ブックレビュー
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  「紀元二千六百年」
  ケネス・ルオフ 著
  木村剛久 著

  303ページ
  朝日新聞出版(1500円税別) 




消費と観光のナショナリズム
「大衆の側からもファシズムを高揚した」

栗原 猛

 「紀元二千六百年」といわれても、首をかしげる向きがあるかも知れないが、日本神話にある初代の神武天皇が、即位して2600年目とされる年だ。西暦では1940年(昭和15年)、日本が米国と戦争を始める前年である。

 当時、「贅沢は敵だ!」というスローガンが掲げられる一方で、国内をはじめ、植民地だった「朝鮮」や「満州国」「台湾」などで、長期間さまざまな「奉祝」行事が、繰り広げられた。例えば、日露戦争の激戦地である203高地、旅順港などの戦跡や、歴代天皇陵、伊勢神宮巡りなどが、観光ブームになっている。

 著者は、膨大なポスターや切手や絵はがき、看板など「紀元二千六百年」の資料を韓国、中国や満州などを訪ねて収集した。

 そして、こうした現象は、国民意識を統合しながら、高められていった。「紀元二千六百年」は、一時的なお祭り騒ぎではなく、大衆消費社会、国民の自発的な政治参加にも支えられており、同じ時期のドイツのナチズム、イタリアのファシズムに似た政治体制が日本にも成り立っていたのではないかーと指摘している。

 従来、日本のファッシズムは、2・26事件をはじめ「上からのファッシズム」とされてきたが、これとは違った視点からの分析である。膨大な情報が瞬時に流れ、方向付けされやすいとされるグローバルなIT情報化社会に対する警鐘乱打でもある。


  2010年1月21日(金)

栗原 猛(くりはら・たけし)
北朝鮮生まれ。終戦時、清津から3カ月間、徒歩で板門店へ。通信社記者を経て、マスコミ志望の学生と活動中。著書は「改革はなぜ進まないか」、編著に「私の後藤田正晴」など。
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