ブックレビュー
 ブックレビュー

大宰相 原敬

著者 福田和也
PHP研究所(795ページ、3900円、税別)





政党政治の確立に心血を注いだ「平民宰相・原敬」


  原敬は、薩長閥が幅を利かせる時代に、他藩出身で本格的な政党内閣を作った最初の首相だ。だから平民宰相とも呼ばれる。原は、終生綬爵を拒んだが、薩長閥への反骨心からだった。しかし政府に敵対することはしないで、山縣有朋ら元勲に接近することで、政治家としての命運を切り開いていく。

原内閣は教育改善、産業奨励と物価の調節、鉄道、道路整備などに取り組んだ。他方選挙資格の緩和や議員増にも力を入れる。自ら率いた政友会の勢力の拡大を狙っていたといわれる。

原の真骨頂は反政党勢力の巨頭、山縣との攻防で、正面衝突は避けながら、山縣の基盤を巧みに崩していくところにある。晩年の山縣は、原の手腕を評価するほどだった。  
マックス・ウエーバーは「職業としての政治」(岩波文庫)の中で、政治家に大事な資質について「堅い岩盤に力を込めて穴をうがつような作業」といっている。

著者は「伊藤博文や井上馨、西園寺公望など元勲との深いかかわりを持ちながら、『力の政治』を体現した『田中角栄型』リーダー」と分析しているように、細心で豪胆、沈着で粘り強い原からはマックス・ウエーバーの指摘する趣が感じることができる。

民衆の期待は大きかったが、財閥向けの政策が多く、鉄道敷設は、政友会の勢力拡大や利益誘導だと批判された。疑獄事件も発覚して、普通選挙法にも慎重だったことから民衆の期待はしぼんでいく。たぐいまれな力量の原は、1921年、東京駅頭で1青年に刺殺される。

その背景について著者は、不況と物価高、軍備増強のための増税、小作、労働争議や汚職の頻発、右翼の台頭などが重なりテロが起きやすい社会状況があったと、指摘する。

平成のいまは、貧富格差、非正規社員の拡大、雇用不安と右傾化、ヘイトスピーチのデモなど、社会状況は当時とよく似ている。平成の今日、原がいたらどうだったかだが、靖国参拝や歴史認識など、欧米やアジア各国から批判が噴出しないような歴史観を持った賢明なかじ取りをするのではないか。



  2014年4月15日(火)

栗原 猛(くりはら・たけし)
朝鮮生まれ。新聞社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」「評伝 奥野誠亮」など。趣味は古寺古社めぐり。
過去の記事へ

 


トップページ会社紹介著作権についてお問い合せ
Copyright (c) Flying Garden Rights Reserved.