ブックレビュー
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「さっさと不況を終わらせろ」 
  
  著者  ノーベル経済学賞受賞 ポール・クルーグマン 

   

早川書房(1700円 税別) 





大胆な財政出動と金融緩和をすべきだ

ノーベル経済学賞の受賞者だが、ニューヨーク・タイムズの辛口のコラムニストだ。
米国の失業者は、昨年12月には1300万人を超えた。もはや雇用・失業、格差問題は一時的なものではない。「景気回復は大胆にやるべきだ」との主張はシンプルで力強い。

その手法についても「こういうときは昔ながらのケインズ的な財政出動(総需要創出のための政府支出先行の景気対策)が必要である。赤字国債を出して大型の公共事業を、これまでの数倍はやるべき」「今行われている景気刺激策は小さすぎる。そうしない限り失業者や設備を使おうという人も出ない」と、明快である。

財政出動の規模だが、国内総生産(GDP)の需要と供給のギャップを見てそれを埋める規模で、中央銀行はそれを金融緩和で徹底的に支援すべきだ。財政出動と大型公共事業をすれば、雇用機会が増える。消費が拡大し税収が増えれば、赤字国債の金利分ぐらいは支払う余力が出て来る。

政治家は「後世に負担を先送りする」と心配するが、思い切った景気回復策を取らずに、大量の失業者を放置し、若年労働者の賃金低下に目をそらせている方が、よほど現役世代の負担を増す。

以上が骨子だが、なるほどと思わされる点も少なくない。ただ大規模な財政出動による景気回復の例として、第2次大戦後の米国の好況などを挙げているが、果たして平時に活用できるものなのか、やや気になった。

日本について直接の言及はないが、デフレの不景気と20年近くゼロ金利が続く。民間研究機関によると、「失業者」は1000万人を超えた。ゼロ金利でなかった場合、国民が得たであろう利子の合計は、300兆円とも400兆円ともいわれる。それに消費税増税がのしかかる。

起死回生策が望まれるが、NHKスペシャル番組、「震災復興予算はどう使われているのか」を見てあ然とした。総額19兆円の復興予算の相当部分が、被災地以外の地域産業振興や、外務省主催の外国の青少年交流(被災地見学と観光)、法務省の少年刑務所の更生教育、岐阜県内のコンタクトレンズ工場の設備投資など、被災地復興と直接結びつかない分野に使われている。

一方で岩手県の津波被害で全滅した商店街の再興に必要な助成金申請の多くが脚下された。復興予算19兆円は来年度から全国民が負担するが、復興地域以外の事業に多くが使われている実態をみると、賢明な指導者出でよと叫びたくなる。


  2012年10月10日(水)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


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