ブックレビュー
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  「危機の指導者 チャーチル」
  
  冨田 浩司著  

    新潮選書 1,365円 




骨太のリーダーから学ぶ
経験、人事、情報力が不可欠

  第2次世界大戦で英国を勝利に導いたウィンストン・チャーチルを通して、危機の指導者には、豊富な経験、機能的な体制、適材適所の人事、情報への感度―などが何より大事だと説く。

 まず経験だがチャーチルは、60歳半ばで首相になるまでに、陸、海軍相、植民地相、軍需相、大蔵相などを経験し、行政の仕組みを熟知していた。
 チャーチルには、大きな政敵が既にいなかったことも幸いした。チャーチルは人材の適材適所に心掛け、例えば、労働組合の実力者を兵役相に起用するなど、「野に遺賢なからしめ」てもいる。

 情報の重要さを熟知していたことも見逃せない。日本ではとかく軽視されがちだが、世界最高の暗号解読能力を持つ「MI6」の情報を常に執務室でチェックしていたという。

 コミュニケーション力も大事だが、重要な局面では必ず議会や国民に向けて演説をした。日本の政府や東電が原発事故対応の際にとったように、情報を小出しにしたり、楽観情報ばかり流すことはなかった。国民を信頼していたのである。

 チャーチルはマグナカルタ、人身保護法、権利請願、議会制民主主義を大事にする「道徳的な羅針盤」を持っていたからこそ、議会や国民が安心して国の命運を任せたのであろう。
 しかし、平時に戻った直後の選挙で、国民はチャーチルの退場を選んだ。民主主義がここでも機能したのである。

 解散とか再編とかにらみ合っている今の国会状況は、議会政治の危機といえる。骨太の指導者の伝記を読む方と学ぶことが多いように思われる。


  2012年2月18日(土)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。
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