ブックレビュー
 ブックレビュー
  政府は必ず嘘をつく
    ―アメリカの「失われた10年」が私たちに警告すること

  
  著者 
堤 未果  

角川SSC新書(780円 税別  





真実を見抜く目を養おう

  政府は都合の悪い情報は隠し、操作したりする。国境を越えて瞬時に大量の情報が世界中を行き交うネット社会は、自由にものが言い合えるように思いがちだが、政府の情報操作は巧妙になり、盗聴したり背後に巨大な資産を持つグローバル企業がいたりする。

 著者は米国での数多くの取材やインタビューを通じて、9・11後、米国民は政府とマスコミを信じすぎて沢山のものを失った。同じことが3・11後の日本にもいえるのではないかと警鐘する。

 画期は9・11の同時多発テロで、イラク攻撃はわずか4日後に発案される。「米国民が感情的にパニックになり、『フセインは9・11に関係している』『大量破壊兵器を隠し持っている』という政府発表をいとも簡単に鵜のみにした」が、ブッシュ大統領は後になって、「9・11テロとフセインはまったく関係がなかった」と釈明した。また「アルカイダも大量破壊兵器も初めから政府の嘘だった」のである。

 9・11の直後に、政府はテロの監視強化の「愛国者法」をつくる。テロリスト予備軍のウオッチが狙いだが、政府はネット・プロバイダー利用者の個人情報の提供、電話盗聴、ネット検閲も可能になる。

 大統領選挙もレーガン政権が、メディア企業の所有規制を解禁してから変わったという。NBCなど大手メディアが多国籍企業などの傘下に入ると、「メディアの集中と系列化が進み、国民の多様な意見が反映されにくくなった」と、著者は分析する。

 クリントン政権では、さらに規制緩和が進み、民主党も石油業界やウオール街、製薬会社、軍産複合体などから大口献金を受けるようになると、格差や貧困化の一因といわれる政府と企業の癒着への取り組みが鈍くなったという。

 著者はこうした動きは、伝統ある米国の2大政党政治をも壊す恐れがあると見る。政党制は、選択の自由が機能する制度だが、グローバル企業が巨額な政治献金を両党に均等に配るようになると、選挙政策の違いはさして重要でなくなる。東京電力福島第1原子力発電所の惨事では、政府や東電の情報隠しや意図的なデータの公表があったが、米国だけの問題でないことを裏付けている。

 著者は結論として、国民は政府や企業の発表が腑に落ちなかったら鵜呑みにしないで、登場する機関の経営者や設立経緯、系列などを調べること。加えてメディアもこれまで以上に多様な意見や異論をきめ細かく報じる姿勢が、重要になっていると説いている。 


  2012年8月21日(火)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。


過去の記事へ

 


トップページ会社紹介著作権についてお問い合せ
Copyright (c) Flying Garden Rights Reserved.