ブックレビュー
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  「本当のこと」を伝えない日本の新聞
  
  著者 マーティン・ファクラー ニューヨーク・タイムズ東京支社長 

   

双葉新書(800円 税別) 





権力との距離感こそ重要だ

東日本大震災の取材での体験を率直な語り口でつづった「現代日本論」である。著者は3・11の直後、単身、飯舘村や南相馬市に入り、市や村のトップから「新聞記者が全員避難していなかったので不安を感じていた」という談話を世界に発信した。

さらに原子力行政の隠蔽体質や早い段階で、東京電力の経営が「総括原価方式」になっていて、法的に保証された利益が、原子力学者やメーカー、政治家、新聞・テレビ広告など、原発にまつわる利権構造―「原子力村」をつくっている実態を発掘。「これだけ大惨事を起こして、いまだに誰も逮捕されないことに奇異を感じる」と不思議がる。

日本人が「お上」に寛大な理由として、身体を張って民主主義を獲得した経験がないからではないか。韓国や台湾では、自分たちで民主主義を作り上げてきたから、国民は怒るときは大きく怒る。市民社会が基本にある欧米では、メディアによる権力チェックは厳しくて当然というところがある。

政治や行政に対するメディアの監視が手ぬるいとして「記者クラブ」の存在を指摘して、「当局との距離が近くなりすぎているからではないか」。

一方、著者は地方紙に目を向け、中央の政治や行政と距離のある地方紙に、閉塞状況を打開するチャンスがある。例えば、東京新聞は3・11後の原発関連報道ではトップ記事が全国紙とまったく違うことがあり、特集ページの「こちら特報部」は、原発や放射能汚染、消費税問題で、記者の顔と声が伝わってくる。

琉球新報や沖縄タイムスは、全国紙と違ったスタンスの発信が多い。高知新聞、神戸新聞、愛媛新聞は地元警察の裏金問題(捜査費の不正支出)を追及し、地方当局とリスクの伴う戦いを続けている。 

河北新報は、ネットの活用で市民参加型の地域SNS「ふらっと」を運営して、地域のコミュニティ作りに力を入れている。インターネットによって、地方紙も距離と時間の壁を、越えることができるようになった。琉球新報の英語版ウエブサイトは、意外な国から読者が現れるのではないかー。

洋の東西を問わず、ジャーナリズムには共通したものがあるなと感銘を受けたのは、「原点は義侠心(悪に対する人間的な怒り)だ」と指摘している点だ。昨年秋に来日したAP通信のトム・カーリー社長が、1時間の講演の中で「メディアが政治を監視しないと民主主義は健全に育たない」と、何回も繰り返していたことが思い出され、興味深かった。


  2012年10月10日(水)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


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