ブックレビュー
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「トクヴィルが見たアメリカ」 
  
  著者 レオ・ダムロッシュ
    訳者 永井大輔・高山裕二
 
    白水社 299ページ  (2800円 税別) 




デモクラシー誕生の現場を再現


  1831年春、フランスの貴族出身で判事修習生、弱冠25歳のトクヴィルは、友人と米国旅行に出る。市民が大国を統治するという民主主義の実験がはじまってから40年余り経った民主主義の実情を知るのが目的だ。

 その時の観察記「アメリカのデモクラシー」は、欧米で高く評価され、今でも米の民主主義を知る古典といわれる。本書は残された膨大な草稿や書簡、覚え書きなどをもとに、「アメリカのデモクラシー」が誕生する歴史的現場を再現する。

 当時フランスは革命の渦中で、トクヴィルは革命が恐怖政治に変わり、再び反動の専制政治へと変転する激動期に、民主主義とは何かを学ぼうとしたのである。

 馬車や蒸気船に揺られ、広大な北米大陸の大自然の中を旅して、先住民の長、大都会の名士、社交界、現職大統領、黒人奴隷など多くの人に接し民主主義を思索する。  

 米国に到着するや否や、米国人召使いの分をわきまえないぞんざいな態度に出会う。多くの旅行客は憤慨するが、トクヴィルは、「彼等は自分が仕える人間に対して隣人のように振る舞い、自分は一時的に『お手伝い』しているだけだ」と語ったことに感じ入り「新しい時代においては当然のことなのだ」と得心する。

 また「支配される者の資質の優秀さに驚き、支配する者の資質の足りなさに再度驚いた」と、故郷の兄に手紙を書いている。

 こうした体験も南部に入ると一変する。白人に土地を奪われたアメリカインディアンの一行が悄然と船に乗せられて移動する光景に出会う。黒人奴隷の過酷な実態や奴隷の労働力なしに米経済の繁栄はないことなど、光と影も見聞する。

 当時、ヨーロッパは階級社会で、被支配者は貴族階級に従属した農奴だった。米国では誰でも自由で対等だ。選挙を通して誰でも権力につくこともできる。フランスから来た若者、トクヴィルには民主主義の実験は矛盾があるとはいえ、わくわくするほど希望に溢れていると写った。

 トクヴィルの慧眼は、ここに「多数の専制」の可能性を見抜いたことである。多数から選ばれた政治指導者は、独裁に似た権力を使おうと思えばできたからである。すべての個人に平等にチャンスがあるという対等性だ。この対等性が徹底すると、民衆は画一的な個人主義に埋没して、管理されやすくなる。

 例えば現代のグローバル資本主義による新たな支配がこれに当たるのではないか。ただトクヴィルは米国人の特徴として、欠点を自ら矯正する能力を持っているとも強調する。大事なことはこの矯正能力は危機に直面して、いつも力量を発揮するのかである。トクヴィルが存命だったらぜひ聞いてみたいところだ。     

 


  2013年4月30日(火)

栗原 猛(くりはら・たけし)
朝鮮生まれ。新聞社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。

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