありませんか。福祉、医療が行き詰まった国政は、もう国政といえない。
 つまり、一省庁だけで考えていては、どうにもならないのです。政治家、官僚、産業界、そして国民全体が、思い切って日本の現行システムを横断的発想で根幹から切り替える、くらいの方法をとらなければ、世の中はもう先に進めないところまで、この国は壊れてしまっている。それを認識した上で、新生国家、日本を作る必要があるのではないだろうか。


   2009年01月09日(金)

長宗我部 友親(ちょうそがべ・ともちか)
親房系長宗我部家の十七代。通信社の記者を経て、現在株式会社企画の庭の代表取締役。著書に『なごやの忘れもん』、『街かど経済入門』などがある。