ブックレビュー
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「(株)貧困大国アメリカ」 
  
 堤 未果 著
 岩波新書 278ページ (760円 税別)




国境超えた巨大企業の実態を解剖


  話題を呼んだ「貧困大国アメリカ」シリーズの完結編。「1%の富裕層と99%の貧困層」という格差が世界中に広がり、グローバリズムの本家、米国では巨大化した多国籍企業が、驚くべきスピードで人々の食、住、街、政治、司法、メディアを蝕んでいる。

 米国の貧困率は増え続け国が定める貧困ライン以下で暮らす国民は4600万人、失業率9・6% (2010年)。16歳から29歳までの若年層の失業率はなんと45%。米政府は低所得層に食糧支援の「補助的栄養支援プログラム」(SNAP)に力を入れるが、受給者(月額、約1万3200円)は、今や国民7人に1人はという。

 その原因を著者は丹念な取材で解き明かしていく。食品の大手、ウォルマートの副社長から「SNAPからの収入は、大変大きいですね。2人に1人はわが社で食品を購入してくれます」という発言を引き出す。SNAPによる売り上げは約4千億円だそうだ
。ワーキングプアが増えれば増えるほど、利益が上がる仕組みになっている。

 巨大養鶏業界は、世界最大のタイソンフーズなど4大企業が席巻するが、飼料生産から加工、流通などの業者を買収し、少ない労働力で多くの製品を生み出す、これまでとまったく異なる巨大産業へと変身した。その結果、農業従事者は低賃金、福利厚生なしのパートタイム労働者に一変する。

 著者は、国の役割である医療、教育、年金、食の安全、社会保障、災害、金融、軍隊や防諜機関などの分野で、「小さな政府」を合い言葉に規制緩和が進んだ。議会では政治献金や天下りと引き換えに業界寄りの法改正が行われる。「独占禁止法、消費者保護法、農業法、医療保険適正価格法などの法改正にはこれまで以上にチェックが大事だ」と警鐘する。

 EUなどには反対する動きも出始めた。2013年、EU議会は蜂を殺す農薬ネオニコチノイドの使用を禁止した。関連業界からの嫌がらせに屈せずに抗議デモをし、260万人の署名がEU議員を動かしたのだ。

 ボリビアではエボ・モラレス大統領が、米国際開発庁(USAID)を国外へ追放する。理由は「民主主義への内政干渉」である。同大統領は毎年1つずつ国内産業を国営に取り戻している。

 こうした動きはまだ始まったばかりだが、「人間らしい生き方を求める『99%』の意思は『1%』と同じように国境を越えてつながっていく。個のグローバリゼーションは、主権回復の強力なパワーになるのではないか」と著者は指摘する。メディアは、巨大企業に遠慮なく問題点を指摘する監視機能がますます大事になっている。


  2013年9月19日(水)

栗原 猛(くりはら・たけし)
朝鮮生まれ。新聞社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」「評伝 奥野誠亮」など。

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